【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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第九話~遺跡と世界~

――ピンポンパンポン。次は……機械里……機械里……ぐすっ……機械のことならここへどうぞ……――

 

 車内アナウンスが鳴る。ついでにトレイルモンのテンションも元に戻っている。

 あれからの話だが、“一部の客がいきなりいなくなってパニックになってしまった。しかし、いなくなった客が無事だと知って安堵と緊張からの開放で少しテンションが上がってしまった”と車内アナウンスでトレイルモンからの謝罪の連絡があった。

 あのテンションを少しというのが納得いかなかったが、旅人たちとしてはいなくなった客側なので、他の客と罪悪感で死にそうになっているトレイルモンに肩身の狭い思いをするしかない。

 

「旅人。これあげる。あ、これも返すよ」

 

「ドル。これやるよ。ついでにこれも返す」

 

 そんな中で約二名程は関係ないとばかりにお互いの嫌いなものの押し付け合いをしていたが。

 

「あ、これいらない」

 

「お?これやる」

 

「……」

 

「はぁ。早く食べたら?」

 

 車内販売弁当――料金はタダ――を食べているメンバーだが、メンバー内で食べ終わってないのは旅人とドルモンだけである。

 理由はもちろん、お互いの嫌いな食べ物の押し付け合いをしているからだ。

 旅人は弁当に入っていた梅干し的なナニカを。ドルモンは言うまでもなくキノコである。

 

「……」

 

「ウイッチモン。放っておけ。どうせいつものやつだ」

 

 もはや無言で押し付けあう始末である。箸と箸のやり取りが高速すぎて見えなくなるほどだ。

 相手の押し付けられたものを返して同時に自分のいらないものを相手に押し付ける。高速で行われる箸のやりとりといいやたらと高度なやり取りではあるが、いかんせんやっていることは子供のワガママレベルである。

 

「あ」

 

 思わずその場の全員が声を上げた。

 箸のやりとりに気を取られてしまって、箸に掴んでいたものを放り投げてしまったのだ。

 飛んでいったキノコと梅干しモドキは放物線を描きながら、そこを歩いていた人間の女の子(・・・・・・)に当たる――。

 

「『居合刃』」

 

 直前でその隣にいた兜をかぶった龍――リュウダモン――が吐きだした刀によって吹き飛ばされた。

 それほどの技を見せた龍はたいそうご立腹な様子で旅人達に詰め寄った。

 

「貴様らァ!姫様になんたる無礼を!恥を知れ!」

 

「あー……、えー……ごめんなさい?」

 

「なぜ疑問形なのだ!貴様らのような輩などこの儂が成敗してくれる!」

 

 やたらとテンションが高いリュウダモンに引き換え、竜が呼んだ姫とやらは無表情を貫いている。

 見方によっては怒っているともとれるのだが。女の子の白く長いストレートな髪も相まって人形のような雰囲気を醸し出している。

 

「いやいや、悪かったって言っているじゃん。それよりアンタ人間だよな?」

 

「それより?それよりとはなんだ!もう少しで姫様の御顔が汚れるところで……」

 

「リュウダモン。うるさい」

 

 姫とやらに言われてようやく黙り込むリュウダモン。

 旅人としてはここ数ヶ月で初めて見る人間なので少し話をしてみたいのだ。

 

「貴方が……。そう」

 

「え……?いや、そう。……じゃなくて」

 

「今はまだ……違う。私と貴方の道が交差するのは……まだ先の話」

 

「え?」

 

 姫と呼ばれた女の子は、話は済んだとばかりに黙り込んだ。もう用はないとばかりにその場を去ろうとしている。

 もちろんそんな会話とも言えない、一方的な意味の分からない言葉を投げかけられた旅人はたまったものではない。

 

「いや、ちょっと待って……」

 

――ピンポンパンポーン!……機械里~機械里~うぅ。……機械のことならここへどうぞ~――

 

 ちょうどその時に次の駅に着いたらしい。トレイルモンのアナウンスが鳴る。

 そのアナウンスに気を取られていたうちに姫と呼ばれた女の子と兜をかぶった竜はどこかに消えていた。

 

