【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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ワールドトラベラー最終話です。
今日はこれを含めて三話投稿したので、まだ前の二話を見ていない方はそちらからご覧下さい。


エピローグ

――!

 

――――!

 

―――――――!

 

「……」

 

「おい!ねぇ!息っ――はしてるよな……大丈夫!?」

 

 聞きなれない声によって旅人は目が覚めた。

 旅人は土の感触(・・・・)を背中に感じながら目を開け、久しぶりに思える世界の風景を見た。その場所は公園だ。大都市の片隅にあるであろうその公園は、大都市にしては珍しい植物に囲まれた風景を見ることができた。

 つまり、人間の世界だった。

 

「……ここは?」

 

「え?大森公園。お兄さん、こんなところで眠ってたら風邪ひくぞ」

 

「……あぁ、そうだったな」

 

 目の前で心配そうな顔を向ける少年と耳に届く世界のさまざまな音を聞きながら、すべてが無事に終わったことを旅人は感じていた。そして、“これから”のことも。

 急に黙り込んだ旅人を心配しているのか、その少年は救急車だとなんだのと騒ぎ立てている。その姿に苦笑しながら、旅人は先ほどまでのことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 オグドモンを倒したその直後、消滅を始めていたのはオグドモンだけではなかった。

 あの『世界』のカードによって呼び出され、旅人に協力したあのデジモンたちの体もまた消滅し始めていたのだ。

 

「やれやれ。やっとゆっくりとできる」

 

「ふん。年寄りの出番は終わりだというのに。まったく近頃の若い者は……」

 

「ふっ。私と比べるとオウリュウモン。君も若い者だぞ?」

 

「……。別に英雄、貴様のことは言っておらん」

 

「ハハハ!オウリュウモンが揚げ足を取られるなんてな!」

 

 各々が消滅を始めているというのに雰囲気が軽い。やはり、一度死んでいる身だというのが大きいのだろう。未練も何もないようだった。

 メディーバルデュークモンやアルファモンにからかわれているオウリュウモンは珍しい光景である。しばらく一緒にいた旅人たちだが、初めて見るオウリュウモンの表情だった。

 

「って!体が薄れてる!旅人~助けて~!」

 

「ぬわっ!本当だ!旅人~ヘルプミ~!」

 

「その巨体二人組で近寄るな!殺す気かぁ!」

 

 一方で、焦った様子を見せているのはドルゴラモンとデクスドルゴラモンだ。同一存在であるゆえに、どうなっているのか、どうなるのか、がわかっていないのだ。それは不安にもなるだろう。

 

「まぁ、俺は特にはな……」

 

「――」

 

「グゥアウ……」

 

 おそらく旅人とアームズデジクロスをして進化した組であるエグザモンとアルファモンは静かだった。いまいち性格がどういう風になっているのかわからない二人は静かに目を瞑ってその時を待っている。

 この中でどういうリアクションをすればいいのかがわからないのは、スレイヤードラモンだ。唯一『世界』のカードの影響を受けていないため、どうにもならないのである。

 

「ん?そろそろか」

 

「本当にな。ま、これで世界も守られた……って言うのはちょっと違うか。世界が繋がったわけだ」

 

「ふん。それではな。――旅人(・・)。姫様に迷惑をかけるでないぞ」

 

 オウリュウモンたち三人が消える。それと同時に、エグザモンやアルファモンも消え、デクスドルゴラモンとドルゴラモンがいた場所にはドルモンが何が起こったのかわからない表情で目を白黒させていた。

 

「……あれ?なんか……記憶が二つ?あれ、え?」

 

「まぁ、ドルモンは放っておいて、だな……」

 

「旅人、どうかしたのか?」

 

「いや、どうかしたも何も……」

 

 この後、どうすればいいのかという話である。いくら待てど、これ以上何かが変わる気配がない。世界消滅の元凶たるオグドモンを倒したというのに、だ。オグドモン自体はほぼ消滅し、第八の眼の残骸だけが変わらずそこに漂っている。

 その光景に嫌な予感を隠せない旅人としては、さっさと第八の眼も消え去って欲しいと切に願っていた。眼玉だけ残っているというのも気持ち悪いことであるのだし。

 その時、旅人たちの目の前の空間が歪む。その唐突さに、旅人たちは身構えるが――。

 

――世界を繋いでいただきありがとうございます――

 

「礼。言うは当然」

 

「ナム、貴方は言ったほうがいいと思いますよ」

 

