「set『捕縛』」
仮面の男の腕から鎖が伸びる。鎖は一瞬で旅人の足に絡まり、そのまま走っている旅人を転ばせる。
一方で旅人は迫り来る剣――オメガブレード――を感じ取って横に転がることでオメガブレードの直撃を避ける。仮面の男は避けることを想定していたのか、腕を引き、鎖で繋がれた旅人を引きずって近くの岩に叩きつけた。
「っぐ。あぁ……しつこいな!しつこい男は嫌われるぜ?」
「まだ強がりを言えるか。どこまでその余裕が持つか」
鎖から解き放たれた旅人はバックステップで距離を取る。距離を詰めて振り下ろされるオメガブレードを転び、転がって避け続ける。
その姿はいっそシュールとも言えるもので、避け続けていることが奇跡とも言えた。
仮面の男はそのまま、先程突き刺さっていた『武装』で創った剣を旅人に投擲する。頭を狙う剣を旅人は完全に避けきれずに左腕を犠牲に生き延びる。
「いい加減に諦めろ。無駄に苦しむこともあるまい。Set『加速』」
「っげ!」
『加速』の効果でスピードを上げた仮面の男は先程以上の苛烈さでオメガブレードを切り込んでくる。
旅人は先ほど仮面の男が投擲した剣を拾い、対応しようとするが嫌な予感を感じたため剣を投擲。
そのまま転がってオメガブレードを避けた。
「いい判断だ。先程の剣でオメガブレードを受けようとすれば、剣ごと叩き斬られていただろう。だが無駄な足掻きだな。いや……ここまで来るといっそのこと見事か。見苦しいが。Set『武装』」
仮面の男は白紙から変化させた『武装』を使って剣を創る。そのまま旅人に向かって剣を投擲。
旅人は腹に剣が突き刺さってそのまま吹き飛ばされて岩に縫い付けられた。
「っが!くそ……」
「終わりだな。……む?」
「……?ってドル!」
止めを刺そうとオメガブレードを振り上げた仮面の男が何かに気付いたように飛びずさる。
旅人はしばらく訳が分からないといった風であったが、やがて仮面の男と旅人の間にドルグレモンが上空から落ちてきた。
その凄惨たる状態に旅人は思わず自身の状態も忘れて声を上げる。
「……旅人?なんか腹に刺さってるんだけど!ちょ、ちょっと大丈夫?」
「大丈夫に見えたなら病院へ行け。というか、お前の方がどちらかというと重症に見えるぞ?体の体積が半分になってないか?」
「そこまで減ってないよ!」
「はぁ……別れの挨拶は済んだか?」
上空から降りてきたアルファモンと合流した仮面の男が話しかけてきた。二人ともその手の剣を構え、トドメを刺す気満々である。その二人の戦意に呼応するように二人の剣は薄く光輝いている。
「っぐ。今回は……やばいかもな……」
「……」
旅人の絶望を悟らせる言葉に、ドルグレモンは黙り込んでいた。
旅人はもう諦めかけている。この状況で諦めることはすなわち、死である。ドルグレモンにとって、それは到底認められることではない。
そんな中、ドルグレモンはいつかウィザーモンに聞いた話を思い出す。
――君はカードの力なしでも君の意思で進化できる可能性があるということだ――
「……大丈夫だよ」
「ドル?」
「……旅人。オレは……負けない。オレは……旅人の相棒だからな。だから待っててくれ。すぐに終わらせて……戻ってくるから」
「なっ、おい!待てドル!」
ドルグレモンは二人の襲撃者と向き合う。一連の会話をどこか形容し難い雰囲気を発しながら見ていた二人はそのまま剣を構える。
望むは己の最強形態。博打だが、今の絶望的な状況が続くというのなら……博打にかけるしかない。ドルグレモンは
「……貴様が相手ということでいいのだな?そこの戯けがいなければ進化もできないような者がどうするつもりだ」
「……たしかにそうだ。でも……カードを使うだけが進化の方法じゃない。……オレは、たとえ全てを捨ててでも……旅人の未来を掴み取る」
「なるほど。そういう腹積もりか。いいのか?貴様は……自分の終わりを……認めている。ということなのだぞ?」
「良いに決まってる。オレは旅人の相棒だからな!」
――それは自然の理に逆らう、君の体に負担をかける方法であり、それをした時には君の命の保証はできない。命が惜しければ絶対にしないことだ――
