太平洋に浮かぶとある島。その島の砂浜に怪しげな二人と二匹が座り込んでいた。
「し、死ぬかと……死ぬかと思った!」
「な、なんでこんな目に遭うの……」
あれからのことだが、旅人の白紙のカードの力によって世界を移動することはできた。問題は移動した世界である。
初めに移動した世界は巨大な木がある学園都市だった。そこで何故か魔法使いと名乗る集団と追いかけっこする羽目になったのである。
その後、必死の思いで逃げ切ってみればナムからこの世界はデジタルワールドと関係ない世界だということを告げられ、がっくりとしたのが少し前。
「貴様ァ……これで八回目だぞ!ワザとやっているのではないだろうな!?」
「んな訳あるか!……なんでできないんだろうなぁ」
「ま、まぁこういうこともあるって!」
ドルモンが旅人を慰めるが、失敗した回数はそれなりに多い。偶然やたまたまという言葉ではそろそろ片付かなくなってきている頃だ。
「八回目なんだけど?」
「う……」
“それはそれで面白そうだ、この世界でしばらく旅をしたい”と旅人が提案した時のナムの顔は、それはもう凄いものだった。
例えるならば親の敵を見つめるような……今までで一番恐怖を感じた瞬間だった。
しかも、無表情なのでかなり怖い。
「っていうかしばらく休ませてくれ。頼むから!」
「無理。さっさとする」
「いや、ほんの少しでもいいから!」
ここまで休みなく移動している。旅人としてもそろそろ疲れがたまってきている。休みを嘆願するが、その願いは取り付くまもなくナムに跳ね除けられた。
「ねぇ?ちょっとだけでも旅人を休ませてもいいんじゃ?」
「無理。さっさとしろ」
「……はい」
初めの世界移動から七回。ずっと世界を移動し続けて、未だにデジモンに関わる世界にたどり着けていない。
これは単に旅人はデジタルワールドよりも人間の世界の方が馴染み深く、イメージがそちら寄りになっているということが理由の一つなのだが旅人は気づいていない。
「思えば、あの黄色いネズミがいたとこが一番近かったよな。なんて言ったっけ?あのネズミ?」
「え?えーっと……ぴ、ぴ~?なんか雷的な……」
「ふん!出会った者の名前ぐらい覚えておけ!ゴロチュウだ!」
「それだ!」
ちなみにドルモンの大きさは世界によって変化するらしく、デジモンがいない世界では旅人達が元いた世界に準ずる大きさとなるが、デジモンがいる世界ではその世界のデジモンに合わせた大きさになるとリュウダモンが語っていた。
よって現在のドルモンは復活時よりも少し大きくなっている。
“復活時のままだったら進化してもコンパクトで良かったのに”とは旅人談である。
「無駄口。早くしろ」
「はい!すみませんでした!」
八つも関係ない世界に訪れたことに対して、何故かナムは気が立っている。
最も今回の世界ではいきなり海の上に出た上に、二千近いミサイルを迎撃する手伝いをしてからの軍隊との追いかけっこをやらかしたのでそれが原因かもしれないのだが。
「あーぁ……もったいなかったなぁ」
「まぁまぁ、またいつか機会があるって」
旅人は一人ごねる。訪れた世界の中には魔法やロボット、果ては幽霊に神、悪魔など未知の世界が広がっていて旅人の中の旅心をくすぐるものが多かったのだ。
最も大抵はデジタルワールドにも存在するのだが、旅人はそのことに気づいていなかったりする。
「まぁ、いい加減に戻りたいよな」
「だね」
旅人とドルモンはナムの方を見る。時間にして二日も経ってはいないのにひどく不機嫌である。
二人はこの空気から一刻も早く解放されたかった。
「んじゃ行くか。Set『世界転移』」
視界がぼやけて滲んでいく。転移系カードの特徴である。
ちなみに世界を渡るゲートを作る事のできるナムがゲートを作らないのは曰く、ここでは不可能だったかららしい。
“こんなことになるならランダムでもいいから初めからナムに任せるべきだった”とその場の全員が後悔していたりする。
視界が元に戻ると初めに見えたのは星空と団地である。もちろん人間用の。
「……また失敗かよ」
「そうでもない」
“失敗だ”と落ち込む旅人に幾分か機嫌が直った様子のナムが答える。
とは言っても辺りには舗装された道路に街灯、めちゃくちゃに壊された自販機と車。どう考えても人間の世界である。
「どこが?」
「この世界はデジモンと関わりのある世界。」
「どう見たって人間の世界だろ!」
「?」
“分からないのか?”とばかりに首を傾げられても困るのは旅人である。
