さて初めの世界はどこでしょうね?まぁ、すぐに分かるんですけど。
ではどうぞ。
第十四話~汚染された世界~
雨が降り注ぎ、風が吹き荒れ、雷が鳴り響く。
森の中を一匹の頭に赤い石を持つ紫灰色の獣が逃げる。その表情は鬼気迫るものであり、生命の危機を感じさせるものだった。
その獣を追う、一つの影。その影は殺気立っており、今にも逃げる獣を殺そうとしていることが伺えた。
「はっ!」
そんな命を賭けた鬼ごっこも終わりの時を迎えた。獣が逃げた先にあったのは巨大な崖であり行き止まりだということを示していた。後方で木が切り倒される。思わず振り返ったその先には今まで自分を追ってきた襲撃者の影。
鬼ごっこは終わりだと言わんばかりに一歩ずつ歩いてくる。その姿はまるで堂々とした戦士のようでもあった。
しかし、獅子の顔を持つ獣人――レオモン――は獣を追い詰めているはずなのにその顔にはどこか鬼気迫るような焦りが浮かんでいる。
獣は崖沿いに逃げようとするが、一瞬で移動したレオモンに先回りをされる。
「う…『メタルキャノン』!」
逃げ道を塞がれても、なお諦めることのできない獣は、己の必殺技を敵に向かって放つ。放たれた鉄球はまっすぐにレオモンへと向かう。だが、一瞬にしてレオモンの持つ剣で両断された。
獣はその光景を見てもなお止まらずに数十の鉄球を放ち続ける。数十の鉄球を前にしてもレオモンは動じず、不意にレオモンの右腕が霞んだ。
「『百獣拳』」
レオモンの右腕から放たれた獅子の形をした数十の拳圧が鉄球を迎え撃つ。鉄球は拳圧に全て破壊され、その衝撃で獣は吹き飛ばされた。
すぐさま獣は立ち上がる。しかし立ち上がった先にはレオモンが剣を構えて近づいてきていた。レオモンが一歩近づくごとに獣は一歩後ずさる。
“もうどうすることもできない”その事実を前に獣は目を閉じその時を待つ。
レオモンの瞳には逡巡するような気配があるのだが、獣は目を閉じていて気がつかなかった。
やがて振り下ろされる剣の音。
いつまでたってもやってこない衝撃に獣は顔を上げて目を見開く。そこには膝をついたレオモンがいた。
「……え?」
「……生きたいか?」
目を見開き、驚く獣に構わずにレオモンは苦しそうに言葉を紡ぐ。
「オレが……お前のX抗体を手に入れてもそう長くは生きられない。お前は……いい眼だな……お前はオレの分まで、この新世界で生きろ。種の……デジモンの未来のために……」
もたれかかるようにしていた剣から手が離れ、レオモンは倒れ込む。獣が思わず駆け寄るが、できることなど何もなかった。
「追い掛け回して……悪か……った……」
レオモンの瞼が閉じる。命が尽きる。命の終わり、
「わぁあああああああ!」
獣――ドルモン――は慟哭する。何に対しての慟哭なのか……ドルモン自身も理解していなかった。
「ふんぬぬぬ……ふんがァああ!」
「……ついに頭がおかしくなったか。最近の若者とはいえああいう姿を見ると……哀れだな」
「旅人。楽しい?」
「お前ら好き勝手言うな!」
とある草原で一夜を過ごした旅人たちは朝の朝食後の団欒を過ごしていた。
その時に何かを考え込んでいた旅人が白紙のカードを取り出して奇妙な掛け声やポーズを取り出したのが事の顛末である。
旅人としては仮面の男がやった、白紙からの変化を実験していたつもりだったのだが、傍から見ると変人にしか見えない。リュウダモンからは生暖かい目を向けられていた。
ちなみにナムは普段と変わりがない。
「……全然できん。一体アイツはどうやってやってたんだよ。」
「カードの原理には古代種のオーバーライトの原理も使われている。使うためには強い想いの力がいる」
「……なんで知っているんだよ。というかナムって時々饒舌になるよな。結構強く想い浮かべているんだけど?」
「まだまだ。もしくは貴方のイメージが貧困」
「……今馬鹿にされた?今さらっとオレのことバカにしなかったか?」
「貴様ァ!姫様からの罵倒など滅多にないぞ!喜んで受けるのが筋であろうに!」
「……コイツはコイツでナムの言うことなら全肯定かよ」
“無駄に疲れた”と旅人は白紙のカードを眺める。
白紙のカードの数を数えたことがなかった旅人であったが、十枚ちょうどあることが確認できた。まぁ数があるからといってカードのシステム上無駄遣いはできないのだが。
「……はぁ。とりあえず『炎』とか元々あるヤツならできたんだけどな。まぁ元々あるカードが増えたってなんか得感出ないよな。アイツが使ってた『武装進化』とか結構使えそうで良かったんだけどな」
