【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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第百話~ダークエリア!目指すは神殿~

 遂に七大魔王の力すべてを集めた旅人たち。後はこれで罪を再封印すれば、すべてが終わりとなる。ようやく見え始めた苦行の終わりに、旅人たちのテンションは上がりつつあった。

 

「やれやれ……やっとだな」

 

「本当にね~これでわけわかんないことからも解放されるね!」

 

「終わったら次はどうしようか?」

 

「この大陸とかほとんど知らないし、いいんじゃねぇか?」

 

 だが、もう終わった気分で次の予定を立て始めているあたり、気を抜くのが早すぎだともいえるだろう。

 現在、旅人たちはダークエリアへと向かっている。そこにある七つの神殿にそれぞれのカードを設置して、封印を起動させる。そうすることによってこの因縁が終わるのだ。

 とはいえ、主に難しいことをするのはナムとウィザーモンたちである。肉体労働役の旅人たちは、ダークエリアという滅多に行けない地を気楽に観光するだけでいいのだから、彼らにとってこれほど上手い仕事はない。もう旅人たちの仕事は終わったのだ。

 

「で、どうやって行くんだ?」

 

「ダークエリア。続く道。幾つかある。その中のひとつ。近くにある」

 

「ダークエリアは不思議な場所でな。この世界にあるどの場所から入っても、必ず同じ場所に着くのだ。そこでウィッチモンも待っている」

 

「なぜに?」

 

「彼女も遺跡破壊の実行犯としてこき使われているんだよ」

 

 この世界ではダークエリアへの入口は幾つもある。だが、どの場所から入っても必ず同じ場所へと導かれるのだ。

 全体図的には、幾つもの層を持った世界である。天井はより上階の地面によって塞がれ、空はない。下階のエリアへと行くには専用の入口が必要となる。そしてなにより、下階世界へ行くほど強力なデジモンたちが住み、そして最下層にはあの罪が眠る。上階に行くほど広く、下階に行くほど狭い。それがこの世界のダークエリアの構造なのだ。

 

「それで、この井戸……井戸?井戸だよな……あれ、井戸なのか、これ?」

 

「何を言う。どこからどう見ても井戸だろう」

 

「こんな血の溜まった井戸なんて見たことないよ。どっから行くんだ?」

 

「……飛び込めばいいだろう?」

 

 何を当然なことを、と真顔で言うウィザーモンは真面目に言っているらしかった。

 その言葉に、思わず旅人たちの顔が引き攣るのも無理はないだろう。その井戸の中に溜まっているのは水ではなく、血だ。そんな不気味な井戸の中に飛び込むなど、いかに旅人といえど遠慮したかった。

 

「時間ない。さっさとしろ」

 

「……南無三!」

 

 人間の世界ならまず間違いなく“呪いの井戸”という名前がつくだろう井戸に旅人は飛び込んだ。井戸に飛び込むという滅多にない経験だというのに、飛び込む先は血の溜まった井戸。まず間違いなくその血の持ち主に呪われそうな感じである。

 そんな井戸の中に飛び込んだ旅人を迎えたのは、血の中にいることの息苦しさと狂いそうになるほどの悲鳴だった。

 いつまでも続くその現象に、“いい加減にしてくれ”と旅人がウンザリしたのも悪くないだろう。やがてその悲鳴が高まったその時に旅人は浮遊感を感じた。一瞬後、旅人は地面に叩きつけられる。どうやら、着いたようだった。

 

「イテテ……ったく。もっと楽に入れる入口はないのか」

 

「あるにはあるが……あそこからだと遠い。時間が惜しい今はそこまで行っている暇はない」

 

 旅人の独り言に返したのはウィザーモンだ。どうやら、旅人の後に続いて井戸に飛び込んだのはウィザーモンだったらしい。

 ちなみにウィザーモンも旅人も井戸に飛び込んだ状態のままである。あの血の中に飛び込んだというのに、血だらけではない。血まみれどころか、濡れてさえいないのである。飛び込み、あの息苦しさを経験した旅人からすれば不思議で仕方なかった。

 

「まあ、運がいいといえばいいだろうな」

 

「なんで?」

 

「今はアヌビモンがいない」

 

「あぬびもん?」

 

 アヌビモンとはダークエリアを守護、監督する究極体デジモンである。デジモンの生死を決められるほどの強大なパワーとこのデジモンの世界の裁判官的な役割さえも担っていると言われるほどのデジモンなのだが――。

 

「留守なのか?じゃあ、急がないと――」

 

「悪人みたいな思考になっているぞ。アヌビモンはダークエリアの監視も行っている。どこにいようと、ダークエリアに誰かが入ればわかる」

 