もっともその本人の機嫌が直っていることを良しとして、旅人は休憩がてら辺りの散策を始めた。
「……旅人~お腹すいた」
「ドル……少し黙ってろ。腹が減っているのはオレも同じだ。食料がないんだ」
そんな会話をしていると、ドルモンがあるものを見つけた。それは――。
「あ、あの自販機壊れてるよ!」
「お?ホントだ。少しばかり失敬するか」
「ダメに決まっておろうが!」
とんでもない力で破壊されたような自販機。
こぼれ落ちている自販機の中身を少し貰おうとする旅人とドルモンだが、リュウダモンによって止められた。
「えー少しくらいいいじゃん」
「武士は食わねど高楊枝!どんなになっても気位を高く持たなくてはならん!」
リュウダモンのその言葉はかなりのご高説なのだが、残念ながらそのご高説は腹が減った犬には通用しなかった。
「そんなんで腹が膨れるか~!」
「そんなんとは何だ!」
あれだけの世界移動に身内の精神攻撃を食らいながらも尚、はしゃぐことができる二人を旅人は羨ましそうに見ていた。
そんな中で旅人はあるものを発見する。
「……はぁ。元気だねぇ。って……ん?」
リュウダモンとドルモンが喧嘩をしている横に存在する付近の案内掲示板。
それによるとここは――。
「光が丘?ってことは日本か?他でもそうだったけど世界が違ってもあんまり変わんないもんだな」
「そんなことない」
「へぇ?例えば?」
旅人の感想に“そんなことはない”と言い切ったナム。淀むことなく言い切ったナムに“オレとは違う見方をしているのか?”と旅人は興味が湧いた。
旅人は試しにどんなところかナムに聞いてみるのだが――。
「……」
「分からないのかよ!」
ナムは答えなかった。
久々の和気あいあいとした雰囲気に気が緩んだのだろう。旅人はつい大声でツッコミを入れてしまった。
それからのことは言うまでもない。今の時間は夜遅くで、しかもここは団地である。そして怪しく見える二人の人影に謎の二匹の生命体。そいつらの近くには壊れた自動販売機。
「自業自得」
「何がどうとか聞かないけど、とりあえず逃げるぞ!」
通報確実の事態である。約一名事情が理解できていないが、その一名以外全員が“ここにいてはまずい”と感じ取っていた。
「え?え?何が?」
「元はといえば貴様のせいだろうが!」
全員が全力でその場から逃げていく。警察に通報されていないことを切に願う旅人である。
「な、なんでいつもこう……走り回る羽目に……」
「自業自得」
「まぁ、そうかもしれないけど……って……ん?」
ようやく一息ついた時に旅人は足の下にあるものが落ちているのを見つけた。
それを手に取ると、不思議の思ったドルモンが聞いてきた。
「何それ?」
「ん~笛みたいだけど……どうしよ?」
落ちていたのは何の変哲もない笛である。
拾ったはいいがどうもない。特に役立つものでもないのである。
「……一応持っとけば?首にかかるようになってるし」
「首にかけろってか?」
旅人はとりあえず拾った笛をズボンのポケットにしまう。
“どうせなら食べ物かお金が良かった”そう思って空を見上げた時、視界の端に変なものが映った。
「なんだ?」
「どうした?顎でも外れたか?」
「そんな簡単に外れねぇよ。いや……なんかやたらとデカく見える卵が……」
空にある巨大な卵。詳しくは分からないが、大きさは数十メートルはあるようにも見える。
一方でそんな卵があると思わないリュウダモンは旅人を可哀想なものを見る目で見ていた。
「卵?とうとう幻覚が見えたか……末期だな」
「一応聞くが何の末期だ?」
「もちろん貴様の食意地のだ」
ふざけ合いはほどほどに全員が空を見上げる。そこにある旅人の言うとおりの巨大な卵らしき球体を全員が見ることができた。
しばらくしてその物体が左右に割れ、その中から緑色の怪鳥が飛び出した。
「ってまたか!」
「え?前にも似たようなことあったの!?」
「お前が寝てる時にな!」
急いで地面に伏せた旅人たちを掠るように鳥は飛んで行く。やがて空を大きく旋回した鳥は建物の向こう側へと消えていった。
どうやら狙いは旅人たちでは無いようだった。だが、しばらくして恐竜らしきものの咆哮が聞こえるようになる。
「パロットモン」
「パロット……あぁ、今のってデジモンだったのか!?」
「そう」
とすればこの聞こえる恐竜の咆哮もデジモンのモノによる可能性が高い。
訪れて早々妙なことに巻き込まれている旅人たちだった。
「で?」
「何が?」
「姫様は貴様がどうするのか聞いていらっしゃるのだ!」
「いや、なんでオレ?」
