荒野の崖下に複数の影が東西に分かれて対峙していた。
両陣営には緊迫した雰囲気が漂っており、西側にはインディアン風の鳥人――ガルダモンX――とコンセントのような機械の虫――コクワモンX――。
東には黄色い猿人――ハヌモン――と触手を持つ巨大な花――ブロッサモン――所々生身のような部分があるロボット――アンドロモン――そしてこの緊迫した雰囲気にそぐわない白い物体――トコモン――。
最後に両陣営に挟まれるような形で仲介人のような雰囲気を見せる機械風の竜戦士――ウォーグレイモンX――が集まっていた。
「頼む、聞いてくれ。もう争っている場合じゃないんだ。このままではオレ達デジモンは全滅してしまう」
「今更勝手なこと言わないでよ!この危機を招いたのは貴方たちじゃないの!」
ウォーグレイモンXの必死な呼びかけをブロッサモンが叫び答える。
その表情は理解できないと言った風であり、何を言われても納得しないと言う意思が見て取れた。
「ソレチガウ!Xプログラム二カンセンシタオオクノナカマシンダ。ゼンデジモンノ九十八パーセントシンダ!オレタチ……イキルタメニ、コノシンセカイ二ニゲテクルシカナカッタ」
「そしてこの世界も汚染してくれたわけだ」
ブロッサモンの返答にガルダモンXが必死に弁明する。
アンドロモンは言外に“お前たちさえ来なければ”と言う。
その態度にコクワモンXが思わず声を上げた。
「自分達さえ良ければそれでいいって言うのかい?他のデジモンは……どうなろうが知ったことじゃないって?」
「じゃあ貴方たちはどうなのよ!貴方たちだって昨日のやつらみたいにどうせ他人事だって言うんでしょ?貴方たちがここに来たせいでこの子だって危険に晒されているのよ?」
「ソレハ……」
ブロッサモンが指摘した純然たる事実にガルダモンXは言う言葉を失う。
その場の雰囲気などお構いなしに無邪気に遊ぶトコモンを見て、ガルダモンXも反論できなかったのだ。
その時突然、ウォーグレイモンXが手についている籠手――ドラモンキラー――を地面に打ち込んだ。その力で両陣営を区切るように地面が裂け、数十メートルに渡って地割れが発生する。
突然の事態にその場にいた全員が言葉を無くすしかない。
「……!」
「すまない。本当に争っている場合じゃないんだ。君たちだってそれが分かっているからここに来てくれたんじゃないのか?」
全員が静かになったのを見計らってウォーグレイモンXは話を続ける。今日、この集まりの本来の目的を果たすために。
「事の始まりはイグドラシルがXプログラムを発動したことにある。ついでに言えばこの世界が汚染されたのも、イグドラシルがX抗体を持つデジモンを狩り始めたからだ」
「嘘だ!」
それまで黙っていたハヌモンが“この世界の神に等しい存在がそんなことをしている”と言われて堪らず声を上げた。
その抗議の声も黙殺してウォーグレイモンXは話を続ける。
「連中はX抗体デジモンを駆逐する際、その内部にあったXプログラムをこの世界に解き放ってしまった。であれば、イグドラシルこそが我々の共通の敵ということじゃないのか?」
「ふっハッハッハ!」
ウォーグレイモンXの言葉を聞いてアンドロモンがおかしいとばかりに笑い出す。
“何故そんなに笑うのか”ウォーグレイモンXを含めたX抗体組のデジモンは理解できなかった。
「面白い話だがこれまでだ。ここに来る前にイグドラシルに通報しておいたのでな。お前らは……ここで終わりだ」
「なんてことを……集まりは解散だ!皆すぐにここを離れろ!」
「……っは!」
アンドロモンのもたらした事実にウォーグレイモンXは焦り、解散の指示を飛ばす。その時、その場にいた全員が気配を感じ、上を見上げた。
そこにいたのは左に竜の籠手、右に狼の籠手がある白銀の騎士。ロイヤルナイツオメガモンだった。
オメガモンが緩やかに右手を持ち上げる。
「逃げろ!」
それを見たウォーグレイモンXの叫びにガルダモンXとコクワモンは空を飛んで逃げ出した。
それとほぼ同時にオメガモンの右手の狼の籠手の口から巨大な砲――ガルルキャノン――が飛び出した。
オメガモンが砲を構え、ゆっくりとエネルギーをチャージする。ウォーグレイモンXは撃たせまいとオメガモンに突撃するが、ガルルキャノンのチャージの方が早かった。
一瞬にして水色の閃光が世界に走る。
「ぐあっ!」
「ック。セメテイッシムクイル!『グレートスピリット』」
ウォーグレイモンXはその一撃で吹き飛ばされ、一瞬で遠くまで届くその閃光は地面を抉りながらコクワモンXとガルダモンXを呑み込んだ。
唯一ガルダモンXが呑み込まれる前に出した技もオメガモンは左手で弾き、その意味をなすことが出来なかった。
「馬鹿め!この場にさえ来なければ死なずに済んだものを!」
Xデジモン達の呆気ない死に嘲笑するブロッサモン。
