この一時間ほど前に一話投稿しております。まだ読んでいない方はそちらからどうぞ。
あと、この何時間か後にエピローグを投稿しますので、そちらもよろしくお願いします。
「……ッ!……?あれ?」
オグドモンの攻撃によって消し飛ぶ直前で、旅人たちはどこか別の場所へと移動していた。いや、オグドモンが目の前からいなくなったというのが正しいだろうか。この状況は、先ほどまでの状況と同じだ。だが、先ほどまでの奇妙な場所と違い、ここには空があった。大地があった。海があった。まるで、“世界”だった。
突然の事態に、オグドモンを探して旅人たちは辺りを見渡すが、オグドモンが現れる気配はない。
そうやって外側に意識を向けていたからか、旅人は気づかなかった。己の持つあるカードが僅かに鼓動していたことを。
「何なんだ?一体……」
「耳が痛い……ついでに気持ち悪い。吐いていい?」
「吐くなら向こうにいけ」
「もう、無理……うぇ~」
ゲロを撒き散らしているドルグレモンは放っておいて、旅人たちは現状を再確認することに務める。オグドモンに手も足も出なかったことは予想通りだったが、何の解決法も見つからなかったのは予想外だった。
というよりも、旅人たちはノリと勢い――つまり、考えなしでオグドモンに挑んだのである。返り討ちにされるのは、至極当然だとも言える。
「で?どうするんだ?七大魔王のカードはここにあるけど」
「あ、どっか行ったと思ってたら、リュウが持ってたのか」
「さっきの場所に漂ってたんだよ。これを使ってもう一度封印とか?できなくても力を弱めるくらいは……」
スレイヤードラモンから七大魔王のカードを受け取る旅人だったが、それを使ってどうすればいいのかがわからない。スレイヤードラモンの案は名案のようにも思えるが、そもそも旅人は封印の仕方などわからない。七大魔王のカードを使ったところでオグドモンが弱くなるかもわからない。
結局、試すにはまたオグドモンに接触しなければならないし、今度は無事に逃げきれるかどうかもわからない。順当に考えるのならば、今度は先ほどのような奇妙な逃げ方はできないと考えるべきだろう。
「いよいよまずいか?」
「いつものことだろ。特にルーチェモンの時なんか死ぬかと思ったぜ」
「……そういえば、そうだな。今更か」
「ゲホ……そうだよ……ごほっ……今更……ウェ……だよ……」
「とりあえず、ゲロ臭いから離れてくれるか?」
「ひどいよっ!」
事態の行方はとてつもなく重大だというのに、旅人たちの間に漂う雰囲気はいつも以上に軽かった。一周回って開き直ったからかもしれない。
どうしようもなくても、どうにかしなくてはいけない。さもなければ、終わるだけだ。終わりたくないのなら、足掻くしかない。
そして、旅人たちは終わりたくはない。なら――することは決まっている。
旅人たちはオグドモンと向き合わなければならない。先ほどまでは、オグドモンを見ているようで、見ていなかったのだ。オグドモンから目を逸らすのではなく、見つめなければならない。
例え、それがどれほど辛くとも。きっとそれは生きているなら、多かれ少なかれ誰でも経験することだ。そんな当たり前を。いや、当たり前だからこそしなくてはならないのだ。
オグドモンは、罪というごく当たり前の存在なのだから。
「さて、それじゃ行くか」
「……勝算は?」
「あるわけないだろ。まぁ、なんとかなるさ」
「……だね」
旅人は今までのことを思い返す。そしてそれはドルグレモンやスレイヤードラモンも同じだった。
ドルモンが生まれ、出会ったこと。ウィザーモンたちと出会ったこと。自分のせいでドルモンが犠牲になってしまったこと。マグナモンに言われたことでグダグダと悩んだこと。さまざまな強力なデジモンたちとその気もないのに戦う羽目になったこと。ドラコモンと出会ったこと。アルファモンたちと戦ったこと。いろいろな異世界を旅したこと。