「やれやれ。そんな調子では何年かかっても出来んぞ」
「……なんかムカつくぞ」
そんな旅人を放っておいてナムは立ち上がり、リュウダモンを呼ぶ。
「リュウダモン」
「はっ。行きましょう」
ナムのいきなりの行為を察していたとばかりにリュウダモンも立ち上がってナムの後に追従する。
あらかじめ聞いていたのか、それともアイコンタクトか何かで分かったのか。どちらにせよリュウダモンのその姿は従者の鏡とも言える姿だった。
「おい!どこに行くんだ?」
「私たちには確かめる事がある。また後で。リュウダモン」
「はっ。リュウダモン!進化――ギンリュウモン!」
「後っていつ……そういやここどこだよ。」
ものすごい勢いで遠ざかっていく二人を眺める旅人。だが、そのままでは埒が明かないとばかりに立ち上がって歩き始める。
ここには目的を持ってきたのだ。いつまでもボーっとしているわけにもいかないだろう。
「どうするかねぇ……とりあえず向こうに行くかな?」
河の傍で水を飲んでいる獣――ドルモン――の元へ三体の紫色のキノコ――マッシュモン――が近づいて来ていた。
ドルモンもそのことに気づくが、“もしかしたら”という一抹の希望と“逃げてもどうしようもない”という絶望でその場を離れることができなかった。
「出て行けよ!」
「お前は選ばれていないんだろ?」
「お前らみたいに額に変な石を持つデジモンがこの世界に逃げ込んできたせいでこの世界がおかしくなったってアンドロモンが言っていたぞ!」
「この世界から出て行け!」
マッシュモンたちが次々と投げる石にドルモンは辛そうな表情を見せる。
“やっぱり……”自分の希望は希望に過ぎなかったことを確認したドルモンはそのまま川に飛び込み、溺れそうになりながらも下流へと流されていった。
「あっ!待てよ!」
「もういい!逃げられた」
川に溺れ、薄れいく意識の中でドルモンは思う。
“どうしてオレはここにいるんだろう?この誰も受け入れてくれない……誰も必要とされない世界で……どうして……”
いつもの問い。いくら考えても答えなど出ない問いが頭に浮かんでは消えて行く。
「ん?ドル?……なわけないか。っていうかマズイな。幻覚まで見えるなんて……」
「ガバゴボッガバババ……」
「しっかしやけにリアルな幻覚……」
近くで魚釣りしていた旅人が川上から流れてきたドルモンを発見した。だが、目の前のあり得なさそうで有り得た現実に幻覚だと思い込んでいる。
「ガバガバ……。……」
「……リアルだよ!っていうか溺れてる!?」
現実だと認識するが否や急いで川に入ってドルモンを川からすくい上げる。
川から上がって見ると旅人のドルモンよりも溺れていたドルモンの方が一回り小さかった。
「やっぱりドルじゃないよな。別人……別デジ……いや別ドルか。さてどうするか」
『炎』を使って火を起こして収納袋から取り出したデジキノコと川でとったデジサケを焼くことで今晩の夕食を準備する。
ついでに助けたドルモンの分も作る。
その後、ドルモンが起きるまでの間、旅人はドルモンのニックネームを考えようと奮闘していた。
「ドルじゃかぶるからな。モン……ドルモ……普通にドルモンでいいか。オレってネーミングセンス無いなぁ……。そうだよなぁ、ドルだってドルモンから取っただけだしなぁ……」
自身のネーミングセンスの無さに軽く絶望しながらも、ドルモンが起きるのをしっかりと待つ。他にすることを軽く忘れていたとも言うが。
「う……ん……あれ?ここは……?」
「よぉ!起きたか?」
「君は……?」
しばらくしてドルモンは気が付いた。ドルモンは自分を助けたと思われる旅人を、少し驚きを宿した目で見ている。
「オレか?オレは旅人。まあ……旅人だよ。よろしくな。ドルモン」
「たびびと?いや、それよりもオレのことを知っているの?」
「ん?あぁ、お前……じゃなくて別のドルモンをな」
旅人としては普通に言っただけの言葉だったが、思いのほかドルモンはショックを受けたようだった。
何故ショックを受けたのかを旅人は理解できていなかったが。
「そうなんだ。……オレのことを知っているわけじゃないんだ」
「……まぁ、これからよろしくな」
普通に会話していただけなのに落ち込んだドルモンを前に、旅人は何と言っていいかわからなかった。
だが、旅人が“この空気を払拭させるためにも、とりあえず挨拶だけはしておこう”と言った言葉が、思いのほかドルモンを立ち直らせたのだった。
「え?これから?」
「ん?迷惑だったか?」
「え?いやいや!全然!ありがとう!」
「……何が?」