“ゴメン。戻ってこれそうにないかも”自分の体から力が溢れ、変わっていく感覚……それはいつも進化する時に感じる感覚。
しかし、その時だけは体が内側から朽ちていくような……そんな感覚がドルグレモンを襲っていた。
「……馬鹿が」
「ドル!」
光がドルグレモンを包み込む。
光が晴れたとき……そこにいたのは鎧のような雰囲気の白銀の竜――ドルゴラモン――だった。以前のような不安定さは無く、強大な威圧感が感じられた。
「おい!ドル!」
「旅人……待っててくれ。勝ってくる」
それだけを静かに告げると、ドルゴラモンは駆ける。仮面の男をその手に握りつぶし、アルファモンを体当たりで吹き飛ばす。そのままアルファモンを抱いて空を飛翔しアルファモンと仮面の男を旅人から引き離していった。
「……あのクソアホウルトラバカが!」
旅人は腹に刺さっていた剣を抜くとそのままドルゴラモンが消えた方向へ走って行った。
カードの力を封じる結界からも抜け、先ほどの戦いの場所から遠く離れた場所でドルゴラモンは戦っていた。
「おぉおおおおお!」
「っく。本当に初めて進化したのか?ここまでのレベルは予測してないぞ!」
ドルゴラモンがひたすらに殴る。そのスピードはアルファモンに並んですらおり、その攻撃力からアルファモンですら避けている。
「よく暴れるな!set『捕縛』『強化』」
仮面の男によって使われた『捕縛』によって、発生した鎖を『強化』でより強くする。しかし、そんな強化した鎖ですらドルゴラモンは一瞬で打ち砕いた。
「っく。馬鹿力が!世話をかけさせる!」
「まだまだ!『ドルディーン』」
「っく!set『転移』」
放射状に広がる衝撃波が全てを破壊し尽くす。圧倒的な破壊の気配を前に流石にマズイと感じたのかアルファモンと仮面の男は転移して破壊から逃れた。
破壊が済んだ後に上空より剣を振り下ろすアルファモン。しかし、それすらも読んでいたとばかりにドルゴラモンは尻尾を使い、アルファモンを吹き飛ばした。
「まさか、ここまでとはな!さすがは究極の敵といわれる種族なだけはあるな!」
「絶対に……ここで終わらせる!」
アルファモンの光の剣とドルゴラモンの拳が打ち合い続ける。
一回打ち合うたびに凄まじい衝撃が辺りを吹き飛ばしている。その在り方はまさに天災の具現である。アルファモンは埒が明かないとばかりに後ろに下がり、魔法陣を展開。そこから幾つもの光が連続して放たれた。
「そっちがその気ならこっちだって!『ブレイブメタル』」
ドルゴラモンの両手に炎が灯る。そのままドルゴラモンは光が当たるのもお構いなしに突撃する。
アルファモンはドルゴラモンの衰えぬ勢いに自身の失策を悟る。
目の前に来たドルゴラモンの拳に合わせるように防御用の魔法陣を展開。魔法陣にヒビが入ったもののそのまま勢いを利用して後ろに吹き飛ばされた。
「何?」
「これで!終わりだァ!」
距離を離して仕切り直しを考えていたアルファモンは、変わらずに目の前にいたドルゴラモンに驚く。
ドルゴラモンの全身全霊を賭けた拳を前に咄嗟に構えた剣は砕かれて、直撃。そのまま地面に叩きつけられた。
辺りの惨状は凄惨たるモノだった。特に最後の一撃の余波は凄まじく、地平の先まで地面が砕かれ、地形が変化していた。
「終わった……これで……」
「これで?なんだ?」
「え?」
ドルゴラモンは目を見開いた。全力を持って倒したと思っていた敵が傷だらけではあるが、ふらつくこともなく目の前に現れたのだ。動揺しないほうが希である。
「貴様の強さには驚いた。オレをここまで追い込む奴が今の世界に何体いることか。だが…それでもオレには…届かない。『グレイダルファー』」
アルファモンは魔法陣を展開。そこから引き抜くようにして先程ドルゴラモンが砕いた剣と同じものを取り出した。
ダメージ無視の特攻を仕掛けただけあってドルゴラモンはかなりの疲労がたまっている。状況はかなり悪い。
「まぁ……もう終わらせるがな。ふっ!」
「っく!」
アルファモンがドルゴラモンに向かって駆ける。振り上げられた光の剣――グレイダルファー――に向かってドルゴラモンも迎撃の準備をする。
