世界チャンピオンになれるはずだった男の孫(休載中) 作:無理やー
日本チャンピオンになって3ヶ月が過ぎた。昨日早くも初防衛戦をクリアして今日は試合の後の休暇でゆっくりしていた。ここまでずっとボクシングづけだったからな、ゆっくりするのも悪くない、そう思い町をぶらぶらしていた。正直上京してこんな風にぶらぶらすることなんて初めてのような気がする。鷹村達と違いスナックやキャバクラで遊んだりしないためお金も食費ぐらいにしか使わない。
そんなことを思いながらぶらぶらしていると一歩の家の釣り船屋を見つけた。ちょうどいいと思い少しお邪魔しようと店に入った。
「ゴメンください‼」
「は~~い。あれ?一さん、どうしたんですか?」
「休暇とはいえ打たれてねぇから疲れてねぇんだよ。正直暇してんだ。外をぶらぶらしてたら知らぬ間にここに来ててさ。」
「そうだったんですか。」
「なぁ、暇なら付き合えよ。一緒に釣りでもしようぜ。」
「えっ、でも……」
「行ってきな、一歩?」
一歩の後ろから母親だろうか顔を出してきた。
「か、母さん‼」
「店の方はいいから。練習行く前ぐらいゆっくりしてな。」
「ん~~~じゃあせめて荷物だけでも積んでくるよ。」
「おっ、じゃあ俺も手伝ってやるよ。」
「えっ、いやでも悪いですよ!」
「いいからいいから、これだよな。~~っしょっと⁉」
俺はそんなことをいいながら氷の入っているケースを4つ持っていった。
「……すいません。荷物運びなんてさせて。」
「いやいや、どうせ暇だから。」
そんなやり取りをしながら一歩と俺は3往復していった。だが、一歩は毎回俺の倍持っていった。
「(氷が入っているからか結構重いな。一歩は俺の倍を平然と持ち運んでいるが、なるほど一歩は小さい頃からやっているというが小柄ながらあの筋肉を維持しているのはこういうことか…)」
荷物もおき終わり一歩は母親に断って俺と一緒に釣りをしに行く。釣りをしながらのんびり~と一歩と二人で話をしていた。
「どうだ、最近?もうすぐプロテストだろ?」
「あっ、はい。正直どこまでやれるかわかりませんが精一杯頑張ります。」
「まぁ、実技の方は心配してねぇけどな。なんたって宮田に勝ったんだ。実技のせいで落ちるなんてことはないだろ。」
「そんな、僕なんてまだまだです。」
「ほう、つまり実力がまだまだな奴に宮田は負けたと…?」
「えっ、…あっ……いや……そういうわけではなくてですね……その……」
猫田の指摘に一歩は慌てだした。1ヶ月前一歩は宮田と再びスパーをやったのだが、3roundの激闘の末一歩が逆転KOをしたのだ。それがキッカケで宮田はジムを辞め一歩と新人王戦の決勝で会おうと約束したらしい。その宮田が昨日の俺の試合の前座としてデビュー戦を飾ったのだ。
そんな何気ない会話を一時間釣りをしながら俺と一歩はしていたのだ。
「それじゃあ一さん。そろそろジムに行く時間なのでこれで…」
「おう、そうだな。じゃあ俺も帰るわ。明後日からジムに顔を出すかんな。頑張れよ⁉」
「はっ、はい‼」
そして一歩に釣竿を返して俺は家に帰る。ちなみにお互い一匹も魚は釣れなかった。
俺は今日の夕飯の買い物を済ませ帰ろうとしていた。すると路地裏の方から女の人の悲鳴らしき声が聞こえたので俺は声のする方にいってみた。すると女の人が野良犬に襲われていた。
噛まれそうになっていたならわかるが、その犬は発情期なのだろうか?女の人を覆い被さり別の意味で襲われていた。
「(犬に犯されそうになってる人なんて始めてみた)」
「いや~~っ」
そんなことを考えていたが、俺はその犬を蹴飛ばし助けた。
「このエロ犬…何人間様を襲ってやがる。さっさと消えな‼」
すると、その犬は逆切れをし俺に襲いかかってきた。
「なんだやる気がこのエロ犬が!これでも俺は日本チャンピオンだぞ‼」
そんなことをいいながら俺は犬と何故か格闘をしている。(犬は何故か2本足で立ちながら…)そんなことを1分近くしており、結局犬はその後逃げていった。
「チキショー、あの犬っころ。意外につぇーじゃねぇか。」
今の猫田を見ると、顔に肉球の跡がついていて日本チャンピオンの顔とは思えなかった。
「あっ、あの…」
「ん?」
俺が助けた女の人から声をかけられた。