 そこから現れたのは、ナムと少女だった。ついでとばかりにグランドラクモンの声も聞こえる。

 少女の方には見覚えがなかった旅人だったが、その声には聞き覚えがあった。この戦いが始まる前に出会ったホメオスタシスのものだ。

 そしてナムがその手に持っているのは、いつの間にか旅人の元からなくなっていたあるカード。イグドラシルのカードだった。

 

「あれ?……いつの間にっ!」

 

「これを使う。一時的。我。力取り戻す」

 

「ナム……いえ、イグドラシルの情報を元に、我々が世界を再構成します」

 

「……なるほどね。でも、あれは――」

 

 ナムたちの言葉に納得した旅人だったが、ひとつだけ気になったことがあった。それは、先ほどから消えずに残っているあのオグドモンの第八の眼だ。

 旅人は消えるのに時間がかかっていると思っていたのだが、実はそうではなくて、消えないのが仕様らしいのだ。

 

「……ええ。よくはありません。ですが、そもそも消えるはずがないのです」

 

――オグドモンはこの世の罪そのものにして、ありとあらゆる罪の始まり。世界ある限り、完全に消えることなど、ありえない――

 

「ですが、心配しないでください。遥か未来の時でも、可能性があるのなら、意味があるのなら。きっと。きっと世界は繋がります。それこそが、私たちの“約束”ですから」

 

 そう語るホメオスタシスたちには悲壮感といったものはなかった。それを見て旅人たちは安心する。きっと、遥か大昔から――命は、世界は、ずっとこうして繋がれてきたのだろう。

 今回は旅人たちだった。そして、いつかの日に旅人たちと同じように誰かが、世界を繋ぐのだ。旅人たちと同じように。

 

「それと――」

 

「ん?まだ何かあるのか?」

 

「いえ、ただ……貴方たちには申し訳なく思います」

 

「いや、何を~?」

 

 旅人たちは、まだ何かあるのかと面倒くさそうな顔で顔を見合わせている。一方でホメオスタシスの表情は本当に申し訳なさそうなものだった。

 もっとも、ナムはいつもの無表情だが。表情が変わりやすいホメオスタシスとは対照的である。

 

――世界再構成と言っても、完全に元通りになるわけではありません。言うなれば、世界を造り直すのです――

 

「前の世界。……旧世界と言いましょうか。旧世界からいる貴方たちはその再構成に巻き込まれて、おそらく別々の場所に飛ばされます。下手をすれば別世界に行ってしまうかもしれません。そうなれば二度と――」

 

「あぁ、なるほど。まぁ、別にいいさ」

 

 そこから先は、言われなくとも理解できた。理解した上で、旅人たちはその程度(・・・・)のことだと、なんとも思わなかったのだ。

 

「まあ、そりゃ……ね……寂しいけどね~」

 

「奇跡のような偶然で俺たちは出会えたし、一緒にここまで来れたんだ。なら――」

 

「オレたちが旅を続けていくなら――きっとまた会えるさ。いつか、どこかのセカイでな」

 

「ぜんぜん平気だよっ!ぜんぜん……ぅぐすっ」

 

 平気と言いながらも、涙目になっているドルモンに旅人とスレイヤードラモンは苦笑する。涙目になりたいのは自分たちもなのだ。実際、先ほどの言葉も半分は本気だが、もう半分は強がりであるのは違いない。

 だが、そんな旅人たちの雰囲気を悟ったのか、ホメオスタシスたちも何か言うのは止めたようだった。

 

「……ええ。では、私たちも祈りましょう。貴方たちが再会できることを」

 

 目を閉じ、祈るような仕草をホメオスタシスがした瞬間に、この空間に風が吹き荒れる。それは、まるで何かの予兆のようだった。

 必死にならなければ、荒れ狂う風に耐えられない旅人たちだが、ホメオスタシスたちはこの風を前にしてもなんともないらしい。

 そんな中で、必死に風に飛ばされまいと耐える旅人になんともないように軽やかに近づくナム。自分たちは必死になって耐えるのに、軽やかに近づいてくるナムに軽くムカついた旅人たちである。

 

「旅人」

 

「どうかしたのか?ナム……ッ!」

 

 だが、旅人たちのそんなイラつきも、そのナムの表情を見て消えることになった。

 

「ありがとう」

 

 あのナムが微笑んでいたのだ。

 絶えず無表情で、その表情に感情を表すことなど数えることくらいしかないあのナムが、である。ナムの滅多に見られないその表情が、その容姿に違わないような“綺麗”と言うしかない微笑みだったことに驚いた旅人たちは、思わず力が抜けて――。

 

「あ」

 

「って!」

 