“さっきまでは戦えていた。多少ダメージを受けたが、それは相手も同じ。ならばまだ勝機がある!”そうドルゴラモンは考えていた。お互いの影が交差する。振り下ろされたグレイダルファーを拳で弾こうとして……。
「『――――・――・――――』」
「な……ん……で……?」
ドルゴラモンはバラバラに断たれた自身の体を見た。何が起きたのかを理解出来なかった。
ただ、気が付いたときには腕が。足が。胴が。首が。体のあらゆるところが……切り刻まれ、離れていた。
「ふん。たかがガキ相手に本気を出す大人がいるか。誇っていい。貴様はオレに本気を出させたのだからな」
「ぁ・・・あ……あ……あぁぁ!」
「首だけになってもまだ死なぬか。いっそのこと……む?」
そこまでいってアルファモンはドルゴラモンの様子がおかしいことに気づく。
切り刻んだ体から、黒い靄のようなものが大量に出ていた。よく見ると体だけではなく、ドルゴラモンの口からも同じものが出ている。アルファモンの本能は警鐘を鳴らす。
“アレはマズイ。アレを……させてはならない”と。
「っく!一体何だ!」
アルファモンは魔法陣を展開し光を収束。その大きさは今までの比ではなく、アルファモンの本気を伺わせた。
「っふ!」
光を放つ。光の着弾と共に辺りに閃光が弾ける。
光が収まるとそこには大規模なクレーターが出来ていた。にもかかわらずドルゴラモンの死体は無傷であった。それだけではなく、だんだんと体のパーツが元の位置に戻り、元のドルゴラモンの姿に戻ろうとさえしていた。
「……これで……嘘だろ?」
「アァ!アァア!クラヤミガ……!アァアアアアアアアア!」
ドルゴラモンの死体の咆哮。ドルゴラモンが暗闇に包まれる。闇が晴れたあとそこにいたのはどこかドルゴラモンに似た……全身が拘束具で縛られたドルゴラモンだった。
「アイツは……?」
「アァアアアア!」
ドルゴラモンモドキは一瞬で距離を詰めて拳を突き出した。今までとは違い、明らかに力任せの一撃。それに対応するのはアルファモンには難しくなかった。
「ふむ?暴走か?なんにせよ。そのような一撃はこのオレには効かんぞ!」
剣でのカウンターを狙うアルファモン。
突き出された拳を剣で払って切り込む……はずだった。
剣は拳を払えずにそのまま跳ね上げられ、拳がアルファモンに直撃した。
「っぐぁ!力が上がっている……?全く。なんだか知らないが面倒だな!」
やむを得ずに本気を出すことに決めるアルファモン。
そのまま剣を構え、ドルゴラモンモドキに攻撃しようとしたところでドルゴラモンモドキの姿がブレた。
「何?一体……」
「やりすぎだ。アルファモン」
ドルゴラモンモドキの姿が薄れていく。虚空に飛ばされるように消えていく。その姿が完全に消えた時に、そこにいたのは仮面の男と一つの灰色の結晶だった。
「まさかデクスリューションさせてしまうとは……。オマエのせいで計画がパァだ」
「……そうか。アレが……デクスリューション……世界の理を崩壊させる忌むべき進化か」
「ふん。オマエのせいでわざわざアイツの力を借りる羽目になったんだ。どうしてくれる?」
「知るか。あのガキが悪い」
アルファモンと仮面の男の会話は続く。しかし、その会話を遮るようにボロボロの旅人がその場に転移してくる。
「ドル!ド……る?」
「遅かったな。愚か者。貴様の相棒ならここだ」
仮面の男は手に持った灰色の結晶を旅人に投げつける。傍から見ればただの宝石の原石となんら変わらないソレは旅人の手にすっぽりと収まった。
他人には分からないだろうが、旅人にはソレが己の相棒の姿であるとハッキリと理解できた。
「な、なんで……?だって……ドルは……勝つって……」
「ふん。分かりきったことを言う」
「何……?」
「分からないのか?だとしたら貴様はとんだ阿呆だな。……貴様の相棒がそうなったのは誰でもない……貴様が弱いせいだ。貴様の弱さがこの結末を導いたのだ」
仮面の男は旅人に冷酷に、無慈悲に告げる。反論のしようがない事実に旅人は言葉を失い、膝をつく。
「ふん。愚かさここに極まりだな。貴様を見ていると反吐が出る。Set『武装』……あの世で己の相棒に詫びるのだな」
「……」
仮面の男は『武装』を使い、剣を創る。旅人は呆然としたままそれを見上げている。その目からは“どうにでもなれ”といった諦めの意思しか宿ってなかった。
