第一話~旅の始まり~
「君!君!息はしているな。大丈夫かい?」
聞きなれない声によって旅人は目が覚めた。
どうやらあの後気絶してしまったらしく、旅人は
「おっ。目が覚めたな?どこか異常はないか?見た限りでは大丈夫だったが、僕の魔法も完璧ではないからな」
目に入ったのはずいぶん小さい……魔法使いのような格好をした人形だった。背丈としては旅人の胸辺りまでだろう。まあ、その背丈も縦に長い魔法使い帽子込みでの話だが。
「人形……?」
「人形とは失礼だな。僕にはウィザーモンという名前がある」
「ウィザーモン?そうか。オレは旅人。後そこで寝ているのは相棒のドルモンだ」
“どこだここは?”そんなことを考える旅人は起き上がって自己紹介をする。
どう見てもここはあの遺跡ではない。というかこんな風景は日本では滅多にない。一面の草原に遠くには山。後ろには森。まるでファンタジー世界のようだった。
「いきなりで悪いんだが、ここはどこだ?日本ではないみたいだけど……」
「本当にいきなりだな。ここはデジタルワールドだ。人間の君には少々奇異に見えるかもしれないがな」
「デジタルワールド……?ドルモンみたいな奴らがたくさんいる世界か。って人間はいるのか?」
旅人はドルモンから聞いていた世界だと知るや、以前から気になったことを聞く。ドルモンはある程度育ったら、教えてもないある程度の知識を得ていた。
あの時は旅人がデジモンという不可思議生物のらしさを知った瞬間でもあった。
「いや。人間はいない。僕が知っているのは、人間は人間の世界に、デジモンはデジモンの世界に存在し、お互いが世界を超えることは滅多にない、ということだけだ。歴史上には何回かあったことらしいが」
“これからどうするかな……”旅人はウィザーモンからの情報をまとめながらこれからの方針を考える。
“とりあえずはドルモンを叩き起して……”そんな旅人の沈黙を不安と悟ったのか、ウィザーモンは積極的に旅人に話しかけてくる。
「君は……いや、君達は人間の世界から来たんだろう?帰る手段はあるのか?」
「いや……ない。ここへ来るときに使ったカードも白紙に戻っちまったし」
「カード?」
ウィザーモンがカードについて首をかしげたのでカードについて説明する。といってもカードについては旅人もよく分かっていないのだ。
どうしても説明はおざなりになる。
「カードにはいろいろ種類あって……めんどくさいな。まあ、それぞれの種類でいろいろあんだよ。魔法みたいなもんだ」
「魔法!」
魔法という単語にウィザーモンの目の色が変わった。説明が面倒くさかったから簡単に済ませるために使った単語がウィザーモンの琴線に触れたらしい。
それからはウィザーモンからの質問攻めが始まったが、旅人は元々どういう原理かは知らなかったのでたいしたことは言えない。
「ふむ。カードをきっかけとして魔法のプロセスを簡略させたのか?それともカード自体が現象、概念を封じたもので何らかのキッカケでそれを取り出すのか?」
“この感じは長くなるなぁ”と感じた旅人は、学者根性丸出しで考察し始めたウィザーモンを放っておき、未だ起きないドルモンの尻尾で遊ぶことにする。
ドルモンの毛は普段や寝ているときはフワフワというかモフモフなのだが、警戒時や戦闘時になるとものすごい固くなる。さすがは不可思議生物である。
「起きないな。いっそ叩き起すか?」
「ああ、すまない。思考に埋もれてしまっていた。少し提案があるのだがいいかな?」
思考が危険な方へ走りかけたときに、ようやくウィザーモンが思考の海から戻ってきた。
戻ってきていきなりだったが、出された提案は旅人にとっても悪いものでもなかった。
「なるほど。一緒に旅をする……か」
「そうだ。君はこの世界の知識がある僕が一緒に行くことでこの先あるだろうトラブルが減る。僕は君の魔法が見れて、僕の修行のためにもなる。お互いに利益があるだろう?」
「魔法じゃない……って修行?」