「助けていただいてありがとうございます!」
「////////っ、別に気にしなくていい。(やべぇ~、助けたときはよく顔が見えなかったから気づかなかったけどメチャメチャ綺麗じゃねぇか?///////)」
女の人は見た感じ、艶やかな黒髪が背中まであるストレートヘアー。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるモデルのようなスタイル。あまり日本人のような体型ではないが、大和撫子を連想させる和風の美少女だった。
「あの、よろしければお名前を教えてください。」
「俺は猫田一だ。」
「私は伊藤爽歌といいます。」
名前を言うと二人はだんまり。お互い何を話したらいいのか分からないようだ。
俺は実は女の人と話した経験がないのだ。東京にくるまでずっとじいちゃんと二人暮らし通っていた。母親も物心ついた頃にはすでになくなっている。学校も一クラス10人しかいなく、女子がいなかったのだ。それは中学に上がってからも変わらない。
東京にきてからも、ボクシングづけのわりに怪我をしたことがないため病院にいって看護師さんと話すという些細なことすらしたことがないのだ。
長い間二人は俯いて沈黙していた(路地裏で…)
「……あ、あのとりあえず何処かで話しませんか…?」
「……はっ、はい。」
向こうも気まずかったのか、簡単に了承してくれた。
爽歌side
少し前、私はいつも通り病院から帰るところだった。
私は腎臓の障害をもっており、定期的に人工透析を受けなければいけない体だからだ。今日はその帰り道かわいい野良猫を見つけた。ニャーニャー泣いていたからかわいくて相手をしたくなった。その猫を路地裏にまでつれていき、先程コンビニで買ったエサや牛乳をその猫にあげたら、すごい勢いで牛乳を飲んでいく。
(ん~~かわいい‼家に持ち帰って育てようかなぁ。でもこれ以上連れて帰ったら怒られるよね~。ん~~どうしよう⁉)
私の家は猫屋敷と言っていいくらい猫がいる。総勢10匹はいる。でもそれはいつも爽歌が野良猫を拾ってくるからだ。
そんな猫好きな私がどうするか考えていたとき、後ろから野良犬唸りながら近づいて来て猫は急いで逃げていったが、私は逃げ遅れてしまい犬が飛び込んできた。
「キャーーー‼(…………あれ?意外に痛くない…)」
犬の方を見ると私に覆い被さり噛もうとしているように見えなかった。そしたらいきなりその犬が腰を振りだした。
「いや~~っ‼(違う意味で襲われてる~~!)」
そんなことをされていると誰かが私を助けてくれた。正直はずかしすぎて暫く俯いていた。暫くすると落ち着いて来て顔をあげると助けてくれた人がそのまま帰ろうとしたので声をかけた。
「あっ、あの…」
「ん?」
あれ?この人って……
「助けていただいてありがとうございます!」
「別に気にしなくていい。」
私はお礼を深く頭を下げた。男の人は素っ気ない返事を返した。
「(この人…もしかして…)あの、よろしければお名前を教えてください。」
「俺は猫田一だ。」
「(やっぱり…)私は伊藤爽歌といいます。」
私は驚いた。あの日本チャンピオンの猫田さんだ。私は体が弱いため激しい運動ができない。友達の付き添いで偶々ボクシングの試合を見に行き、それが猫田さんの試合だった。私は華麗に相手の攻撃をかわす猫田さんの動きに見とれてしまった。人ってこんなに速く動けるんだと…。それから私は驚いていた猫田さんの試合は必ず見に行くようになってしまった。
その猫田さんが目の前にいる。平静を装っているが内心パニクっている。
(どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ……いえ、落ち着くのよ。今目の前にいるのは猫田さんなのよ。だから落ち着いて話を………)
そう思い猫田さんに話をしようとしたら目があった。
(ドッキン、ドッキン、ドッキン、ドッキン、ドッキン)
心臓の音がうるさくて落ち着けない。再び私は俯いてしまった。それから暫くたつと猫田さんが。
「……あ、あのとりあえず何処かで話しませんか?」
「……はっ、はい。」
正直助かった。何を話したらいいのか分からなかったから……こうして二人は近くのファミレスに入っていった。