「……なんだよ!最近は意味不明なこと言ったり、人の話を聞かなかったりするのが流行ってるのか!」

 

「……いや、旅人。君が言えることではないだろう」

 

 旅人はうんうんと頷くウィッチモンとドルモンに多少イラつくも、弁当の中の厄介なものはなくなった。

 “さあ、続きを食べるか”とばかりに席に座り、箸を手に取る。

 そこで旅人は気がつく。弁当の中身がなくなっていることに。

 

「……ドル?」

 

「……食べてないよ?」

 

「……食べかすが歯についているぞ?」

 

「ウソ!って、あ……」

 

 面白いほど簡単に引っかかったドルモンを旅人は抗議の視線たっぷりに見る。

 一方でドルモンは愛想笑いをしながら、どうやってこの場を逃れようかと考えている。

 

「何か言い残すことは?」

 

「美味しかった!」

 

――次は~終点~フォルダ遺跡~フォルダ遺跡~――

 

 トレイルモンの車内アナウンスを聞きながら、ウィッチモンとウィザーモンは別の席に避難する。その後ろでは第二次車内喧嘩が勃発していた。

 

 

 

 

 

 トレイルモンから降りてしばらく歩き、フォルダ遺跡に到着した一行。外観的には崖に付いているただの洞窟である。その周りにはいろいろな形の石柱が立っていたが。

 

「へぇ~ここがフォルダ遺跡ねぇ?差し詰め古代の情報をしまうフォルダってか?」

 

「……ギャグ?」

 

「……半分くらいそのつもりだった」

 

 “この遺跡……あれ?”どこか遺跡に違和感を感じる旅人は首をひねりながら歩いている。

 別にどこがおかしいというわけではないが、強いて言えば、既視感というやつである。

 

「なんかな……」

 

「旅人?どうした?」

 

「ウィザーモン。いやね?ドルならわかると思うけど……」

 

「え?何かある?」

 

 旅人は同意を得ようと思って言ったのだが、残念ながら同意は得られなかった。

 確実に同意を得られるだろうと思っていた旅人は非常に虚しい気分になる。

 

「……まあいいや。とりあえず見たことがあるような、ないような……そんな風景なんだよ。デジャヴってやつ?」

 

「そうなの?人間の世界の時に似たようなところに行ったとか?」

 

 そんな会話を繰り広げながら遺跡の入口へと進んでいく。

 入口は天然の洞窟のような荒い作りではあったが、中はこれでもかというくらい近未来的だった。

 見たことのない素材に走る光。まるで機械のようである。それなのに所々に光で書かれた絵は原始的で、不気味である。

 

「これは……。何を意味しているのだ?っむ?この部分は魔術が使われているな?では一体……」

 

「……旅人?気付いている?」

 

 “やっとか”旅人は自分が感じていた既視感にやっと気づいたドルモンに文句の一つも言いたくなった。

 “いっそのこと無視してやろうか”そんなことを考えるくらいには旅人はその言葉をずっと待っていた。

 

「あぁ。っていうかやっと気づいたのか」

 

「やっぱりここに何かあるの?」

 

 思考の海に潜っているウィザーモンに変わってウィッチモンが先を促す。旅人とドルモンはどこか釈然としない雰囲気であたりを見回している。

 

「なんていうかな……。似ているんだ。俺たちがこの世界に来るまでにいた遺跡に。この通路とか……構造とか、雰囲気とか」

 

「さすがにこの気持ち悪い絵とか、光とかは無かったけどね」

 

「それって……やっぱりこの世界と人間の世界は何か関係があるってこと?」

 

 あまりに似すぎている光景を前に、無関係だと言い切ることなどできないだろう。

 

「たぶんね。これで……」

 

「分かったぞ!この絵はどうやらこの世界の歴史を表しているらしい!いや、歴史も(・・・)というべきか?」

 

余程興奮しているらしい。珍しくウィザーモンのテンションが高い。今まで黙っていたウィザーモンはいきなり会話に入ってくる。

 

「歴史……?って言うとどんな事が分かるの?」

 

「というか、あんな抽象的な絵でよく分かったな。」

 

