第二十五話~その頃のあの二人~
待つ。ただひたすらに。だが、いつまでたっても待っている二人組が来ることはなかった。
「来ないな」
「来ないわね」
とある遺跡前にある広場。そこにとある二人のデジモンがいた。
「そろそろ一週間か……」
「というか、一週間と二日だけどね」
そこに居るのは魔女っ子――ウィッチモン――と魔法使い風の人形――ウィザーモン――である。
二人は一週間前に再開を約束した旅人達を待っている……のだが、なかなか戻ってこない旅人達にイライラしているところである。
「結局、ドルモンの言うとおりになったな」
「なっちゃたわね。……どっちだと思う?」
「一応聞くが……何がだ?」
ウィッチモンはウィザーモンへと質問する。だが、その質問は毎日恒例のやりとりだ。
「旅人が事件に関わって戻って来れなくなったか、それとも約束を忘れてのんびりしているか……のどちらかよ」
「絶対に前者だ。賭けてもいい」
“旅人が”とウィッチモンは断言している。しかもウィザーモンもそれを訂正しない。
一応、旅人の名誉のために言うと、いつだって旅人は巻き込まれた側であり、旅人自身がトラブルメーカーというわけではない。
「はぁ……もう少し遺跡の中を調べよう。せっかくここまで調べたのだからな。旅人たちが戻ってこないのはある意味好都合だ。……そう考えよう」
「そうね。……そうしましょう」
二人は旅人とドルモンのことを放っておいて遺跡の中に戻る。
旅人たちのことをいい加減だと内心思っている二人だが、結構二人もいい加減である。
「しかし……気づいているか?」
「魔術で探るにも限界があること?おそらくこれ以上知るには専門的な解読法も必要になるわね」
「それもあるが……ここ以外にどうやら部屋がありそうだということに……だ」
「え……ぇえ!?」
“マジで!?”とばかりに素っ頓狂な声を上げたウィッチモンに対してウィザーモンは軽いため息を吐く。
“昔から集中するとそれ以外が見えにくくなる癖があったが、まさかこれだけここにいて気づいてなかったとは”ウィザーモンは軽いめまいがしている。
実際、彼女は能力だけはかなり優秀なのである。
「二三日前のことだがな。遺跡の内部構造を調べた時に気づいた。ここは何らかの儀式場の役目も果たしている。最奥の部屋から等間隔に、隠された部屋が存在していた。最も何の部屋かは……分からなかったがな」
「でも……私はそんなことは気づかなかったわよ!?」
「……はぁ。お前は描かれた絵と遺跡機能に対する考察しかしていなかっただろうに……」
「う……」
「ついでに言えば、もう少し他のことにも目を向けろ。大体……」
突如始まった説教タイム。
“あれ?なんでこんなことまで怒られているの?”とウィッチモンは疑問に思うが、ウィザーモンは止まらない。
もっともウィッチモンも“明らかにそれはお前だろ!”とウィザーモンに突っ込めるものもいくつかあったのだが。
「……だから……分かったか?」
「……はい」
幾ばくかの時間が過ぎて、ウィッチモン少し拗ねた。
そんなウィッチモンを放っておいて、ウィザーモンは地面に何かを書き続ける。
それは幾何学模様のようでもあり、何の整合性のない文字のような絵でもあった。
「これって……開錠と解析と固定と……こんなにたくさん組み合わせて大丈夫なの?」
「少なくとも僕一人では無理だ。でも……今はお前がいる」
「へ……?」
「お前と一緒ならこの程度ならできると僕は感じた。だから手伝ってくれ」
“こういうことをさらっというからコイツは……!”ウィザーモンのセリフに顔を赤くしながらも、ウィッチモンとて魔術を学び、大魔道士を目指すものである。
「わ、分かったわよ!やるわ!」
そこまで言われて引き下がれない。最も想いビトの期待に応えたいという気持ちが多分にあることは否定しようもないことだが。
「?そこまで気合を入れる必要はない。……そこに立って……そう、ソコだ。それからこの呪文を……そう」
「ここで……こうね。分かったわ!」
そうこうしながらも着々と準備を進めていく。
“大丈夫だろうか?ここは曲がりなりにも重要な情報らしきものがある遺跡だけど……”準備が整っていくうちにウィッチモンの胸中には先ほどまでは感じなかった不安がフツフツと湧き出てきた。
「……今更だけど、大丈夫?」
「今更だな。大丈夫だ。行くぞ!」
「……そうじゃなくって!」
