【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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第二十八話~スタンプラリーという名の面倒事~

 さんさんと降り注ぐ太陽と目の前に広がる広大な海。

 

「暑い……」

 

「……」

 

 旅人とドルモンがスタンプラリーを始めてから一週間が経過していた。だが、旅人たちはまだスタンプラリーを終えることができていない。

 あの後、奇妙な迷路モドキの部屋をから出ると――おそらくワープした――森の中だった。そこでは道具も何もないのに一日以内に木小屋を建てろという戯けたお題が出された。

 その次の部屋は何故か寺で、寺中を掃除しろというこれまた巫山戯たお題だった。その後も似たようなお題が続いて、現在は六つ目の部屋。この部屋を除けば後一つお題をクリアすることでこの地獄のようなスタンプラリーを終えることができる。

 

「やっと……やっと!ここまで!」

 

「……み、水……海……」

 

 現在の部屋は真夏の海水浴場である。気温は軽く三十五度は超えている。旅人はまだ平気だがドルモンは毛皮がある分、死にそうになっている。

 

「ドル!頑張れ!もうちょっとだから!あとちょっとで終わりだから!」

 

「……いや、もう無理~!水~海~!」

 

「ダメだって言っているだろうがー!」

 

 今回の部屋のお題は六時間水に触れないこと。普段ならば平気だがこの状況下で、しかも目の前に海があるのに水に触れてはいけないというのは拷問に近い。

 

「先っちょ!先っちょだけ!」

 

「先っちょでもダメだろうが!ここまで来て失格になってたまるか!」

 

 海に飛び込もうとするドルモンを旅人は羽交い絞めにする。その力は凄まじいものであり、少しづつだが旅人を引きずりながら進んでいく。

 

「っぐ……set『捕縛』ちょっと黙ってろ!」

 

「むぐっ!ムガ、モゴ……み、ミフ……」

 

 『捕縛』によって生えた鎖がドルモンを全身グルグル巻きにして動きを封じる。

 “やれやれ、これで少しは楽になるか……こっちも暑くてイライラしてるのにメンドくさい事するなよ”とそんなことを考えながら、旅人は地面に転がっている物体(ドルモン)を椅子にして休憩する。

 

「あと……二時間か……」

 

「モガモゴ……モガモガ……」

 

「……っていうかナムたち心配してるかな?」

 

 口に出して考えたことを旅人は一秒で頭から消し去る。どう考えても、あの二人組は旅人たちのことを心配などしそうにはなかった。

 

「……あともう少し……話し相手がいないだけでこんなにも時間が過ぎるのが長いとは……。なぁドル?」

 

「……」

 

「ドル?」

 

「……ぅ……ぅう」

 

 喋れなくとも返事を期待した旅人だったが代わりに返ってきたのはうめき声だ。

 “暑さで可笑しくなったか?”と心配になる旅人だったが、いくら心配してもドルモンの様子は変わりそうになかった。

 

「おーい?大丈夫か?……いかん、外すか?」

 

「うぉあああ!」

 

「うわっ!」

 

 突然の咆哮。

 その咆哮に旅人が驚いて離れたその瞬間、ドルモンを縛っていた鎖は弾け飛んだ。

 “何が起こった?あの鎖はドルが砕けるほどの強度じゃないんだが”と旅人は目の前で起こったことに理解ができずに、唖然とする。

 だが、旅人には唖然としながらも今やるべきことは理解できていた。

 なぜなら――。

 

「た~び~と~!」

 

「あ、オレちょっと用事を思い出した。それじゃ!」

 

 怒り狂ったドルモンがゆったりとこちらに向かってきていたからだ。

 逃げようとする旅人を凄まじい速さでドルモンが捕まえる。恐る恐る振り返った旅人は凄まじい雰囲気のドルモンを見た。もう単独で進化できそうな程である。

 

「……」

 

「あ、机出た!よし、早く次の部屋に行こうー!」

 

 そんな時、お題に書かれた制限時間をクリアしたことで次の部屋への扉と紙にお題クリアの印をつける机が出現する。

 旅人は急いで机に紙をかざして印をつけると扉めがけて走り出した。

 

「ちょっと待て~!『ダッシュメタル』」

 

「うわ危な!掠った!今掠ったぞ!」

 