どういうことか聞くと、ウィザーモンは大魔道士になるためにこことはさらに別の魔法使いのデジタルワールドから来たらしい。
修行としていろいろなことを知るために旅をしているというのだ。
「なるほどな……うん。いいぞ。よろしく」
「えっ?誘っておいてなんだが、いいのかい?」
「いいよ。元の世界でも旅をしていたんだ。場所が変わるくらいなんてことはない。異世界なら元の世界にない風景もあるだろうし、な。それに……」
「それに?」
一度言葉を切った旅人にウィザーモンは聞き返す。旅人はニヤリとして言葉の続きを静かに、しかしハッキリと言う。
ちなみに本音はちょっと言ってみたい言葉というだけでもあったのだが。
「なに。旅は道連れ世は情けって言うだろ?こういうのも旅の醍醐味だからな」
「ソレ、微妙に意味が違うよ……」
そこでやっとドルモンが起きた。開口一番発した言葉はゲンナリとした響きをしている。
「お?起きたか」
「起きたけど……言葉はハッキリと使おうよ。この前教養が無いって言われて怒っていたじゃない。これじゃ本当に教養がない人だよ」
「ム……い、意味が違うことぐらい分かっている!ドルは空気を読め!そういうところが風情がないんだよ!」
「風情関係ないじゃん!」
いきなり始まったケンカにどうするか考えていたウィザーモンも、二人の様子からその中の良さが伺え、“これからは退屈だけはしなさそうだ”と新しい日々への思いを馳せた。
「これからどうするつもりだったんだ?」
三人は歩き出してしばらくして旅人がこれからの予定を聞く。ウィザーモンはこれからの予定として森の中にある、隠れ里へ向かう予定だったと話す。
「隠れ里か。隠れっていうくらいだから面白い作りしてんだろな。」
「旅人がっ!あの旅人が人の話を聞いている……?」
「お前はオレのことをどう見ているんだ!?」
せっかく治めたケンカが再び始まりそうな気配に少しウンザリしながらもウィザーモンはその隠れ里の情報を言っていく。
「隠れ里と言っても隠れているわけじゃなくて、森の外から見えにくいからそう呼ばれているだけらしい。あと、究極体の聖鳥型デジモンを祀っているとか」
「究極体!完全体の上のやつか!ドルモンから聞いてはいたが、そういえば究極体ってどれくらいいるんだ?」
「今のこの世界じゃ完全体がせいぜいだ。究極体なんて伝説クラスのモノが数体残っている程度だよ。隠れ里の聖鳥型デジモンも数百年姿を現していないらしい。」
驚きに言葉が出ない。幼年期、成長期、成熟期、完全体、究極体とレベルが上がるデジモンの成長段階の頂点。
旅人も極めた形態というくらいだから数が少ないことは予想していた。しかし、そこまで少ないとは予想外だったのだ。
「三大ターミナル閉鎖以降究極体に至るデジモンの数が減少したと聞く。何か理由があるのかもしれないな。そういえば、最近ここら辺で英雄を見たという情報が……本当ならぜひお会いしたい」
「また潜ったな……」
ときどき思考という名の海に潜るウィザーモンに旅人は呆れる。付き合いの浅い旅人にも癖を見抜かれるなど、相当なものだ。
そんな中でも普段の行動を続けることができるのはすごいのだが。
「旅人~!腹減った~」
「お前は少し黙ってろ!」
ダラけた様子で言うドルモンの声に旅人のイライラが貯まる。平和な世界にいた旅人にとって――巨体で破壊力があるドルモンの成長形態も含む――ドルモンは役立たずなのだ。
「ん?そういえば隠れ里には独特の料理があると聞いたな……」
「ホントッ?」
ボソッと呟いたウィザーモンの声を聞き逃さず、ドルモンの歩くペースが上がる。いや、走り出した。そこにさっきまでのダラけた姿はない。清々しいまでの現金さである。
「おい!お前金持ってな……い……だろ……って速い!」
「まあ、ここら辺は危険がないし、隠れ里まで一本道だから大丈夫だろう」
「………………ウィザーモン」
「なんだ?」
森を歩いていて危険がない。旅人はそう言ったウィザーモンについて文句を言いたくなった。