どんな世界でも、どんな場所でも、さまざまな人や生き物がいてそれぞれに世界がある。
そんな、当たり前を思いながら旅人はあるカードを取り出す。今まで使ったことすらない、使えなかったそのカード。旅人は先ほどそのカードがなぜか熱を持ち、鼓動していることに気がついたのだ。だからだろう。今こそそれを使うべきなのだ、とそう感じたのだ。
――まぁ、それしかないよなぁ。こっちのウィザーモンとナムのケツを叩いて作らせた甲斐があったか――
「え?……?」
突然聞こえた声に旅人は振り返った。だが、そこにいたのは突然振り返った旅人に驚いているドルグレモンだけで、旅人が思っていたその声の主はいなかった。
――最後の仕上げだ。やり方はわかるだろ?さっさと終わらせろよ。それがお前の役割だ――
「ったく。いつも神出鬼没だよなぁ」
――どうせお前もこうなる。それに、これが最後だしな――
「はいはい」
「……た、旅人?さっきから独り言呟いて……どうかしたの?」
ドルグレモンたちにはその声は聞こえていないらしい。
その声は旅人にしか聞こえない幻聴なのかもしれないし、もしかしたら本当に旅人の思い浮かべたあの人物の声なのかもしれない。あの人物の神出鬼没さを知っている旅人からすれば、この場にいてもなんら不思議ではないだろうと思えてしまうのだ。
「おい、真面目に引くなよ……ちょっとね」
「大丈夫か?頭おかしくなったか?少し休むか?」
「リュウ……ドル……お前ら世界が元に戻ったら覚えとけよ」
――ハハハッ!いいじゃないか!未来に約束があるのはいいことだぞ?――
「みんなしてうるさいな!」
次の瞬間、目の前が歪む。その時、そこにありえた世界は消え去って、目の前にはオグドモンの姿があった。
――それじゃあ、これで本当に最後だ。さぁっ!行ってこい!――
――戻ってきたのか。いい加減しつこい……本当に俺をどうこうできると思っているのかい?――
オグドモンは相変わらずの姿でそこにいた。嫌悪感と絶望が入り乱れたその姿を、その声を、旅人たちははっきりと見つめる。もう、目を逸らすのは終わりにしたのだ。
相変わらずの複雑なその姿。だが、旅人たちには今は、ちょっと散歩に出かければ見かけるような、ありふれた姿に見えた。
――罪深いお前たちには我は倒せない。わかりきったことだ――
「さてね。例えそうだとしても、諦めるつもりはないね。世界を取り戻すまで。オレたちはしつこいぜ?」
――軽いね。君の言葉は。誰かに言われて、流されて。真に絶望を知らない、温々と育った温室育ち。君の言葉はすぐに他人の言葉を否定したくなる人々のソレと同じくらい軽い――
「確かにオレの言葉は軽いかもしれない。説得力がないのかもしれない。でも、約束がある。オレよりもずっとすごい奴らとのな。……約束は、守るもんだ」
旅人が思い返したのは、自身と出会った幾つもの者たちが語った言葉。
“任せた”。“頼む”。“頑張れよ”。“行ってこい”。
旅人が彼らから託されたものは、きっとその言葉以上の何かだ。
旅人たちを遥かに凌ぐだろう彼らから託された彼らの強い未来を想う心。そしてどこにでもある当たり前だろう世界、そこにいるであろう者たちの未来。
そんな当たり前を――旅人たちは託されたのだ。
旅人が話終えるよりも早く、オグドモンのその脚が旅人たちを狙う。旅人はドルグレモンに乗って、スレイヤードラモンは自力で、それを回避し続けた。
「ハハッ……」
「こんな時に笑うなんてね」