“興味はある……けど厄介事にも巻き込まれそうな気もする”この時点で旅人の心情としては見に行くと見に行かないが半々である。
関わる必要はない。むしろ関わったほうがマズイことになる可能性もある。
「姫様が聞いておられるのだ!早くしろ!」
「だからなんでオレ!?」
どうして自分に聞くのかと聞き返し、決断を先延ばしにする。しかしながら、世界は優柔不断な者に優しくない。
パロットモンが団地の建物を飛び越えてこちらに来たかと思うと、曲がり角から二メートルはあろうかという黄色い恐竜――アグモン――が現れた。
「アグモンか?……デカイ。っていうかこれって位置的に……!?」
「マズイ!」
カードを取り出す間もなく、転がって避ける旅人とドルモン。
ちなみにナムたちはさっさと避けていた。いつものことだが、無駄に手際がいい二人である。
「戦ってる……?とりあえず逃げるぞ!」
「了解~!って……旅人!あれ!」
「アレ……?って何してんだあいつら!」
逃げようとした矢先にドルモンが指した方向にはアグモンと小学生にもなっていないような小さい子供が二人、アグモンの傍にいた。
おそらくは兄妹なのだろう。片方の兄らしき子供はゴーグルを首にかけており、もう片方の妹らしき子供を説得しようとしているように見える。
「あのアグモンはアイツ等のパートナーか?」
「そんなことより危ないよ!」
ドルモンがいうより早くパロットモンの頭の部分の角が発光する。
“このままではあの子供たちが危ない”それを悟った旅人とドルモンは一目散に子供たちの方へと駆ける。
しかし、旅人がたどり着くよりも先にパロットモンの頭から一筋の稲妻が駆けた。
「コロ、コロモーン!」
「ひかり!う、うわぁああああ!」
稲妻はアグモンにも、あの兄妹にも当たらなかった。だが頭上の歩道橋に当たり、歩道橋が崩壊し始める。
頭上から落ちてくる瓦礫。当たる。そう感じたのは兄妹のどちらの方か。あるいは二人ともか。その光景は人生の十分の一も生きていない子供が死を悟るには十分な光景だった。
「っち!set『転送』っと……無事か!」
「でもアグモンの方が!」
いつまでたっても訪れない痛みに、兄妹は恐る恐る目を開ける。すると二人の目に必死な表情の見知らぬ人と見知らぬ犬が写った。
間一髪で旅人の『転送』によってあの兄妹は旅人の元に引き寄せられたのだ。引き換えにアグモンの方は間に合わずに下敷きになってしまったのだが。
「分かってる!ドルはパロットモンの方を頼む!set『進化』」
「ドルモン進化――ドルガモン!分かった!」
成長期から成熟期へ。成熟期へと進化したドルガモンはそのままパロットモンと戦闘を開始する。
一方で旅人は瓦礫の下敷きになっているアグモンを助けるために行動する。
その間、目の前で起こった一連の行動に目を白黒させているのは兄妹二人ともである。
「え……お兄さんたちは?」
「ん……まぁ、通りすがりの人だから。心配しなくていいよ。それより今は……」
「コロモン!コロモン!」
「っ!そうだ!お兄さん!コロモンがまだあそこに!」
妹の叫ぶ姿を見て今がどんな事態だったのかを思い出した兄は、旅人に懇願する。
あの瓦礫の下には二人が今日出会った友達がいるはずなのである。
「コロモン……?アグモンじゃなくてか?」
「アグモン?」
「……まぁいいや。Set『……って危ない!」
カードを使おうとした時に盛り上がった瓦礫を見て急いで二人を抱えて逃げる旅人。
直後、巨大なオレンジ色の恐竜が瓦礫の中から出現し、頭上の瓦礫を辺りに振り飛ばした。
「……進化した?」
「コロモン……?」
呆然とその恐竜を見上げる旅人と兄妹二人。
その恐竜は三人に構わずドルガモンとパロットモンの方へと突撃する。
ちょうど虚を突かれる形となったパロットモンとドルガモンはその恐竜に突き飛ばされて、地面に激突した。
「って、っちょ!っと待って!」
「グォオオオオ!」
「キシャァアアアアアアア!」
必死の呼びかけで離脱したドルガモンを、知らぬとばかりに戦闘を始めるパロットモンと恐竜。
しかし、パロットモンの方が地力が勝っているのか、次第に恐竜が押され始めた。
「『パワーメタル』大丈夫か!?」
そんな恐竜を見ていられずにドルガモンは上空からの一撃でパロットモンを地に沈め、恐竜を助ける。
「グァアアアアア!」
「って!ちょっと!待って!オレ味方!」
だが、ドルガモンは恐竜に話しかけた瞬間、恐竜に襲いかかられた。