「うむ。どうやらこの絵の読み取りの技術を持つか、魔術的知識がないとただの絵に見えるようだ。ただ入口だけあって得られる情報の量が少ない。もっと奥に行こう!」

 

 旅人たちを置いてさっさと先へと進んでいくウィザーモンには警戒というものが感じられない。

 一応、会話していることから、旅人達のことを忘れている訳ではないようだが、このままだと旅人達のことを忘れそうな勢いである。

 

「いつになく輝いているな。ん?ってことはウィッチモンもこの絵のことが分かるのか?」

 

「分かるわよ?ここら辺のものはもう見尽くしちゃったし」

 

「……さっきまで話してたよな?」

 

 さりげなく話しながら未知の存在の研究をするという高等技能を見せつけたウィッチモン。

 旅人やドルモンとしてはその手際の良さに驚くしかない。

 

「旅人はそういうカード無いの?」

 

「いや、あるけどね。まあ、あんまり……」

 

「どうした?早く来い!奥に行くほど絵の数や情報の量が凄いのだぞ!」

 

 先に行ったウィザーモンに急かされ、三人は苦笑し合ってウィザーモンを追いかける。

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「いや……たぶん、気のせい」

 

 旅人は何かの視線を感じて振り返る。そこには何も存在せず、ウィッチモンの問いかけに気のせいだと返して先へと進む。遺跡のさらに奥へと。

 

 

 

 

 

「すごいな」

 

 この遺跡の造りは人間の世界にあったものと同じらしく、奥までの道のりに旅人は覚えがあった。ちょうどあの石版が置いてあった部屋に辿り着いたところでその全員が感嘆の声を上げた。

 人間の世界の遺跡にあった石版は無かった。変わりにあったのは部屋中を埋め尽くす光の絵だ。

 その光景の凄まじさに、こういうものに興味がないドルモンまでもが見入っている。

 

「これは……すごい情報量だ。どれくらいの時間をかければこれらすべての情報を保存できるのか……見当もつかない」

 

「ほんとね。これは……遺跡そのものが情報を保存する役割を持っている……?ということはこの遺跡って……」

 

「あぁ。おそらくこの遺跡には歴史のほとんどが記録されている……正しく神の頭脳だな。いや……待て、これは保存というより……整理か?」

 

 魔術を使いながらいろいろな考察をするウィザーモンとウィッチモンだが、旅人とドルモンは二人の会話についていけてない。

 少しでもついていこうとすると、頭から煙が出そうになる始末だ。

 

「……旅人分かる?」

 

「まったく。なんかすごいことだけは分かった」

 

「だよね」

 

 “二人で呑気にお茶でも飲みたいな”と気楽に話している。

 旅人達とウィザーモン達の雰囲気の差……温度差が凄い。北極もしくは南極と赤道直下の国々くらい違う。

 

「ん?ここは……すごいぞ!ほとんど情報が残っていない三大ターミナル以前の情報まである!」

 

「そんなにすごいのかねぇ?」

 

 旅人は先程のウィッチモンとの会話で話していたことを思い出す。“あのカードを使えばウィッチモンとウィザーモンが見ている情報も見れるかもしれない”と。

 そうと決まれば善は急げ。旅人はほんの少しの好奇心でカードを取り出す。

 

「ふむ。やはりそうか……人間の世界とこの世界は密接な関係に……ん?旅人?」

 

「さてどんな感じで見えるのかな?とset『解析』」

 

「ちょ、ちょっと待って!そのカードって加減……」

 

 ウィザーモンが気づき、ウィッチモンが制止する。最も制止が届くよりも旅人がカードの力を行使する方が早かった。

 

「が、がぁぁあぁああああああ!」

 

「旅人?旅人!どうしたの!」

 

 いきなり旅人が頭を抑えて叫びだす。目から、鼻から、耳から、口から、顔中の穴から血を流し、悶絶する。

 ドルモンが駆け寄って背中を摩るが効果ない。ドルモンは嘔吐と勘違いしている。血を嘔吐していることには変わりないが。

 

「旅人!急いで力を止めろ!情報過多で頭がパンクするぞ!」

 

