鈍色の盾   作:シラー

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遅くなりました。
福音戦はもう一話?あります。
少し短めです。


国家

「あ、貴女方は守るべき国民を見捨てると!?」

「それは誤解です。国民を守るために我々は残らねばならない、ただそれだけです」

 

そう言って国家安全保障局の政府専用ヘリに乗り込もうとする内閣総理大臣以下閣僚たちを呆然と見送ったのは残留高級官僚として最高位の内閣官房副長官だった。良識家で穏健派として知られる官房副長官は極端な女尊男卑の思想を持っていない珍しい内閣構成員だった。そんな彼女が声を荒げたのは政治家として以前に人間としての良識を問われている事態と理解していたからだ。

 

「今、前線では国家を、国民を守るために多くの国土保安庁の部隊が戦っているのです。それを信じてないのですか」

「我々は政府です。最悪に備える。当然のことでは?」

 

既に一部閣僚は臨時首都の機能をもつ北海道旭川第二広域防災基地、そして長崎県佐世保第三広域防災基地に移動しており、残りは内閣総理大臣以下数名だ。その数名も立川広域防災基地へ移動しようとしていた。

誰がどう見ても夜逃げにしか見えないその行動に呆れているのはおそらく官房副長官だけではないはずだ。

彼らのとがめる目線を無視してヘリに乗り込もうとする。

 

「総理、こちらへどうぞ」

 

無言で邪魔と伝えるのは国家安全保障局の保有するIS乗りだ。日本に割り振られたISは現在、その殆どが各地の広域防災基地へ警備警護の名目で分散配置していた。日本の防空網は現在ズタズタだった。

米軍の援助も自主独立の観点からよろしくないというご立派な名目で政府は拒否し、国土保安庁にのみ押し付けようしていた。国土保安庁が勝てれば政府が国土保安庁を信頼したという証になり、失敗すれば国土保安庁の暴走で処理しようとしている。反抗するだろう国務総省は国土保安庁という牙は、『福音』で壊滅して抜かれているからあとは容易く飲み込める、そんなことを考えているのがありありとわかるからこそ、逃げようと試みている。ある意味二股しているこの状況に呆れたのは彼女達ばかりではなかっただろう。

今のところマスコミには、ばれていないらしいが果たしてどこまで持つか。時間との勝負と言えば聞こえはよいが要は夜逃げがいつばれるかという特大の時限爆弾だ。

 

「貴女方には恥がないのか!?」

 

発された言葉は心の底からの本音だったが、彼女達の心を動かすには一ミリたりとも届かなかった。

 

「国土保安庁の作戦はリスクが大きすぎる。それは十年前にその事を経験したはずではないかしら?」

 

正論にスライドさせた屁理屈に官房副長官は熱くなっていくのを感じたがそれを押さえることは出来なかった。

 

「公僕たる我々が仕えるべき国民をないがしろにしてまで守らねばならないものがあるとおっしゃるか」

 

毅然とした彼女にたいして日本の実質的な元首はものわかりの悪い子供に諭すように説得を試みた。

 

「このまま男に政治を委ねる方がよほど危険だと思うわ。貴女も分かっているでしょう。このままではようやく確たる地位を固めた私達は追われる。私達が追い払った男達(前の与党)がどうなったのか、知らないとは言わせないわ。私達が生き残るためにも」

「それは、そんなことは、そこまでしなければならないのですか!!」

 

叫び声と聞き間違うような彼女の弾劾もそこまでたった。

 

「そこまでしなければならないわ。例えどれ程血が流れても」

 

絶句した彼女は非難できないだろう。自分達が生き残るために他人を踏みにじる。国家のためと、国民のためと大義を掲げ、その一方で前線の努力を無駄と断じ自分に責任がかかるようなことは是が非でも逃れようとする。結局、逃げ出すための算段整えでしかなく、そんな人間たちに政治を委ねたのは国民の意思だったのだ。

十年前、混乱を収集させるために総辞職した内閣を無能と罵る一方で無責任に批判の声をあげた新党を政権交代と囃し立て、政治という大舞台に立たせたのは国民ではなかったか。そんな国の頭に責任を求める事が無駄であると、そう理解できたとき、彼女はとてつもない虚無感に襲われた。

良識家として知られた彼女のなかで現政権に対する失望が絶望に転化されたのは、あるいははこのときであってのかもしれない。

 

 

 

一方の最前線でも状況は変化しつつあった。

 

『本部長。小官は憲法を尊い、その責務の完遂に務め、国民の負託に答えると誓った軍人であります。一言お命じ下さい。その責を果たせと』

 

作戦開始二十分ほど前の作戦会議で聆藤の口からためらうことなく放たれたこの言葉は、躊躇のあまり停滞していた会議の空気を押し流した。

なぜそんな命令を受け入れる。愕然としたラウラ・ボーデヴィッヒは一軍人として、一人の人間として当然の疑問を持った。自殺も同然のこの作戦になぜ。

機密維持を理由にIS学園関係者はラウラ・ボーデヴィッヒ少佐を除いて行われた作戦会議は緊張が支配するなかにあって、聆藤の声ははっきりと聞こえ、今もって一言一句鮮明に思い出せた。軍人が国家の決定に従うことは当然のことだが、それでも異常に過ぎた。彼女は知りたいと思った。身を犠牲にというより自らさえも秤にかけるその在り方は、軍人としてそれを誇りに出来る彼女をもってして恐れを抱かせるには十分だった。だが、それ以上に彼女は聆藤を、聆藤という人間の在り方に強い興味を向けていた。本人の自覚のしないうちに。

