時間が止まることなどありえない。どんな時でも時間は等しく流れていく。この状況を夢だと願った白野だが、無情にも決戦の日は来てしまった。
「岸波白野、覚悟はいいかね?ならば、前へ。椅子は一つ。生きてこの校舎に戻るのもひと組。それを求めて、この先の闘技場にて存分に殺し合うといい」
監督役NPCの指示に従って、白野は学校の一角にあるエレベーターへと乗った。このエレベーターの下り行く先が、闘技場なのだろう。あるいは、敗者にとっての死刑台なのかもしれないが。
ドルモンと共にエレベーターに乗った白野の心は静かだった。この殺し合いを許容できたわけではない。この殺し合いに向き合った訳ではない。
だが、ここで死ぬ気もない。もしかしたら、相手も自分も死なずに済む方法があるかもしれない。そんなさまざまな思いが去来する中で、白野は僅かな希望に縋り付いてここにいた。
「ふぅん?わざわざ負けに来たんだ?ああ、そういや、予選の時から君は真面目だけが取り柄だったね」
「シンジ……」
だが、そんな白野が初めて対する相手というのが、予選の時に友人だった慎二というのは、正に悪夢だった。ただでさえ、この聖杯戦争は悪夢であったというのに。相手が慎二という時点で、加速度的に悪くなっている。
例え仮でも友人だった者と殺し合う。それは、理由も目的もない状態の白野にとっては重すぎるものだった。
「そんな君に提案がある。君さ、わざと負けないか?ああ、なんなら優勝賞品を分けてもいいぜ?」
「はん!嘘が見え見えだよっ!分けられるものじゃないでしょ!」
「誰もお前なんかに聞いてないぞ!っていうか、何なんだお前は!サーヴァントなのか!?」
「くくく……あははっバレバレだなぁ!マスター!それにいいじゃないか!犬のサーヴァントでも英雄には違いないさ」
「誰が犬だっ!」
「って、ライダー!お前も僕の邪魔すんなよ!」
白野を誑かそうとする慎二に、ドルモンが待ったをかける。そんなドルモンを忌々しげに見た慎二だったが、その目論見は慎二のサーヴァントによってトドメを刺されることになった。
そんな、慎二の後ろで控えていたサーヴァント。慎二に“ライダー”と呼ばれた豪快に笑う女性だった。もちろん、女性とはいってもここにいる時点で何らかの英雄なのだ。それで判断できるまでもない。
「いやいや、八百長で勝ってもつまらないだろ?手加減とか出し惜しみとかよしとくれ。アタシゃ宵越しの弾はもたない主義さね」
「白野~。宵越しの弾って何~?」
「え?……うーん……気前がいいこと……かな?」
ドルモンに聞かれて答えた白野だったが、白野自身も自信はなかった。いや、宵越しの銭は持たないという故事の言い換えというのはわかるのだが、自信がないものはないのだ。
「というわけで、本気で来てくれよ?」
「何言ってるんだよライダー!」
「いやいや、シケタ花火なんざ誰も喜ばない。アンタも悪党なら派手にやらかしゃいいんだよ」
「誰が悪党だよ!僕をお前みたいな脳筋女なんかと一緒にするな!」
「あっはっは!いいねその醜態はなかなかだよシンジ!」
ライダーと慎二のやりとりは、まるで姉弟のソレのようで、見ていて微笑ましい。だが、だからこそ、今からこの二人と殺し合いをするという事実は、白野の心に重くのしかかる。
そして、その数分後。気分の優れない白野の前で、エレベーターの扉が開く。ついに、その時がやってきたのだ。生きて帰ることができるのは一人だけ。そのために、戦うのだ。
「白野……行くよ」
「う、うん」
慎二とライダーは先に出て行った。それに続くように、ドルモンと白野もエレベーターの扉をくぐる。
扉をくぐった白野が感じたのは、潮の香り。次いで見えた、まるで海の傍ような空間。それこそが、白野の聖杯戦争第一回戦の決戦場にして闘技場だった。
「へん。素直に騙されておけば……生き恥をかかせるのくらいは勘弁してやったのによ」
「……はっ!息恥じとか……息を吸うことくらい恥でもなんでもないよっ!」
「いや、ドル……息恥じじゃなくて生き恥だよ。どう聞き間違えたらそうなるの……」
「う、む、難しい言葉使えるからって調子に乗るなよ~!」
「……っち。調子狂うな!ライダー!」
「あいよっ!さぁ……準備はいいか!
