鈍色の盾   作:シラー

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主人公のバディと本来の上司を出しました。あと、シャルロットの男装を見抜けないほど、どこの情報機関も間抜けだと思いたくないので書きました。


ナノ・テルミット焼夷弾

(こちらの映像をご覧下さい)

 

女性アナウンサーが述べると、昼間の東京の映像を写した画面が切り替わる。画面の下の方に『撮影:投稿者』と記されている。映像が時折大きく揺れるのは、撮影者が素人であることのみならず、船の上からの撮影だからだろう。青々とした海面が映っているのがそれを示している。

映像は美しい海を写し出していたが、画面の真ん中辺りで、大きい閃光を見せた次の瞬間、巨大な水柱を立ち上げたのだ。ぐんぐんと高さを増す水柱は、ある程度まで上昇すると、そのまま傘を広げたように霧となって広がっていく。見た目はまさしく、クロスロード作戦で有名なベーカー実験の写真とよく似た形だ。直後に雷鳴のような轟音と、衝撃波が船に襲いかかると激しく揺さぶれるのがわかった。

(こちらは先日太平洋上で行われました、国土保安庁の新型兵器実験で撮影された映像です)

白髪の眼鏡をかけた評論家が続けて述べる。

 

(これは明かに……)

 

 

「これは不味いね。」

 

革で出来た高級なソファーの上に腰を下ろしたその男は、テレビの電源を落とすと向かい側に座る黒のスーツを着用した線の細そうな男を静かに見つめる。向かい側に座る男のワイシャツは冷や汗でぐっしょりに濡らしており不安そうな眼差しを男に向けていた。沈黙に耐えかねたのか、線の細い男は立ち上がると謝罪を行った。

 

「申し訳有りませんでした」

 

勢いよくあたまが下げられたところで結果が変わるわけでもなし。続けて言い訳を述べると男を冷ややかに見ている。

 

「指定海域は米国の方が封鎖すると言われており、衛星からの映像でしか確認しておりませんでした。まさか光学迷彩を使ってくるとは」

「言い訳はいい。先ほどペンタゴン(米国国防総省)の次官が既に横田入りして、私に面会を求めているとの報告があった。恐らく分取りに来るぞ。試料の方は?」

 

これ以上の失態は許さないと、暗黙のうちに伝え、鋭さを増した眼光に押されながらも男は、事実の一部だけを述べる。

 

「は、現在北浦和(国土保安庁)の本庁舎地下の特別防護区画に偽物(ダミー)が保管され、既にSIF一個小隊が警備に当たっています。試料移送には機動隊を中心に銃対(銃器対策部隊)が護衛しました。ばれてはいないはずです。本物(リアル)の方ですが『学園』の工作員に引き渡されています。あそこならどこの国も介入は不可能かと」

「ならいい。ともかく、このままでは世論がひっくり返るぞ。下手をすれば今までの計画を全て()()にしかねん」

 

そういわれると線の細い男は焦り出す。

 

「それだけは、それだけはなんとしても!! 我々とてこのまま引き下がれません!! お願いします」

 

悲痛な声が部屋に響き渡るが、男は何も返さず部屋を出るように指示を出す。米国国防総省(ペンタゴン)の次官が到着する時間は刻々と近付きつつあった。

 

 

 

聆藤はこの日、規定の書類(外出届)をだして正規のルートで外出していた。一目見た感じではただのリュックサックだが、内側にはケブラー繊維を四重に重ね、中にクッション材として雑誌を張り付けて防弾性を確保している。そんな物騒なリュックサックを背負い向かった先は、ビジネスホテルだった。安宿という表現がよく似合うここは、公安警備局の秘密裏の拠点だった。全国十二ヶ所に居を構え、工作員たちの会合場所や、作戦時の現場指揮所となる建物だった。入り口なドアは見た目こそ、ごく普通のガラスドアだが実は堅牢な強化ガラスであり、生半可な攻撃では突破は不可能になっていることなど、まさしく要塞のようになっている。

そこに向かうために聆藤は、あからさまではないが、幾度も点検行動と呼ばれる尾行を撒くための行動を行い、学園から尾行してきた更織の部下を撒いたのだ。その技量からただ者ではないと更織楯無は疑念を深めるが、どこに向かうのかさえ掴めなかった部下は、叱責を浴びることになる。