「それじゃあ……急いでも意味ないのか?だったら、許可取らないと……っていないって言ってたな」

 

「アヌビモンが生きていた頃は、入るのも出るのも厳正な審査が必要だったらしい。もちろん、生きている者に限定された話だがね」

 

 ダークエリアとはすなわち、負の感情や負の情報の溜まり場だ。負とはすなわち善における悪、正義における不義、生における死。それらのものと対極になるものだ。

 つまり、負の情報とは、死んだ者の情報や憎しみなどの過剰な感情のことである。もちろん、完全にそれだけというわけでもないのだが。

 

「アヌビモンは外の世界へと出ようとした魔王と相打ちになって死んだという話だ。まあ、噂の範囲を出ないがね」

 

「またか……そういうの多いな」

 

「しょうがないだろう。そういう風なことの積み重ねが結果としてあの罪の復活に繋がったのだから」

 

「アヌビモン。死んだせい。私、仕事増えた」

 

 デジモンは死ぬと一度この世界に来る。そして、アヌビモンがその情報をデジタマへと還元し、外の世界へと放つのだ。アヌビモンが生きていた頃はその辺りの役割をアヌビモン自身が担っていたのだが――。

 アヌビモンは死んだ。その後しばらくはナムが――正確にはイグドラシルが――その役割を担っていたのが、そのナムも力を失った。現在はナムが役割を担っていた頃のシステムの残骸に頼りきっている形になっている。つまり、あのイグドラシルの場所にあったデジタマたちはその名残というわけだ。

 

「面倒な審査も必要ない。さっさとウィッチモンと合流して、行こうか。……どうした?」

 

「いや……アヌビモンやイグドラシルのような重要な役割の奴がいなくなっても……世界はまわるんだなって思ってな――」

 

「旅人。黙れ」

 

「すいませんでした!」

 

 最後に余計なことを呟いた旅人はナムの逆鱗に触れたのだろう。その後しばらくはナムにビクビクと怯えながら、過ごす羽目になった旅人。なんとなく口にした言葉だったのだろうが、自業自得である。

 

「目的の神殿はここよりさらに下層にある。七つも回らなければならないのだ。さっさと行くぞ」

 

「ウィッチモンは?」

 

「ウィッチモンは下層の入口で待っているはずだ」

 

 そう言って歩き出すウィザーモンとナムに遅れないように、旅人たちも急ぎ足で歩き始める。

 あのタイガたちの世界のダークエリアと同じようにどこか陰惨な気配を漂わせ、訪れるものを憂鬱な気分にさせる。この感じが負の感情の溜まり場ということなのだろう。

 だが、ダイガたちの世界のダークエリアとは違って、よく見れば辺りには枯れた木々や岩々など、さまざまな風景が見受けられる。死が訪れた枯れた世界というのが適当であろう世界だった。

 

「まさに地獄って感じだね~」

 

「ドルは地獄なんて知らないだろ。本も読まないし」

 

「僕だって人並みの常識くらいあります~!」

 

 よく見れば、辺りの岩陰には小さな悪魔や幽霊のようなデジモンがいる。おそらくここに住んでいるのだろう。だが、出てこないことを鑑みるに、いきなり訪れた余所者の旅人たちに警戒しているらしかった。

 

「そんなに警戒しなくても、この階(・・・)に住むようなデジモンなら大丈夫だ」

 

「……この階。ってことは――」

 

「ほう、スレイヤードラモンは鋭いな。先ほども言ったが、下に行くほど強力なデジモンが多い。神殿がある層は究極体並みのデジモンもいるから気をつけろ」

 

「……」

 

 旅人たちにとって今回のダークエリア訪問はちょっとした仕事のある変わった旅といった認識だった。だが、ウィザーモンの言葉は明らかに面倒事の気配を匂わせていて。

 自分たちの中の認識が、“ちょっとした仕事”から“命を賭けるかもしれない仕事”に変わったことを脱力感と共に感じた旅人たちだった。

 

「さて、見えたな」

 

 旅人たちのテンションの変化をわざと気づかないフリをしたウィザーモンが指したのは、光の渦だった。幻想的なまでにキラキラと上空へと立ち上って行くそれは、ここがダークエリアという陰気臭い場所であることを忘れさせるほどの美しい光景だった。思わず旅人たちが、先ほどのテンションダウンのことなど忘れて見入ってしまうほどの。

 そしてそんな光の渦の元に見たことのある人影。毒々しいほどの赤い服装の彼女は――。

 

「待たせたか?ウィッチモン」

 