“あ、これはダメなパターンだ”とすぐさまウィッチモンは理解した。幼なじみであるウィッチモンはウィザーモンのことをよく分かっている。一回スイッチが入るとなかなか言うことを聞かないことも。
「いせうごおりことひ……いせうごおりことひ……起動!」
二人の声が重なって描かれた模様が発光する。
部屋中を照らすような光の後、突然二人の足元に穴があいた。
「って!きゃあああああああ!やっぱりぃいいい!」
「うゎああ!魔術が発動しない!?」
二人は重力に引かれて落ちていく。
途中で魔術を使おうとするも何故か魔術は発動しない。どうすることもできずに二人はそのまま落ちていった。
しばらくのフリーフォールの後、二人は真っ暗な部屋へと落ちた。
「っぐ!無事か?ウィッチモン」
「……なんとか。それにしてもここって……?」
辺りを見回すが真っ暗で見えない。しょうが無いので試しに魔術で明かりをつけると何故か今度は普通に使うことができた。
辺り一帯が光で照らされる。光に目が慣れるとそこには壁と床だけの何もない空間に一つの扉がポツンと存在していた。
「む?ここでは使えるのか?何か見えるか?」
「見えない。私達が落ちてきた穴も見当たらないし……あ、あそこに扉があるけど……?」
“疑ってください”とばかりに存在する一つの扉。そこから感じる怪しい気配を二人は感じ取った。
「……何か聞こえるな」
「嫌な予感……」
まるで機械の駆動音みたいな音が扉から聞こえてくる。それも一つではなく、やかましいくらいたくさんの音が。
「……開ける?」
「やめておきたいが……そうも言ってられないな。他に何も無いようだし……いや、あちらから開けるようだぞ」
“どうか悪い予感が当たりませんように”と二人は祈るが、残念ながらその祈りは届かなかった。
扉の向こうから現れた数体の機械系デジモン。
タンクモンやガードロモンなど成熟期ばかりなのが救いだろうか?
どちらにせよ同じ成熟期であるウィッチモンとウィザーモンの敵ではなさそうだった。
「オマエラ……シンジツヲシロウトスル……シンニュウシャ……ハイジョ……」
現れた大量の機械系デジモンたちにげんなりとする二人は、そのデジモンたちが言ったある言葉に気が付いた。
「真実?……どうやらこの先に何かありそうだな!」
「真実……ね。絶対に手に入れましょう!」
二人の目が輝いている。旅人たちと一緒にいた頃は二人の知的好奇心を引くものはあまりなかった。だから……というわけではないが、二人はあまり表立って豹変することもなかった。
しかし、今は真実という二人の知的好奇心の琴線に触れるものが今、目の前にある。
もしここに旅人たち……あるいは見ず知らずの他人がいれば二人のあまりの豹変具合にドン引くことだろう。
しかし、幸か不幸かここには二人しかいない。
「コウゲキカイシ……。ターゲットロック……オン。ファイア」
「ははは!れもまをれわ!『障壁』効かん!効かんぞ!」
「今ね!『バルルーナゲイル』あはは!私たちの敵じゃないわ!」
ウィザーモンが魔術で敵のミサイルを防ぎ、その間にウィッチモンが作り出した鋭利な風が敵を切り裂き、貫く。
十分も経たないうちに敵は全てスプラッタになった。
与えられた命令しかこなせない、意思を持っていない段階の機械系デジモンとはいえ哀れである。
「む!ウィッチモン!ここから行けるぞ!」
「えぇ!行きましょう!」
倒したあと、機械系デジモンが来た扉からさらに奥へと進む二人。
至極どうでもいいことだが、こうなると二人のテンションはしばらく治らない。
その後は色々な意味でハヤかった。目の前に上り階段があれば上り、下り階段があれば下る。罠も敵もすべてを魔術で速攻蹴散らす。清々しいくらいの快進撃だった。
そ うしてたどり着いた最下層の部屋。そこにはさまざまな……百や二百では足りないほどの石板が存在していた。
「これはっ!すごいぞ!この石板一つ一つがとんでもないデータ量だ!一体何で……」
ウィザーモンが石板の一つに触れた瞬間。グラグラと遺跡全体が揺れ始めた。
ウィザーモンが慌てて石版から手を離すと揺れが収まった。至極単純な仕掛けである。
「これって……」
「っく!そこにあるのに触れられないとは!」
そう。触れられない。遺跡の最終手段なのか、石板に触れると遺跡全体が崩壊する仕掛けのようである。
そのことに行き当たった二人の表情は凄惨たるものだった。“目の前にあるものに触れられないなんて……”まるで餌のお預けを食らった犬のようだった。
――センサーカンチ。セイキノシュダンデジョウホウヲトリダシクダサイ。クリカエシマス。セイキノシュダンデ……――
