まぁ、なにはともあれ第三章開始です。
第二十七話~祭りの街~
気がつくと暗闇の中にドルモンはいた。
「―――?」
おかしい。今自分は確かに、“ここは?”と喋ったはず。
だというのに声が出ない。否、出せない。
「――――!――――!」
気がつけば自分の手があるであろう場所には何もない。口も。足さえない。
先程までは確かにそこに存在していたのに。まるで自らの体が闇に溶けていったかのように見えなくなった。
「――――――――!――――!――――!」
いくら叫んでも声は届かない。
闇の中、自分の意識はあっても自分の体はどこにも存在しない。やがて体の感覚さえ消え始める。
「――――!――――!――……」
消える。何もかも。
やがてそんなことを考えている自分の意識さえもまるで闇に溶けるかのように、眠るかのように薄れていく。どうしようもない恐怖に支配される。
知っている。この感覚を。間違いなくこの感覚は――。
「う、うわぁああああ!」
目が覚め、そして気がつく。良かった、夢だったと。
軽い溜息を一つ、ドルモンは起き上がる。別にドルモンでなくても大抵の者は悪夢を見たあとでもう一度眠る気になどなれない。
だがそこで――。
「?」
おかしいと。
すぐそばで寝ているはずの旅人がいない。それにナムもリュウダモンも。怪訝に思ったドルモンが辺りを見回すが誰もいないし、気配もない。
それだけではなく辺り一帯が……まるで終末風景の如く廃墟となっている。
「おーい!誰か~!旅人~ご飯~!」
試しに呼んでみるが返事がない。ドルモンはそこで違和感に気づく。自分の見ている風景が普段より十倍以上高い。急いで体中を確認するが
「おーい!旅人~ナム~リュウダモン~!ん?ん~……っぺ!」
だが、そこで口の中――正確には歯の隙間――に気持ち悪い食感があるような気がして思わず吐き出してしまった。
“もったいないなぁ”と若干貧乏臭いことを考えながら吐き出したものを興味本位で見る。食感はともかく
「一体何……え……?」
ジッと見つめながらも、口から出た赤いモノにしばらく気がつかなかった。いや、もしかしたら無意識に気がつくことを拒んでいたのかもしれない。
口から吐き出されたソレ。ソレは――。
「……旅人?」
それは首だけとなった旅人やナム、リュウダモンの死体だった。
「あ……ぁあ……うわぁああああああああああああ!」
あまりの現実に絶叫して駆け出すドルモン。
ドルモンは気づいていない。自分の姿がドルモンではなく、ドルゴラモンによく似た拘束具で包まれた屍の竜――デクスドルゴラモン――となっていたことに。
無意識下でデクスドルゴラモンこそが自分の姿だと思っていたことに。
「うわぁああああああああああ!」
「……ドルうるさい!」
「イテッ!」
ドルモンは絶叫しながら飛び起きた。
ちなみにドルモンが起きた時の絶叫は近くで寝ていた旅人の耳にクリティカルヒット。叩き起された旅人は寝ぼけながらもドルモンを殴って黙らせた後、再び眠りについたのだった。
「はぁ、はぁ、またあの夢か……」
最近よく見る夢。自分が死ぬ感覚を体験する夢と旅人達が死ぬ夢。
二つの――まさに悪夢と呼べる――夢を日ごとに見ていたドルモンだったが、今日は二連続しかも、一つ目の悪夢から助かったと安心させてからの二つ目の悪夢。
まさかのダブルパンチである。
「……眠りたくないな~」
とは言いつつもこういう場合たいていの者は気がつかない間に寝ている。ドルモンも例に漏れず気がつかない間に眠っていた。
ちなみに今度は悪夢を見なかった。
街の中央に綺麗に咲く巨大な桜。それを取り囲むようにして開かれるさまざまな露店。昼間から空に咲く花火……そしてそれらに惹かれるように集まり、騒ぐ大量のデジモンたちが街を賑わしていた。
「ふーん……じゃあ、一ヶ月くらい世界移動はできないわけか」
「そう。しばらくはこの世界で」
現在、そんな街に旅人たちはいた。
ナムのゲートによってこの世界に来たのはいいが、生憎とこの世界も旅人の元いた世界ではなかった。
ついでとばかりに世界を移動するほどのゲート作成は連続でできないと聞かされて、しばらくはこの世界に滞在することになったのである。
ちなみにナムたちと一緒にいる間は二度とカードを使った世界移動を旅人はする気はなかった。
もうあんな空気はゴメンなのだ。
「旅人~あれ食べたい!」
「金がない。諦めろ」
「え~!」
ドルモンは既に露天に夢中で役に立たない。
最も初めての祭りにテンションが上がっているのは旅人も同じである。さっきの会話中ずっとソワソワしていた。
「おうおう!ニーチャン!ネーチャン!フェスティバルゾーンは初めてかい?」
「……え?あ、あぁ。フェスティバルゾーン?」
そんな旅人たちの会話にいきなり割って入ってきた、オヤジを体現するかのような丸い玉に手足がついたデジモン。あと、どうでもいいことだが酒臭い。
