どこともしれない空間。そこにオメガモンとマグナモンはいた。
「浮かない顔だな。オメガモン」
「マグナモン、貴様は自分の戦いに疑問を持ったことはないか?」
「無い」
一二もなく言い切ったマグナモンにオメガモンは苦笑する。同じ質問をされたのならば、つい先日まではオメガモンとて同じ返答をしていただろうからだ。
そのことを理解しているがゆえの苦笑だ。
「その根拠は?」
「我らロイヤルナイツ、イグドラシルの命は絶対だ」
「っふ。つまらないことを聞いた。忘れてくれ」
そうオメガモンが告げるとマグナモンは興味を失ったのかどこかに去っていく。その姿を見送ってオメガモンは一人呟いたのだった。
「デュークモン……確かめたいこととは一体何なのだ?」
もちろん答えは返っては来ない。
「釣れん……ぐぅ。……っは!いかんいかん」
ところ変わって。旅人は最初にドルモンと出会った川で釣りをしていた。
食料が無くなりかけたので補充に来たのだ。しかし、あいにく昨日の戦闘で疲れていたメンバーはジャンケンによって食料調達係を決定。
その間、他の面々は休んでいる。生贄にされたとも言う。
「あぁああああ!やめだ!やめ!魚釣りなんてしてたら眠っちまう!キノコやきのみでも探すか」
きのみやキノコを探す旅人だったが、残念ながら見つかるのはキノコばかりだった。
「キノコばっかりかよ。こりゃドルがうるさい……そっか。ドルガモンはキノコ、食えるのか」
キノコを袋に詰め込む作業を止めて一人呟く旅人。
この広い世界で自分だけが独りぼっちのような気がして、若干のホームシックモドキに陥るのだった。
「はぁ。一人だと気が滅入るな。やめだ。やめ。食料はまだしばらく持つし、もう戻るか」
空を見上げる旅人。基本寂しがり屋は空を見上げることが多い。
ふと視界に黄金の鎧を着た何かが空に歪みを作りその中に入っていった。旅人の見間違いでなければ手に持っていたアレはドルガモンである。
「アレはドルガモンか?って何かあったのか!?set『転移』」
異変を感じた旅人はすぐさま『転移』を使って急いで遺跡に戻る。そこにいたのはトコモンXだけだった。
「トコモン?おい!大丈夫か?」
「タヒト……?うぅぇえ」
「っておいおい。泣くな?大丈夫だから……多分。どうかしたのか?」
いきなり泣き出したトコモンXを宥めつつも、旅人はトコモンXから事情を聞き出す。
しかし――。
「オイハルナヒツ……」
「おいはるなひつ?」
泣きじゃくるトコモンXの言葉は支離滅裂だった。
だが、どうにか聞き取った感じだとロイヤルナイツがドルガモンを連れ去っていったということだった。
「分かった。とりあえずウォーグレイモンのところに行くぞ?川の上流は…あっちか。Set『転移』」
「ウゥ…アイ!」
白紙のカードを『転移』へと変化させて二度目の転移でウォーグレイモンXのところに転移――正確な場所がわからなかったので滝の近くに行っただけだったのだが――する。
滝の裏側の洞窟に入るとウォーグレイモンXは休んでいるのか、座って目を閉じていた。
「ウォーグレイモン!休んでいるところ悪い!」
「旅人?それにトコモンも。ドルガモンはどうした?一緒じゃないのか?」
いきなりの来客にウォーグレイモンXは驚いているようだった。
だが、事態は一刻を争うかもしれない。そのまま旅人はトコモンXから聞き出したことをウォーグレイモンXへと伝えていく。
「オレがいない間にロイヤルナイツに連れ去られたらしい。オレも遠くから見ただけだが……黄金の鎧を着たやつだった」
「……多分マグナモンだ。分かった。多少危険を伴うが他の仲間に連絡して聞いてみる」
「悪い……頼む」
「オネハイヒマフ!」
ウォーグレイモンXが通信の準備をする間、旅人たちは落ち着かない様子で待っていたのだった。
上も下も分からない不思議な空間にドルガモンは捕まっていた。ドルガモンを取り巻くように闇が動く。
やがてドルガモンから引き離れるようにドルガモンそっくりな黒い拘束具に包まれた腐敗臭のする竜が現れた。
「グァアアア!……グァア?」