そんな戦闘前の軽い口合戦は、どう贔屓目に見ても慎二とライダー組の勝利だった。というか、慣れないことをしようとしたせいだろう。ドルモンは明らかに失敗していた。
口合戦が終わって、いよいよ本番。ライダーが取り出したのは二丁の銃だった。どちらもかなり古いタイプだ。だが、曲がりなりにも英雄。持っている武器が古いタイプのものだからといって、それはなんの有利にもならない。
それよりも白野やドルモンが気になったのは、“ライダー”であるにも関わらず、銃をその手に持ったことだ。“ライダー”というクラスには、何かに乗って戦うことのできる英雄が選ばれる。銃のような遠距離攻撃で戦うクラスは“アーチャー”だ。
つまり、明らかに矛盾している。ライダーが銃を使っているのか、それともアーチャーであるのにライダーと偽っているのか。
疑問は尽きなかったが、そう考えてもいられなかった。もう戦いは始まっているのだ。そんなことをのんびりと考えていたら、あっという間にライダーの銃によって蜂の巣になってしまう。
「っく……っふ……!」
「避けた?っは!やるねぇ。でも、逃げているだけじゃ意味ないかもね!」
「ぬおうっ!」
戦況は素人目の白野から見ても、明らかにライダーに有利だった。
まあ、それも当然の帰結である。ドルモンとライダーでは基礎のスペックが違う。戦闘の経験が違う。確かにドルモンもさまざまな者たちと戦ってきた。だが、それこそ一生を使って己の技術を磨き上げてきたような、歴史に名だたる英雄たちには及ばない。
しかも、白野はマスターであってパートナーではない。ドルモンの相棒とも言えるパートナーは後にも先にも彼だけだ。だからこそ、この戦いの場にいるのが白野では、ドルモンも力を出し切ることができない。
ドルモンには、そんないくつもの制限がある。だからこそ、ドルモンが不利なのは当然だった。
「ならっ!これでっ」
もちろん、だからといって諦めるつもりはドルモンにはなかった。
直後、ドルモンの口から放たれたのは五の鉄球。“ダッシュメタル”と呼ばれるドルモンの技だった。威力はドルモン最大の必殺技に劣るものの、こちらの技は走りながらでも放てるという利点がある。格上のライダー相手に立ち止まって、溜を行うことなどできないからの選択だ。
だが――。
「口から鉄球とかほんとに生き物か!?」
「あっはっは!面白い生き物じゃないか!逃げてばっかりだと思ったが、これくらいの方がやりがいがあるね!」
当の攻撃されたライダーは、笑ってその全ての鉄球を撃ち落とした。
ドルモンも連続して鉄球を放ち、ライダーの撃ち出した弾全てを撃ち落としているとはいえ、やはりドルモンは必死で、余裕があるのはライダーだった。
必死に追いすがるドルモン。笑いながら追い詰めるライダー。そんな戦いを前にして白野は何も出来ていない。いや、何かするという考えがなかった。
「っく……!」
「ま、アンタには同情するよ。見たところ、そっちのお嬢さんはマスターだってのに何もできてない。アンタも別の奴がマスターだったらもう少しまともだったかもしれないのにね」
「……う」
「白野は悪くない!僕が無理矢理この場に連れてきたんだ。なら、僕が頑張るのは当然のことだよ!」
「ふぅん?そういうのは嫌いじゃないさね。けど、そういうことを言ってるんじゃない。マスター!見せてやれよ!本物のマスターの力ってやつを!」
「僕に命令するなよ!……けどま、確かにね。見せてやるよ!現実ってやつをさぁ!」
慎二が空中に投影したパソコンに何かをした直後、ドルモンの体が動かなくなった。
突然の事態に、ドルモンは戸惑うしかない。十中八九、慎二が何かをしたんだろうが、ドルモンも白野も実際に戦うのはサーヴァントだけだと思っていたのだ。だからこそ、マスターの役目など特に気にしてはなかった。
だが、よくわからないが、マスターもサーヴァントをサポートする形で戦闘に参加することができるらしい。その事実は、ドルモンの状況をさらに不利にさせた。実質、二対一になったようなものだからだ。
「……!」
「どうだ、体が痺れて動けないだろう!もっと力の差を見せてやるよ。ライダー本気でやっちまえ!」
「おや、マスター直々のご所望かい?いいね。派手に行こうか!アタシの船を見せてやるよ!」
船という言葉。そして、“ライダー”というクラス。おそらく、次がライダーの本気なのだろう。
直感的にドルモンはそれを察した――のだが、だからといってどうすることもできなかった。体は動かない。サポートも期待できない。完全に詰んだ。