「おう!このフェスティバルゾーンはまさに祭りの国!近頃はバグラ軍とやらが他のゾーンを荒らしているらしいがそんなこっちゃかまいやしねぇ!まさに祭りでハッピーなゾーンだ!」
「お、おぉう。そうか」
「そうだぜぇ!んじゃ!じっくり楽しんでいってくんな!俺ァこの後のメインイベントの手伝いがあるんでなぁ!あっとそうだ!俺ァナニモンだ!まぁまた縁があったらよろしく頼むぜ!」
暑苦しかった。ただひたすらに暑苦しかった。
だが、ナニモンからとりあえずここの世界についての情報が少しは得られたので良しとする旅人である。
“せっかくなのでこの祭りを楽しもうか……”などと考えていると少しイライラしているようなナムが目に入った。
「どうした?」
「こういうワラワラしているの。苦手」
「ワラワラって……そんなゴキブリみたいに……」
「貴様ァ!姫様をゴキブリと申したか!?」
「そんなこと一言も言ってねぇよ!」
相変わらずのリュウダモンにツッコム旅人だが、ナムの方はそんな余裕はなさそうであった。
街外れの宿で休んでいる。とそれだけを残してナムとリュウダモンはどこかに消えた。
「あいつらってイマイチわかんないな」
「あれ?ナムとリュウダモンは?」
「人ごみが苦手なんだと」
「へーリュウダモンってそんなこと気にしないと思ってた」
正確にはナムが気にして、リュウダモンは付き添いである。がいちいち訂正するのも面倒なので旅人はそのドルモンの勘違いを放っておくことにした。
「しっかし……いいなぁ。こういう雰囲気」
「だよね~。お金があって食べ物とか買えたらもっと良いんだけど……」
「いくら言ってもないものはない」
どこか期待する目で旅人を見つめるドルモン。言外に金よこせと言っているのであるが、残念ながらその余裕は旅人にはない。
世の中は無情なのである。
「……風情があるよな」
「ちょっと違う気がするけど……まぁね」
「最近はいろいろと余裕なかったからなぁー」
“最近の忙しさにこういう旅の醍醐味を忘れかけていた。余裕って大事だな、うん”と一人頷いている旅人。
だが、旅人がふと気がつくとドルモンがいなかった。
「あれ……ドル?おーい、迷子かー?」
辺りを見回すがデジモンだらけでドルモンの姿は見えなかった。
「ふーやれやれ……探すか。おーい!」
声を上げて探すがどこにも見当たらない。
最後の会話からそう経ってはいないので近くにはいるはずなのだが……。
「あ、旅人~!も~迷子になっちゃダメじゃん!」
「……」
“迷子になったのはお前だろ”と言いたい旅人であったが、状況的にはどちらが迷子になったのかわからない。寸でのところででかかった言葉を飲み込んだ。
一方で、そんな風に若干イラついている旅人を無視してドルモンはその手に持ったチラシを旅人に手渡した。
「ねぇねぇ!コレやろ!これ!」
「ん?スタンプラリー?えー嫌だよ。メンドくさい」
チラシに書かれたスタンプラリーという文字。よく見ると会場はこの街ではなくこの街の外。
しかも地図を見るに十キロ近くある。旅人はそんなもの面倒くさくてやっていられなかった。というかそんな場所でのイベントなど旅人でなくても面倒になるシロモノであろう。
「え~!やろ~!ね~!」
「お前復活してから幼児退行起こしてないか?」
普段のドルモンならば絶対にめんどくさがるだろうと不思議に思っている旅人はその時、不意にチラシのある部分が目に入った。
――ゴールまで辿りつけたものは豪華賞品をプレゼント――
「お前……そうか、これか。これが目的か」
「……」
“バレた”と冷や汗を垂らしながら明後日の方向を向くドルモン。
旅人の問い詰めるような視線を前に口笛まで吹いている。吹けていないが。
「はぁ。やっぱり面倒……」
「待って!待って!そっちもそうだけどその下!下!」
「下……?」
ドルモンはチラシを捨てようとした旅人を慌てて引き止め、チラシのある箇所を指差す。ドルモンが指を差した箇所――先ほどの文字の数行下――にはこうとも書かれていたのだ。
――
「……そうだな。たまにはいいな。行こうか!」
「よしっ!それじゃ行こう!」
こうして旅人とドルモンはスタンプラリーに参加することとなる。
未だかつてゴールした者のいないスタンプラリーに。理由は言うまでもなく、食意地である。
そんなこんなで二人がスタンプラリーの受付場に着くと受付場の机には見たことのある
「おう、ニーチャン達!このスタンプラリーに参加するのかい!?」
「ああ。えっと……受付は……?」
「おう!コイツを持って行きなぁ!んで、そこの出口からスタートだァ!」
てっきり受付で何かを記入するものだと思っていた旅人はナニモンから渡された紙に拍子抜けする。
「え?他にないのか?」
「ないない!なんにもねぇよ!あぁ……分かっていると思うが、この先からは……自己責任だぜぇ?ってあれ?ニーチャン?ちょっと、まだ説明……!」