「……不味いわね」
「……マズイな」
ようやく元のテンションに戻った二人がポツリとつぶやく。
この音声はまず間違いなく侵入者とそれ以外を排除するものである。そして先程の仕掛けからして次に来るだろう言葉は……。
――イッテイジカンケイカ。サイシュウケイコク、サイシュウケイコク……――
「……逃げましょうか」
「そうだな。……逃げるぞ!」
もはや一刻もない。額に汗をたらして二人は部屋から出る。
警報音らしき音が絶えず流れていく中、ウィザーモンとウィッチモンは転移の準備をしながら走る。
――コレヨリトウシセツハジョウシシュノタメバクハシマス。サン、ニー、イチ……――
「できた!うどいへちぐりい!『転移』」
『転移』の準備が完了する。同時に伝わる最後の申告。
――ゼロ――
目の前が歪み次の瞬間、ウィザーモンとウィッチモンは遺跡の入口にいた。
“助かった”と息付く間もなく、ウィザーモンとウィッチモンは地面に伏せる。直後遺跡は爆発。崩壊した。
「……無事か?」
「……なんとか」
吹っ飛んできた土に埋まりながらお互いの無事を確認し合う。なにはともあれ、二人とも無事だったのだ。
「……しかしあの数の石板は惜しかったな」
「……まぁ、命が無事だっただけでもよしとしましょうか」
「む……まぁ、そうだが……」
いかにも未練タラタラといった風のウィザーモンにウィッチモンは収納袋からある物を取り出し、ウィザーモンへと渡した。
「これは!」
「せっかくだったからいくつか取ってきたの。別に壊すならいいかなって……ね?」
ウィッチモンが取り出したのは石板である。もちろんあの部屋にあった物である。
出る前にいくつか失敬したのだ。一個一個が五十センチ四方の四角形である石板をあの状況でいくつか持ってきたのは流石というしかない。
「全く……君もか」
「ほんと……似た者同士ね」
“結局お互い考えることは同じか”とウィザーモンも収納袋からいくつか石板を取り出す。
結局、二人は思考が似通っているのだ。お互いの行為に苦笑し合って石板をしまい込む。
「これからどうするの?私としてはこの石板について色々と調べたいんだけど?」
「そうだな……確か、学術院という街があると聞いたな。大学や図書館さまざまなデータが集まる場でもあるらしい。かの有名なアグモン博士もそこにおり、研究をしているという。……色々と学べることも多そうだ」
「そこに行ってこの石板や遺跡について調べながら他のことも学ぶって訳ね?」
ウィザーモンが出した案にウィッチモンは乗り気である。
しかし、そこで気づく。旅人たちはどうするのかと。
「それじゃあ旅人達はどうするの?」
「旅人たちはここに魔術で印を描いておけばいいだろう。よしんぼ気がつかなくても、アイツ等ならそのうちまたどこかで会えるだろう。それに……先に約束を破ったのはあちらだ。こちらが責められる謂れはない」
ウィザーモンの一見薄情ともとれるセリフにウィッチモンは考える。
先に約束を破ったのは旅人達……で、旅人たちと合流しなければウィザーモンとの二人旅。問題なし。むしろ望むところ。
思考時間ゼロコンマ四秒。ウィッチモンはアッサリと頷いた。
「ふむ……では行こうか。ウィッチモン」
「ええ!行きましょう!ウィザーモン!」
「……何をそんなに張り切って……いや……まぁいい」
こうして二人の魔術師の旅は続いていく
旅人と魔術師たちの再開はまだ先の話だ。
ちなみにその頃の旅人達。
「ウォーグレイモンやトコモン達ってどこいったんだ?隠れ家にもいないし……」
「トコモン……大丈夫かな……?」
「きっと大丈夫だと思うよ~アレ?そういや、オメガモンは?起きた時からいなかったよね?」
「さぁ……っていうかお前ら!落ち込むのはわかるけど食料探し手伝え!おいドル!キノコも持って来い!貴重な食料だぞ!ドルモンも!きっと大丈夫だから!お願いだから手伝って!……いや、できればドルの方を見張っていてくれ!そいつは隙あらばキノコを捨てようとするから!」
「食料がキノコってるー!っていうかキノコしかない!キノコはイヤー!」
「あ、ダメだよ!捨てたら!」
食料探しと人探しでなにげに危機に陥っていたりした。
しばらく書いてないと二人の性格……というか口調を忘れていて難しかったです。
まぁ、多少性格が違うかもしれませんが、そこは大目に見るか、感想にてご指摘ください。
最後に感想・評価・批評等お待ちしております。