鈍色の盾   作:シラー

30 / 32
学園祭の場面はカットでいきなり戦闘に移ります。巻紙さんはなりすましなので既に天に召された事になりました。
過去最長のはずですがこれくらいの文字数の方がいいのか、わかりませんがどうぞ。



祭りの余興(1)

 日本国の領域にありながら国際社会の不干渉を宣言、事実上の自治権を有しながらエネルギー、食料、必需品といった全てのインフラを日本本国に依存するIS学園は一国二制度と表して違わない。そしてその日本であって日本ではないIS学園が年に一度解放される学園祭は世界が注目する僅かな時間だった。だが今年、それを差し置いて世界中から注目されていたのは別の事柄だった。

 

『内閣総理大臣』

 

 議長の声に応じ、スーツを着た女性が登壇したのはこの国の立法府の一院、国会議事堂衆議院だった。

 

『我が国はまもなく戦後およそ一世紀を迎えます。世界は変わりました。ISの登場で立場を失ったテロリスト達は先鋭化を進めている。だからこそ私たちは非常の事態に国家を守るために非常事態法の設置を求めます』

『ふざけるな! 与党は国を私物化するつもりか!』

 

 そうだそうだとヤジが飛ぶ。身なりのよい大の大人がヤジを飛ばすのは見ていて気持ちのいいものではない。だが、立法しようとされている法律は見過ごせるものではなかった。

 非常事態法。それは現行警察法に基づく緊急事態の特別措置とは全く異にするものだった。『内閣が判断する国家の危機において内閣が指定する範囲で行政、司法、立法の権限を統制権に基づき指定する機関に一時的に集中し、実力において事態の収拾を認める』とするこの法律はその運用では司法、立法の事後承認のみを求めるものとされ、監視機能が存在しない。それだけではなく指定する機関とは国家安全保障局とされ、法解釈の範囲が広くあやふやで、裁量権は執行機関、つまりは国家安全保障局に委ねられるという極めて恣意的な法律だった。

 野党の激しい抵抗の末になんとかねじれ国会──衆参どちらか一方で与党が過半数を持つが、もう一院では野党が過半数を持つ状態──に持ち込み、成立が遅れているものの与党が過半数を押さえているのは衆議院だった。日本国憲法衆議院の優越に従い、特に法律案の議決に基づけばまもなくこの法案は可決されようとしていた。

 

『我々は、法律の厳正な解釈に則り、自制心をもって細心の注意を払い運用するつもりです』

 

 議員が挙手をして発言を求める。議長に指名され、内閣総理大臣に変わって登壇した議員は咳払いをしてから声を張った。

 

『この法律は、悪名高き治安維持法ではないか! 国家の危機と騒いでいたずらに治安維持の解釈を広げることができる。これは秘密警察の復活を告げるものに他ならない!』

『私たちは貴殿方が行っていた公安警察こそ秘密警察の行いではないか! それを正したにすぎたない、治安維持法など言語道断よ!』

 

 議長のやめなさいという制止を無視して叫ぶ二人の姿は論戦というよりも子供じみた口論を思い浮かばせる。実際として公安警察が内務省特別高等警察の後釜であるのは間違いない。とはいっても公安警察が密やかに行っていたそれを真っ昼間から堂々と行うつもりなのが非常事態法なのだからどう考えてもおかしい法律だった。

 

『詭弁を弄すな! 国家安全保障局が単なる実行機関であるとしても国家の意思として認可を与えるのは貴女方だろう! だいたい現行法でさえお前達は解釈を広く取っているではないのか!』

『私たちの権利を守るためです』

 

 あんぐりと情けない顔をさらした議員はすぐに肩を怒らせて吠えた。

 

『一国の元首が、権利を守るためと叫びその一方で国民を拘束するがごとき法律を認めるのか! ダブルスタンダードとはまさにこの事だ! 恥を知れ!』

 

 あまりの暴言に言われた総理大臣本人ではなく周りが激する。

 

