海の上をウォーグレイモンXとオメガモンが高速で飛行する。いつまでも続くような追いかけっこにオメガモンは内心辟易していた。
“手っ取り早く終わらせる”そんな考えが浮かぶくらいにはオメガモンはフラストレーションが溜まっていたのだ。右手の籠手からガルルキャノンを出して構える。
だが、いざガルルキャノンで辺りを吹き飛ばそうとした時には、ウォーグレイモンXは急停止していた。急停止の影響で立った波によってオメガモンはウォーグレイモンXの姿を見失ってしまった。
しかし、そんなことはお構いなしに、オメガモンはガルルキャノンをウォーグレイモンXがいるであろう辺りに叩き込む。
水色の閃光によって海水が大きく吹き飛んだ。
瞬間、海水は不自然なほど大量に上空へと集まっていた。まるで誰かが意図的にそうしているかのように。
その中心点より少し下に、オメガモンの標的であるウォーグレイモンXの姿があった。
「はぁあああ!『ポセイドン・フォース』」
海水が十数メートルの巨大な水玉へと変貌しオメガモンに迫る。
オメガモンはその攻撃に冷静に対処する。その水玉とこちらに投げ飛ばした張本人であるウォーグレイモンXに向かってガルルキャノンを放ったのだ。
水と閃光が激突し、辺りに凄まじい衝撃が走った。
やがて衝撃が収まった頃にはその場にいたのはオメガモンだけだった。
つまりオメガモンはウォーグレイモンXに逃げられたのだ。
「ふん。小賢しい」
“逃げたものをいつまでも同行している必要はない”このままイグドラシルの命令を実行しに行こうとしたオメガモンだが、その前の空間に映像が浮かび上がった。
その映像にデュークモンが映る。
「オメガモン。すぐに戻れ。緊急招集だ」
それだけを伝えるとデュークモンは通信を切り、映像が途切れた。仕方なく戻ることにしたオメガモンだった。
ちなみにその間。海中ではずっとウォーグレイモンXが息を潜めていたりした。
「アウ!アウ!」
「トコモンって何食うんだ?」
「え?普通のものでいいと思うけど?」
人間で言えば赤ちゃんに相当する幼年期のデジモンに自分たちと同じものを食べさせるドルモン。
その姿を見て旅人は久々に不可思議ワールドの不思議さを感じていた。
「ところでこれからどうするの?」
「どうもこうも、ウォーグレイモンが帰ってくるまでお守りだろ?任せた」
「任された……って旅人は!?」
“ごまかされなかったか”見た目が自分の相棒と同じせいか、出会って少ししか経ってないにも関わらず、ドルモンに対して旅人は軽い対応をしてしまう。
「え?いや、ちゃんといるよ。ただ子供の扱いって苦手だから任せるよって話」
「なんか釈然としないけど分かった」
うまく面倒くさい事をドルモンに押し付けた旅人。
トコモンと遊び始めたドルモンを放っておいて、旅人は白紙のカードを取り出す。最近の日課である白紙のカード変化にチャレンジするのだ。
「はぁ。全然できん。元々あるやつになら変えられたのになんで無いやつには変わらないんだ?……っは!やっぱりオレってイメージが貧困なのか?」
一日前のナムの言葉を思い出して再び落ち込み始める旅人。地面に何だかわからないような絵を描きながら、“どうやったらイメージ力って上がるのかな”と謎な発言をしている。
一方でそんな旅人に驚くのは今まで仲良く遊んでいたトコモンとドルモンだ。ネガティブオーラを振りまく旅人に“どうしたんだろう”と悩みながらも近づいてくる。
「……旅人?なんか凄いことになっているけど大丈夫?」
「アゥイオゥ?」
「あぁ。一応……大丈夫じゃない。ちょっと自身の馬鹿さに嫌気がさしただけだから」
「本当に大丈夫!?」
どうしてそんなことになっているのか理解できないドルモンとトコモンは、必死の説得と誘導尋問によってどうにか旅人の事情を聞き取ったのだった。
「えーっとオレにはよく分かんないけど、旅人はどういう風にいつもやっているの?」
「え?どういう風にっていうか、カードの絵柄を思い浮かべているんだけど。できる限り詳細に」