拘束具に包まれた竜がドルガモンを攻撃する。否、しようとした。
だが、拘束具に包まれた竜は何故か動けなくなり、ドルガモンを攻撃することができなかったのだ。
しばらくして拘束具に包まれた竜が忌々しげにひと鳴きするとドルガモンはまるでダストシュートするかの如く空間に空いた穴に落ちていった。
ところ変わって海の中、そこに機械の狼はいた。しかしその姿は所々が欠けていてテレビのノイズのように体がブレていた。どう贔屓目に見ても死体である。
「ヤレヤレ。やっと見つけた。さて貴様のような者のために動くのは癪だが姫様のご命令なのでな」
兜をかぶった龍が取り出した光が機械の狼に入っていく。しばらくすると機械の狼の体が光に包まれ元の傷一つない体へと戻っていた。
「こやつが気が付く前に行くとするか。ヤレヤレ。姫様も竜使いが荒い」
兜をかぶった龍は海の上へと出るとそのまま去っていく。その声はどこか嬉しそうなものだった。
ゴミ山と呼ぶにふさわしい程の大量のゴミ。ゴミ捨てである。そこを包帯ぐるぐる巻きのミイラ男――マミーモン――ととんがりボウシをかぶった魔法使い風の人形――ウィザーモン――そして一人の少女が歩いている。
「おい、ウィザーモン!そっち何かあったか~?」
「いや……ナムそちらは?」
「あった」
「本当か!?」
ゴミの中にあるかもしれない、使えそうな物を探しに来た三人だった。
“あるかもしれない”という希望のみで探している三人。だが、ナムの発見に残る二人は若干の喜びの色を声に灯した。
ただし、ナムが見つけたのはゴミやガラクタではなく、
「こいつはナムの知り合いか?」
「いや」
「あぁ、そいつはダメだ。どうせ分解しかかっている」
冷静にドルガモンの状況を見極めるマミーモンだが、ウィザーモンはそう思わなかったらしい。しばらく魔術を使ってドルガモンの体を調べていたが、不意に立ち上がって言った。
「見つけたのはナムだが、見つけてしまったものはしょうがないだろ。連れて行くぞ」
俗に言うお人好しに分類されるウィザーモンは頑固なところがあり、言い始めたら自分の意見を曲げることはめったにない。
そのことを理解しているマミーモンが先に折れた。
ちなみにマミーモンがウィザーモンに言い合いで買ったことは一回もない。
「はぁ。分かったよ」
「では行こう」
「ナムの奴も少し手伝ったらどうだ?」
「いい。頑張って」
ドルガモンをウィザーモンが魔法で浮かばせてアジトへと運んでいく。
その途中で兜をかぶった龍が合流し、アジトについたのだった。
地面にポッカリと空いた巨大な穴の中。その穴の中の壁に空いた洞窟にアジトはあった。
「マミーモン!ウィザーモン!たった今ウォーグレイモンから連絡があって……ってそいつ!」
「コイツがどうかしたのか?」
「ウォーグレイモンから連絡があった奴ですよ!」
「?」
白と赤の獣人――シルフィーモン――がウォーグレイモンからの連絡の内容を告げる。
ウォーグレイモンXが探しているデジモンがいるということを。
「ロイヤルナイツに連れ去られたデジモンの情報と一致します。」
「連れ去られた?」
「ウォーグレイモンはそう言ってました。知らせるべきでしょうか?」
シルフィーモンの報告は妙なものだった。
連れ去られたやつが何故あんなところにいたのか。“疑問は残るが、とりあえず報告はするべきだろう”とウィザーモンは考える。
「ウォーグレイモンが探しているなら、そうするべきだろう」
「ちょっと待て、敵にオレ達の居場所を知られる可能性があるぞ!」
ウォーグレイモンXにドルガモンについての情報を教えるべきだというウィザーモンに対してマミーモンは保守的な意見で反対する。
「それでもだ」
「ここにいる仲間全員を危険に晒してもか!?」
「今がどういう時か忘れたのか?自分たちだけが良ければいいって状況じゃない」
「……はぁ、分かったよ」
しばらくの睨み合いの末折れたのはマミーモンだった。
“こいつの頑固さはなんとかなんないかなぁ”と言い負かされたマミーモンの背には哀愁が漂っていた。
「やれやれ。誰かウォーグレイモンに連絡を……」