いきなり元気になったドルモンに首を傾げる旅人。
旅人当人としては“ドルモンは結構情緒不安定な奴が多いのかなぁ”と割と失礼なことを考えていたりする。
その後、夕食を食って寝る準備をしているとドルモンは随分ご機嫌な様子で尻尾を振っていた。
傍から見るとまんま犬である。
「旅人はこれからどうするんだ?」
「んーしばらくは何すればいいか分からないからな。とりあえず其処ら辺をブラブラするつもりだな」
“この世界に方法がある”とは言われたが、具体的に何をすればいいのか旅人は知らない。取っかかりとなるヒントを得るためにも、とりあえずは浅く広くの行動をとることにしている。
「そうなんだ」
「しばらくの間だろうけど一緒に行くか?」
「うん!」
旅人は勢いよく返事をしたのを見て眠りにつく。
ドルモンは今までで一番明日が楽しみになっていた夜だった。
「ところで旅人ってデジモン……じゃないよね?」
翌朝の行動はドルモンの何気ない一言から始まった。
“今まで何だと思われていたんだろうか”と思いながらも、旅人は自分はデジモンではなく、人間だということを話した。
「人間?ってあの?」
「どの人間か知らないけど、人間だよ。別の世界のという注釈がつくがな」
「別の世界?」
「まぁ、そこら辺は説明するとめんどいからパスで」
めんどくさいという理由で説明を切った旅人はドルモンと共に草原を歩く。
ちなみに朝ごはんはキノコづくしであったのだが、ドルモンが普通にキノコを食べているところを見た旅人は微妙な表情になっていた。
「そういえば旅人ってどうして旅をしているの?」
「……」
「あっ!えっと……」
「いや、いいよ」
ドルモンとしては久しぶりの何気ない会話だったのだが、いかせん今の旅人にとっては地雷である。
ドルモンは旅人の地雷を踏んだことを悟って前言撤回しようとするが旅人が口を開く方が早かった。
「オレは相棒を助けに来たんだ。オレがヘマやらかしたせいでこうなっちまった相棒をな」
「……そうなんだ」
そう言って旅人は結晶を取り出す。結晶を見る旅人の表情は複雑なものであり、居た堪れなくなったドルモンは苦し紛れに結晶に触れた。
「え?」
「これって!?」
閃光。ドルモンが触れた結晶が光った。だがそれも一瞬のことですぐに消え去ったが。
唐突な出来事に驚いた二人。旅人は“もしかしたら”という希望ができたのだが、一方でドルモンは“何かやらかしてしまったんだろうか”とドキドキしていた。
「今のって……?」
「……」
結局その後は何回やっても変化なしだったので、二人――というか主に旅人――は諦めて進むことにした。
「さっきのが……」
「そう。オレの相棒の成れの果てらしい」
「らしいって?」
“らしい”という随分と曖昧な表現を使った旅人にドルモンは思わず聞き返した。
聞き返された旅人も、少し複雑な表情をするだけで確証はないことを告げる。
「人に聞いた話だからな。証拠はない。でも……今はこれしかないんだよ」
「そっか。助けられるといいね」
「あぁ」
それきり会話が途切れる。
休憩に入ったところで旅人は“そこら辺でトイレをしてくる”と言って離れた。 その間ドルモンは休むつもりで腰掛けていた。
だが、ドルモンにとっては誰かとの関わり合いは久しぶりだ。そんな中でドルモンは気持ちが高まって休むどころではなかった。
ゆっくりと近づいてくる気配。それをドルモンは旅人が戻って来たと思い、振り返った。
「旅人?早かっ……君は?」
「この世界から出て行ってよ!貴方たちのせいで……ッ!貴方たちだってほんとは分かってるんでしょ!」
そこにいたのは旅人ではなかった。何本も触手を持つ巨大な花――ブロッサモン――だ。いきなり物騒なことを言われたドルモンは困惑する。
いや、ブロッサモンの言いたいことはドルモンもわかる。だが、だからといって“はい、わかりました”と言える内容ではないのだ。
「え?そんなこと言われたって……」
「出て行かないなら……この世界から消えてよ!」
煮え切らないドルモンの返答に業を煮やしたのか、ブロッサモンが触手を使い攻撃する。ドルモンも隙を見て攻撃しているが全く効いていない。
ブロッサモンは完全体。対してドルモンは成長期。成長段階が二つも違う上に卓越した技術も、特殊な能力もないドルモンにとっては勝ち目など無きに等しい。
「どうして……?」
「どうして?貴方たちがそれを言う?貴方たちのせいでこの世界がおかしくなっちゃったのに!」
「う……でも……」
「でも何?自分さえ良ければ他はどうなったっていいって言うの!?」