「上」
「上……?」
そこには赤いクワガタ――クワガーモン――がいた。……ただしサイズが違う。数メートルはある。
腹が減っているのか、腹が立っているのか、クワガーモンは旅人たちを襲う気満々のようであったが。
「クワガーモン!何故こんなところに!」
「いいから逃げるぞ!」
ウィザーモンを抱えて走り出す。戦えないこともないのだが、旅人は基本しなくていい戦いはしない主義である。
「旅人!アレを!」
ウィザーモンの言う方を見ると小さな……種のようなデジモンがもう一体のクワガーモンに襲われていた。
“言われなければ気づかなかったのに余計なことを”と考えて、自分が走っている方向に種のようなデジモンが駆けてきた。
「タツケテ~!」
半泣きで駆け寄るその姿は可愛らしくもある。
唯一役に立ちそうな時にどこかに行ったドルモンとは大違いだ。しかしそれも、二体の巨大なクワガタに追われていなければの話だったが。
「ああああああああ!死ぬうぅぅぅ!」
ウィザーモンを横に抱え、種のようなデジモンを頭に乗せて走る。
“クワガーモンに遠距離攻撃がなくて本当に良かった!”と旅人が考えていると大きな木のところで挟み撃ちにされた。
「はぁ。ウィザーモン?」
「なんだ?」
旅人はウィザーモンに尋ねる。“一体任せられるか”と。ウィザーモンは当然のように頷いた。
「当たり前だ。というかあの程度なら問題ない」
初めから逃げなくても良かったと聞かされて旅人は気を落とす。
“頭の葉っぱで痛いの痛いの飛んでけ!”をしてくれる種は可愛らしいが、こんな場合じゃなかったらの話である。
「んじゃそっち任せた」
「了解した」
背中を合わせて別れる。目の前のクワガーモン一体を頭の上の種を庇いながら倒さなくてはならない。敵を倒す方法をいくつか思い浮かべてカードを取り出す。
ここまで攻撃を避けながら行っているが、クワガーモンの一撃の重さを見てあまり受けるべきではないと考える。
「さて。行くか。おい!うるさくなるから耳閉じてろ!」
「アイ!」
「よし。Set『防壁』」
舌足らずだが、確かに返事をしたのを聞くと、旅人はカードを使い目の前に半透明の壁を出す。
クワガーモンの攻撃は壁を突破することができずに何回も殴るだけに留まっている。
「腹が減ったんでな。さっさと決める。Set『炎』」
旅人の体が炎に包まれる。やがて炎は右手に集中しだした。流石にソレを喰らうのはマズイと判断したのか、クワガーモンは距離を取ろうとするが……
「悪いな。Set『捕縛』」
クワガーモンに幾つもの鎖が絡みつく。力ずくで破ろうともがくクワガーモンを前に最後の言葉を下した。
「さて行くぞ?最大出力!」
飛び上がってクワガーモンの頭に着地する。クワガーモンが暴れる前に旅人の一撃がクワガーモンの頭を捉えた。
後に残ったのは倒れ付した焦げたクワガーモンだけである。
「ほう。威力の調整も可能と。カードの力はどちらかというと世界改変に分類されるようなものだな……。下手するとカードの法則で既存の法則を……いや、そこまで行くか?これは……検証が必要だな!」
旅人が後ろを振り返るとウィザーモンが嬉々として何やらメモを取っていた。その後ろには黒焦げのクワガーモンが倒れている。
クワガーモンの様子を見るに結構早くに倒されたらしい。つまりウィザーモンは自分より早くクワガーモンを倒したことになる。
「マジか……」
“結構凄いやつなのかもしれない”とまた思考の海を泳いでいるウィザーモンを見て旅人はそう思った。
人間界でのドルモンの役割。
その一 枕
その二 話し相手
です。人間界では戦闘はなかったので戦闘特化のデジモンであるドルモンってあまり役に立たない気がするんですよね。世の中にはモフモフあればいいって人もいるらしいですけど。
……そういえば、ガルルモンの毛皮って確かミスリルと同じ硬度ですよね?モフモフできるんだろうか?この小説では日常と戦闘で切り替わるようにしましたが。