 

「目標への第二次攻撃を開始。統合任務部隊、全力攻撃を開始。目標は第三防衛ラインを突破、主防衛線の弾薬消耗率は70%を越えました!!。これ以上、はもう持ちません!!」

 

対空誘導弾、ヴォルカノを使いきれば残りは通常の砲填火力や近距離防空ミサイルのRAM、高性能機関銃のCIWS(シウス)、備え付けの12.7ミリ重機関銃くらいなもので極めて貧弱だ。だからこそ使いきる前に確実に作戦を成功させねばならない。オペレーターはもちろん指揮官も焦りつつあった。

 

「HORY1、まもなく目標と接触」

 

オペレーターの声で現実に引き戻された彼女は十六本の超々高張力ワイヤーで出来た対地アンカーを打ち込み、機体の姿勢を安定させ、射点を固定する。

 

「HORY1、目標と会敵」

 

集中砲火の嵐を力ずくで突破を試みた『シルバリオ・ゴスペル』と遂に会敵に成功したのだ。奇襲を試みた聆藤の一撃は見事に命中した。突然の奇襲に『福音』は一時的に侵攻はストップさせた。遮るもののない海岸では今のうちにと慌ただしく準備が進む。

 

「初弾装填完了」

「エネルギー充填100%、まもなくエネルギー保持限界に到達」

 

眼前にはハイパーセンサーを通して捕捉した二機のISが激闘を繰り広げている。多数の閃光が見えるが目標を見失っていない。

敵もろとも砲火でくるみ凪ぎ払うことを試みてもIS相手ではシールドを飽和させることさえ困難を極める。目眩ましがやっとという、具体例を見せつけられたようなこの状況に誰でも焦りは高まっていく。

呼吸を整える。心臓がいつもより早い鼓動を鳴らしているのを感じる。訓練で感じたことのないこの感覚に彼女はこれが実戦であると心得た。

 

ぴったりと福音にくっついて砲撃を浴びせながら敵の攻撃から逃れ続ける聆藤は並外れた胆力を持っていたといえる。次から次へつきることのない光弾の嵐は装甲版を用意に切り裂く。雨あられと打ち付けられる光弾から逃れるため聆藤は上空へ逃げ込んだ。目指す先は雲。幸い積乱雲に迷わず突っ込んだ。それに追い討ちをかけるように砲撃を浴びせるが聆藤に効果はなかった。

光は大気によって、雲によって用意に散乱する。レーダーも減衰される以上、光学観測はもちろん、電子的な精密観測さえ困難を極める。それがノイズの塊の積乱雲なら尚更だ。

ざっくりとした観測データをもとに間髪おかずに隙をついて襲う聆藤は聆藤自身も消耗するなかで、相手に確実にダメージを与えていた。

 

 

「航空隊、損耗率40%を突破、航空隊では足止めできません」

「護衛艦あさかぜ艦尾に直撃弾」

「あさかぜ、レーダー及びIFFより消失」

 

構うな、という指揮官の声が響き、被害報告は沈黙。それ以降、報告は射撃システムに集中した。

 

「目標、戦闘予測空域に到達。HORY1、会敵!!」

「強制冷却装置作動」

「作動を確認。主電源異常なし」

「射撃管制問題なし。有効爆散円を確認。目標の軌道予測値に基づく誤差修正を開始」

 

ハイパーセンサーに表示された画面には予想爆散円と目標の予測位置が同時に写し出されている。

 

「安全装置解除、薬室内圧力上昇。発射点に到達」

 

一呼吸挟んで彼女は乾ききった唇を湿らした。

 

「最終安全装置解除。劇鉄起こせ」

 

オペレーターも緊張しているのか声が上擦っているのが彼女にもわかった。

 

「自動追尾よし。誤差修正ギリギリまで継続。射撃十秒前」

 

心得たはずの心臓が激しく音をたてる。オペレーターのカウントダウンが聞こえる。彼女はハイパーセンサーのモニターに映る聆藤のことを考えた。

 

「10、9、8」

(なぜそこまでして命を張る?)

 

考えてみれば最初の出撃の時も殆ど志願してだった。自分だったら素人二人を担いでの戦争はまっぴら御免だ。それが例え織斑一夏であっても。それをあの男は全くためらう様子がなかった。

 

「7、6、5」

(なぜだ? 聆藤、お前は何者だ?)

 

彼女は知りたいことを知るためにもっとも手早い方法を知っていた。

 

「4、3、2、1」

(この作戦が終わったとき、お前のはなしを聞かせてもらおう)

「発射!!」

 

かちりという硬い音を奏でて引き金は引かれた。次の瞬間、極大の閃光と共に周辺の大気を揺るがす大音響が響きわたった。

 




感想、講評お待ちしてます。
やっぱ戦闘って難しいですね。
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