【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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第十一話~漆黒の騎士の襲撃~

 朝食の時間となった。ウィッチモンのその手の家事スキルはかなりのものであり、全員が起きるのを見計らって朝食の準備をすることができるほどである。

 

「心配かけてすみませんでした」

 

「無事だったからいいのではないか?」

 

「ウィザーモンはそう言うけどさ。心配じゃなかったの?」

 

「まぁ、さっき旅人に言ったが、旅人のデタラメは知っている。いらぬ心配をすることはない」

 

 ウィッチモンはまだ納得してないようだったが、ドルモンやウィザーモンがあまり反応していないことから気にしない方向で決めたらしい。そのまま朝食を食べる作業に戻った。

 旅人としては薄情な二人よりも、気にしてくれたウィッチモンの優しさが嬉しいのだが。

 

「それで?これからどうする?」

 

「まさか旅人からそう言われるとはな。まぁ、看病でロクに遺跡調査の時間が取れなかったからな。しばらく遺跡調査に本腰を入れたい」

 

「ドルは?」

 

「どっちでもいいよ~」

 

 “コイツは自分の意見がないのだろうか”そう思う旅人だったが、自分の意見がなさそうなのはもう一人いる。

 

「ウィッチモンは……遺跡調査か」

 

「な、なんでよ?」

 

「違うのか?」

 

「……違わない」

 

 ウィッチモンにいたっては極論ウィザーモンと同じならいい程である。

 旅人的にはもう遺跡に見るものはないのだが、ウィザーモンたちはこの遺跡に留まる気満々だ。

 

「ウィザーモンはどれくらい遺跡調査に時間をかけたいんだ?」

 

「む?いや……旅人のおかげで推論に幅ができたからな。いくらあっても足りないくらいだよ」

 

「……んー?じゃあ、オレとドルはしばらく旅に出るかな?」

 

「なるほど。いいんじゃないか?君たちには遺跡に興味はあっても、遺跡の内容には興味がなさそうだからな」

 

 ウィザーモンがこの遺跡を調べ尽くすまで一緒にいたら暇でしょうがない。

 “ウィザーモンに許可を取れたことだし、しばらくはまた二人旅だな”と旅人は半ばぼんやりと考える。

 

「オレ的にもオッケーだけど、旅人行くあてあるの?」

 

「無い。一週間位を目処にここら辺を回ってこようかなと思っている」

 

 当然の如く言い切った旅人に全員が呆れている。が行き当たりばったりはいつものことなので、特に反対するほどのことでもない。

 もっとも行き当たりばったりは本当は余り良くないのだが。

 

「ふむ。それでは朝食後に別行動でいいか?あぁ、あと旅人には行く前に食料を置いて言って欲しいのだが」

 

「分かった」

 

「じゃあ、しばらく別行動ね。寂しくなるわね」

 

「たった一週間だけだし、すぐ会えるって!」

 

 朝食後もしばらくは談笑していたのだが、あまりのんびりしているのも悪いということで旅人とドルモンは出発の準備を進めた。

 といっても旅人しか準備していないのだが。

 

「set『転送』っとこれくらいあればいいか?」

 

「あぁ。いいぞ。あとこれをあげよう」

 

「なんだこれ?」

 

「収納袋だ」

 

 ウィザーモンが旅人に手渡したのは腰巾着だった。

 旅人が色々と見てみると、袋の中には不思議で広大な空間が広がっていた。

 “変なものだな”と首をかしげる旅人にウィッチモンが説明する。

 

「その収納袋にはかなりの質量が入るの。見た目よりずっとね。少なくとも今『転送』で出した食料は軽く入るわよ?魔術師の旅の必需品なんだから」

 

「え?そんなものもらっていいのか?」

 

「えぇ。それくらい簡単に作れるし、戦力にもなるカードをほいほい使わせる訳にもいかないしね」

 

「本当か!ありがとう!」

 

 いちいちカードの力を使わない便利な物を手に入れたことに喜ぶ旅人。

 しかし、ドルモンはここである疑問を思いつく。それは今までウィッチモン達が黙っていたことだった。

 

「簡単に作れる必需品なら、ウィッチモンたちは初めから持ってなかったの?」

 

「……さて、大事に使ってくれたまえ」

 

「……大事に使ってよね」

 