とにかく更織を撒いた聆藤はフロントにIDカードを差し出し、ワンタイムキーを受け取って上へ昇り、あらかじめ指定されていた部屋に定められた符丁をノックして、開けられたドアの中に体を滑り込ませた。僅かに目を会わせて再会の挨拶をしたのは本作戦、即ちオペレーション・イージスのバディを組んでいる河村 明日香(かわむら あすか)ともう一人、本作戦のCL、ケースリーダーの坂崎 嘉人(さかざき よしお)だった。

 

「早速だが、これを預かってもらう」

 

そういって、部屋の奥からアルミケースを2つ取り出した。

 

「これは、()()ですか?」

 

聆藤の質問に対して答えた坂崎の声はひどく無関心に響いた。

 

「そうだ。お前も知ってのようにあの映像が放送されてから反発が大きくなって上の連中、慌ててこちらに押し付けてきた」

 

そういって、右側のアルミケースを軽く叩く。

()()とは国土保安庁が米国国防総省と共に研究していた新型爆弾のことである。正式名称を『ナノ・テルミット焼夷弾』というそれは、既存の技術である金属アルミを使用した金属酸化物の還元法であるテルミット法を応用した高性能焼夷弾として、核アレルギーの強い日本における国防の柱となる予定の兵器であった。本体の二種類の反応溶液と一種類の反応促進溶液、安全装置として一種類の反応抑制溶液、起爆剤としての役割を持つ一種類の反応抑制溶液吸着剤の五種類の溶液で構成される爆薬は、僅か八リットルで半径約五キロを約五千度という高温で焼き払うそれは、現在確認されている最も高い融点を持つ物質を瞬時に蒸発させる絶大な威力を誇る。しかし、それは配備間近で潰された。世論という巨大な圧力によって。

国家の実力組織の兵器が世論によって潰されるという前代未聞の事件の発端は、実験映像が流失したことが始まりだった。その爆発の瞬間を映した映像は、そのインパクトから大きな衝撃を国民に与えた。なぜなら、爆発の後の巻き上げられた形は原爆実験のキノコ雲とそっくりだったため、国民の核アレルギーを見事に刺激したのだ。流失した経緯を公安が捜査してみれば、撮影者は漁師ではなく、自分でクルーザーを保有する女権主義派の幹部が秘書にやらせた事だったが、そんな事は火消しにもならなかった。流失して一晩で、昨日の夜まで国土保安庁の兵器に興味を持っていなかった人たちが翌日には大都市でナノ・テルミット焼夷弾反対デモが勃発。あれよあれよと言う間に、国会でナノ・テルミット焼夷弾の保有が審議に掛けられるという事態を招いたのだ。反対を掲げるのは与党最大派閥の女権主義派を中心に、野党三党が騒ぎ立てるとなれば話は大きくなり、国務総省は保有打ち切りの方針に切り替えようとしていたが、国土保安庁は残った試料をなんとしても確保しようと必死になっていた。

対ISの切り札に成りうる、ナノ・テルミット焼夷弾は国土保安庁が旧防衛省時代からの抑止力として欲していた、『戦略核に準じる威力』、『戦闘機以下の管理コスト』、『機関銃並みの扱いやすさ』という三拍子揃った兵器だった。その試料は公表されている情報によれば開発した国土保安庁陸上保安部の東京都硫黄島の基地に保管されている事になっている。なせここにあるのか、その疑問は学園というで発言で理解した。

 

「なるほど、上の意向は理解しました。しかし、なか(学園内)には、私しかいません。更織は使えないのでしょう。流石に危険では?」

「問題ないよ。あそこ(学園)より安全なところはこの星に存在しないよ。更織には踊ってもらう」

 

それだけわかれば十分だ。了解しました、と敬礼を行い右側のをリュックサックに詰める。

 

「それで、こちらは?」

 

坂崎は椅子に座り、室内備え付けのコーヒーカップに入っているインスタントコーヒーを一気に飲み干すと口調を改めた。

 

「こちらが本来、本題のはずだったのだが、アレのせいで予定が狂った。まぁ、開けてみてくれ」

 

