鈍色の盾   作:シラー

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戦闘は次回に持ち越しました。すいません。


決闘 裏と表

自動ドアの開く音と共にオペレーション・コントロール・ルーム(有事指揮所)に入室する。与えられた電子キーは自宅扱いのマンションの一室へ本に紛れさせて送ってあり、そこから今回バディを組んでいる公安警備局の外の繋ぎ役が受けとる手はずになっているため既に手元に無く、紛失の名目で、新たに更織本人から支給された簡易式のマスターキーを使い入室する。オペレーション・コントロール・ルームには既に織斑千冬と山田真耶がいた。待っていたであろう二人に怖じける様子を欠片ほども見せず、聆藤は口を開く。

 

「要請を許諾していただき有難うございます」

「礼には及ばない。だが、流石に負けたら庇いきれないぞ」

「問題ありませんよ。既に勝ちのプランは出来上がっています。織斑先生、それと申し訳ありませんがこの試合、観戦は遠慮させていただいても?」

「聆藤君、織斑君の試合を観てかないのですか?」

 

山田真耶がコテンと首を捻る。続けて織斑千冬が言葉と、質問を引き継いだ。簡潔に過ぎたが。

 

「なぜだ」

 

余計な間髪を入れず表向きを伝える。

 

彼女(セシリア・オルコット)はフェアでなければ勝ちを認めないでしょう。出来るだけ難癖は避けたい、ただそれだけですよ」

 

山田真耶が驚いたような、感心したような目で見つめる一方で、織斑千冬が目で本当にそれだけか、と聞いてきたが無視を決め込んだ。では失礼します、とだけ述べ頭を下げたの後に踵を返し部屋を出る。自動で閉まった扉を横目に見ながら、一年寮の方へ向かう。監視カメラの位置は把握済み。余計なところに映らないよう注意しつつ静かに、無人の廊下を駆け抜ける。今頃、第三アリーナでは大騒ぎだろう。そんな事はどうでもいい。落ち着くように言い聞かせ、やるべき手順を頭で確認する。山田真耶は人が良すぎる。簡単に騙されたが、流石にこんな単純な方法では織斑千冬は騙されなかった。その焦りより、自分の行動が予想されている、その懸念が聆藤の口から、沈黙しか産み出さなかったのだ。

寮に到達すると織斑一夏の部屋のある棟の反対側の棟の屋上へ向かう。屋上への鍵は本来施錠されているが、聆藤は内ポケットから、解錠用の工具を取り出す。南京錠の鍵穴に突き刺し、数秒で鍵が開く。電子管理されるセンサー群さえも簡易式のマスターキーで異常無し、と誤魔化されればそこは完全密室が意図も簡単に生まれた。屋上の金属製の手摺に手際よくラペリングの紐を縛り、降下用のグローブをはめ、命綱無しでありながら躇うこと無く一気に飛び出す。高さは凡そ六階分。勢い良く飛び降りて、一階分降りるとブレーキを掛け、三階の位置丁度に止まる。窓ガラスの無いコンクリートの外壁にをたどり、前から目星をつけていた雨樋の裏と金具の隙間の二ヶ所を検索(捜索)すると、不審にも雨樋が不必要に二重になっている箇所を見つけた。腰に差しているナイフで内側の雨樋を割ると、そこには訓練で見慣れた高性能プラスチック爆薬(セムテックス)が信管ごとビニールにくるまれ詰め込まれていた。更に外側の雨樋も見てみれば大量のパチンコ玉がぎっしりと詰め込まれ爆発のときを待っていた。もし、爆発すれセムテックスは内側の雨樋と外側のパチンコ玉の詰まった雨樋を木っ端微塵に吹き飛ばすだろう。吹き飛ばされたパチンコ玉は、クレイモア対人地雷の鉄球と同じ働きをして爆風にのって反対側の織斑一夏の部屋の窓ガラスを叩き割り、中に被害をもたらすことは想像に固くない。