思えば、ドルモンはいつだって誰かといた。誰かと戦っていた。だが、ここでは一人だ。一人きりだ。仮にドルモンに敗因があるのなら。それは、スペックよりも経験不足よりも、一人に慣れていないくせに一人で戦おうとしたことだろう。
だからこそ、この結果は当然と言えることで。
「……!ま、まだ……」
そんな当然を覆すことは、ドルモン
現れ出たのは、船。数十隻の帆船。それは空を飛びながら存在するそれは正しく、ライダーの艦隊だった。海という広大なセカイを駆けたその船は、もはやただの船で片付けられるようなものではなかった。
その艦隊の先頭の船に立つ、司令官であるライダーも然り。
ここに至って、ドルモンも白野もようやく理解していた。これが、サーヴァント。これが、英雄。歴史に名を馳せる人物の持つ、輝きなのだと。
艦隊全ての砲門が、ドルモンを狙う。そこには、圧倒的なまでの死があった。それでも、まだドルモンは諦めようとはしなかった。否、諦めることなどできようはずもない。ドルモンにとって、ここで死ぬという結末は、何にも代え難い認められない結末であるのだから。
一方で、白野はそんなドルモンを見て申し訳なく思っていた。
白野がここにいるのは、ちっぽけな生存本能とドルモンに頼まれたからという部分が大きい。結局、白野は受け止めきれてないのだ。この戦いを。
記憶がないから、願いもない。誰かの命を踏みにじってまで叶えたい願いがない。でも、負けを容認して死にたくもない。だから、決断することもできない。決断できずに、板挟みとなって、雁字搦めになって、それで悩み続けている。
それでも――。
――僕は帰りたいんだ――
それでも。戦う理由があると。勝ちたいと。願いがあると。そう言ったドルモンを白野は勝たせてあげたかった。未だ決断のできない自分が、ドルモンの足を引っ張っりたくはないと。白野は、この終焉の近い状況において、ただそう思った。
だからこそ。何かをしなければならない、と白野は必死になって頭を働かせて。
「終わりだねっ!最後にアタシの名前を覚えてきな!
「……っく!」
けれど。
「ドル!勝って!」
そう言うのが、精一杯だった。
だが、白野の言葉はドルモンにとっては驚きだったようで。目を見開いて驚くドルモンを白野は見据える。まるで、勝って欲しいと、生き残って欲しいと、そんな自分の願いをドルモンに伝えるかのように。
そして、その直後。
ライダーの艦隊の一斉砲撃が始まった。だが、それはもはや砲撃などではなかった。どちらかと言うと、絨毯爆撃というに相応しい攻撃だ。一発でも直撃すれば、ドルモンでは耐えられないだろう。いや、ドルモンでなくとも、並大抵の存在なら消し飛ぶ威力だ。
まあ、それも直撃すれば、の話だが――。
「……おやおや。無賃乗船とはよくないね。嬢ちゃん?それに……へぇ。
「ど、どうやってここまで来たんだよぉ!」
この決闘場をまるまる吹き飛ばして、尚余りある威力の砲撃は確かに凄まじい威力だった。
だが、それでも、ドルモンと白野に直撃してはいなかった。いや、直撃しなかったというと語弊があるか。確かにあの砲撃は直撃コースだった。ドルモンたちに直撃しなかったのではない。ドルモンたちが避けたのだ。
もちろん、この決闘場をまるまる吹き飛ばすような攻撃だ。躱せるはずもない。ドルモンのままだったら無理だったろう。だが、今のドルモンはドルモンではなかったのだ。
あの時。一斉砲撃が始まったその瞬間。白野の意思を受け取ったように、ドルモンの姿が一瞬にして変わった。
それこそが、“進化”。デジモンという、ドルモンの種族に許された特権。通常生物が変化するのにかかる時間を一足飛びで駆け上がって、次の段階へと進化する。
ドルモンという存在から、鋼を纏った半機半竜であるラプタードラモンという種族へと。
「そりゃ、飛んで?」
「っく。滅茶苦茶だ……!」
「うぷ……ドル……酔った」
「あははは!いいね。面白い。やっぱり戦いはこうでなくちゃね!それじゃ、続きと行こうか。お嬢ちゃんに吐かれる前に片付けるかね!」
船の上で再び銃を構えるライダー。この船こそがライダーの最大火力であることは明白なのだが、その船の上自体に敵がいる時点で使えるはずもなかった。
だからこそ、銃を構えたのだが――ライダーは、今までにないほどに自分の銃が頼りなく思えていた。敵は軍隊や艦隊というわけではない。一個の生物だ。だが、それでもライダーは本能で感じ取っていた。目の前にいる生物を侮ってはならない、と。
元々、半人前のマスターに弱いサーヴァントで、ライダー自身のやる気も半減だった。だが、ここに来て強者が自分の目の前にいる。そんな状況で、今ライダーはこの上なく燃えていた。
「出し惜しみなしでぶっ飛ばすよ!」
「勝つ!」
向かい合うライダーとラプタードラモン。