「当たれ~!」

 

「無茶言うな!お前ほんとに遠慮しなくなったな!」

 

 どうも復活後は前以上に遠慮しない性格になっている気がする。

 背後に迫る大量の鉄球を避けながら旅人はそんなことを考えるのだった。

 

「おい!やめろバカ!扉に当たるだろうが!」

 

「『ダッシュメタル』大丈夫!あ……」

 

 鉄球の一つが扉の端に当たった。幸いなことに扉本体は無事だったが端が少し欠けている。

 

「……」

 

「あ、扉あるね……次行こうか」

 

「全部なかったことにしたな……」

 

 “あはは~”と冷や汗をかきながら扉に向かって歩き始めるドルモン。扉は欠けはいるがまだ扉本来の役割は果たせそうだ。

 “ちょっと本気で寿命が縮んだな”と割とドキドキしていた旅人はドルモンの後を追って扉をくぐったのだった。

 

「……帰ってきたのか?」

 

「いや、おかしいでしょ。お題があるし、誰もいないし」

 

 そんなこんなで扉をくぐった先にあったのはフェスティバルゾーンの街中だった。

 “一瞬戻ってきたのか?”と旅人の頭に浮かんだ考えをドルモンが否定する。街には誰もおらず、あの賑やかな雰囲気はどこにもなかったのだ。

 

「お題?どこに?」

 

「あそこ」

 

 ドルモンが指差した頭上を見るとお題:真実を探せと光る文字が表示されていた。

 

「なんだよ……真実って?」

 

「さぁ?どうするの?」

 

「とりあえず適当に動くか」

 

「だね。……あ!」

 

 だが、それだけでは分からない。

 “ヒントでもないものかな”と二人が街を放浪しているとドルモンがあることに気づいた。

 

「どうした?」

 

「あれ!あれ!食べ物~!」

 

「……ほんとだ!ラッキー!」

 

 街がそのままということは店もそのままということで。

 ドルモンの視線の先には店の商品――食べ物類――がそのまま放置されていた。

 

「少しぐらいもらってもバレないよね!」

 

「多分!んじゃ少しばかり失敬するか!」

 

「あちっ……よし、いただきま~す!」

 

「んじゃ、オレも」

 

 手近なところにあった焼きそばを二人は手で掴み口に入れる。口に入れて咀嚼して。約一週間ぶりのまともなご飯に二人は涙が出なかった。

 

「味が……」

 

「……ない」

 

「そう、うまいこといかないか。はぁ」

 

「うぅ。お店……」

 

 試してみたが、結局どの店の商品も味がなかった。

 金魚すくいでは金魚は水から出した瞬間に溶けて消えた。どうやら、この仕掛けではとことん祭りを楽しませないようにしているらしい。

 

「……うが~!絶対にここ出て祭りを楽しんでやる~!」

 

「おい、待てって……ん?」

 

 感情のままに駆け出したドルモンを引き止めようとした旅人だが、ふと視線を感じて振り返るがそこには誰もいない。

 

「……気のせいか?」

 

 前に向き直った時、ドルモンはすでに消えていた。

 しょうがなしに旅人は本題に戻って、真実とやらを探す事にする。

 旅人はどこかへ行ったドルモンを放っておくことにして、そこらへんを調査するが驚く程何もなかった。

 

「……どうしろってんだよ……こういう時にウィザーモンとかいればなぁ……なんとかしそうなんだけどなー」

 

 旅人は遠くの世界にいるはずの旅仲間を思い浮かべながら辺りを探るが、ないものねだりしたってしょうがない。

 いたずらに見て回ってもどうしようもない。というか今までの傾向からいって適当にやってもしょうがないだろう。

 という事で、旅人は無い頭で必死に考えることにする。

 

「だいたい誰がこの仕掛け作っているんだ?そもそも……あれ?そういえば四回目くらいの部屋で……」

 

 四回目の部屋でのお題は誰もいないハズの部屋でお馬さんごっこをしながら時間内走れというふざけたものだった。あの時の旅人はイラついていたので深く考えなかったのだが――。

 

「もしかしてどっかで見ているのか?」

 

 お馬さんごっこなどという二人組でなければ意味がない上、誰も得しないお題。

 しかし、それを誰かが見ていたとしたのならば。見ることで楽しんでいるとしたら話は別だ。

 