オグドモンの攻撃を躱しながら、旅人は笑った。いや、旅人だけではなく、ドルグレモンもスレイヤードラモンも同じように笑っている。
旅人たちは可笑しかったのだ。旅という旅人たちの世界は、今まで自分たちだけで完結していたと言ってよかった。交わることさえあれ、混ざり合うことなどほとんどないと言ってよかった。
だが、ここへ来て自分たちの世界が、さらに大きな世界を背負っているという当たり前ではないことに、旅人たちは奇妙な気分になったのだ。ちっぽけな自分たちの世界が、大きな世界を背負っていることが可笑しくて仕方なかったのだ。
「さて、これから行くか!set『――!」
その言葉と共に、次々と旅人はカードを使う。旅人が使ったのは七つのカード。すべての、七大魔王のカードだった。先ほどと同じように、七大魔王がそろい踏みした壮観な光景。
すべての七大魔王が盾となって、旅人たちへと届く攻撃を防ぐ。すべての七大魔王を盾として扱うという、本人たちに見られれば言い訳不可能で殺される使い方である。
だが、さすが七大魔王だけあって、旅人たちへとオグドモンの攻撃が届くことはなくなっていた。しかも、七大魔王全員が実体化した瞬間から、オグドモンの攻撃力や攻撃速度など諸々の力が落ちている。封印とやらは、まだ健在らしかった。或いは、封印とは関係なく七大魔王自身にオグドモンの力を封じる何かがあるのかもしれない。
「さぁ!行くぜ。set『世界』!」
それは、ありとあらゆる未来だった。
それは、ありとあらゆる過去だった。
それは、ありとあらゆる現在だった。
そのカードを使った瞬間、驚くべき光景が広がっていた。
『世界』それは、その名の通りのカード。世界を現出させるカード。持ち主の世界を導くカード。だから、先ほどは旅人の危機に反応したのだ。かつて旅人の師匠が旅人に渡したそのカードは、正しくこの時の為だけに作られたものだった。
「やれやれ……年寄り使いが荒いな」
「まぁ、いいじゃないか。ひと時とは言え、また一緒に戦えるんだから」
「ふん。こちらは決死だったというのにな。らしくもないことをした記憶がある分、死にたくなる」
「あれ……オレがもう一人~!?」
「え~僕がもう一人いる!どうなってるの~!」
「……どうなってんだ?」
「グァアアアアア!」
「――!」
それは、ありとあらゆる可能性だった。
どこかの世界にあっただろう可能性。未来にあるだろう可能性。過去にあっただろう可能性。それが、イマの可能性となって現れている。
メディーバルデュークモンにオウリュウモン。ドルゴラモンにデクスドルゴラモン。スレイヤードラモンにエグザモン。そして二体の、王竜剣と破竜剣をそれぞれ装備したアルファモンたち。
その姿は、旅人たちのこの世界での旅の道程を語っているようで。
その姿は、旅人たちの“世界”を表しているようで。
――罪深き者が何人集まろうとも……!――
「ふん。罪深くとも、我々は前に進むしかない。例えその先が、罰であろうともな」
「それでも、生きていたいって思いは尊いものだ。命は、そこにある権利を持っている!」
オグドモンの脚に突き刺さった剣が輝き、その瞬間にオグドモンの脚一本一本の上にそれぞれ七大魔王たちが位置する。それは、まるでオグドモンの眼を、脚を、封じているようで。
そしてそれと同時に、オグドモンの体に罅が入り始めた。だが、オグドモン自身は抵抗しているのか、オグドモンの体の罅は治ったり、広がったりしている。
もっとも、この場にいるのはかつて世界を救ったこともある猛者たちだ。そう簡単に事通りにさせるはずもない。
「はぁああああああ!『究極戦刃王竜剣』!」――『フレイムインフェルノ』――
それは、伝説の具現たる存在だった。黄金の輝きを持った剣が、地獄の業火と混ざり合ってオグドモンの脚を両断する。