「だったら、なんていうかカードの効果の方をイメージしてみたら?」
聞いておいて難だがドルモンはカードというものがどういうものなのか分かっていない。
だが、“別の方法を試してみたら何かキッカケがつかめるかもしれないよ”くらいの気持ちで言ったのだ。
「っていうと?」
「だからカードそのものじゃなくて効果の方をイメージがするの!」
「ウゥオ!」
ドルモンの言葉を聞いて“そんな簡単にいくかなぁ”と半信半疑で試す旅人。
実際白紙のカードに変化は――。
「……できちゃったよ、おい」
「良かったな、旅人!」
あった。旅人の手には白紙のカードがなくなり代わりに『武装進化』のカードが握られていた。
「……今までのオレの苦労って一体……?」
「いやいや、できたんだからいいじゃん!」
「そうだけどさぁ?」
ドルモンのアドバイスらしきものによってあっさりと出来てしまったことに今までの苦労――と言ってもやり始めてまだ二日も経ってないのだが――を思い返して泣きそうになる旅人だった。
その雰囲気を悟ったのかドルモンが一生懸命フォローするのだがあまり効果はない。
「……ドルモン。少し試していい?」
「え?いいけど……?大丈夫なの?」
「多分」
「本当に大丈夫なの!?」
トコモンが飽きて昼寝し始めたタイミングを見計らって旅人はドルモンに実験を申し出た。
ドルモンとしては訳のわからないモノで実験されるということで嫌なのだが、ここ数日世話になっている旅人の頼みとあってはあまり断る気は起きなかった。
「本当に大丈夫だよね?」
「多分」
「……」
“旅人の言うことだし……不安は残るなぁ”そんなことを思うくらいにはドルモンも旅人のことを分かり始めていた。
だが、既に賽は投げられた。ドルモンにできることは祈ることくらいなものだ。
「じゃ、じゃあいくぞ?set『武装進化』」
「うわ!」
ドルモンが光ったと思うと、次の瞬間には毛皮の籠手に鉄球が付いた武器になって旅人の手に握られていた。
「成功か?ドルモン、聞こえるか?」
「……」
「……返事がないんだけど、大丈夫だよな?それにしても結構きついな。ドルモンは成長期だから、この調子だと究極体とかでやったら一回使うだけで動けなくなるな」
一通り試して武器を手放す。すると武器が光ってドルモンに戻った。
「おーい?大丈夫か~?」
「え?あぁ。大丈夫だよ」
「本当に?返事がなかったけど?」
武器から戻ったドルモンは未だボーッとしている。武器になっていた間、返事がなかった事もあり、“やらかしてしまったか?”と旅人を不安にさせた。
「いや、なんか武器になっていた間ってなんか変な感じだったんだ。オレだけどオレじゃない感じ?」
「なんじゃそりゃ?」
その感覚を言葉で説明しようとするとうまく説明できない。そんなもどかしさと格闘しているドルモンを旅人は眺めていると、眠っていたはずのトコモンが大きな欠伸をした。
どうやら起きたらしい。
「アウ~?」
「お?起きたか?」
使う分には不都合がないことを確認して手札が増えたことを素直に喜ぶことにした旅人。
できたことに満足したのか、旅人はその後、ドルモンと一緒にトコモンの面倒を見ることにしたのだった。
ただ、旅人の子守スキルは総じて低くときどきトコモンとドルモンにせがまれてカードを使った遊びをした以外は、ほぼトコモンとドルモンの遊びを眺めているだけだったのだが。
どことも何とも言えない空間に12の映像が浮いている。その映像にはデュークモンと黄金の鎧を纏った水色の竜人――マグナモン――のみが映っていた。
「オメガモンはまだか?」
「もうすぐ来るはずだ。しばらく待っていろ」
「オメガモンここに!」
「ようやく来たか。」
その言葉と共に映像の一つにオメガモンの姿が浮かび上がった。
「他のメンバーはいないのか?」
「ふん。我らロイヤルナイツでもプロジェクト・アークに関わるものだけの招集だ。他のメンバーはネットワーク守護の任に付いている」
「……ということは今回の議題は…?」
「そう、プロジェクト・アークについてだ」