白野の位置からではラプタードラモンの後ろ姿しか見えなかったし、初めての飛行体験に乗り物酔いになった状態ではまともに動くことすらできなかった。だが、それでも良かった。ラプタードラモンは勝つと言った。なら、今の白野にできることは、信じること以外何もない。
だからこそ、自分の未来も全部任せて、白野は自分の
そして、そんな白野の目の前で、その時は来た。
「ふっ!」
「なっ速――!」
一瞬を置いて、ラプタードラモンはライダーめがけて突撃していく。ライダーは、それをカウンター攻撃で迎え撃とうとしていたのだが――もしライダーに計算外のことがあったとするのならば、それはデジモンの持つ進化という力を軽視していたことだろう。
ライダーは本能でラプタードラモンは強いと悟っていた。だが、それでも心のどこかでドルモンと比較してしまっていたのだ。だからこそ、ドルモンの時から急激に上がった運動性能についていけなかった。
ラプタードラモンの武器は、その瞬発力。一瞬で距離を詰め、敵の急所を噛み砕くこと。
反応が遅れながらも、幸運にも咄嗟の反射でライダーも反撃することができた。だが――。
「かはっ!」
「っぐ!」
喉元を引きちぎられたのと、足を僅かに撃ち抜いたのとでは、明らかな差があって。勝敗は決してしまっていて。
これを持って、ライダーの、慎二の敗北が決したのだった。
「っ!ライダーの奴負けやがった!」
「……勝った」
だが、いくら勝敗が決したといっても、プライドの高い慎二にはその結果は納得できるものではなかった。だからこそ、尚も負け惜しみを言おうとして――。
「っく!この……!調子に乗るなよ!いいか!?お前がどこの誰か調べて、絶対に――え?」
それは突然のことだった。慎二の、腕が崩れ落ちたのは。いや、腕だけではない。ボロボロと体全体が崩れて消え去っていっている。
その事態に、当の本人の慎二だけではなく、白野も目を見開いて驚いていた。
この戦争で負けたものは死ぬ。その意味をこの場の全員が目の当たりにしていた。
わかっていたつもりだった。だが、所詮はわかったつもりだっただけで。目の前で一つの命が失われようとしているのを、白野は見ていることしかできなかった。
「嘘だろ!?死ぬなんて、よくある脅し文句だろ!?なぁ?なぁ!」
「そ……死……さ……」
「ライダー!?お前もか!?」
未だ現実を認められないような慎二に向かって、倒れながらもライダーは何かを伝えようとする。だが、喉を食いちぎられている状態では、まともに発声することなどできなくて。ライダーの伝えたいことは、声になることすらなかった。
そして、そんなライダーの姿に怯える慎二の目の前で、一足先にライダーは崩れ去って消滅した。
自分もやがてああなる。それは、この聖杯戦争をゲーム気分でいた慎二にとって、何者にも代え難い恐怖となった。
そして、そんな死に恐怖する慎二を見捨てることは――いや、慎二でなくとも、死を前にした人を見捨てることは、白野にはできなかった。
だからこそ、白野はその手を慎二へと伸ばして――。
「っ!シンジ……!」
「嫌だ嫌だいやだ……死にたくないよぉおおお!ぼ、僕は……本当は八さ――」
その直後、慎二は消滅した。
これが、敗者の結末。この聖杯戦争の。
「……そんな」
それは、自分の願いを持たず、他人に流されてこの場に立っていた白野にはこの上なく辛い結末だった――。
というわけで、今作のエピローグの所にちょこっと書いてあった漫画版fate/extraとワールド・トラベラーのクロス作品でした。
いや、読み直すとアレですね。アレすぎますね。原作からいろいろとカットしているので、原作を知らない方にはワケワカメな話だったと思います。申し訳ないです。
あと、その1の前書きに書いてあった通り、第二回戦以降を書くかどうかは未定です。
書く場合はこの第一回戦を消して、いろいろとカットした部分をちゃんと書き足した上で書きますが……やっぱり未定ですね。
A&Aの方もありますし、他にも書きたいものありますし。
ちなみに、他の書きたいものは
一つがワールド・トラベラーのリメイク。
いや、これを書くにあたって読み直したら、あんまりの酷さに顔を覆ってしまったんですよね。真面目に。
もう一つがゼヴォリューションの再構成ものですね。
せっかくロイヤルナイツが全員揃ってアルファモンが正式に十三番目を名乗ることができるようになったので書きたくなったんですよね。
別名はロイヤルナイツ大戦です。
まあ、どうなるかは新学期での忙しさ次第とアイディア次第ですね。
それでは、またどこかで。
今回は読んでくれてありがとうございました。