あくどい顔で告げるナニモンをウザったく感じた旅人はドルモンを連れてスタートに向かう。ちなみにナニモンのセリフの続きはこうだった。
――なんせこのイベントはこのフェスティバルゾーン特製のイベントだからなぁ!ゴール到達者ゼロの未知のイベント!何があるか……行ってからのお楽しみってね!――
二人がスタートと書かれた扉を抜けるとそこは別世界だった。
「っていうかここどこだよ?」
「さぁ?」
抜けた先には木で出来た迷路。天井は低く、壁が天井まであるためそれなりに圧迫感がある。おまけに狭い。ドルモンが成熟期であるドルガモンに進化しただけで身動きが取れなくなりそうな程である。
「扉もなくなってるし……迷路か?」
「あ、旅人。あそこに机があるよ!」
「ホントだ。なになに……紙をかざせ……?」
すぐそばには小さめの木製机に紙をかざせという文字が刻まれていた。とりあえず指示に従ってナニモンから受け取った紙を机にかざす。そうすると紙に書かれた八つの欄。そのうちの一番上にあるスタートと書かれた欄にクリアという文字が浮かび上がった。
その後、目の前の空間にはお題:部屋からの脱出という文字が浮かび上がる。
「なるほどね。この紙と文字はそういうことか。スタンプでもなんでもないじゃんか」
「オレはスタンプ自体見たことないんだけど……」
「あれ?そうだっけ?まぁ、とりあえず行こうか」
無駄口を叩きながら一つ目のポイントを後にする。
とりあえず行動しようかと、一つ目の角を右に曲がり、二つ目の角を左へと曲がる。それを何回も繰り返す……が一向に景色が変わらない。
「……」
「……」
「……あーもう!いつまで続くんだこの風景!」
「そろそろ出口ってあれ!」
耐え切れなくなった旅人たちの前に飛び込んだ机。“いよいよ出口か!”と二人はにべもなく飛びついて紙をかざした。
「……なんにも起こんないね」
「起こんないな」
「……旅人……ここって……」
「言うな。ドル」
紙をかざすが、紙に変化はない。
考えられることはただ一つ。入口に戻ってきたのだ。
「いっそのことドルゴラモンで吹き飛ばすか……?」
「え?オレやらないよ!」
物騒な方向へと思考が流れている旅人を他所にドルモンは叫ぶ。だが、もちろんそんなことで事態が改善することはない。
「それじゃあどうするんだよ?何かいい案あるか?」
「ない」
とりあえずこのままリタイアも癪なので再び歩き始める。
だが、何周しても元の場所へと戻るだけだった。
「……使うか。Set『解析』」
「……」
“もうちょっと早く使ってくれても……”とそんな視線を旅人に向けるドルモンだが、その視線は旅人に黙殺された。
ちなみにカードをここまで使わなかったのは単に旅人が意固地になっていただけである。
「どうだった~?」
「……マジか」
ドルモンの耳に旅人の唖然とした声が聞こえた。
「……ない」
「え?なに?」
「……じゃない」
「ゴメン。聞こえない」
「これは迷路じゃない!」
大声で怒鳴る旅人。それはどちらかといえば自身に向けられた怒りでもあった。
“騙された。もっと早く使っていればこんなことにはならなかったのに!”とそんなことを考えながらで旅人は二枚のカードを取り出す。
「え?迷路じゃないって……あの~旅人……?そのカードでどうするつもり~?」
何か突拍子のないことを起こすような気が……。
カードを取り出した旅人にそんな嫌な予感を感じながらもドルモンは旅人を止めることはしない。ドルモンも今のこの状況には辟易しているのだ。
「set『武装』……オラっ!」
『武装』のカードでハンマーを取り出した旅人はそのまま壁を殴り始める。一発、二発と打ち続けるうちに壁は壊れて……そこから階段が現れた。
「……なにこれ?」
「……ここは迷路じゃなくて、ただ階段がここにあるってことを示していただけだった」
「示す……?ってまさか?」
ドルモンの言葉には答えずに階段を上り始める。慌ててドルモンが追ってくるが、旅人は気にしない。
絶対に最後までいって、豪華賞品とタダ券を手に入れてやる。
今の旅人はそのことしか頭になかった。
ちなみにこの階は迷路タイプの廊下で文字が書かれており、それぞれがワープするようにつながっているというたいへん手の込んだ面倒くさいものである。
ちなみに廊下で書かれていた文字は――階段は入口の壁の向こう。壁を壊してね。――である。
というわけで第三章はクロスウォーズ編です。
え?前回の世界は何だって?あれはそれです。
今の構図としては第四章以降か、続編(仮)に回すか……となっております。
期待していた人は申し訳ありません。
というわけで第三章もよろしくお願いします。
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