 ウィッチモンとウィザーモンの言葉が被った。

 自分たちの方が回数に不安があるカードの力より役立つ物を持っていながら荷物を旅人に任せきりだったことに対する多少の謝罪的な何かも混ぜていたらしい。

 

「……言いたいこともあるけどいいや。さて行くぞ?ドル。んじゃあ、また一週間後くらいに」

 

「多分時期は前後するだろうから、あんまり待って来なかったらオレたちのことは放っといていいから!」

 

 最後のドルモンの言葉に多少の不安は感じたが、ウィザーモンとウィッチモンは数ヶ月共にした仲間の旅立ちを見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 ウィザーモンたちと別れてから数時間。

 旅人は意外と気楽に旅が出来ていた。もっともそんな旅人の気楽さの裏には、尊い一つの命の犠牲があったのだが。

 

「なんでこうなるの?」

 

「いや、いいじゃないかこういうのも」

 

「オレだけが一方的に疲れているよね?」

 

 旅人とドルモン――今は進化して完全体のドルグレモン――は空の上である。

 事の始まりは三十分前、旅人が空の景色を見ながら行ってみたいと言い出したからである。旅人としては楽でいいがドルグレモンとしては一方的に疲れているだけである。

 

「何回か乗ったことだってあっただろ?それに人一人くらいの重さなんか平気だろ?別にいいじゃないか」

 

「いや……まぁ、そうなんだけど……」

 

 疲れなくても、平気でも。自分が苦労していて同行人が楽をしていたら気になるのが人の常である。そんなドルグレモンの心情を知らない、呑気な旅人は睡魔に襲われた。

 空は晴れ渡っており、絶好の昼寝日和である。

 

「ふぁ……ドル……オレ眠くなってきたから、あとよろしく」

 

「……」

 

 ドルグレモンの返事を待たずに眠り始めた旅人。

 ドルグレモンは自分だけ一方的に疲れている事実にかなりイラついていた。ちょっと仕返ししてやろうという悪戯心がドルグレモンの中に生まれる。

 

「おわっ!」

 

 一時間ほど飛び続けてイラつきが限界まで来たドルグレモンは反転して旅人を振り落とした。

 旅人はいきなりバンジージャンプ顔負けの自由落下を体験したのだから、肝が冷える。

 もちろん地面に落ちる前にドルグレモンが回収したが。

 

「……死ぬわ!何するんだよ!」

 

「オレにだけ疲れさせておいて何自分だけのんびり寝ているんだよ!」

 

「いいだろ!絶対に絶好の昼寝日和だって!」

 

「昼寝日よりなのは分かるよ!俺も寝させてよ!むしろ旅人がオレを背負って歩いてよ!」

 

「アホか!今のお前を背負えるわけないだろ!」

 

 始まるいつものケンカ。いつも仲裁するウィザーモンとウィッチモンは今朝方別れたばかりである。

 しかし、不意に感じた強大な気配に喧嘩を中断して話し合う。

 

「……ドル?気づいているか?」

 

「これって……どうするの?」

 

「どうするも何も、逃げれるようなら逃げる……まぁ、結界みたいなものもあるしそう簡単にはいかないかも……来たぞ!」

 

 直後、眼前にいきなり展開された魔法陣から光が放たれた。

 ドルグレモンが急旋回する。迫り来る魔法陣をギリギリで避けたドルグレモンの前にさらに現れた魔法陣。その魔法陣から十数メートルはあろうかという漆黒の騎士が現れた。

 

「……オレはアルファモン。人間よ。少し付き合ってもらおうか」

 

「……また試練とか、そんな感じの何かかよ?流行ってんのか?」

 

「ふむ。今回はそんなものではない。ただの……殺し合いだ」

 

「後ろだ!旅人!」

 

 二人が目の前の漆黒の騎士――アルファモン――に気を取られていた為に、背後から忍び寄る影に気づかなかった。黒いローブに仮面で素顔を隠した何者かが、旅人を蹴り飛ばす。

 重力に引かれて地面に落ちていく旅人を助けようとするドルグレモンを光の剣を持ったアルファモンが邪魔をする。

 

「どけっ!」

 

「どかない。どかせたければ力ずくでやることだな」

 

 そのまま光の剣で切り込むアルファモンにドルグレモンが応戦する。

 一方で地面に叩きつけられそうになった旅人はとっさに『風』のカードを使い、自身を風で浮かせることで落下を免れた――。

 ――ようとした。何故か発動できずに地面に落下したが。

 

