というわけで、前もって予告していた漫画版fate/extraとワールド・トラベラーのクロス作品です。
その2は30分後、その3は1時間後に投稿されます。
注意事項として、
あくまでネタです。
今のところ続きを書く気はないです。また、その関係で随分とダイジェストです。
ジャンプでいう読み切り版みたいに、雰囲気だけを楽しむようなネタです。
ので、そのことを留意した上で読んでくれるような心のお優しい方はよろしくお願いします。
「おはよー」
「おはよう」
「おはようございまーす!」
「おっはー」
朝の学校にたくさんの挨拶の声が響き渡る。登校して来たたくさんの生徒たちが、生徒を迎える教師たちが、再会の挨拶を交わす。それは、どこまでも当たり前の光景で、どこまでも普通の日常。
そして、その少女――岸波白野も、そんなたくさんの人々と同じようにそこにいた。たくさんの生徒たちと同じように、挨拶をして校門をくぐり、学校内へと入っていく。
この学校に通い初めてから何回も続けてきた日常。だというのに――。
「……?何回も?」
そんな当たり前に白野は、どこか違和感を覚えた。
だが、そんな違和感は――普通、学校に来た回数など数えないだろう、と。早く教室へ行かなければ、と。そんな、退屈で平凡な日常に流されて消えていった。
それでも、頭にまとわりつく嫌な感覚は消えない。昔どこかで感じたような、気持ち悪いデジャブを白野は感じていたのだ。
「やぁ!白野!相変わらず辛気臭そうな顔だな!」
「シンジ……ちょっと調子悪くて」
そして、教室に着いた白野を出迎えたのは間桐慎二。白野の親友で、多くの女子に取り囲まれている、所謂モテ男だった。鼻につく人物ではあるが、確かな才能に溢れる人物であり、男女共に好き嫌いが分かれるタイプの人間である。
まあ、取り巻きに女子がいるというその関係上、自分も彼の取り巻きとして周囲に認識されていないだろうか、とは白野の最近の密かな悩みであるのだが――。
「……最近?」
「本当に具合が悪そうだな。保健室に行ったらどうだい?このボクに風邪なんかうつさないでくれよ?」
「……。なぁ、シンジ。一つ教えてくれ……」
「な、何だよ?」
「私たちっていつから親友だったっけ……?」
「は?今更そんなこと聞く?そんなの――」
そこで、慎二は黙りこんだ。
やはり自分と
顔を手で覆ってわなわなと震えている。しかも、よく見れば、手で覆った顔からは薄らと笑みが浮かんでいた。
一体どうしたのか。そう尋ねようとした白野だったが、それよりも早く慎二は行動した。
「く、ははっ!なるほどねぇ!さすが“聖杯戦争”!予選も一味違うってわけだ!」
「し、シンジ?」
「君のおかげでってところが癪だけどね。白野!僕は取り戻したぞ!」
「な、何を……」
「それじゃあ、お先に!」
「待っ……あれ?」
慎二は消えた。まるで初めからいなかったかのように。
突然の事態に白野も慌てるが、人一人がいきなり消えたというのに白野以外の誰も慌てていなかった。それどころか、普通に教師が入ってきて、普通に授業が始まった。
そんな普通の光景を前に、何か大切なことを考えていたように思っていた白野も席に座って授業を受ける。やがて、慎二のことは頭から消え去っていた。
そして――。
「やっぱりおかしい!」
放課後。校舎に一人残った白野はそう呟いていた。
下校時刻はそろそろだというのに、白野は帰ろうとしない。いや、帰ってはいけない気がしていたのだ。何か大切なことを失っているような、何か大切なことが欠けているような、そんな焦燥感にも似た感じが白野を襲っていたのである。
だからこそ、こうして人の少なくなった学び舎に一人残っている。だが、残っているからといってわかることはなくて、それが余計に白野の焦燥感を募らせた。
「……!そうだ、こうなったら一つ一つしらみつぶしで!」
