もうエピローグまで書き終わっているので、無駄に日にちを稼いでも仕方ないので、今日中に投稿します。
それでは、最後までよろしくお願いします。
「――さぁ。行こうか」
七つの眼と七つの脚を持つ異形の化身。その化物の脚にそれぞれ刺さった剣と第八の眼が怪しく煌き、旅人たちをジッと見つめていた。
その化物は突如として旅人たちの目の前に現れたのだ。
いや、或いは元からそこにいたのかもしれない。
すでに世界は消滅している。それはつまり、もはや旅人たちの認識には既存の世界法則は当てはまらないということだ。
無が有で、有が無。近い場所が遠くて、遠い場所が近い。過去が未来となって、未来が過去となる。すべてがなくなったからこそ、すべてがあやふやになっている。
「いつの間にっ!」
「あれは……もしかしてオグドモンか?」
「……オグドモン?それがアイツの名前なのか?」
「神話で語られる超魔王だよ。もっとも噂だけが先走っているけど……まさか、本当に?」
オグドモン。
その存在は太古の災厄とも原初の罪とも言われ、その名はあらゆる罪罰を意味する――と言われている。そう、言われているだけなのだ。
オグドモンとは古代のデジモンたちが恐れた天災のことを指すのではないか、オグドモンは七大魔王のうちの誰かの別の姿を指すのではないか、とさまざまな憶測がなされていた。だが、スレイヤードラモンの言うとおり噂の息を出ていなかったのだ。
だが、スレイヤードラモンは姿を見ただけでその化物こそがオグドモンであるとなぜか理解できた。それは、理屈云々ではなく本能に近い。スレイヤードラモンの魂に、データに、刻まれた太古から受け継がれる記憶の欠片が否応なしにオグドモンのことを理解したのだ。
「……っく、さすがというべきかね。この嫌っこい感じは」
「嫌っこいっていうか、気持ち悪い……」
かつての時とは違う、脚一本ではない完全なオグドモンの姿。その姿は一言で言えば、“醜い”というものだった。或いは“美しい”とも――いや、さまざまな言葉で形容することができるだろう。それは、個々によってその性を変える人間やデジモンの在り方そのものだった。
だからこそ、オグドモンは醜く美しい。だからこそ、人はオグドモンを嫌悪する。
美しさも、醜くさも、善も、悪も、正義も、不義も、罪も、罰も、人間も、デジモンも。この世のありとあらゆるものはすべて同じ――。
見ることのできないそれ。人はそれを見ることができないことによって、知らないことによって救われている。今を生きることができる。だが、本当は心の奥底では気づいている当たり前のこと。そんな、普段は気づかないフリをしている当たり前のこと。
オグドモンを見てしまえば、そんな当たり前を否応なく理解してしまうから。そして、自分たちは誰もがそんな醜い目の前の存在と同じであるとわかってしまうから。
腐臭がするわけでもない。姿形が崩れているわけでもない。ただ、ひたすたに吐き気がして、目を背けたくなる。
そんな――当たり前の嫌悪感。それは同族嫌悪の感情で。そしてそれはとても自然なことだった。
――オグドモン。それは貴方たち愚かで哀れな者が私につけた名前よ。私には本来名前なんてないわよ――
「喋れるのか!?」
「っていうか、イメージが……」
――長い時の中で貴方たちから学んだわ。それは、心のようで、感情のようで。その実、ただの再現――
会話が成り立つという事実に旅人たちは驚いた。てっきり、会話などできないとばかりに思っていたのだ。
甲高い声で威厳も何もなしに語るオグドモンは旅人たちのイメージとは合致しない。だが、話が通じるなら別の解決法もあるかもしれない。決死の覚悟で戦いを始めようとしていた旅人たちにとって、この状況はありがたいものだった。
もっとも、その考えは間違いであるのだが。オグドモンは“再現”と言った。つまり、オグドモンの考えや言葉は世界に存在したさまざまな者の再現であって、本来のオグドモン自身のものではないということだ。どのようなことを語ろうと、どのようなことを考えようと、オグドモンの“役割”は変わらない。
――我。その名は罪。その名は災厄。その名は罰――
「声が――!」