 一方の旅人の方はそんなウィザーモンたちの声すらも届いてはいなかった。絶え間なく入り込む世界の情報が旅人の現実の情報を遮断している。

 

「っち。荒療治だが仕方がないか。恨むなよ!ドルモン!旅人を気絶させろ!」

 

「え?」

 

「いいから早くしろ!旅人を殺したいのか!」

 

「わ、分かった!『メタルキャノン』」

 

 ドルモンの口から放たれた鉄球が旅人の頭に直撃する。旅人は数メートル吹き飛ばされて壁に叩きつけられて、気絶し、ようやく苦しむのをやめた。

 

「あぁ……!旅人~!」

 

「……やりすぎなんじゃない?」

 

「ドルモンに任せたのは不味かったか?」

 

 旅人に駆け寄るドルモンと明らかにやりすぎだといった風でドルモンを見つめるウィザーモンとウィッチモン。

 以前旅人がドルモンは基本役立たずといった理由を改めて知った気がした。

 

 

 

 

 夢を見る。暗闇の中、体が宙に浮いている。そんな旅人の目の前をさまざまな世界が通り過ぎていく。

 

 とある世界。自称100%テイマーは未来を信じる想いを受け取り進化した騎士と共に、人間とデジモン両世界の支配を目論む魔王と戦った。

 

 とある世界。紋章を持つ子供たちは己のパートナーと共に、世界を救うために黙示録の名を冠する怨念の集合体と戦った。

 

 とある世界。心を受け継いだ子供たちは世界中の仲間たちと共に、進化して復活したアンデットの王たちと戦った。

 

 とある世界。少年たちとその相棒たちは死が日常と化した世界で、生きるために死の化身と、白銀の騎士と戦った。

 

 とある世界。カードを力とする子供たちは己のパートナーたちとの絆を手に、世界の奥より目覚めたナニカと戦った。

 

 とある世界。女神に導かれた、伝説を受け継ぎし子供たちは新しき伝説を創って、世界を創り直そうとする傲慢の魔王と戦った。

 

 とある世界。喧嘩番長を名乗る子供は弟分や仲間、敵だった騎士たちと共に、世界の神を名乗る者と戦った。

 

 とある世界。変異者を育てた子供たちは調停者となった相棒と共に、未来を勝ち取るために未来と戦った。

 

 とある世界。キングを目指す者とその仲間たちを指揮する子供はさまざまな仲間と共に、人間を滅ぼそうとする悪と戦った。

 

 とある世界。スーパースターを目指す少年は同じ志の相棒と共に歴代の英雄の力を持って、世界を自分にしようとした者と戦った。

 

 とある世界。キングを目指す者とその仲間たちを指揮する子供は希望によって取り戻した進化と共に、世界に絶望し世界を救おうとした悪と戦った。

 

 とある世界。パートナーの力を引き出す力を持つ少年はさまざまな姿のパートナーと共に、亜生命体や魔王の策謀と戦った。

 

 とある世界……。

 とある世界……――。

 とある世界……――――。

 

 幾つもの世界があった。幾つもの歴史があった。どこかで見たような人がいた。どこかで見たような風景があった。似たような世界があった。全く違う世界があった。姿などの外見だけが違うこともあった。性格などの内面だけが違うこともあった。全てが同じで全てが違う。デジモンがいない世界があった。デジモンしかいない世界もあった。生き物すらいない世界もあった。幾つもの世界が過ぎ去っては消えていく。

 

「世界ってのは広いなぁ……。というかスケールがデカすぎて判断つかねぇよ」

 

 光が見えた。その光に導かれるように世界に背を向け暗闇の中を歩いていく。

 その後ろで……どこかで見たような人間が漆黒の騎士と共に戦い、その戦いの果てに慟哭した世界があったことを旅人は知らない。

 




モンハンのせいで無駄にストックを出し続ける最近です。
第一章も後半に差し掛かりました。個人的には少し展開が早いかなと思っています。

カード説明

『解析』―文字通り様々なモノの構造、構成を解析するカード。得られる情報を選択しないと今回の旅人のように情報過多でぶっ倒れる。例として人間に使えば構成する原子・分子のみならず陽子や中性子の一粒までしっかりと脳に入ってくるレベル。
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