諦めて帰る。そういう選択肢もあったというのに、白野はそれをしなかった。ただ、己の中の焦燥感に付き従って校舎中を走り続けた。
だが、やはり何も見つからなくて。いよいよ途方にくれた白野が最後に立ち寄ったのは、自分の教室。毎日毎日学友たちと授業を受けるそこで――。
「え?」
ちょっと待て、と。白野は立ち止まった。
学友とは誰だ?先生とは誰だ?自分は誰だ?家はどこだ?学校はどこだ?――いくつもの疑問と違和感が浮かんでは消えていきそうになる。だが、そんな違和感と疑問が完全に消えることだけは、必死になって耐えた。浮かんだ疑問が薄れないように、必死になって目を凝らす。頭を回転させる。
そうして、自分の席に目を向けた時。白野は唐突に思い出した。昼間のことを。昼間、聖杯戦争という奇妙な言葉を残して、消えていった自分の親友のことを。
「あ……が……」
突如、頭が割れそうになるほどの激痛が白野を襲う。まるで、この先には行かせないとばかりに。だが、白野は思い出したのだ。白野は疑問を抱いたのだ。だからこそ、“偽り”に抗うのだ。
そして、抗い始めたのならば止まることはできない。アクセルを思いっきり踏んでしまったようなものだ。だが、だからといって白野はここでブレーキを踏むことを、抵抗をやめることはしない。白野は、真実に目を向けたのだから。
そして、その瞬間に“偽り”が消え去る。偽りの一日の中で、岸波白野という少女がするべき役割はなくなった。そして、その代償とばかりに白野は足元が崩れたかのような感覚を覚えた。自分という存在を支えるべき、過去の記憶がないことに気がついたのだ。
記憶喪失。つまりはそういうことだが、白野がそのことについて深く考えることはできなかった。なぜなら――。
「ここ……は?」
いつの間にか、白野はステンドグラスが輝く荘厳なる大広間にいたからだ。まるで現実味のないその空間で、白野の目の前に立っていたのは人形だった。平均的な成人男性よりも少し大きいくらいの大きさのその人形は、形だけ見れば人間に近い。だが、あくまで形だけだった。その人形は、それほどまでに無機的なものだったのだ。
現状を確認しようと、白野が周りを見渡そうとする。だが、その瞬間。人形が動き出す。
「え?なっ!」
人形が動くという現実味のない光景に、白野は一瞬我を忘れた。だが、すぐに再起動した。いや、せざるを得なかった。なぜなら、白野はその人形に襲いかかられていたのだから。
生存本能に従って、人形から距離を取ろうとする白野。だが、それも意味がないことだった。人形は、白野以上の身体能力を持っていたのだから。白野が一歩下がる間に、人形は白野の四歩分の距離を詰める。
そして――。
「あ……」
白野は地面に倒れ込んだ。
何をされたのかわからなかった白野だが、何があったのかをすぐに知ることになった。まるで、体を裂かれたかのような痛みが、彼女を襲ったのだ。何をされたのか、理解できなかった。だが、人形の攻撃を受けてしまったという事実だけは、その痛みが証明していた。
つまり、白野はここで死ぬということで。
声が出なかった。なぜなら、これが終わりだから。どんなにあがいても変えられようのないその事実だけが、白野の目の前にあったから。
「……」
なんでこうなったのだろう、とだんだんと薄れいく景色の中で白野は自問する。そしてすぐに、考えるまでもないことだった、とすべてを思い出していた。
訪れ続ける昨日。繰り返される今日。終わらない明日。ただ一つの学園の中だけで完結し続ける永遠の一日。まさに箱庭と言えるそんな虚構の日常の中で、“役割”を与えられた偽りの自分。時にはある少年の友。時には新聞部のエース。時には――そんな偽りのすべて捨てたから、こうなったのだ。
何もわからない中で、このままではいけないと思ったから。真実に目を凝らしたから。偽りではない本当を求めたから。学園の中にあった、ほんの僅かな不変の綻びに飛び込んだから、こうなったのだ。