「では引き続き私がしましょう」
「頼む。僕はコイツの回復に全力を尽くす」
そんな中でナムとリュウダモンが入口の方へと向かって行く。
このままここにいてもやることはないと判断してのことだった。
「外。見張ってくる」
「姫様お供します!」
ナムとリュウダモンが外へ見張りに出て、全員がそれぞれの作業に戻る。
ドルガモンの目覚めはまだ……遠い。
場所は変わって旅人たち。
ウォーグレイモンXからの連絡を待っている間、息抜きにトコモンXを遊びに誘った旅人であったが、残念ながらトコモンXは元気にならなかった。
「アウゥ」
「set『風』ほら~どうだ~?」
「……アウ!」
「逆にオレが気を使わせているとか?」
元気なさそうな顔で笑うトコモンXに、旅人は自分こそが気を使わせていることと知って軽く落ち込む。
「はぁ。全然ダメだな。子供の扱いって難しい……」
扱い云々ではなく、旅人自身がダメということに旅人自身は気づいていなかった。
「アウ?アイオゥウ?」
「大丈夫だよ。それにしてもドルといいドルガモンといい、人に心配かけやすいなぁ」
旅人は収納袋からドルモンの結晶を取り出して眺める。
その時、今までウンともスンとも言わなかった結晶が脈を打つように鼓動した。
「アレ?なんか変な感じに……?」
「アウ!アエ!」
いきなり反応した結晶に少しの期待を持ちながらも、急に叫びだしたトコモンXに旅人は気を引かれた。
「トコモンどうかしたのか?」
「アエ!アエ!」
「会え?いや、アレか。」
トコモンXが見ていた方向に黒い竜らしきモノが飛んでいるのが見えた。
その姿を前に旅人は嫌な予感が拭えなかった。
「ここまで濃い数日が連続していると大体次の展開が読めるぞ?アレだろ?また来るんだろ?」
「アイ~」
トコモンの諦めたような声が妙に旅人の耳に残る。
直後、拘束具に包まれた黒い竜が降りてきた。
「ドルガモン?いや……違うか。トコモン!隠れてろ!」
「アイ!」
トコモンXがウォーグレイモンXの隠れ家の方へと戻っていく。
旅人はそれを見届けると改めて襲撃者の方へと向かい合う。
「見るからにドルガモンと似てるな。このタイミングで無関係ってわけじゃあないんだろうな。あ~あ、これじゃあ戦うしかないか」
「グゥウ……グアァァアアァアアアアアアアア!!」
拘束具に包まれた竜――デクスドルガモン――が咆哮する。
旅人は一瞬硬直するも、すぐさま突っ込んできたデクスドルガモンを転がるようにして避けた。
「……コイツはドルガモンより弱い?」
「グァア」
デクスドルガモンは咆哮と共に何度も鉄球を飛ばしてくる。
だが、何度も見ていれば馬鹿でも気付く。スピード、威力共にドルガモンのそれを下回っていた。
「グァア……」
「調子悪そうだな。チャンスか?set『捕縛』」
今までの経験から言って捕まえられる可能性が低い『捕縛』だが、結構あっさりと捕まえられた。
「アレ?捕まえられた?いや、英雄とか、その他諸々が規格外なだけか。まぁいいや。お前喋れるのか?」
「……」
今まで戦った規格外な連中を思い出し、欝になりながらも、旅人は襲撃者と向かい合う。
いつまでも黙っているその襲撃者。埒が明かないと旅人が感じた時、襲撃者の気配が変わった。
「だんまりか。まぁいいや。とりあえずウォーグレイモンに連絡を……っ?」
「グルル……グアァァア!」
直後、鎖に縛られたデクスドルガモンの姿が変わる。
同じように拘束具に包まれたどこかドルグレモンに似た竜へと進化した。
再び拘束具に包まれた竜――デクスドルグレモン――が咆哮する。
「進化した?……っち。今度はドルグレモンかよ!こりゃドルゴラモンもありそうだな」
「グゥウ……」
「……なるほど。調子が悪いのは変わってなさそうだな。今のうち……に?」
「……グァアアアアア!」
咆哮。飛翔。とんでもないスピードでデクスドルグレモンが遠ざかっていく。
一方で旅人は戦わずに済んだことにホッとしていた。いくら不調らしくても、ドルグレモンらしきものと戦って勝てるかどうか分からないのだ。
なまじ勝ってドルゴラモンに似た姿になられても困るのだし。