――さぁ、最後の咎人。贖罪しろよ?世界と同じように……それがオレの最後の役割だ――
「ッ!set『進化』『二重』!」
「ドルモン!ダブル進化――!ドルグレモン!」
突然の気配の変化。いつ戦闘が始まってもいいように旅人はすぐさまカードを使う。
その力によって完全体へと進化したドルグレモンだが、その表情は硬い。万全を期すなら、究極体で行くべきだ。だが、白紙のカードすべてがなくなった今、カードが戻るのを待たなければ究極体へと進化することはできない。
この少しでも戦力が欲しい状況においては、白紙のカードすべてを使い切ってしまったことが歯痒い旅人たちだった。
「オグドモンはすべての罪を贖罪することのできる能力を持つって噂だったけど……こういうことだったんだな」
「リュウ?」
「つまり、だ。死んで罪を償えって意味だよ。世界を滅ぼしちまえば、罪なんてないも等しいからな」
――はははっ!悪意ある罪深い君たちじゃ、僕は倒せないよ~。おとなしく消えたら~?――
すべての罪を内包しているからこそ、悪意ある者の攻撃ではオグドモンは傷つけることはできず、倒すことはできない。以前のことやリュウから語られる噂の内容を統合してそれを知った旅人たち。はっきり言って、詰みの状態である。
そして、遂にオグドモンは動く。旅人たちが豆粒に見えるほどの巨体だ。ちょっと動くだけで旅人たちなどひとたまりもない。
――『グラドゥス』――
その脚のひとつが、旅人たちを粉砕するために超速で動く。
直撃すれば、大地どころか星ごと砕きそうな威力を持ったその脚が旅人たちへと向かって放たれたのだ。直撃をもらったらひとたまりもない。もっとも――。
「set『加速』『強化』!」
「うわっと!」
直撃をもらったら、の話だが。
旅人たちはなんとかギリギリで躱すことができた。だが、すれ違う間に切りつけたスレイヤードラモンの攻撃はやはり通じていない。
始まったばかりだというのに、いよいよもって絶望的な旅人たちである。白紙のカードではない普通のカード郡など言わずもがな、アルファモンやエグザモンでも意味はないだろう。
そんな旅人たちに考える暇を与えないとばかりに、オグドモンの攻撃は続く。一撃もらった
時点でアウトな攻撃だ。避けることを第一に考えなければならない。
もっとも、オグドモンの攻撃はわざと旅人たちが躱せるように放たれている気もした旅人たちだったが、確証はなかったし、そもそもそれでも一撃もらったらアウトな威力であることは変わりない。躱すのに必死な旅人たちは、すぐにその頭に思い浮かんだ考えを忘れていった。
「どうするかね……ッ!set『防壁』『爆破』ァ!」
「『メタルメテオ』ォ!」
「『参の型――咬竜斬刃』ァ!」
次々と旅人たち技が繰り出されるが、オグドモンには通用しない。旅人たちもそれをわかっている。旅人たちの目的は、技を利用してオグドモンの攻撃を避けることだ。
旅人は作り出した防壁を爆破させ、その爆風で吹き飛ばされることによって避け、スレイヤードラモンたちは自身の技の反動で避けたのである。
ついでとばかりに弱点的な場所を探る目的もあったのだが、そちらはあまり期待していなかったりする。意味もない行動であったのだし。
――やれやれ、理解に苦しむわい――
「……?」
――なぜこうも抗うのでござる?罪に塗れて生きていてもいいことなどないでござる――
「それは、お前が決めるこ――」
――それに形あるものいつかは消える。だったら、ここで死んでも同じだろう?決まりきった事象に立ち向かうくらいなら、その事象から逃げ出してしまえばいい。死を恐れるのなら、死んでしまえばいい。簡単なことだ――
正論のようで身勝手な理論を言うオグドモンを前に旅人たちは呆れるしかない。話が確かならば、オグドモンは世界創造時代から存在しているはずなのである。だというのに、この理解のなさは一体何なのか。
もしくは、世界創造時代から存在しているからこそ、とも言えるのかもしれないが。
「それは、お前が決めることじゃない。決まりきったことだからなんだ?それでも僕は……いや、
――さすが、死を乗り越えたバカは言うことが違うね!じゃあ、君はどうかなっ!――
