鈍色の盾   作:シラー

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戦闘まで引っ張ろうと思ったのですが、絵写が纏まらず分けることにしました。すいません。


その日の夜

〈決闘〉名詞・自動詞 うらみ・争いなどを解決するために約束しあって戦うこと。果たし合い―自分でやっておきながら凄まじい自己嫌悪に見舞われながらも自室のベットの上で寝転がりながら、紙の辞書を開いて頭を抱えた。何をやっているのか、場の空気に流されたといえ流石に恥ずかしくなった。如何に勝てる自信があったとはいえ、啖呵を切ったと言うことはすぐさま、学園全体に広がった。当然だ。話題に飢えていた彼女たちは、話題に飛び付き話を広げたのだ。その話は勿論現場指揮官たる更織楯無にも伝わりその日の内の、しかも自室に戻った瞬間に連絡が入った。作為的な不自然さを感じつつ周りを見渡しながら与えられたときから着信音を変更してないスマートフォンにでる。

聆藤は音をたてずに部屋を一周し二ヶ所の目星をつけた。天井の蛍光灯の隙間と、南側の窓のサッシの隙間である。そこだけ塗り直されたような跡を見つけると、左手にナイフを持ち、躊躇い無く突き刺した。そしてもう一度。二度突き刺して明らかに金属のような物に深く刺さった感触を確かめ、梃子の力を利用して引き抜く。刃の先にはCCDカメラとおぼしき物が突き刺さっていた。勿論もう一ヶ所にも。出来るだけ冷酷な声を意識して電話口の相手の喋りを断って口を開く。

 

「随分と面白いものが部屋にありますね。ネズミも耳をたてているのではないですか?」

 

已む無く、なんのことかしら、と笑いを納め、すっとぼけてみせて、話の内容を誤魔化しにかかったことを聆藤は敏感に感じた。それを許さず追撃に走る。

 

「私は、いえ誰でも嫌でしょうが自分のプライベートに介入されるのは嫌なんですが、いかがでしょうか。ここは私から手を引いてもらえませんかね」

 

少しばかり考える風を取るとわかったわ、すぐ取り外させる、そうやって誠意を見せようとする彼女に聆藤は冷たく伝える。

 

「結構です、私が行います。外すついでに更に耳の大きいネズミが入ってくるかもしれませんから」

 

とりつく島もない聆藤にさすがの彼女もひきさがざるを得なかった。そのまま電話を切ろうとすると、彼女は聞きたいことがある、そう述べ決闘の話を持ち出してきた。誤魔化す間もなく、不愉快さを思わず出してしまった事に後悔しつつ話を続けざるを得ない。初めて聆藤が出したボロに明らかに笑いをこらえながら質問する現状の上司に対して、不機嫌さを隠すことなく伝えて、介入させないための努力をした。彼女はISについて手解きをしようかと聞いてきたが自らの機体の能力を悟られないためにそれを遠慮した。聆藤からすれば当然だった。

我々(SIF)の基本内容は如何なる場合でも他人を信頼せず。信頼するのは自分のみ、任務によっては同僚でさえ敵になる、そういうことを教え込むのだ。三ヶ月のサバイバルキャンプという名前の仕分け作業においては、ゴム製の模擬弾であって模擬弾で無いと形容されるほど硬い弾丸を使用した戦闘訓練で、いやというほど叩き込まれた事項を忘れたことは一度もない。一撃でも当たれば即失格。四十人で行われたそれが三日で半数となり、五日経てば八人になる。一瞬の油断が、現世との永遠の別れを強いられるか、もしくは自分を失い廃人となるかの極限の環境で得た教訓は周りの同期生たちが数を減らすにつれ、自らに圧倒的で明確な恐怖としてのし掛かってきた。それに比べれば如何程のものか。そう言い聞かせて聆藤は日本のカウンターテロ組織の首領と相対した。

そして彼女は更に質問を重ねる。今日一日で彼女たちをどう思ったのか。それに対する彼の返答は明瞭だった。玩具と兵器の区別の付かない阿呆。ただそれだけ。その一言は更織楯無には想像以上の辛口に聞こえたらしく、口を閉ざすしかなかった。それでも余計なことを述べなかったのは思い至るところがあり自分でも理解できたからだろう。勿論更織楯無がそんなことだけで話を終わらせること無く、続けようとした。

 

「彰等君、随分と素直ね」

 

この言葉に対して聆藤はそっけなく、意見というより事実を伝える。

 

「更織さん、私のそれは素直というより、遠慮がないと言うべきでしょう」

 

少し濁したような言葉で、自らの意思を伝えるとそのまま通話ボタンを切るにする。これ以上言質を与えることは流石に危険すぎる、と冷静な判断によるものだ。すでに彼女は、聆藤が公安警備局(PSB)出身でないかと疑っているのだろう。確証は掴んでないだろうが、危険視されていないという考えは甘すぎる。推定無罪が通じるのは大通りを大手を振って歩ける一般人のみ。確たる証拠が無くとも工作員は可能性として()()()()されかねない。そう結論を下すと、恐らく今もたったままの耳を手際よく取り外し、先程開いた辞書の背表紙で壊しにかかった。