求めたものはたった一つ。真実。賭けられたものもたった一つ。自分の命。一対一のその天秤の中で、白野はその賭けに、試練に、戦いに、負けてしまった。
まるで現実感のない迷路を抜けて訪れたこの大広間で、失敗してしまった。いや、この大広間で行われることの内容が初めから決まっていたのならば、白野には初めから成功することができないことだっただろう。
だから、この結果は必然なもので。
だから、この死も当然なもので。
「…………――」
それでもその当然を、必然を、受け入れられない自分がいることに白野は気づいた。
そして、倒れたからこそ気づけたのか。薄れいく自我をつなぎとめて周りを見渡せば、そこにあるのは死体の山。今まで白野は気付けなかったが、それらは初めからずっとそこにあった。
それらを認識すると共に、それらは自分と同じようにここで失敗した者の成れの果てだということにも白野は気づくことができた。そして同時に、自分の未来の姿であるということにも。
――ふむ。君もダメか――
誰かの声が聞こえた。だが、その声の意味を理解することなど、白野にはできなかった。いや、正確には理解するだけの余裕がなかったと言うべきか。
それほどまでに、白野には余裕がなかったのだ。
「……――」
恐い、と単純に白野は思っていた。
嫌だ、と単純に白野は感じていた。
襲い来る痛みが、訪れるであろう感覚の喪失が――そしてなにより、死ぬことが。目の前に転がる、倒れ伏した者たちと同じようになることが、白野には恐ろしかったのだ。当然だ。死を恐れるのは、生き物として当然の感覚だ。
だが、この場において白野の心を占めていたのはそれだけではなかった。ほとんどの人間ならば、目の前に訪れた死に恐怖するだけだろう。だというのに、白野はそれだけではなかったのだ。
「……!」
何も成していないのに、と。何もわからないのに、と――無意味に消えるというその事実が恐ろしい、と。そんな感情が、白野の心にあった。だからこそ、白野はここで終わりを認めることができなかったのだ。
無意味に消えることが嫌だと言う。だというのならば、することなど決まっているだろう。
死が受け入れられない。ならば、生きなければ。終わりを認められない。ならば、続けなければ。つまりは、そういうことだ。そして、だからこそ再び、白野の体に力が戻る。激痛の中でも、力を取り戻した体をもって、確かに思う。
痛い。けど、だからどうした、と。恐い。だが、それでもいい、と。それでも、考えることはやめてはならない、と。もう一度考えなければならない、と。なぜなら――。
「この手はまだ一度だって――」
――……ぁああん!――
「自分の意思で戦ったことすらないから――!」
それは白野の、心からの叫びだった。それはまさに、言葉という名の伸ばされた手だった。だが、どんなに心のこもったものであっても、この場においては何の力にもならない。悪足掻きにすらならない。
普通ならば、伸ばされた手は誰に掴まれることもなく、そのまま再び重力に引かれるだけだ。
もっとも――。
「うわぁああああああん!」
普通であれば、の話だが。
この場において、白野の伸ばされた手を掴む者は確かに存在したのだ。まあ、伸ばされた手を掴むというよりは、伸ばされた手に偶然ぶち当たってしまった、というのが正しいのだが――それはほんの余談である。
それはともかくとして、この場において少女の運と命はまだ尽きそうにないということだけが、確かなことだ。
「ぶべらっ!いてて……ここどこ~?」
現れたのは犬のような青紫色の毛を持つ獣竜だった。少女の前に現れたその謎の生き物は、辺りを見渡して、次いで襲い来る人形に仰天している。
そんな、どこか不安を思わせる光景を最後に、白野の意識は途切れるのだった。