『貴様、総理相手になにを言う!』

『ダブルスタンダードの世界に恥をさらす総理など一国の元首に相応しいと思うのか!』

『無礼でないか! 総理に謝りなさい! 書記、消すな!』

『誰が謝るものか! 国民代表する総理にあって国民を害する法の立法を進めるなどそちらのほうが余程無礼だろう!』

 

 議論ではなく、単なるエゴの押し付け合い、あるいは罵り合いへ変わった以上、この先に待ち受けるのは強行採決のみだろう。周りに聞こえない程度で軽く呻いた国務総省次官は強行採決日(Dデー)がIS学園の学園祭当日であることを確認してうんざりした。

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園学園祭当日の朝、ボーデヴィッヒは自室で先日聆藤から渡されたショルダーバッグをひっくり返していた。

 なかに入っていたのはグロッグ17とその予備マガジン、応急救護用品に無線機だった。どうやってこんなものを持ち込んだのか、聆藤に聞きたい気持ちを押さえて手際よく装備していく。

 

「仕掛けて来るとすれば午後か」

 

端末に表示されたスケジュール表を見ながら考える。恐らく、午前中は警備の配置確認のみのはず。連中が馬鹿でも阿保でもなければ警備を確認してから事を仕掛けるはずだ。多分昼休みから生徒会主催の演劇だろう。「はず」だとか「多分」とか「だろう」など不安しかないが情報が足りないのだからしょうがない。聆藤と連携を密にするしかないかと決めて端末を机の上に置く。

 腰のベルトにグロッグ17を差し込み、予備マガジンを内ポケットにしまい、携帯用無線機を腰につける。無線式イヤホンマイクを片耳に着けて目立たないよう髪を下ろす。ショルダーバッグだけは隠せないため、ロッカールームに放り込だボーデヴィッヒはクラスの出し物であるメイド服に着替えて部屋を出た。教室に近づく廊下を歩いていると聆藤がこちらに歩いてくるのが見えた。すれ違い、通り過ぎようとしたとき聆藤が口を開いた。

 

「落ちたよ」

 

 そういって差し出されたボールペンは当然自分の物ではない。

 

「あとこれ、織斑先生から渡してほしいと」

 

 あわせて渡されたUSBメモリーの感触を感じながらボーデヴィッヒは中身を見開きたい気分を抑えるのに苦心した。礼だけ言っていそいそと教室に入るのを確認してから聆藤は自分も仕掛けを用意するため学園下層の立ち入り禁止区画に入っていた。

 教室で渡されたUSBメモリーを周りから見えないようにISに接続する。提示されたファイルを開いたボーデヴィッヒは(バグの位置と周波数について)と書かれているのをみて思わず溜め息を吐いてしまった。いつの間にこんなものを。教室、廊下、職員室に食堂、各アリーナのコントロール・ルーム(管制室)に昇降口。さすがにロッカールームは男子だけ、私室までは仕掛けられてないようだが、果たしてどこまで信用できるのか頭を抱えたくなった。バグという言葉が盗聴機の意味であることを知っていたボーデヴィッヒは無警戒過ぎた自分を呪いながら聆藤の綿密さに驚かざるを得ない。おそらく人手が必要な時に半端な素人を巻き込む訳にもいかなかったのだろう。そこに明確な軍人がいるのなら巻き込んでしまえ、という聆藤の暴論だったのだ。デュノアを巻き込んだのは一番情報が漏れそうな穴だったから脅迫してでも穴を塞ぐ、ただそれだけだったのだ。嘘ではなく、あえて本当のことを知らせて逃げ道を絶つ。ああいう連中(情報機関)が協力者を作るときの十八番であることに気が付いたが、その網に掛かったのは自分も同じということに思い至ったボーデヴィッヒは何度目かの溜め息を吐いた。ふと表示されたデータに違和感を感じる。IS学園の下層区画は原則として立ち入り禁止だ。そして地下構造も非公開とされている。手元のデータには逆正四角錐の形をしてさらに頂点から真下に線が延びている。なんだこれは、と興味をそそられたが、とりあえず先送りを選んだ。表示されたデータを頭に叩き込んでファイルを削除。その上から空ファイルを複数削除して複製されないようにする。どこまで効果があるのかわからないがやっておくに越したことはない。USBメモリーは物理的にも破壊したいがそんな暇はなく、ISの展開などもってのほかと来ればできる手段は限られる。近くにあったコップを一つ借りて水道の蛇口を捻って水をいれ、そこに食塩を一つまみ。よく撹拌した食塩水にUSBメモリーを沈めた。そのまま少し待つ。コップは洗って戻し、USBメモリーはそのまま放置すれば腐食して使い物にならなくなる。特段クラスメイトに怪しまれることなく処理を終えたボーデヴィッヒはそれに合わせるように部屋に入ってきたデュノアになんと声をかけようかと戸惑ってしまった。