「しまっ――」

 

 耐えられなくなった風に吹っ飛ばされた。そのまま旅人たちはバラバラに飛ばされて行く。そして、このバラバラに飛ばされた先は言わずもがな、だ。世界再構成の折に各々が別々の場所へと行くだけである。

 手を繋いでいたり、近くにいて飛ばされたのならば、また別だったりしたのだろうが――。こうもバラバラになっては、近い場所に飛ばされるなどもう不可能に近いだろう。

 再会を祈る側として、ホメオスタシスたちは元凶たるナムに微妙な視線を送らざるを得なかった。

 

「旅人~!また!絶対にね~!」

 

「途中で野垂れ死にすんじゃねぇぞ!」

 

「それはどっちかって言うと、ドルだろ!」

 

「どう言う意味~!」

 

「ハハッ。じゃあ、またな!ドル!リュウ!」

 

 最後に旅人たちが見たものは、涙目で笑う各々の顔と、微笑ましいものを見るような顔をしている四足の異形の王と光のような少女のような何か。そして巨大なクリルタルの結晶体だった――。

 

 

 

 

 

 今までのことを思い返して、思わずナムにイラっとした旅人。実際、効果があったかどうかは別として、別れ際で近くにいたほうが精神的にいろいろと安心だっただろう。

 それなのに、ああもバラバラに飛ばされてしまえば、再会はできないと言われているようで不安になってしまう。

 本気でナムを恨みそうな旅人だった。

 

「はぁ。……まぁ、いいか。久しぶりに一人旅か。さて、どうするか」

 

――おい、一人旅じゃない。二人旅だ――

 

「さて。どうするか。いつもドルがいたからなぁ……。あ、アナザー使ってれば良かったんじゃね?しまった……」

 

――ねぇ!聞いてるの?――

 

 目の前で不思議そうな顔をしている少年とも違う声。

 いい加減現実逃避しているのも面倒なので、旅人はその声に向き合うことにした。だが、辺りには何もいない。

 

――やれやれ。君はアホなのかね?――

 

「……このムカつく口調の変わり方はまさか……」

 

――やっほー!オグドモンだよー!――

 

「なんで!?」

 

 オグドモンは倒したはずだ。いや、旅人も完全に消滅はしないと聞いてはいた。だが、それでも自分の体の中から声だけだが聞こえてくるというのは不思議を通り越して不気味だ。

 

――フフフ……言ったでしょ?私はオグドモンであって、あの罪じゃない。そしてあの役割も地の底に今も封印されているのもあの罪。私は罪であるけど、オグドモンなの――

 

「違いがよくわからん」

 

――人間で言えば、髪の毛みたいなものだ。その人間の一部であることには変わりないが、決してその人間に影響を与えない。けど、いなくては困る。そんな存在だ――

 

「もっとよくわからん」

 

――マ、トニカク間借リサセテモラオウ。オマエノ体ニナ。アァ、トハ言ッテモ全テジャナクテ、俺ノ一部ガオマエノ中ニ入ッテイル感ジダ。ソレニ、オマエニモ多少ノ得ガアルゾ。オグドモンノ力ノ一部ヲ扱エル……カモダ――

 

「あのな――」

 

――いいじゃないか。眠っていればいいあの罪としてのオグドモンとは違って、オレとしてのオグドモンは結構暇なんだ。あ、ちなみに拒否権はないぞ。ホメオスタシスも言っていただろう。申し訳なく思いますって――

 

「アレってそういう意味だったのか!?」

 

 ちなみに、当然だがそんな訳はない。

 

――何を今更じゃな。たまには儂だって世界を見て回りたいと思うわい。せっかく繋がったのだからの。次は繋がるかどうか分からぬし――

 

「じゃあ、壊すのやめろよ」

 

――言ったでしょ?私のこの考えも言葉もただの再現。私がどんなことを思おうと、語ろうと、私の罪としての役割は変わりようがない――

 

「……なんだかなぁ」

 

――この俺様が約束の時以外で外に接するチャンスなんて滅多にないからな。俺様の役に立つことを喜べよ?下郎――

 

「……」

 

 とにかく騒ぎまくる旅人とオグドモンだったが、傍から見るとどのように見えるのだろうか。

 それはだんだんと不審者を見るような目つきになっていった少年が証明している。だが、それでも尚、その少年がその場に留まっている理由は、その手に持ったモノのためである。

 

「お兄さん、大丈夫か?」

 

――ばーか――

 

「覚えてろよ……。あぁ、大丈夫だよ。バッチリだ」

 

「ふーん?あ……それで……あの……」

 