「たくっ!なんだってんだ!」

 

「知る必要はない。現時点でこのような力しか得ていない貴様などな」

 

 黒いローブを着た仮面の何かは背丈と声から人間の男に近い存在でありそうだった。

 うまい具合に下が草だったために即死は免れたものの旅人の体のあちこちが傷だらけである。

 戦闘は極力避けたいところだ。

 

「故に排除する。貴様はもう袋の鼠だ」

 

「っは。なめるなよ?」

 

 旅人は『転送』を使ってドルグレモンの上に行き、そのままドルグレモンと共に『転移』で逃げる算段を立てていた。

 何故か黙って見ている仮面の男から目を離さず、カードを抜く。

 

「さて行くぞ?set『転送』……アレ?」

 

「……」

 

 カードは反応しなかった。それだけではなく、カードの柄も文字も、全てが白紙になっていた。

 旅人は全てのカードを取り出しては、確認して……を繰り返す。結果は言うまでもなく全てが白紙となっていたのだが。

 

「っ、これは……」

 

「つまりはそういうことだ。貴様などカードが使えなければどうということはない。この結界の中に閉じ込められた時点で貴様の負けは決まっている」

 

「……使えないの分かってて手を出さなかったのかよ?性格悪いな」

 

「ふん。貴様に最後の夢でも見させてやろうと思っただけだ。いい夢は見れたか?set『武装』」

 

 仮面の男はカードを取り出し、『武装』のカードを使って剣を召喚する。それを見て驚いたのは旅人だった。

 

「な、なんで……お前がそれを……」

 

「質問の意図が理解できないな。カードについては使えるから使える。それだけだ」

 

 しっかりと全部答えておきながら、何一つ旅人にさせない。

 襲撃者の性格の悪さが滲み出ている。これほどの準備をするのにどれほどの策略を回したのか。己の単純な行動を棚上げして旅人は唸る。

 

「っは。オレだけ使えなくさせて、自分だけ使うとか。つくづく性格悪いな」

 

「……ふん。貴様は勘違いしている」

 

「なんだと?」

 

 そう言って仮面の男が旅人に見えるように取り出したのは白紙のカード(・・・・・・)だった。

 

「白紙の意味も。使い方も。カードの存在もな。set『炎』」

 

「え?」

 

 旅人は呆然と呟いた。仮面の男が持っていたカードが白紙から『炎』へと変化し、その力を発揮したからだ。

 使い方の分からなかった白紙のカードが変化する瞬間を目撃した旅人は相手が狂言でもなんでもなく、自身よりカードについての知識があることを悟った。

 

「この結界はカードの力を抑えるものだ。だがカードの真の力を持ってすれば、このような結界の影響を受けずにカードの力を使うことができる。……貴様はカードの力に頼っているだけだ。だからそうなる」

 

「へぇ?随分と詳しいんだな。カードのことについても。オレについても」

 

「ふん。カードの真の力を引き出すことのできる者はカードを創ることができる(・・・・・・・・)。先ほどのように白紙から……力を持つカードへとな。それすらも出来ないということは、貴様はその程度ということだ。……さて、時間稼ぎに付き合ったのだ。遺言があるなら聞くが……?」

 

 これで最後だと新たにカードを取り出した仮面の男は旅人に向かい合う。

 旅人としてはドルグレモンが来るまで待っていたかったのだが、そうも言ってられない。やるしかないのだ。

 

「んなもんねぇよ!」

 

「……そうか。ならば最後に真のカードの使い方を知って死ぬことだ。Set『オメガモン』『武装進化』」

 

 仮面の男が持っていた白紙のカードが旅人の知らないカードへと変化する。一つは狼と竜の腕を持つ白銀の騎士に。もう一つは形容し難い、剣のような絵柄を持つカードへと。

 半透明に現れた白銀の騎士の幻がやがて光とともに変化して剣――オメガブレード――に変わる。

 

「これはオメガブレード。貴様相手にはもったいない程の処刑鎌だ」

 

「最後まで自身の力を見せつけるとか……本っ当に!性格悪いな!」

 

「死ぬがいい。その弱さを抱えてな」

 