 あの日以降、デュノアと聆藤の関係に特段の変化はない。だが、あからさまではないがデュノアは聆藤を避けているのがボーデヴィッヒにはわかった。織斑一夏のお陰でようやく降りきったと思っていたものが災厄として我が身に降りかかってきたのだ。しかしこの件にボーデヴィッヒは自分が入り込めることではないと承知していたから余計に入りづらかったのだ。

 

「シャ、シャルロット大丈夫なのか?」

 

 戸惑い勝ちな声にデュノアはあまり暗い姿を見せず答える。

 

「大丈夫だよ。とにかく今は学園祭に集中しなきゃ」

「そうだな。だが無理は、な。あんまりしないでくれ」

 

 隣に座っても、それきり止まった会話はクラスメイトが来客を告げるまで動き出すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態が動くは午後の部に入ってから、というボーデヴィッヒの読みは正解だった。

 聆藤は時折ボーデヴィッヒ、警備指揮を執る更識楯無と連絡を取り合いながら巡回していた。各所に仕掛けた盗聴機のお陰もあって学園の動きは手に取るように分かる。

 だからこそ聆藤は無線を横聞きしてすぐに走り出した。

 

「監視カメラB-22に顔認証が引っ掛かりました。非常警報発令」

「ホームルーム棟Cフロア付近です!! 」

「続けてB-24、B-74でも捕捉しました。ルート63で一年一組へ向かっています」

「第三区隔壁閉鎖用意、外に逃がさないで」

「はい、第三区41番、42番、44番を緊急閉鎖用意よし、43番は応答無し!! 」

「鎮圧部隊を向ける。緊急配備をかけて!! 」

「動きが早すぎます」

 

 突如として警報発令が学園の地下指揮所(ハイ・セキュリティー・エリア)で発令されかける。

 

「まさか!! 」

「当該人物の入校を確認していたですって!! 」

「申し訳ありません。教員全員に手配写真が回っておらず、そのままスルーしたそうです」

「言い訳は結構。第三区北側を物理閉鎖。直下の地下第五区を隔離して」

 

 間抜けをさらした教員探しは後回しでとにかく織斑一夏を逃がさなくてはならない。だが、その為には根回しが必要だった。とそこで突如として通信に割り込んできたのは聆藤だった。

 

『警報を止めて下さい。パニックを起こしますよ』

「今何処にいる?」

『ルート73、ロッカールームに急行中、次いでボーデヴィッヒ少佐もこちらに』

「わかったわ。私がいくわ」

『ISは止めてください、戦争になります』

 

 苦渋の決断だった。いくら日本本国の非常事態法の可決間近とはいえ世界の目があるのだ。過激なことは自制しなくてはならない。がんじがらめに縛られたIS学園は危ういバランスの上になりたっているのだから。

 

「……わかったわ。織斑先生に繋いで。織斑先生ですか……わかっています。あとはお願いします。警報を止めて」

「お嬢様。しかし」

「止めて」

 

 有無を言わせぬ断定の口調に忠実なる付き人はその意思の固さを悟る。三度目の指示は受けなかった。

 

「け、警報を止めます」

「誤報です。公式には警報機のミスだと委員会と政府には伝えてちょうだい。来客にも同じように」

「わかりました」

 