聆藤が気がついたのは殆ど偶然だった。雨の日に織斑一夏の部屋のある棟の反対側を下に流れる雨樋が織斑一夏部屋の辺りで水が溢れていた事に気がついたからだ。あそこに何か詰まっている、そう確信した聆藤は棟に誰もいなくなり、妨害の入らない授業中に調査に来たのだ。わざわざ合法的に授業を抜け出すために言い訳まで用意して。聆藤は織斑一夏が狙われているという事実を身をもって確認するのと同時に、要塞とも言われる学園の警備が意外と穴だらけであることにも気がついた。これは忙しくなるかも知れない、眉をしかめても手先は止まること無く確認を続ける。爆破装置は単純なタイマー式ではなく、明らかな遠隔操作式と思われた。セムテックスをくるむビニールを切り裂き信管を揺れるなかで落ち着いて抜き取り、片腕だけで屋上へ戻る。スマートフォンを取り出し、教えられていた生徒会室の生徒会長用のパソコンのアドレスに内容を送り屋上から引き上げた。

手際よく片し終えて戻ってくれば、時間は僅かに十五分。一試合、決着がつくには少し長すぎるくらいで彼は戻ってきており、第三アリーナの電磁カタパルト(射出機)にて専用機の《九試甲戦・改》を展開させ待機した。

 

「き、きゅうしこうせん・改?」

 

漢字変換出来なかったらしい織斑一夏に対して、姉は眉を潜めていた。《九試甲戦・改》はパッと見た感じ武骨さを感じる。明らかに競技用などという生易しさとは無縁で、実戦ありきの機体であると織斑一夏は感じた。機体はなぜだか知らないが暗い灰色で染め上げており、両腕の外側に付いている物理シールドらしき物は恐らく内部に機銃を埋め込んでいるのだろう。盾の前面には機銃の銃身と思われる穴が空いており頑丈さを感じる。脚部のユニットらしき物も何か気になった。更に背部のスラスターとその上に付いているのは、平べったい長方形みたいな形をしており先のみ黒くなっている盾のような物は何に使うか、彼には理解できていなかった。

 

プライベート・チャンネルのコール(呼び出し)を受け、それに応答すれば無駄に上機嫌なセシリア・オルコットがいた。反対側のカタパルトで待機しながら、まさしく絶好調ですよとアピールする彼女がいたが無視して審判を勤める織斑千冬に目を向ける。始めてくれと意思を伝えれば一つため息をしてマイクに向かい、宣言した。

 

「今回の決闘は一部ルールを変更する。どちらかに有利になるものではないため、諸君の心配はいらない。具体的には学園施設とその付随設備を破壊しない限り、学園の主権の及ぶ範囲での交戦を許可するということだ。尚これに反して、学園設備などを損壊した場合、破壊したものを即失格とする。以上だ」

 

ぎょっとしている織斑を無視して電磁カタパルトに機体をセットする。展開直後に走らせた自己診断プログラムは異常無しのグリーンの信号を出しているのが確認できた。弾薬、加速剤の補給、充填量は共に八十五パーセント以上。機体のシンクロ調整と射撃管制システムの確認を終えれば、誤差は規定値以内で問題なし。そしてPIC及びスラスター全てのコントロールをオート(自動)からマニュアル(手動)へ切り替える。出撃できると結論付けると、静かに合図を待つ。間もなくオペレーション・コントロール・ルームから山田摩耶の声が聞こえてくる。

 

「ゲート解放、電磁カタパルト起動を確認。安全装置解除、発進準備完了。九試甲戦・改、ブルー・ティアーズの二機は出てください」

 

それに従い、出撃させる。

 

「九試甲戦・改、出る」

「ブルー・ティアーズ、行きますわ!!」

 

聆藤は余計な感情をゼロにして、オルコットは感情を高ぶらせて、ピットから発進した。




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