鋭く言うブロッサモンに押されてドルモンの動きが止まる。その隙に更に果敢に責め立てるブロッサモン。
その触手がドルモンに当たりそうになった時にドルモンの体が消えた。目標を見失ったブロッサモンは彼方此方を見渡す。
やがてブロッサモンはドルモンと共にいる旅人を発見したのだった。
「……少しトイレに行っていた間に何があったんだ?」
一方で『転送』を使ってドルモンを自分のところに呼んだ旅人は、数分の間に変化している状況についていけなくなっていた。
「旅人!えぇと……」
「何貴方……見かけないデジモンね?なんでこんなとこにいるの?いえ、それよりもそいつがどんな奴か知っているの?」
「……」
旅人の登場に驚いたブロッサモンだったが、すぐさまドルモンを責め始める。
ドルモンは目をつぶって悲痛な面持ちでブロッサモンの言葉に耐えている。
「そいつらはね。この世界を汚染してくれたデジモンたちなのよ!」
「汚染?そんな証拠はあるのかよ」
「証拠?そんなもの決まっているじゃない。その額にある石。それこそがX抗体デジモンの証明なんだから!」
ブロッサモンの言葉が事実なのかドルモンの元気がない。
どちらにせよ、よそ者の旅人としては関係ない事ではあったが。
「それで?」
「それでって……話を聞いてなかったの?」
「聞いてたよ。でも汚染されたなら仕方ないだろ。問題なのは汚染されたからどうするかだろ?」
一応“らしい”ことを言う旅人だが、そんな言葉は当人たちには関係がない。
そんな旅人の態度にブロッサモンは、さらにイラついた様子を見せる。
「だから追い出すんじゃない!大体貴方は他人事だからそんなに呑気でいられるのよ!」
「……まぁ他人事だし?っていうかまだよく状況がつかめん。まぁ、話は聞いておくよ。Set『転移』」
「え?待ちなさい!」
『転移』を使ってドルモンごとランダムに転移をする。
当然ながら行き着いた先にはブロッサモンの姿はなく、崖に作られた遺跡のような場所に転移した。
「今日はここで休むか。なぁドルモン」
「……いいの?」
「何が?」
「だってオレは……」
その先、ドルモンが何を言おうとしたのかを旅人は分からなかった。
しかしその雰囲気は旅人のドルモンが落ち込んでいた時に似ていたのだ。だからだろうか、旅人は己が相棒とドルモンの姿を重ねて見ていたのは。
「なんか似てるんだよなぁ。まぁ、なんにせよ。ドルモンはドルモンだ。他の誰がどう思おうと、何を言おうともな。だから……えぇと……まぁそのなんだ。ここにいてもいいんだよ」
「……」
「今度はどうした?」
目を見開いて固まるドルモンに“忙しいやつだな”と旅人は思う。
今まで誰からも必要とされず、さらに自分に自信を持てなかったドルモンは、“自分は自分だ”と――“ここにいてもいい”とはっきりと言ってもらえたのが嬉しかったのだ。
「おーい!もう寝るぞ。」
「……うん!」
遺跡の中で眠りにつく旅人とドルモン。その時、収納袋の中の結晶が鈍く光っていた。
とある場所で赤いマントを纏った騎士――デュークモン――と竜と狼の籠手を持つ騎士――オメガモン――が対峙する。
「プロジェクト・アーク……我々ロイヤルナイツのみの手で実行することが可能だと思うか?」
「可能かどうかの問題ではない。それがイグドラシルの決定事項だ。我々は確実に使命を遂行するまで」
プロジェクト・アークとやらに疑問を持つデュークモンと実際がどうあれ実行すると言うオメガモン。二人の間には緊張した雰囲気が漂っている。
「それでいいのか?」
「何が言いたい?」
「我々は二重に過ちを犯そうとしているのではないか?」
ただ疑問を投げかけるデュークモンにオメガモンは少し不機嫌になりながらも答える。
「イグドラシルが間違っているとでも?」
「デジタルハザードを介しても我が君イグドラシルが実行したXプログラム……このデュークモンにはそれが……」
「X抗体を持つデジモンなど所詮は異分子に過ぎない!異分子は速やかに排除するまでだ」
“これ以上話すことはない”とオメガモンはデュークモンの言葉を遮って言葉を発しそのまま去っていく。
オメガモンが去ったあとデュークモンは一人呟く。
「彼らと我ら同じデジモンとして何が違うのか……?」
というわけで第二章はゼヴォリューション編です。
基本原作沿い、所々オリジナルです。
書いていてデクス~をよくデスク~と打ち間違えてしまう自分です。
それにしても結構メンバーが入れ替わっているのによく見るとあまり変わっていない不思議。