 これでパニックは収まるだろう。問題は織斑一夏の事だった。聆藤は間に合うか? タイミングは殆ど確実、だが伏兵がいた場合どうなるか、更識はタイミングの悪さを思わず呪っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ルート73──HR(ホームルーム)棟から一本でロッカールームに向かえるコース──を駆けながら聆藤達は警戒は怠っていなかった。通信のあとボーデヴィッヒと合流してから走り続けていた。とはいっても油断などない。校内に入られた以上、潜入部隊が一人だけなどあり得ない。二人はCQB(近接戦闘)の手本のように動き、互いの死角を補い、視線と銃口を一致させ素早く上下左右に向けて睨みながら進んだ。

 次の角を右に曲がればすぐ左がロッカールームになる。最後の角を右折しようとしたタイミングだった。飛んできた火線に聆藤もたたらをふむ。銃弾がコンクリートの壁を削り、鉄骨を叩く。軽やかで聞いたことがある、連続した音は拳銃ではない。学校警備側の無能さに呆れるより早く聆藤は応戦を選んだ。銃弾の雨が止んだタイミングを見計らってグロッグ17の引き金を引く。景気よく吐き出される空薬莢のお陰もあってか、敵の銃撃が弱まる。火線の数から二人とか? と聆藤が首を捻り、威力偵察もかねてパイプ椅子を放り投げようとした瞬間、再び押し寄せた火線に聆藤は引き下がらざるを得ない。必死になって五感を凝らし、当たってくれよと祈りながら殆どあてずっぽうに引き金を引く。牽制射撃は後ろを見ていたボーデヴィッヒが加わってから正確さが増したが弾間なく飛んでくる銃弾の嵐は明らかに素人の手ではない。

 

「三尉、行けるか?」

 

 この火線に飛び込めと? 冗談じゃないと首を降り、聆藤は上方に向けて引き金を引いた。スプリンクラーを撃ち抜き、シャワーのように降ってきた雨に聆藤はハンドサインで会話する。

 体制を整えようと動いた瞬間、二人の耳はコロコロとなにかが転がってくる音を聞いた。ゾッとした二人はとっさに奥の部屋に飛び込み、おかれていた事務机に椅子をありったけ蹴倒し、壁にした次の瞬間、押し寄せた爆風と轟音と向き合った。

 

「連中、馬鹿じゃないのか! こんなところで手榴弾なんて」

「加減てものを知らないのか! 全く正気じゃない」

 

 どうやら破砕タイプの手榴弾らしく火災には機を使っているようだが、とはいってもこんなものを学園に持ち込み、使ってくるなんてどうかしている。CLAYMORE地雷(対人指向性地雷)ならもたなかっただろうかが手榴弾ならなんとかもってくれたようだった。ベコベコになった机達を影にする。破られずに済んだ机達に感謝してボーデヴィッヒは侵入者に罵りながら引き金を引き絞った。

 

「拳銃での射撃は苦手か?」

「やかましい! そもそもISを使えば倒せるんだ!」

 

今回、IS反応で真っ先にばれるだろうから二人はギリギリまで使うつもりはなかった。

 二人の軽口に狙いを定めたように吐き出される銃弾の雨とその影から続けて近づいてくる複数の転がる音に聆藤も弱音を吐く。

 

「連中、いくつ持ってきたんだ!」

「知らん! 敵に聞け!」

 

