鈍色の盾   作:シラー

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今回は主人公の機体と、女尊男卑後の日本についていた掘り下げてみました。


九試甲戦・改

「では、クラス代表は織斑君で決定です」

 

上機嫌で述べる山田真耶に対して織斑一夏はひきつった笑いを浮かべていた。当然だろう、朝一番にクラスへ向かえばクラス代表が決まっているのだから。昨日殴られた頬はさすがに熱を引いたが、謝罪一つなくのうのうとしている織斑一夏にざまぁと心の狭いことを思っている自分に嫌気が差しながら聆藤は眺めていた。話を聞いていればどうやらセシリア・オルコットが辞退したらしい。なぜかと思って見てみれば先日とは異なる格好で自信満々に述べている。『一夏さん』、名前呼びに変わっている事実とその機嫌の良さを鑑みれば自ずと答えはでてきた。要するに彼女は、彼織斑一夏に恋慕しているのだろう。先日とはうって変わったその態度に当の本人はポカンとしているだけだった。

 

「さて、聆藤。あの機体について教えてもらおうか」

 

一通りSHL(ショートホームルーム)が済んだところで聆藤に質問をする。さすがに眉を潜めるが織斑千冬の浮かべるその笑みは獰猛な猛禽類を思わせ聆藤が逃げ手を打つことを許さなかった。聆藤も覚悟を決め専用機の九試甲戦・改について開示する。

 

「あの機体は現在の第二世代機、打鉄とほぼ同時期に国の航空技術開発研究機構において、基礎設計が行われた機体です」

 

航空技術開発研究機構は略して空技研とも呼ばれる航空技術の最先端を行く研究機構で、五年前に施行された首都分散特別措置法に基づいて市ヶ谷の防衛省が国土保安庁として北浦和に移動し後釜に座る国家安全保障局への移行の際に、防衛技術研究機構から分離して改めて設立された研究機構だ。その内情はISの登場の後に一変した空の研究であり新世代ISへの搭載技術に関する基礎研究を目的にしており、その一貫として試作されたのが九試甲戦だった。

 

「正式名称は第九次試作甲種戦術戦闘攻撃機で、そのながったるい名前から九試甲戦の略称で呼ばれていました。新しい技術を多く取り入れた機体は、初期第三世代にも匹敵すると言われるラファールとほぼ同程度とされる性能を誇りました。

しかしその新技術の多くは、非常に複雑な機構とそれに付随する整備の難しさ、そして価格の上昇を招きました。当時の資料では打鉄の約三倍とも言われた九試甲戦は、そのコストの高さから量産機に相応しくないとされトライアルから脱落しましたのです」

 

当時の日本は、IS導入による女尊男卑の風潮と、それに伴う国府改造論が入り乱れていた時期といえる。永田町(国会議事堂)の議員たちはその多くが、主義主張や所属政党に関わらず、衆参問うこと無く首がすげ変わり更には、女性進出の名の元に行われた省庁改革に伴う混乱の過渡期だった。その混乱の落ち着く間もなく、政権を獲得した女性優権を掲げる政党の掲げていた首都分散は、お題目にすぎず、その本音は旧勢力の体のいい追い払いだった。入れ物(武蔵新都市)だけはつくって後は押し付けた新政権は、後はそ知らぬ顔で放置したのだ。

それによって誕生した国務総省は、丸投げされた実務と新政権が起こした国民受けする政策の保証に追われることになり激怒したのは明らかで、あとはいつ火を吹くかというほど危うい空気が蔓延していた。更に警察庁(サッチョウ)の内部まで侵入しつつあった行きすぎた女尊男卑の空気は離れていても国務総省は、敏感に感じとり、過敏に反応するのは非難できなかった。激発寸前の国務総省が戦前の市ヶ谷(中野陸軍中学)の流れを組む非公開情報機関、情報保全局のあとを継いで拡大された公安警備局を養うことを決意したことは、当然のこととして関係者から暗黙の了解を得たのだ。さらに旧内務省直系を自認し、警保局特別高等警察の業務を実質的に引き継ぎ、現行の日本警察において警察庁警備局を頂点としていた公安警察は国務総省下に改めて設立された公安総局(与野)に引き継がれ、警察庁に残ったのは殆ど骨組みだけの警察機構のみとなっていた。当然ながら引き抜かれた警備局の中にはチヨダと呼ばれ、かつてはサクラ、もしくはゼロと呼称された非合法活動も辞さない非公開組織も含まれた。それでも警察庁が完全に無力とされなかったのは風潮に染まり、責任能力を放棄した内閣に対する、牽制としての役目が期待されたからだった。

内閣によって強引に断行された政策は、既に慢性化して久しい赤字国債の発行さえ追い付かないほどの予算不足を招き、やむなく足りない予算は追加の赤字国債で賄われ、ここのところ圧縮されつつあった赤字国債は、一挙に膨らむのは子供にもわかる話でそんなコストのかかるものを導入できるか、という国務総省財務局の判断は当然な成り行きだった。

 

「その後トライアルから脱落した九試甲戦は武器の耐久力や攻撃力を計る、いわば計測器の役割を果たしていました。そんな時、男性操縦者が確認されたというニュースが世界を駆け巡ったのです。未だに政権変換から僅か四年足らずでしかなく、各地で冷飯食いの旧勢力も多く残っており男性操縦者への調査が世界規模で行われました」

 

結成から僅か四年程度でしかなく、地盤固めを怠り、旧勢力の一掃をせず放置していた、現政権に対して強く要求を重ね、派閥間に楔を打ち込み、足の引っ張り合いに持ち込むのは難しいことではなく、自壊していく現政権を倒閣させず、都合のよい駒として操り人形にするまでさして時間はかからなかったということだった。結局のところ新時代を掲げた現政権の街頭演説に乗っかったまま、無関心で関係無いと言い切って政治家を選び、それの失敗を政治家のせいとして自らの責任を恥じ入ることの無い、国民性を明らかにしただけで、一過性の熱は瞬く間に覚めたいたといえる。

 

「そして私が見つかりました。なぜISを女性だけが動かせるのか、その理由を探るために私に専用機を与えることが決まったのです。しかしながら、時間もないなかで、新規開発は不可能であったため、急遽私にあてがわれたのが各種試験に使われていた九試甲戦だったわけです。しかし、いかに登場したときは優秀の評価を受けても、さすがに型落ちであることは否めず、大改装を施したのが九試甲戦・改というわけです。これでよろしいでしょうか」

 

具体的な改装箇所は上げず、九試甲戦・改の成り立ちのみを伝えた聆藤は静かに着席した。織斑千冬は目を閉じて聞いていたが話終わると、クラスを見渡す。ある程度理解できたらしいクラスメイトの中に一人だけ顔を青くしているものがいた。織斑一夏である。絶対零度の冷気を宿し、静かに弟をみる姉は弟が自分の方を向いて、愛想笑いを浮かべた瞬間に出席簿を振り下ろした。星が出るのでないかという音が響くなか、頭を押さえる織斑一夏を放置してホームルームはここまで、と述べ挨拶を行い退出すればクラスの空気が弛緩するとそれぞれが動き始めた。




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