その場に残ったデジモンたちの前にオメガモンが降り立った。ムシケラを見るような目でゆっくりと近づいてくるオメガモン。その雰囲気にブロッサモン達は不吉な予感を感じた。
「まさか……我々まで……?」
「ひぃ!?」
アンドロモンの言葉が正しいとばかりにオメガモンの左側の竜の籠手の口から両刃の剣――グレイソード――が飛び出した。
ゆっくりと剣を振り上げるオメガモンにその場の全員が急いで逃げ出す。空を飛べるものが居なかったのが不幸だったのだろう。全員が崖沿いに逃げ出した。
「あぁあ……」
「っひ!に、逃げろ!」
「はっはっはッアゥ!」
そんな中で、トコモンも子供なりに一生懸命逃げていたのだろうが、前にいたブロッサモンの触手に足を取られ転んでしまった。
そんなトコモンのことなどお構いなしに振り上げられたグレイソード。だが、その剣にドラモンキラーが――正確には爪の部分が引っかかったのだが――刺さった。戻ってきたウォーグレイモンXが少しでもオメガモンの攻撃を遅らせようとドラモンキラーの爪の部分を射出したのだ。
ウォーグレイモンXが地面に辿り着きトコモンを抱えるのとオメガモンがグレイソードを横薙ぎに一閃するのはほぼ同時だった。
「うわぁ!」
「はぁあ!」
あまり威力は無かったのか、ウォーグレイモンXもウォーグレイモンXが庇ったトコモンも命だけは助かった。だが、それ以外のデジモンは全滅だ。
ほかのデジモンと違い、アンドロモンは一瞬で消滅せずしばらく生きていたのは幸か不幸か。アンドロモンはやがて自嘲気味な笑みを浮かべて消滅した。
「……!」
そんな中、なんとか顔を上げたウォーグレイモンXが見たのはガルルキャノンでこちらを撃とうとしているオメガモンの姿だった。
再びの閃光。水色の閃光はウォーグレイモンXたちを崖ごと貫いて遥か先の地まで駆けていった。
その頃、遺跡の中で朝食後の談笑に興じる旅人とドルモン。そこで旅人はドルモンにこの世界について気になったことを聞いた。
「ところでドルモン。この世界ってなんかあるのか?昨日ブロッサモンも汚染がうんたらって言ってたけど」
「オレもよく知らない。オレだって自分の事はよくは分からないんだ」
「記憶喪失ってやつか?」
何気なく聞いた話で結構深刻そうな地雷を踏んだことに旅人は“やってしまった”と感じるが、今更あとには引けない。このまま突っ走るしかないのだ。
「キオクソウシツ?要するに自分のことがわからないってこと?」
「ちょっと違う気もするけど……まあ、そう」
「じゃあ、そうだと思う」
ドルモンは記憶喪失らしい。
暗い雰囲気で自信なさげに答えるドルモンに旅人はその場の雰囲気も相まって自身が悪者に感じてしまう。
「そ、そうか。悪い。言いづらいならここでやめるか?」
「……いや、いいよ。話を戻すとオレはあんまり知らない。それでもいい?」
「いや、オレはなんにも知らないし、全然構わないよ」
それでもしっかりと話してくれるドルモンに感謝しながら、旅人はドルモンの話に聞き入った。
「分かった。えーっとそれじゃあね、この世界にはX抗体デジモンと普通のデジモンの二種類がいるんだ」
「X抗体デジモン?」
「そう。X抗体を持つデジモン。オレみたいに額に石があるデジモンが多いみたい」
「X抗体?」
いきなりの専門用語――というほどでもないが――に旅人はげんなりとする。そんな旅人を見てドルモンもしっかりと補足説明を入れた。
「Xプログラムって言うデジモンを削除するプログラムに対する抗体を手に入れたデジモン。X抗体を得たデジモンは力が限界まで引き出されるから普通のデジモンに比べて強いみたい。」
「へぇ?強くなるなんてX抗体って便利なんだな。ドルは持ってたのかな?」
X抗体がもたらすデジモンの変化に旅人は思わず声を出す。
“自分の相棒も持っていたのだろうか”と考え、そこで汚染云々が関係ないことに気がつく。
「アレ?だったら何が問題なんだ?」
「問題大アリだよ。X抗体を得るってことは自分の中にXプログラムを入れるってことなんだ。だから定期的に他のデジモンからX抗体を取らなきゃ内部のXプログラムに侵されて死んでしまう」
「他のデジモンから?それって……」
他者から奪い取る。その事実を前にもっとも単純な方法を旅人は思い浮かべた。
ドルモンもそれが正解とばかりに頷く。
「そう。デジモンを殺して奪い取るんだ。」
まさに弱肉強食を体現するかのような世界。元のデジタルワールドとは比べることのできないほどの凄惨さに旅人は思わず驚いてしまう。
「それでその殺し合いでXデジモンの中にあるXプログラムが元々Xプログラムの無かったこの世界に解き放たれちゃったんだ」
「元々この世界にXプログラムが無かった?X抗体デジモンも別の世界から来たっていうのか?」
「多分そうだと思う。オレは気がついたら此処に居たからよく知らないけど。でもこの世界がXプログラムに汚染されたのは間違いなくオレたちがこの世界に来たからなんだ」