突然の出来事に驚いて上空に退避するドルガモンだが、恐竜の口から吐き出される火炎弾によって追撃される。
しかし、恐竜もドルガモンも忘れていた。この場で一番の敵は誰なのかを。
「っ!マズイ……ドル!っち……間に合わないか!set『防壁』」
「キシャァアアアアアアアア!」
怒りに狂ったパロットモンの角が発光する。先ほどの雷撃と同じ兆候。
旅人がいち早く気づいて、ドルガモンに呼びかけるがドルガモンは上空高くである。
旅人たちは主に狙われていないとはいえ、余波は来る。この幼い兄妹を守るために『防壁』を使う。
その直後、起き上がったパロットモンは、恐竜に稲妻を放った。
ドルガモンに気を取られていた恐竜はその一撃を避けることができるはずもなく。その稲妻の直撃を受けて倒れ付した。
「あぁっ!コロモン!コロモーン!コロモンが!コロモンがぁ~!」
「ひかり!待てっ!」
「おい!お前ら!ドル、頼む!」
二人の子供は稲妻を受け、倒れ付した恐竜へと走っていく。
一方で旅人はドルガモンへ指示を飛ばし、パロットモンへの足止めを頼んだ。
「コロモン……起きて!コロモン!」
「コロモン!コロモン!」
「う……うわぁああん!ゴロモーン!」
「ちょっと待て!泣くな!え……っとほら!笛だよ!ピーピー鳴るよ!」
いくら呼びかけても起きない友達を前に兄妹は揃って泣き始めた。
一方で泣き出した兄妹に焦った旅人は、カードを使うことも忘れて先程拾った笛を取り出して泣き止ませにかかる。
「コロ……モン……ケホッケホッ」
「おいおい!大丈夫か!?ほ、ほら~笛だよ?」
泣きすぎたのか、咳をし始める妹にいよいよ焦りが止まらない旅人。
カードを使って恐竜を回復させたのならば一番早い解決のようにも思えるのだが、旅人は焦りのあまりそれに気づけていない。
「うっく……えっぐ……お兄さん……それ……」
「え?この笛?」
「うん」
ようやく兄の方からの反応に喜べば興味をもたれたのは笛の方であった。
だが、旅人的にはこの状況が打開されるのならばドンとこいである。
「ひかりの……笛……」
「え?これおま……じゃなくて君たちのなの?んじゃあ返すよ」
「……」
旅人から笛を受け取った兄はしばらくそこで黙り込んだ。
辺りには未だ戦っているパロットモンとドルガモン。
泣きじゃくって咳き込んでる妹。
そして旅人である。
「はぁっ……ん!」
兄はいきなり息を吸い込んで思いっきり笛を吹いた。その音が友達に届くと信じて。
甲高い笛特有の音が辺りに広がる。
笛の音が止んだとき……恐竜が目を覚ました。
「グァアアアアアアア!」
「コロモン……撃て!」
撃て。果たしてその言葉を認識していたのか。
その言葉と同時に放たれた恐竜の炎弾はパロットモンに直撃。
直後、光が辺りを包んだ。
「アレ?」
光が晴れた時には恐竜もパロットモンもいなくなっていた。
そのことに気づいた旅人は“終わったのか?”と辺りを見渡す。
気がつくとたくさんの子供らしき人影が辺りの建物の中からこちらを見ていた。思わず旅人は冷や汗が出る。
「……これってオレたちのせいになんないよね?」
「自業自得」
「今回は流石に違う……っていつの間にかナムたちが居るのはなんでだろうな?」
いつの間にか旅人の背後にいたナム。
一方でリュウダモンは兄妹たちを相手している。
「コロモン!どこなの……コロモーン!」
「だからアレはコロモンではなく、グレイモンだと言っておろうに!」
「コロモーン!コロモーン!」
「聞いておる!?」
いつもの嫌味がない。さすがのリュウダモンでも子供は雑に扱うことはできず。
リュウダモンは子供を相手にするのは苦手らしかった。
「……次の世界移動はナム……よろしく」
「分かった」
「ってもう!?」
いきなりゲートを開いたナム。驚く旅人を尻目に“早くしろ”という視線を投げかけてくる。
ついでにパトカーのサイレン音も聞こえてきた。
「やばい……んじゃ、元気でな?」
それだけを兄妹たちに言うと急いで旅人はゲートへと突入する。リュウダモンもその後に続いて、ナムも入ろうとした時――。
「待って!待って~!」
一人忘れ去られていたドルモンがゲートに飛び込む。それを見届けたナムはため息を吐いてゲートに飛び込んだ。
ちなみにナムのゲートは世界だけではなく、時間もランダムだということを旅人が聞かされるのはこのすぐ後である。
はい。というわけで番外編でした。今回の世界は果たしてどこだったんでしょうか!?まぁ、バレバレですけどね。
これで番外編は終了。次回から第三章へと入ります。ただいま鋭意執筆中です!