「……逃げたか。なんだったんだ?ん?アレは……?」
デクスドルグレモンが逃げた後、デクスドルグレモンがいた場所には何かノイズのような光の塊があった。
「これ触っても……大丈夫だよな?」
ちょんちょんと人差し指でつついてみるが変わらない。
そこで旅人が思いきって持ってみる。すると突然光が旅人の腰にある収納袋の中に入っていった。
「っておいおい!待て待て!」
当然いきなりのその現象に旅人は焦る。いそいで袋の中を探ると入っているはずの食料が消えていた。……キノコを残して。
「……なんだろうね?この懐かしさ?微妙にドルの結晶が大きくなっている気もするし、なんか熱持っている感じするし……気のせいか?」
「……」
もちろん結晶は答えない。
その場にいても埒が明かないので旅人はウォーグレイモンXの隠れ家へと戻った。
そこではウォーグレイモンXがトコモンXをなだめて隠れ家から出ようとしているところだった。
「旅人!大丈夫だったか?」
「あぁ。なんとか。相手も逃げたしな」
「逃げたのか?」
“何とか助かった”と肩をすくめた旅人の姿に、ウォーグレイモンXは“無事でよかった”と安堵する。
そんな中で旅人はあのドルガモンによく似た姿の襲撃者のことが頭に残っていた。
「あぁ。けど妙な奴だったな。ドルガモンにどことなく似ていたし」
「ドルガモンに?」
「そうなんだ。何か理由があるんだろうけど……このタイミング。何か起ころうとしているのかもしれない」
「……分かった。もう少し詳しく教えてくれ。次の連絡の時に他の連中にも伝えたい」
ウォーグレイモンXにデクスドルグレモンの情報を伝える旅人。
その話をしている途中で空中に映像が浮かび上がった。映像に映っていたのはシルフィーモン。ただ出力が悪いのかノイズだらけだったのだが。
「ウォーグレイモン!そちらは?」
「オレの名前は旅人。まぁ、人間だ。こっちはトコモン」
「シルフィーモン!何かあったのか?」
「貴方が探していたドルガモンですがこちらで保護しました。酷く衰弱しているようですが……」
ドルガモンの無事。その報は旅人にとって嬉しいものだった。トコモンXも体全体を使って嬉しそうにしている。
「ドルガモンが!?無事なのか?」
「モーン!いる~?」
「分かった。オレたちもそっちに行く。ドルガモンのことはよろしく頼む」
「了解しました!」
あまり時間がないのか、要件は手短だったが、伝えたい内容はハッキリと分かった。
「ウォーグレイモン!」
「分かっている。ただ、向こうのアジトは遠い。見つかりにくい夜に行動を開始するぞ。それまでにしっかりと休んでおいた方がいい」
「了解」
「アイ!」
ドルガモンに会いたい気持ちを抑えて眠りにつくトコモンと旅人。
その時、収納袋の中の結晶が僅かに鼓動していたことに旅人は気づかなかった。
「グゥウ……」
暗闇の中、一匹の竜――デクスドルグレモン――が苦しんでいた。
デクスドルグレモンは旅人と戦い、逃走した後、生まれた場所であるこの空間に戻った。
それ以来一歩も動いていない。まるで何かを待つように。
「グゥア!」
不意にデクスドルグレモンの口から唾液のようなものが落ちた。落ちた唾液は侵食するように広がって……そこから全く同じ形のデクスドルグレモンが生まれた。
「グァア!」
「グォオ!」
デクスドルグレモンたちはまるで頷き合うように鳴くと全く同じ動作で同じように竜を生み出す。
そして新たに生まれたデクスドルグレモンがまたデクスドルグレモンを産み――幾千ものデクスドルグレモンが生まれた。
「グアァァアアアアアア!」
一番初めに存在したオリジナルとも言うべきデクスドルグレモンが咆哮する。その咆哮に導かれるようにして一斉にデクスドルグレモンが飛び立った。
その場に残ったのは一番初めに存在したデクスドルグレモンのみ。そのデクスドルグレモンもまるで繭のようなモノに包まれて眠りにつく。
己の子が集めた命が己の血肉となりやすいように。自分の半身と自らの存在の一部を奪ったあのイレギュラーを喰らうために、デクスドルグレモンはその時を待つ。