 律儀に答えたボーデヴィッヒに再び応じる余裕はなかった。爆発が複数続き、破片が机に衝突する嫌な音がする。硝煙やらなんやらの臭いが鼻につく。これが戦場なのかと思った直後、援護! という声を聞いて慌てて応戦を再開した。最初のコンクリート壁に飛び付いた聆藤は奥に見える備え付けの消火器にに狙いを定めている。タン、タンと二つの音に続けて漏れて吹き出しだした二酸化炭素の白い煙が目隠ししてくれる間に二人は前に進んだ。盲目撃ちで撒き散らす銃弾は脅威だが、狙われているよりは怖くない、無理やり言い聞かせて聆藤は前に踏み込む。ボーデヴィッヒの射撃が一人を仕留めたらしく、悲鳴にあわせて崩れ落ちる音が聞こえる。もう一人は煙が晴れるまで壁に隠れたらしい。膠着は良くない、とボーデヴィッヒは踏み込もうとしたがそれは聆藤も同じだったようだ。ボーデヴィッヒの踏み込みより早く、聆藤は膝を狙うように蹴りを叩き込んでいた。バランスを失いながら正面に銃口を向けた敵に聆藤はグロッグ17のグリップで真横から殴り付けた。そのまま相手の腕を壁に力ずくでぶつけ、足をかければ、がら空きとなった首もとに肘を打ち込んでいた。「ぐえっ」と潰れた蛙よろしく声をあげた相手に聆藤は鳩尾に膝蹴りを叩き込む。むせた相手は転びそうになりながらも抵抗をやめない。確保を諦めた聆藤は首もとに冷たい銃口をくっ付けて躊躇いなく引き金を引いた。パン! という音に会わせて真っ赤に弾け、崩れ落ちた相手を確認して二人は閉鎖されたロッカールームをISで破壊して突入することにした。

 ボーデヴィッヒの目元に恐怖が見えた気がしながら聆藤はいくぞと声をかけ二人は部屋へ踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 隔壁の破壊される大音響は捕らわれていた織斑一夏にも届いていた。

 

「一夏!」

 

 ラウラ! 、と叫ぶより早く突入した二人は蜘蛛の形に似たISと向き合う。

 

「あっさり負けたようだな」

 

 罵った聆藤の苛立ちに織斑一夏は顔を歪める。少佐、援護を頼むとだけ伝えて聆藤は向かっていった。足が八本あっても人間の手足で四本だけ。操縦に苦労しそうな機体に、これ(アクラネ)を作ったやつは馬鹿だろうと思いながら銃撃を加える。破壊されたロッカーを蹴り飛ばし障害にする。撃ち込まれるピンクのシャワーに聆藤は織斑一夏の楯になりながら間合いを詰める。

 

「やるじゃねえか、さっきのガキとは違うようだな」

「言ってろ!」

 

 口汚く罵り、罵り合って、聆藤は叱咤する。シールドがビームを弾き真上からブレードを振り下ろす。金属のぶつかる音に火花がまとめて散りながらシールドが悲鳴をあげる。下から凪ぎ払おうとするブレードを受け止めたアクラネのバイザーの向こうに勝利を確信した笑いが見えた。しかし──。

 

「もうちょい、右かな?」

 

 抜けた声に、あ? と気が付いた時には遅かった。

 

 凄まじい衝撃がアクラネを襲い、天井に叩きつけられていた。ひゅーと口笛を吹いて讃えた正体はボーデヴィッヒの大口径レールガンの砲撃だった。至近距離の砲撃の前に天井の崩落はなかったが撃ちつけられた衝撃までは殺せなかった。

 

「この、クソガキ共が」

 

 ボーデヴィッヒが砲撃を、聆藤がブレードを構える。そしてそこに復帰したのは『零落白夜』を発動させた織斑一夏だった。

 

「俺が決める!」

 

 は? という呆けた声はここにいる全員に聞こえただろう。大降りな一撃は本来なら掠りもするまい。だがボロボロのアクラネ相手には通じたらい。

 唖然とした聆藤の思考を放置して弾き飛ばされたアクラネは動きを殆ど止めている。動くな、そういって足に突き立てられたブレードは装甲を貫き壁に縫い付けていた。

 

「ようやく見つけたぞ。巻紙礼子、いや亡国企業(ファントム・タスク)のオータムと言った方がいいかな」

「どうしてそいつの名前を?」

 

 疑問系の織斑一夏に聆藤は答え合わせをする。

 

「今日の朝、東京湾で遺体が上がった。遺体照会の結果がさっき届いたよ。IS開発事業団『みつるぎ』対外交渉の巻紙礼子」

 