「ふぅううう!はっ!『永世竜王刃』!」――『ダブルインパクト』――
それは、伝説の中だけの刃だった。荒れ狂う大河のような動きから繰り出された斬撃が切り裂いた脚を、魔王の銃撃が破壊する。
「おりゃあああああ!『ブレイブメタル』!」――『デット・オア・アライブ』――
それは、強大な破壊の権化だった。破壊という現象そのもののような凄まじい突撃が脚を砕き、その破片を立体魔方陣が完全に消滅させる。
「おぁああああああ!『壱の型――天竜斬破』!」――『ファントムペイン』――
それは、竜の勇者の聖剣だった。一際強く輝いたその剣が回転によって増した威力を存分に発揮し、次いで暗黒の吐息が傷口を侵食する。
「ォオオオオオオオ!『メタルインパルス』!」――『ロストルム』――
それは、生を求める屍の脅威だった。その死を齎らす脅威が脚を消し飛ばし、その残骸を世界さえ喰らうような大顎が喰らい尽くす。
「グォオオオオオオ!『アヴァロンズゲート』!」――『パンデモニウムロスト』――
それは、竜の頂点に立つ聖騎士だった。その巨大なランスを突き刺して炸裂させたすべての特殊弾が、超高熱爆発と混ざり合って脚を瓦解させる。
「はぁああああああ!『レイジ・オブ・ワイバーン』!」――『ランプランツス』――
それは、幻想の中でのみの英雄だった。黄金の槍から放たれた強大な飛竜のオーラが、魔王の鎖と黒炎を纏って脚を焼き尽くす。
――ガァァアアアア!――
放たれたそれぞれの必殺技が、それぞれの七大魔王の技の後押しを受けて、オグドモンの七つの眼と脚すべてを破壊した。
それぞれの想い、歴史、魂。そのすべてが込められたその技が――未来への道を切り拓く。
悪意ある者には傷つけられないはずのオグドモンが傷ついている。だが、その事実は、別に不思議でもなんでもない。オグドモンという存在が、七大魔王という同種の存在の力によってその存在を保てないほどに壊れてしまってきているのだ。
世界は、オンリーワンだからこそ意味を持つ。まったく同じ存在がいたとなれば、その意味を失ってしまう。皮肉にも、世界が消え去ったからこそオグドモンの罪としての力が弱まり、結果として七大魔王の持つ大罪の価値がオグドモンの持つ原罪の価値と釣り合ってしまったのだ。
――アァアァ!ソんな、バ鹿……な……――
罅割れがいよいよオグドモンを侵食していく。残ったのは、第八の眼。オグドモンは最後の眼になっても、まだ抵抗する気である。それが、オグドモンというものの存在だから。
だから、オグドモンは最後まで、抗い、役割を果たす。
――『オーラーティオ・グランディオロクア』――
眼だけになっても、その欲望のままに暴れるオグドモンのその姿に、もはや原型は残っていなかった。始めの時と同じものはその眼力と雰囲気だけである。そんなオグドモンに向かうは、破竜剣を持ったアルファモンだ。
綺麗ではない。美しくもない。だが、それでも力強さを秘めているその剣は、まるでとある竜の生き写しのようで――。
「――!『究極戦刃――!」
――ぁおあぁあおあぁおあぅあぃああ!――
「――破竜剣』!」
その剣が寸分違わず、オグドモンの第八の眼を両断する。
断末魔の悲鳴を上げて切り裂かれた第八の眼。だが、すべてを失っても、オグドモンは崩れ行く体のままで暴れている。それを七体のデジモンたちが迎え撃った。
最強クラスの究極体の攻撃を受けて尚、オグドモンは暴れようとして――。
「オレたちの勝ちだよ。世界は、未来へと続いていく」
――……!――
旅人がそう呟いたその瞬間に。
オグドモンの体は完全に崩れ去る。後に残ったのは、塵となって消え行くオグドモンの体の残骸だけだった――。