他のメンバーがいないことに感づいたオメガモンはデュークモンに訪ねる。
だが返ってきた答えから分かったのは現在最重要とも言えるプロジェクトについて何かあったということだけだった。
「……ウルドとスクルドでレジスタンス組織の結成が確認された」
「それらしき連中はベルサンディにもいる」
「ベルサンディまで?」
このデジタルワールドを構成する三つのターミナル。
現在のベルサンディターミナル。過去のウルドターミナル。そして未来のスクルドターミナル。
それらすべてに自分たちに抗う連中の存在が確認されたというのだ。
「確かに我々ロイヤルナイツと比べれば取るに足らない連中だが……全くどうかしているな」
「どうかしているのはどちらかな?」
「オメガモン、何が言いたい?」
マグナモンの言葉に毒を吐く感じで答えたオメガモンに自然とマグナモンの口調がキツくなる。
「その取るに足らないレジスタンスごときに緊急招集など…イグドラシルの決定は絶対だ。いささかも揺るがん!」
「オメガモン!」
言葉を吐き捨てると共に映像からオメガモンが消える。
オメガモンが退場したことで会議を進められる状況でなくなったせいかデュークモンとマグナモンも映像からやがて消えた。
「ロイヤルナイツ……さすがに強い」
ウォーグレイモンXと全身が機械でできた狼――メタルガルルモンX抗体――が滝の裏の洞窟で会話をしている。
ウォーグレイモンXの方は先程の疲労が残っており壁にもたれかかっている。
一方でメタルガルルモンXはそんなウォーグレイモンXを心配そうに見ている。
「でも……オレはアレがアイツ等の意思だとは思えない。……思いたくはないんだ」
「お前の言うとおりだとしたらなお悪い。ホストコンピュータの言うがままに同じデジモンを殺戮する!オレはそんなアイツ等を憎悪する!アイツ等のデジモンとしての誇りはどこへ行った!?」
「それは……それでも!オレはロイヤルナイツを信じたい」
「はぁ。好きにしろ」
メタルガルルモンXの戯言とも取れる言葉にウォーグレイモンXはため息を吐く。メタルガルルモンXの頑固さを知っているがゆえのため息だ。
そんな中で、ウォーグレイモンXは自分が預けた小さなデジモンのことを思い出した。
「どこに行くんだ?」
「約束を思い出した。少し行ってくる」
「さっき言っていたトコモンたちのことか。オレも行くよ」
メタルガルルモンも暇ではない。それなのに着いて来てくれるという言葉にウォーグレイモンXは思わず聞き返した。
「いいのか?」
「あぁ。ロイヤルナイツの動きも活発になっている。単独行動はあまりするべきじゃない」
「ありがとう。じゃあ行くか」
ウォーグレイモンXとメタルガルルモンXは滝を飛び出して行く。飛び出した二人はそのまま旅人たちと別れた方へと向かっていく。
しばらくしてウォーグレイモンXたちが見つけたのは、楽しそうに戯れる旅人たち――ではなかった。
「アレはロイヤルナイツか?」
「ロイヤルナイツか?じゃない!あれは襲われてるんだ!メタルガルルモンは上から行ってくれ!オレは下か行く」
「でも!……いや、なんでもない」
旅人たちはロイヤルナイツ――オメガモン――に襲われていたのだ。
そんな旅人たちを助けるためにもウォーグレイモンXとメタルガルルモンXは二手に分かれる。
上空に残ったメタルガルルモンはそのまま全身のミサイルをオメガモンに向かって放った。
そんな時でもメタルガルルモンは迷っていたのか。放ったミサイルは数、質ともに良質なものとは言えなかった。
時を少し遡って旅人たち。
同じ場所にいるのもいい加減に飽きたのかトコモンのペースに合わせて少しづつではあるが移動を開始していた。
「ん?どした、トコモン?」
「アウ!アウ!アウゥ!」
「いや、何言っているか分かんないし」
トコモンが何かをせがむように旅人の足元をピョンピョンと跳ねる。何かを伝えたいようなのだが、残念ながら旅人にはトコモンが何を求めているのか分からなかった。
「多分またアレやって欲しいんじゃないの?」