再び落ち込み始めたドルモンに駆ける言葉が見つからない旅人。
個人的には“お前は悪くない”と言いたいのだが、それを言ったところでどうにもならないだろうということを察し言うべき言葉を探す。
「本当になんでオレは此処にいるんだろう。この誰にも必要とされていない世界で……オレのいる意味なんて……あるのかな?」
「えーっとまぁ、うん。分からないなら分からないなりに知っていけばいいんじゃないかなぁ?どう?」
「……知っていく?」
旅人自身が思ったことを言っているだけで、客観的に見れば問題の先送りにしかなっていない言葉だった。
だが、ドルモンにとっては何か触れるものがあったらしい。少し顔を上げて旅人の方を見ている。
「そ、そう!誰だって知らないことは知りたくなるだろ?ドルモンが自分の存在する意味が分からないって言うなら、これから自分で探して、自分で決めて行けばいいんじゃないか?って話……なんだけど」
「自分で探して、自分で決めるか……うん。そうかもしれない。ありがとう、旅人。オレ頑張ってみるよ!」
嫌な雰囲気が若干払拭されたことに旅人が安堵している。
だが、突然遺跡の外に何かぶつかったのか遺跡全体が揺れた。それに気を取られて会話が打ち切られる。内心で“助かった”と思いながら旅人はドルモンと共に外に出ていった。
「ウォーグレイモン?」
「ドルモンの知り合いか?」
遺跡の外に広がっていた景色は、地平線の先から真っ直ぐに伸びた何かの痕。
そして遺跡の外壁にかなりの力で叩きつけられたのであろう満身創痍のウォーグレイモンXの姿とその周りを無邪気に飛び回るトコモンだった。
「いや、そういう訳じゃないけど……」
「そうか。おい、アンタ大丈夫か?」
言外に“有名人だ”と言うドルモンと共に、旅人はウォーグレイモンXへと話しかける。
ウォーグレイモンXは目をつぶっており、死んでいるのか生きているのか分からない状態だった。だが、話しかけられたことによって起きたのか、ゆっくりと目を開けた。
「君は……?」
「オレ?旅人……人間だ」
「人間……?なぜここに?」
旅人の自己紹介に少し怪訝な表情を見せたが、すぐに近くにいたドルモンに気づき、そちらに視線を向けた。
「そうか。君もX抗体を持っているんだな。ここじゃ辛かっただろう」
「うっ、うぅ」
自身の境遇を理解しているであろうウォーグレイモンXの言葉に、今までの日々が思い出されてドルモンの目に涙が滲む。
「君になら分かるだろう。オレもX抗体を持っている。あまり時間がない。オレは必ず戻るから……その時までこの子を見ていて欲しい」
「エウッ!エウ!」
「大丈夫。君になら出来る」
不安そうにトコモンを見るドルモンに太鼓判を押すウォーグレイモンX。
しばらくドルモンたちを見ていたが不意にその表情に焦りが浮かんだ。
「っく。もう来たのか!旅人。この子たちを頼む。それからロイヤルナイツに気をつけるんだ」
それだけを早口で言うとウォーグレイモンXは空へ飛び立っていった。それを見送る三人。
その後すぐにウォーグレイモンXを追随するように飛ぶデジモンが一体。それを見たドルモンが呆然と呟く。
「あれってロイヤルナイツ?ネットワークの守護者がなんで……?」
「ロイヤルナイツ?アレが?マズイな。頼まれてから難だけど絶対スピードだけで英雄クラスはあるよ。どうしよ?」
“気をつけろ”と言われた相手が、かつて戦った英雄や漆黒の騎士に匹敵するほどの力を持っていることがわかり、旅人は焦る。
「どうしたの?」
「いや、まぁ、なんとかなるだろ。うん。なんとかなる!」
「そ、そう?」
少し難しい顔をしていた旅人にドルモンが話しかける。だが旅人は“まぁ、なんとかなるか”と自己完結してしまった。
未だ心配そうに旅人を見るドルモンを放っておいて、旅人はトコモンの方へ向き直った。
「ほ~らっチッチッチッチッチ~。ほらほら~」
「あの……旅人?なんか違わない?」
「え?そうか?」
人差し指をトコモンの前で振る旅人にドルモンが呆れながら言う。
それがダメだったのだろう。旅人がドルモンの方へ顔を向けた瞬間、トコモンが大きく口を開き旅人の腕に食らいついた。
「アガァアアアア!手がァ!手がァ!」
「旅人!?痛っ。痛いよ!」
痛がる旅人に気を取られていると今度は、トコモンがドルモンの尻尾に噛み付いた。
しかもドルモンの方が軽い噛み方だったらしく、痛みに差――元々の防御力の差かもしれないのだが――があるようだった。
“やっていけるのかなぁ”と早くも旅人は不安になったのだった。
今までの文を読み返してみて少し地の文がくどいかな?と思った自分です。
他の方の小説とか読んで自分はまだまだだと実感しました。まぁ、愚痴はともかく。
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