 仮面の男と旅人。二人のカードを使う者による絶望的な戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 同時刻上空にてドルグレモンとアルファモンは戦っていた。

 戦況的にはアルファモンは全くの無傷であり、ドルグレモンは細かな傷を多く負っている。どちらが優勢かは一目同然である。

 

「こんなものか?」

 

「っく……まだまだぁ!」

 

 ドルグレモンは口から連続で鉄球を放ち続ける。高速で迫る何十もの鉄球をアルファモンは存在しないとばかりにその手に持つ、光の剣で切り捨てている。

 ……がアルファモンの目先には鉄球を目隠しとしてより大きな鉄球が迫っていた。

 

「『メタルメテオ』」

 

「……鉄球を目隠しにしてか。悪くはない。だが……」

 

 一閃。ドルグレモンがフルパワーで放った攻撃さえも切り捨てる。ここまでドルグレモンは一撃も与えていない。

 ドルグレモンの息がきれているのに対し、アルファモンは余裕といった体である。

 

「……一つ聞こう」

 

「……何?」

 

「何故貴様はそこまでする?貴様の力では天地がひっくり返ってもオレに勝つことはできない……力の差は理解したはずだ。己の弱さを理解したはずだ。なのに……何故まだ立ち向かう。何故戦うことを止めぬ。その意志を、思考を、全てを諦めれば楽になれるのに……何故そうも苦しんでまで……抗いようのない不条理に立ち向かう?」

 

 アルファモンは言う。お前のやっていることは無意味だと。無駄だと。何故無意味なことを繰り返すのかと。なぜ苦しんでまで諦めないのかと。

 

「さぁ……なんでだろ。いや……違う。本当は分かってる」

 

「何……?」

 

「そうだ。そうなんだ。……生きたい。オレは……生きていたいんだ。生きて……命を持って……世界を、未来を、旅したいから!だから……諦めたくは……無いんだ……」

 

 ドルグレモンは語る。ただ単純に生きたいからだと。どれだけ辛くても、苦しくても、生き続けたいと。だから……死を、終わりを、認めたくはないのだと。不意に……漆黒の騎士にはその姿が白銀の竜のように見えた。

 それも一瞬のことでアルファモンはその姿を頭から振り払う。

 

「……そうか。どうやらまだ理解していないらしい。なるほど。今初めて、アイツが貴様のことを馬鹿だと言っていた意味を理解した。ならば……思い知らせてやるまでだ。分かるまで。何度でもな」

 

「誰が馬鹿だ!絶対にオレも!旅人も!生き延びてやる!」

 

騎士が駆ける。竜が吼える。一瞬の交差の後に、竜の羽が斬り飛ばされた。

 

「っぐ。まだまだぁ!」

 

「ここまで来るとガキのワガママだな。ガキの遊びに……付き合っている暇はない!」

 

 一閃。二閃。アルファモンが剣を振るうたびに剣の軌跡の延長に風が走る。その威力たるや、風の魔術を使っていると言われた方が納得できるほどである。

 ワザとそうしているのか…はたまた偶然か、実力か。ドルグレモンは擦ることはあれ、直撃することはなかった。

 ドルグレモンは懸命に避け続けるが、遠くの山まで届き、切り裂く剣圧をいつまでも避けられるはずもない。

 尾を切られ、羽を切られ、飛ぶことすら出来なくなったドルグレモンは地面に落ちていく。

 

「ふん。何も知らぬガキが。そこで自分の無力さを知るがいい」

 

 その姿をアルファモンはずっと見続けていた。

 




はい、というわけで十一話でした。
ついでにウィザーモンとウィッチモンが一時離脱です。もちろん後で再登場しますが、結構あとです。少し別れ方が無理矢理だったかもしれませんが。

カード説明

『オメガモン』―デジモン系カードはそのデジモンを一時的に召喚するカード。ただし『投影』と同じで意思はない。ついでにこちらで指示(念じる)しないと動かない。

『武装進化』―デジモンを武器や防具へと進化させるカード。そのデジモンの存在全てが武器に集約されるため武器自身の攻撃力は桁違いになる。
簡単にRPG風に説明すると

HP 100
MP 100
攻撃 50
防御 50
速さ 50
運  25

こんな感じのデジモンに使うと

攻撃 375

こんな感じになります。ついでに言うと扱う方も相応の技量ないし力がないとうまく扱えません。
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