「うぅん。大丈夫。神殿の場所もばっちしよ!ドルモンや旅人も久しぶり。……ドルモン雰囲気変わった?」

 

「久しぶり~。雰囲気?気のせいじゃない?」

 

 そう、ウィッチモンだ。ウィザーモンと並ぶほどの腐れ縁との再会は、旅人たちとって感動も何もあったものではなかった。そしてそれはウィッチモンの方も同じことで。これくらいあっさりとしている方がウィッチモンとしても気楽でよかったりする。

 

「そういえば、アルファモンのアレ……無事に使えたんだってね」

 

「あぁ……忘れてたな。ありがとうな。おかげでなんとか生き残れたよ」

 

「旅人がお礼をっ!?……やばい世界滅亡が近いかも……」

 

「……」

 

「……冗談だよ?」

 

「わかってるよ。っていうか、この状況でその冗談は洒落にならない」

 

 驚いたかのような顔で叫ばれても、それが冗談だとわかるくらいには旅人はウィッチモンとの付き合いがある。ただ、ウィッチモンがそこで冗談を挟んでくるとは思わなかったから、旅人は呆気にとられただけだ。

 

「あはは……確かにね」

 

「再会の挨拶はそれくらいでいいだろう。さて行くぞ」

 

「また飛び込むのかよ……」

 

 さっきとは違い、今度はウィザーモンが先陣を切る。光の渦へと飛び込んだウィザーモンはすぐに見えなくなった。下層に行ったのだろう。次いでナムが、ドルモンが、と次々と飛び込んでいく。

 いつまでもここにいても仕方ない。そう考えて、残ったメンバーも光の渦へと飛び込んで――。

 

「……。変わってないんだけど」

 

「何を言っている。空気が違うだろう?」

 

「微妙な違い~」

 

 光の渦を抜けた先にあったのは、先ほどまでと変わらない光景だった。

 思わず下層に訪れるのを失敗したのかと驚く旅人たちだったが、ウィザーモンの話だとこれであってるらしい。代わり映えのしない世界である。

 だが、ウィザーモンの言う通りに空気が違う。言い様のないその空気は表現に困るが、一言で言えば“息苦しい”というのが適当だろう。もちろん、息を止めたことによる息苦しさとは別の感覚だ。

 

「さて、ここからは少し注意だな。それなりの面々が住むから気をつけろ」

 

「それなりってどれくらいだ?」

 

「ふむ……スレイヤードラモンならいくら集まっても敵じゃないくらいだ」

 

「……それって」

 

「だから言っただろう?それなり、だと」

 

 ウィザーモンの戯言を無視して、旅人たちはひたすらに進む。

 少し歩けば、もう次の下層への入口が見えてくる。その早さは、ダークエリアとはこんなに狭いのか、と旅人たちが疑問に思うほどだ。

 そしてその疑問に答えるのは、やはりウィザーモンである。

 

「ダークエリアとは見た目通りではない。僕らの世界とは違う空間法則で成り立っている。それを僕らの常識で解釈するのは間違いだということだ」

 

「ってことは、ウィザーモンもわからないのか?」

 

「フッ……残念ながら、な。知識としては知ってしているが理解しているとは言い難い。なにせ異世界法則の話だ。知ってる範囲を教えてもいいが、君たちに理解できるか?」

 

「……無理だな」

 

「だろう?これを理解できるのは、それこそ神と呼ばれる存在に近い者たちくらいだろうな」

 

 そこで旅人はチラリとナムを覗き見る。その顔は相変わらずの無表情だったが、どこか自慢げにも見えた。

 最近、ナムの性格がよくわからなくなってきた旅人である。もっとも、元から理解できていたとは言えないのだが。

 

「まあ、下層への入口については一つだけではないから、と言っておこう。もっともダークエリアへの入口は一つだがね」

 

「……余計わからな――ッ!」

 

「……あれは」

 

 突然立ち止まったウィザーモンに怪訝に思った面々だったが、すぐにその疑問も氷解する。まるで獲物を見つけたかのような目で、紅い眼の黒い邪竜が一体立ち塞がっていたのだ。

 

「デビドラモンか……懐かしいな」

 

「あぁ、あの時はまだ俺がコアドラモンだった時だったからなぁ……」

 

「呑気に言ってるけど、僕たち完全に獲物に見られてるよね!?」

 

 ドルモンが悲鳴じみた声を上げるが、旅人たちからすれば今更な相手である。そもそも、七大魔王とも戦った旅人たちからすれば、たかが成熟期のデジモン一体だけなど相手にもならない。

 

「あ、そっか……」

 