 

 

一通り耳の大きいネズミ(盗聴器)を破壊し終えた聆藤は部屋の奥に無造作に積まれたバッグ類を開き、与えられた任務をこなすための準備に入った。

まずは耳からだ。見た目はごく普通のラジオだがその中には分解されビールにくるまれた盗聴電波受信機が入っており、それを取り出し、ラジオの中に接続する。そうすれば暗号化される事のない盗聴電波は垂れ流し状態のため簡単に受信され、聞くことができる。更に小型の装置を外に接続すれば暗号化されている警察無線さえ聞ける代物だがそこまで求める必要はない。危ない橋を渡るのは、追い込まれる寸前で十分。

そう言い聞かせ、無理にでも落ち着ける。恐らく織斑一夏の部屋には、この部屋より遥かに多い耳の大きいネズミがいるだろうことは想像に固くない。きっと今の上司も聴いているのだろう。イヤホンを突き刺して、まだ残っているかもしれない耳の大きいネズミを警戒し、盗聴しているのを発覚しないように手を打つ。組み立ては十分で終わる。後は、盗聴電波の周波数を探るだけだ。

それが終われば、今度は黒のショルダーバッグの中身を探る。与えられた公的身分を保証する身分保証書、応急処置用の透明なビニールにくるまれた包帯や消毒器具、簡単な工作器具、そして目当てのものを見つけた。拳銃だ。銃身に刻まれたぐるぐるの模様が本物であることを知らしめる。一発打てばそこで終わり。ISなどより余程至近距離で撃たねば効果の薄いそれは黒々と部屋の蛍光灯の光を浴びて薄暗く光っていた。

この色こそが人間が人間を殺す事に如何に執着してきたのかを示す一端だと聆藤は思っている。同族を必要なくても殺す。そんな愚かさを理解してるのに未だに捨てられない。だから我々(公安警備局)は存在するのだと、例え(けな)されようと、(おと)しめられようと、恨まれようと、この国に相応しい楯と剣、それこそ我々の存在理由である。そう教えられてきた聆藤はいつものように感情を消した。任務に感情は不要。必要なのはその場その場に相応しい顔を張り付けること。それだけで人間は騙される。何度も教えられてきた事であるのと同時に、何度も繰り返してきたことだった。

豪州製でプラスチック製として商業的成功を納めたことで知られるグロッグ17。パーツの主要な部分を除いて極めて耐久性の高い強化プラスチックで作られ何より軽量で知られる。それを一つ一つ、特殊な器具を使い、解体していく。手慣れた作業だ。幾度と無く繰り返されてきた手順は思い出さなくても、手が自然と覚えている。鮮やかに解体すると今度は清掃だ。フレーム、銃身、特徴的な安全装置で知られるトリガーセーフティ、一つ一つ丁寧に掃除していく。掃除を終えれば組み立てだ。確実に作動するように注意しつつ組み立てていく。いざこれを使うときに使えないなどということがないように。銃口にはサイレンサーの装着痕がある。この銃が少なくない実戦をくぐった証だ。一緒に詰められたサイレンサーも取り出し棒状の器具で掃除していく。ラジオの形をした盗聴電波受信機は既にオンにされ、イヤホンを突っ込んだ右耳に話し声が聞こえていた。

どうやら、織斑一夏は端的にいって本日何度めかをやらかしたらしい。彼の同居人は篠ノ之箒。護衛対象者を一緒にした方が守りやすいというのは後から作った理由にすぎず、本当は足りない部屋を護衛のために一つ貸したためただでさえ足りない部屋が更に不足し、已む無く幼馴染みなら事件は起こるまいという創造力の欠如であることが明らかな部屋割りだった。

どうやら篠ノ之箒がシャワーを浴びたところだったらしく木刀が振り回されているようだ。なにかを叩き割るような音は聞こえてこないから恐らく平気だろう、結論付けると作業の続きに入った。次は弾倉だ。9ミリ口径の33発ロングマガジンだ。凍傷防止のため、金属部分にプラスチックで被っていたそれは弾丸の数を数え、紛失がないかを確認し、別の弾倉に移る。流れる手順に迷いはなく、合計三つの弾倉の確認はすぐに終わった。

それが終わっても聆藤は手持ちぶさたにはならず、次はセシリア・オルコットとの決闘に向けての準備だった。公開された映像をもとに研究を重ねる。こちらのアドバンテージは非公開で、相手がこちらの戦うすべを知らないという事。これを如何に生かすのか、学園の地図を見て、有利に働くであろう地形を探す。遠距離、中距離戦闘に向いた彼女に勝つには、斬り込んでから離れず、近接戦闘を挑むべきだろう、というのはすぐさま浮かんできた方法だったが聆藤はそれを切って捨てた。そんな事で勝てるのなら、代表候補生とやらは随分と易いものだと考えたからだ。聆藤は自分の機体では、遠距離戦は明らかに不利。しかしばか正直に突入しては狙い撃ちを浴びるだろうし、問題はいつ、突入するのかだと結論付けると、一つ一つ検証を開始した。




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