「世界は終わらせない。オレたちの旅も終わらせない。決まりきった事でも、向かい合ったのなら何か見えるのかもしれないだろう!」
――本音は後者だろ?というか、貴様とて学校や社会の枠組みから自由な旅へと逃げ出したものだろ?そんな奴の言葉に説得力があるのか?――
「……」
「言い負かされてんじゃねぇよ!」
思わずスレイヤードラモンが怒鳴るが、思い当たる節がありすぎて旅人は黙り込んでしまった。
元々自分で決めたことだったとは言え、かつては学校に嫌気がさしていたことも間違いなく、しかもそんな時の師匠からの提案を渡りに船といった感じで乗った部分もあったことにも違いなかった。
思い返して、言い返すことができないことに旅人は気づいてしまったのである。
「いや、だって……」
――それでは、お前はどうなんだよ!約束を、逃げ出していた理由としたこともあったじゃん。その結果が取り返しのつかないことになったんじゃねぇの?――
「う……む、昔の話だろ……」
「旅人……リュウ……」
「う、うるせぇ!」
ドルグレモンの生温かい目が旅人たち二人を貫く。思わずドルグレモンから視線を逸してしまった二人だが、ドルグレモンからの視線は止むことはない。
そんな旅人たちをさらに馬鹿にするように、オグドモンは止まることなく語り続ける。
そしてそう語り続ける中でも、オグドモンの攻撃は続いているのだから、旅人たちは必死である。その言葉を聞くのも、何かを話すのも、攻撃を避けながら行うしかないのだから。少し油断した瞬間にあの世行きが決定してしまうのだ。それは必死になるだろう。
――第一、消滅した世界をどう元通りにするつもり?――
「え?あ……」
――考え無しって、馬鹿よねぇー……――
「誰が馬鹿だっ!なんとかなるだろっ!」
――やだやだ。ちょーバカって感じで、さいあくぅ?――
「……」
とにかくオグドモンの口調選びに悪意を感じた旅人たちだった。ちなみに当然だが、オグドモンの口調は偶然の産物である。決して旅人たちが思っているようなことはない。
なぜ、このような事態になっているのか、いよいよわからなくなってきた旅人たちである。一応、今は世界を賭けた戦いの途中であるはずなのだが。
――いい加減。滅べ――
「ぬわっ!」
そうして雰囲気が緩くなったその瞬間を狙ったのか、偶然なのか、そういう時に限って冷や汗をかくような鋭い攻撃がオグドモンから放たれるものだから、旅人たちは心臓に悪い。
これならばいつかの者たちのように敵意剥き出しで向かってきたり、狂気のままに暴れまわる獣の方がマシだろう。
旅人は現状を打破する可能性を持ったカードを頭に思い浮かべるが、白紙のカードではない普通のカードにオグドモンに通用するような強力なものはない。
だが、そういえば――とすっかり頭の中から消え去っていたあるカードを思い出した旅人はそのカードに手を伸ばした。
――ムダナテイコウヲスルモノダ――
「っち。さっきまでの――」
――第一、私ノ言葉ニ意味ハナイ。私ノ存在ニモ。私ニアルノハ役割ノミ――
「……?」
――世界は払うべき対価を払った。後は、おまえたちだけ――
「ッ!これ、……は……っ!」
オグドモンの口から放たれる――いや、奏でられると言った方が適切なのだろう。奏でられる歌。世界のありのままを想う美しき旋律にも、世界のありのままを憎む悍しき旋律にも聞こえるソレ。それの歌が耳に届いた時、旅人たちは耳を塞いだ。
オグドモンの姿と同じだ。嫌悪感を催すソレはとても聞いてはいられない。それを聞いていられる者など、それこそ生物を超越した者や生物としてどこか壊れた者くらいだろう。
怒り、妬み、欲しがり、驕り、怠け、食べ、性を求める。誰だって感じる当たり前が、こうも醜いものなのかと。
そして、その歌が奏でられた一瞬後に――。
――『カテドラール』――
世界を消し飛ばした衝撃波が奏でられた。
耳を塞ぎ、目を逸していた旅人たちにそれを避ける術はない。そもそも、避けられるような生易しいものでもない。
だが、運がいいというのか、悪運が強いというのか。偶然だが、旅人はその直前にあるカードを取り出していた。
そして直撃を受けた旅人たちは、そのまま消し飛――。