メモ帳に記された四桁の数字にダイヤルを合わせて南京錠と渡されたIDパスを通すとカチャリ、という鍵の開く音を聞が聞こえた。そこには、短機関銃として非常に名高いH&K MP5日本警察仕様が、30発入りのマガジン五つと共におかれていた。置かれているMP5はA5の最新仕様でフランス軍がH&K社に特注したMP5Fとほぼ同じである。驚きを隠せない聆藤に河村明日香が説明する。

 

「本来、護衛装備の強化を目的に配備される予定だったけど、アレが学園に持ち込まれるから余計に重装備化を進められてね。Fと同じように強装弾に対応しているし、大型のフラッシュプレセッサー、ホログラムサイトも装備している高価なやつ。壊さないでね」

 

ついでに、と坂崎が言葉を続ける。

 

「一緒に、C4(プラスチック爆薬)も六キロと、防弾、防刃装備一式が持ち込まれる」

 

流石にこの発言には聆藤は眉を潜めたが、河村は遠慮なく、言葉を紡ぐ。

 

「先日、織斑邸が襲撃を受けた。現着した警官と撃ち合いになって負傷者が出た。隠蔽は終わったが猶予はない、それが上のとの判断だ」

 

わかりました。それだけ述べると、アルミケースを既に軽くない重さを感じるリュックサックへ入れると、音をたてずに部屋を出る。フロントにワンタイムキーを返却すると、ホテルを出る。監視がいないことを確認してから、最寄りではなく、三つ先の駅から電車に乗り学園へ向かう。どこからか監視が沸いてきたが気にせず乗り続け、学園最寄りで降りた監視を確認してから聆藤は大きなため息をついた。安全なのは理解できるが、万が一、反応を起こしたら学園ごと木っ端微塵に消し飛ぶのは間違いなく、面倒な役を請け負ったと、半ば後悔しているときだった。内ポケットに差し込んでいたスマートフォンがマナーモードでバイブレーションを伝えたのは。ワンコールで出る。するとさっき別れた河村が相手だった。

 

(いきなりごめん。ついさっきうちら(公安警備局)の在欧第三支部から大至急の連絡があったの。)

 

在欧第三支部はEU本部もあるベルギーの首都、ブリュッセルの在ベルギー大使館内に置かれ、フランスやドイツ、スペインなどの西欧と孤島の英国で活動する支部で三ヶ所ある在欧支部のなかで最大規模の支部で、常任理事国である五大国のうち二か国がある西欧地域は、各国情報機関が凌ぎを削っている影の戦場だ。そんなところからの『大至急』とは、穏やかではないと、受け止める覚悟を決めて、続きを促す。

 

(フランスが賭けに出た。デュノア社の社長令嬢を男装させて学園に送り込むことがさっき、フランス政府からデュノア社に通達されたみたい)

 

聆藤は思わず素で返しそうになりながらも辛うじて堪えて説明を求めた。

 

(デュノア社が第三世代機の開発は遅延を重ねていて、既に欧州統合防衛計画(イグニッション・プラン)からの落伍はほぼ確定。だから乾坤一擲、織斑一夏の情報を得たい、が表向きだとこっち(公安警備局)睨んでる。真実は違うだろうね)

「あぁ、発覚すればデュノア社の信用は失墜、経営破綻は勿論、フランス政府も各国からの制裁は免れない。どこもかしこも喜び勇んでフランスの足を引っ張るのは目に見えているのになのになぜこんなことをするのか、か」

(えぇ、学園に来たら恐らく織斑一夏と同室になるだろうから、そこを探れ、だそうよ)

「わかった。探ってみるが長く見ておくよう、CLに伝えてくれ」

(わかったわ、それともうひとつ。ドイツがトライアル中の試作機を学園に送るらしいの)

「トライアル中というと、アレか?」

(アレよ。詳細はいまだ不明だけど、恐らくドイツ軍IS装備の特殊部隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)から出るだろうというのが上の見解。そこのマーク(監視)をよろしくだそうよ)

「わかった」

 

一言返事を確認すると、通話を切った聆藤は車窓から外の景色を眺める。思わず口をついたのは愚痴だった。 フランスからは、乾坤一擲の男装とドイツからは第三世代中最もバランスのとれた機体とは。簡単にいってくれると思っても、やることは変わらず気持ちを切り替えるしか無いのだ。仕方がない、そうやって割りきる重要性を聆藤は理解していた。




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