「アレかよ?まぁ、カードも戻ったからいいけどさ。っていうか言葉が分かるのかよ」
「大体分かるよ?」
「なんで分かるんだよ!」
最近よく感じる不可思議ワールドの理不尽に不思議と寂しくなる旅人。カードを取り出しながら“世界の違いってデカいなぁ”としみじみと思うのだった。
「set『風』なんかここ数時間アトラクション扱いされている気がしなくもない」
「まぁまぁ。あ、旅人オレも!」
「……お前もオレに遠慮しなくなったよな。まぁいいけど」
『風』の力で起こした風でトコモンとドルモンを持ち上げたり、ジェットコースターのように吹き飛ばしたりする。軽い一人遊園地である。
一度加減を間違えて、二人を数十メートルのフリーフォールをさせてしまった時には思わず旅人は肝を冷やした。
ちなみにそのとき。数十メートルのフリーフォールを経験しながらも平気な顔をしていたトコモンには、ドルモンと旅人はものすごい驚いた。
「これで動じない限り結構大物になるよなぁ」
「キャッキャッ!アウゥウ!」
「結構楽しいけどなー」
「オレだけ退屈だよ!」
前に一人ドルグレモンの背中に乗って昼寝していた時にドルグレモンの感じていた気持ちがやっと分かった旅人だった。
そんなこんなで、カードの効果が切れる時間帯。“やっと終わる”とニヤける顔を旅人は抑えきれなかった。
だが――。
「そろそろ効果が切れるぞ?」
「えー?」
「アウゥ?」
曇りなき眼で見つめられれば、もう嫌とは言えず。
結局後でまたやる羽目になりそうな旅人だった。
「……また後でやってやるから」
「分かった」
「アウゥア!」
“少し休む”と伝えて木にもたれかかる旅人。さっきから休む、やる。これの繰り返しである。
「アウ!アウ!アゥウ!?」
そんな中で元気に走り回るトコモン。だが、元気すぎたのが祟ったのか、コケてしまう。
「あぁ!?大丈夫?」
「アイ!」
思わず駆け寄ったドルモンに向かってトコモンは元気よく頷いた。
「元気だねぇ」
一連の行動を木陰から見ていた旅人。妙に感想がジジくさいが、今の状況は
“よっこらせ”とこれまたジジくさい掛け声で立ち上がった旅人はドルモンたちの下へと近づいて行く。
そんな中で旅人はドルモンの独り言を聞いた。
「はは。良かった。オレにもできることがあるんだな」
その独り言は嬉しそうな声色だった。何気ない先ほどの行為。それが心底嬉しいといった風で。
“もっとあるだろ”と思わず旅人は声をかけたくなったのだった。
「お前にできることなんて……それこそたくさんあるだろ?」
「うわ!旅人いつの間に!?」
「いつでもいいだろ」
そんな穏やかな夕暮れどきのひと時は終わりを告げる。
地響きが辺りに響き渡る。
「……ん?アレは?」
「どうしたの?」
「アゥイ?」
いち早くそれに気づいた旅人が向いた先、そこにはたくさんのデジモンが山の上から種類問わず逃げてくる光景だった。
しかも全てのデジモンが一様に鬼気迫る表情をしている。
「一体何が……?」
「アウ!アウ!アウァ!」
「これって?」
「……マズイ!set『防壁』」
旅人が『防壁』を使い、ドルモンたちと一緒に身を守る準備をした瞬間、閃光が走る。
閃光が山を、デジモンたちを、吹き飛ばして行く。
後に残ったのは吹き飛ばし損なった残骸だけだった。
作中で出てきたゼヴォリューション死に設定
ベルサンディ・ウルド・スクルド
新世界と呼ばれるデジタルワールドは三つの区画に分けられており、それぞれ現在・過去・未来を司る。
現在のベルサンディ・ターミナルは多様な種が多く、過去のウルド・ターミナルは古代種が多い。未来のスクルド・ターミナルは人工的な進化をする種が多い。それぞれの区画は移動可能。
歴史とか時間とか、どうなっているんだって言う世界。
ちなみにロイヤルナイツの数が少ない理由を当作品では通常業務であるネットワークの守護にあたっているので、プロジェクト・アークに関わるロイヤルナイツはあの三体だけということにしました。……ロードナイトモン?ゼヴォリューションにそんな人出てましたっけ?