「……どうする?リュウが適当に相手して、その間にオレたちが抜けるか?」

 

「そうだな。それが――」

 

「旅人。残念ながら遅かったようだ」

 

 その瞬間。デビドラモンは先頭にいたウィザーモン目掛けて牙を剥く。

 ちなみに。ナムはこういう時にはいつの間にか後ろの方に待機している。その辺り、ちゃっかりしていると言えるだろう。

 “思い通りにはさせない”とウィザーモンを守るためにスレイヤードラモンが剣を振り抜き――。

 

「え?」

 

 直後、スレイヤードラモンの剣がデビドラモンの氷像(・・)を砕いた。思ったのと違う結果にスレイヤードラモンは呆気にとられた。当然だ。デビドラモンにはそんな力はない。だというのに、実際にデビドラモンは氷像に、いや、氷漬けになっていた。

 デビドラモン自身の力でもなく、スレイヤードラモンでもなければ、デビドラモンを氷像に変えたのは別の誰かになる。

 そしてこの場には先ほどまでこの場にいた者に変わって、新たなデジモンが一体。白い服装の、氷の杖を携えたそのデジモンは――ぶっちゃけると白いウィザーモンだった。

 

「なるほど、こうなるのか。ふむふむ……」

 

「え?ウィザーモン……だよな?」

 

「今はソーサリモンだがな」

 

「はい?」

 

 ソーサリモンはなにやら頷いてメモをとっているが、何がどうなっているのか、蚊帳の外の旅人たちにはさっぱりわからなかった。時折ウィッチモンがソーサリモンと何かを話し合っている。

 よくわからない旅人たちだが、唯一あのソーサリモンはウィザーモンが変化した姿ということだけは理解した。

 その後、数分もしない間にソーサリモンは光り輝いてウィザーモンに戻った。その姿を見て謎の安心感を覚えた旅人たちだが、やはり見慣れた姿の方がいろいろと安心するということだろう。

 

「ふむ?もう終わりか。時間も短いな」

 

「なぁ、何が何やら……説明してくれ」

 

「フフフ……前に君のカードを借りたことがあるだろう?」

 

「あぁ、そういえば……」

 

 歩きながら話すウィザーモンは得意げだ。よほど自分の成果を話すのが楽しいらしい。

 一方で、ウィッチモンは不満そうな顔をしている。どうやら、成果を出したのが自分でなかったことに不満を覚えているらしかった。この成果はウィッチモンとウィザーモンの共同研究によるものらしかったのだが――それはそれ、これはこれ、ということだろう。

 

「その時にカードの力を研究してな。なんとか実験段階にまで漕ぎ着けたというわけだ」

 

「いや、さっぱりわからん。え?ってことは何か?お前、さっきの実験だったのか?」

 

「そうだな。記念すべき実験第一回目だ」

 

 あっさりと答え、そして仮にも危機的状況で自分を実験台にするという行いをしたウィザーモンに旅人たちは引き気味である。

 もっとも、ウィザーモンもスレイヤードラモンがいたからこそ、あのような状況で実験をすることができたのだが、それでも危険なことに変わりはない。

 

「と言っても、まだまだだけどね。感触を見るに、次の世代には進化できていないみたいだし……」

 

「同性代の似た存在への変化。まあ、古代の擬似進化に似たものだろうな。改めてそのカードの凄さがわかるよ。僕らではここから先にどうしてもいけないんだ」

 

「まあ、構想だけはあるんだけどね。他者や自分の強い感情を取り入れれば、或いは――って聞いてる?」

 

 ウィッチモンが少し怒ったように言うが、実際旅人たちは聞いていなかった。というよりも、なんだかよくわからない話についていけなくなったのだ。

 ウィッチモンとウィザーモンからすれば、自分たちの知識をひけらかして、さらに自分たちの研究の考察も行えるのだから満足かもしれない。だが、旅人たちは興味ないのだ。興味のない難しいことを延々と聞かされて、聞き続けられるほど旅人たちはできた頭をしていなかった。

 

「いいから聞きたまえ。ここからが面白いんだ」

 

「でね?私思ったんだけど――」

 

「確かに、それなら……っく、こうしてはいられない!さっさと終わらせて帰るぞ!早く調べるんだ!」

 

 急にやる気を出して歩くペースを上げたウィザーモンとウィッチモン。その変わり身の速さについていけない旅人たちだった。

 




というわけで、記念すべき第百話。ウィッチモンとの再会とダークエリア道中でした。
そしてそろそろ見え始めた終わりに感慨深い気持ちになっています。まあ、まだ終わったわけではないんですけどね。

ではまた次回に。よろしくお願いします。
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