 バツの悪そうな顔でその少年が差し出したその手にあったのは、七大魔王と『世界』のカードだった。だが、ぐちゃぐちゃに破れていて原型を留めていない。持ち主の旅人でなければわからなかっただろう。

 

「いや、触っただけだったんだぜ!?だけど……その……ごめんなさい」

 

「……いや、いいよ。たぶん、そうなるはずだったんだから」

 

 なんとなくだが、旅人はそう感じていた。七大魔王のカードも『世界』のカードも。あの時のためだけにあったカードはその役割を終えて、失われたんだと。

 今まで手元にあったものの消滅は、旅人を先ほどまでとは別の意味で寂しい気持ちにさせた。

 

「……さて、行くか」

 

「あっ……えっと……本当にごめんなさい!」

 

「いや、いいって。それじゃあな」

 

 立ち上がった旅人はそのまま少年に別れを告げて旅立った。

 ここではない、どこかへと。その先にある再会を目指して。

 

――世界にはうまいものがあるんじゃろう?是非食いたい!――

 

「さて、どこに行こうかね」

 

――聞いてる!?――

 

 しばらくはしんみりとした一人旅をするのだろうと考えていた旅人だったが、どうやら想像以上に騒がしい旅になりそうだった。

 これからもずっと――。

 




あとがきと予告(仮)

これにてようやくワールドトラベラー完結しました。
思い返してみるとあれですね。感慨深いです。っていうか、一年弱も続いたんですね……。
皆さん気がついているとは思いますが、本当はもっと短い予定でした。一話あたり三千文字くらいで、四十話くらいの。それが如実に現れているのが第一章ですね。
だけど、書いているうちにどんどん話数が伸びて、文字数も増えて。第三章に入った頃にはもう当初の予定も諦めました。キャラや世界観に愛着も湧きましたし。
ええ。ですから、もうちょっと伸ばして、五月には終えるようにしよう。七月には終えるようにしよう。……どんどん増えて九月になりました。どうなっているんでしょうね。しかも、それでも尚、描写不足の部分があるという。
まあ、なんだかんだ言っても書きたい部分はすべて書き終えたので概ね満足はしているのですが……心残りがいくつか。
第一章を盛大に失敗したことですね。今読み返すと、黒歴史レベルの第一章。描写不足に設定不足。さまざまなアホをやらかした第一章を読んでくださった皆様には本当に頭が下がります。
リメイクも考えましたが、それをやると飽き性の自分は完結まで持っていけないかも、と考えたのでできませんでした。
次の心残りは……まぁ、マイナー作品のオリジナルを扱っているのでしょうがないのですが、感想が少なかったことですね。半年以上続けて感想は一件。
このまま一件で行くのかな?と思ったら、最終章間際からだんだんとくるようになり、感想が来ないのが当たり前だった自分としては驚愕でした。

まぁ、そんなこんなで続いたワールドトラベラーも今回で終わりです。
最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
次回作の目標は、連載中色付き評価と感想三十件です。もしよかったら、次回作もよろしくお願いします。


以下、次回作予告。
この中のどれかを書きます。


1.ワールドトラベラー続編。
ワールドトラベラーから五年後。ゲーム“デジタルモンスター”が広まった世界で、新たな主人公の物語。
もちろん旅人も(出番は遅いですが)準主人公として登場予定ですし、ウィザーモンたちも登場予定です。
現段階のコンセプトは、特例だけど特別ではない主人公です。

2.ワールドトラベラー番外編。
旅人と離れ離れになったドルモンがたどり着いたのは、聖杯戦争が行われている月の電子世界だった!?
電子世界つながりで、FATE/EXTRAとのクロスオーバーです。
岸波白野に召喚されたドルモンは、世界が違うことによる弱体化を受けながら、元の世界に変えるために戦う。
現段階コンセプトは、オカン化する岸波白野です。

3.デジアド02オリジナル。
デジアド世界の太一たちの前にいた選ばれし子供は、当然だけど02にもいたわけで。
かつてバイフーモンのパートナーだった主人公は、新たなパートナーと共にデジタルワールドを駆ける……予定。
現段階コンセプトは、大人になってから見た子供の頃。

4.上のどれでもない何か。

おそらく、この中のどれかを書きます。
ただ、個人的に完成された物語に手を加えるのが苦手なので(二次創作書きやっておいて何言っているんだって話ですが)、3の可能性は低いかもしれません。
その時はよろしくお願いします。

それでは改めまして。
一年弱の間ワールドトラベラーを読んでいただき、ありがとうございました!
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