 あんたの事だという声は冷酷で危険な色があった。

 壁に縫い付けられた足ではなく機体だけがうごめき、逃れようとする。

 

「身柄を拘束させてもらう。諦めろよ。自白剤を半リットル流し込まれればどんな工作員でも二十分と口を割る。わかってるはずだ」

「クソが!」

 

 悪態を吐いたオータムを拘束するためボーデヴィッヒにワイヤーの展開を指示したその瞬間、聆藤は「ヤバい」と言うと後ろに飛び退いた。

 その直後、紫の光が崩落間近の天井をぶち破って降ってきた。

 とっさに後ろに飛び退いて直撃を逃れた聆藤はハイパーセンサーの索敵結果をみて自分の目が信じられなかった。

「まさか今、このタイミングで仕掛けて来るとは思わなかった」とは聆藤のとっさの呟きである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──時間は少し前に戻る。

 いきなり鳴り出した警報がストップし、気が付けばボーデヴィッヒが居なくなっていることに真っ先に気が付いたのはデュノアだった。警報の誤報が伝えられ、ようやく落ち着いてきた時、四人に通信に届いた。

 

『篠ノ之、オルコット、デュノア、鳳、いるな。直ちにISを展開。オルコットと鳳は上空哨戒に、篠ノ之、デュノアはロッカールームに向かい聆藤、織斑、ボーデヴィッヒの援護に当たれ。くれぐれも被害を大きくするな』

 

「了解」と四つの声が重なり、それぞれがISを展開し指示され場所へ散っていく。

 

「どうにか持つか? いや、()()が来れば難しいか? どう思う、山田先生」

「難しいと思います。()()相手では更識さんか聆藤君ぐらいしか」

「だろうな」

 

 二人の()()の意味は共通していた。イギリスがやらかした失態の後始末という意味で。

 

「高熱源体接近。数一……? いや後方より二機更に接近。後方の高熱源体、IFF(敵味方識別装置)確認! 空事機です!」

 

 山田真耶の発した内容には織斑千冬も驚愕せざるを得ない。

 

「空事機だと! 無茶だ……」

 

 IS以外はISに敵わず、の原則を無視して追撃するのは日の丸を張り付けた銀翼だった。

 

「F35に告ぐ! 貴機行いはIS学園を侵犯している! 直ちに離脱せよ!」

 

 セオリー通りの警告は無視された。F35との相互回線すら無視され返答の変わりに帰ってきたのは無言の通告、火器管制レーダーだった。

 

「火器管制レーダー探知! 撃ってきます!」

 

 その叫びに違わず放たれた対空ミサイルはサイレント・ゼフィルス目掛けて一直線に飛んでいく。

 煙は発車の瞬間のみ撒き散らされると直ぐに拡散、ラム・ジェットエンジンに点火して飛翔していく。だが、サイレント・ゼフィルスから分離したビットの先端から放たれた細い紫の矢が正確に捉える。

 爆炎に包まれ消え去ったミサイルの影から抜けた明確な殺意を伴った銃撃が降り注いでいく。だが、ひらりひらりと舞うように逃れており、あたる様子が全く見えない。焦るわけでもなく、くるりと宙返りでサイレント・ゼフィルスはあっけなくF35の後ろを取った。慌てたかのように急上昇から急降下で降りきろうとする。山田真耶はパイロットの絶叫が聞こえた気がした。F35はフレアを勢いよく吐き出すがサイレント・ゼフィルスは無駄な抵抗と嘲笑う。ビームライフルが光の矢を飛ばし主翼を破壊する。一撃で爆炎に包まれた機体からひとつの影が飛び上がる。

 もう一機の「ブレイク!」という叫びが見えた。その機体のパイロットは後ろから迫るサイレント・ゼフィルスを警戒しすぎて正面から迫る真正面からのビットの一撃の前に真っ二つに切られた。誰も息する間もなく、誰も声をあげる間もなく、二つの戦闘機の残骸ははらはらと散っていった。

 

 

 




感想、講評お待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。