「っ!このアホが!いいだろう!殺してやる!」
剣を振り下ろす。その一撃は寸分違わずに旅人の首へ進んでいき……。
「なんだと?」
突如現れた杖によって防がれていた。杖の持ち主は旅人がトレイルモンの中で出会った人間の女の子だった。
「なぜ貴様が邪魔をする?貴様とその雑魚は関係ないだろう」
「貴方が……イレギュラー……。この人は殺らせない。今は……その時じゃない」
白く長い髪を翻し、杖を仮面の男に投擲する。仮面の男は一瞬虚を突かれるもすぐさま剣を使って杖を弾く。
その一瞬を使って人間の女の子は旅人を抱えて跳ぶ。成人平均体重と同じくらいの重さである旅人を抱えて数メートルをジャンプする。その細い体に有り得ないほどの力だった。
「アルファモン!」
「やれやれ。お前は感じなところでいつも抜けている」
アルファモンが駆ける。グレイダルファーで逃亡しようとする女の子を攻撃しようとして、上空から舞い降りた兜をかぶった黄金の龍が持つ刀によってその攻撃を弾かれた。
「貴様は!」
「すまぬが、あの痴れ者を助けるのが姫のご意思なのでな。やらせはせぬよ」
「ふん。だったら貴様を先に殺ればいいだけの話だ」
「ふっ。そのような時間があるかな?」
黄金の龍が向けた視線の先には光とともに消えようとしている女の子と旅人の姿であった。
「……アレは転移か。なるほど。たしかにオレたちの負けのようだ」
「もういいのか?」
「ふん。無駄な争いはしない」
「なるほど」
アルファモンに戦う意思が無いことを悟ると黄金の龍は空へ飛び立っていった。黄金の龍の姿が見えなくなってしばらくして仮面の男がアルファモンの元へとやって来た。
「結局……失敗したな。いや……お前にとっては良かったのか?」
「……」
仮面の男は答えない。ただその雰囲気は怒っているような、悲しんでいるような形容し難いものであった。
「……まあいいか。では……む?」
風が吹いた。とても強い。英雄の風が。
「貴様らがイレギュラーか」
風が吹き続ける中、その場に現れたのはメディーバルデュークモンだった。その手には黄金の槍を持っていて、既に戦闘態勢に入ってた。
「……英雄か」
「然り。貴様らは何者だ?何故カードを持っている?」
「ふん。カードくらい誰でも……」
「ふざけるな。そのカードは我が主が作った物。この世に一組しかない。もう一度問う。何故貴様らが存在しない二組目のカードを持っている?」
「教える義理はない」
仮面の下では明らかに薄ら笑いをしているかのような雰囲気を醸し出している。明らかにメディーバルデュークモンを馬鹿にしている。
「そうか……。ならば……」
「力ずく……か?」
その横ではアルファモンが剣を構え、同時にメディーバルデュークモンも黄金の槍を構える。その場の雰囲気が高まり、いざ戦いが始まろうとしたところで……。
「何をやっているのですか?」
声が聞こえた。重く響く……まるで地の底から響くような声が。声の主の姿は見えない。しかし、確かに声は聞こえてくる。
「何?」
「はぁ。無意味なことはするものではないものですよ」
「分かってる。もう帰る。英雄を相手にするのは面倒だしな。Set『転移』」
「む?待て!」
メディーバルデュークモンは『転移』に干渉して妨害をはかる。しかし、その干渉もどこからか行われた謎の干渉によって無効化された。
仮面の男とアルファモンの姿が消える。後に残ったのはメディーバルデュークモンのみだった。
「……逃がしたか。あの声は……?」
「英雄よ。今はまだその時ではない。しかし……いずれ分かります。貴方も……彼も……あの青年も……。いつかに来たる約束の時に……全てが決まります。この世界の……未来が。この世界の……意味が」
「なんだと?」
それきり謎の声は聞こえなくなった。やがて英雄は埒が明かないと感じたのか、風と共に去った。時が流れる。風が吹く。約束の時が……やがて来る。
ウィッチモン&ウィザーモンに引き続きドルモンも退場です。
ドルモンもちゃんと復活予定なので安心してください。
これで大体一章は終わりです。あと一話エピローグ的な話をはさんで第二章になります。