「いい性格してるな。……ってことはさっきの視線はソイツか?だったら真実よりもそっちを探す方が早いか」

 

――うわぁあああ!オヤジ~!――

 

――っぴー!?――

 

 その時、一通りの考えをまとめて歩き出そうとした旅人の耳にどこかで聞いたような声と知らない声が聞こえてきた。

 

「……あっちか」

 

 

 

 

 

 時を少し遡って旅人を引き離したドルモン。やる気になったのはいいが、何をどうすればいいのか分からずにただ歩き回っている。

 

「……真実ね~。真実~真実~出ておいで~」

 

 もちろんそんな言葉で出てくるわけがない。

 

「う~お腹減った……。真実さっさと出てこいよ~!」

 

 歩きまわるうちにそこら辺にある店に並べられている食べ物が目に入る。

 だが、いくら食べても味がしないどころか腹も膨れないものを食べる気にはならないだろう。

 

「……今ならキノコも食べれるかも……いや、やっぱりキノコは嫌だ」

 

 全部探せばとりあえず何か見つかるだろう。

 メンドくさくなったドルモンはそう考えてそこら辺にある店を全部家探しすることにした。

 

「無いかな~。無いよね~」

 

 所構わず物色し始めるが、何も出てこない。

 と言っても大したことはしていない。唯一やっていることといえば強盗まがいのことである。

 

「あ~もう!疲れた!ちょっと休憩!」

 

 “疲れた”とドルモンは言っているが、実際は飽きたというのが正しい。

 ゴロンと寝転がってドルモンは空を見上げた。

 

「だんだん眠くなってきたな~。……ちょっと寝るか~。……グゥ」

 

 眠気に襲われたドルモンはやがて散々散らかした店先で寝始める。

 どうでもいいことだがこの状況を第三者に見られた場合、十人が十人強盗と間違える光景であることには間違いない。

 

「……」

 

「寝たかぁ?へっへっ……このペン型爆弾で……」

 

 そんな時、“案外馬鹿だな”と眠りについたドルモンへと近づく一つの影。

 手にペンらしきものを持っている。その影は抜き足差し足でゆっくりとドルモンを起こさないように近づいて来ていた。

 

「……。グゥウ……」

 

「……?」

 

 だが、だんだんと異常な雰囲気を纏い始めたドルモンを見てその影は動きを止める。

 寝ているはずの者が纏い始めたその雰囲気にその影は不安になったのだ。

 

「寝ているんだよな?」

 

 勇気を振り絞って今一度近づき、ペン先をドルモンの顔へと近づけていく。

 あと二センチ。あと一センチ。

 だがそのペンがドルモンの顔に接触しようとした瞬間。ドルモンが目を開けた。

 

「……」

 

「……」

 

 目を開けたままドルモンとその影は見つめ合ったまま動かない。

 否、動けない。ずっとこの雰囲気が続くかのように思われた直後。

 

「うわぁあああ!オヤジ~!」

 

「っぴー!」

 

 突然叫び始めたドルモンに驚いてその影――ナニモン――は驚き飛び跳ねる。

 ついでにその手に持っていたペンらしきものが爆発して……周辺の店と家を吹き飛ばした。

 

「……いてて……一体何が……?」

 

「ぴー……」

 

 ドルモンが瓦礫から這い出ると、目の前にはいるのはさっきまでいたナニモンではなくピンク色の毛玉に手足と羽が生えたデジモン――ピッコロモン――だった。

 

「……つんつん」

 

 そんなピッコロモンは目を回しているらしくドルモンがつついても動くことはなない。

 

「……どうしよ?」

 

「どうしよ?じゃないだろ。何があったんだ?」

 

「あ、旅人。いや、ちょっと……ナニモンがピッコロモンで……ペンが爆弾で……」

 

「訳分からん」

 

 混乱していて説明下手なドルモンから聞く気が失せた旅人は何か知っていそうなピッコロモンを捕まえてしっかりと縛り、逃げることができないようにする。

 

「ぴっぴっぴー……っぴ!」

 

「お?起きたか?」

 

「っぴ!?ピーピー!」

 

「喋れないのか?」

 

「いや、喋らないだけでしょ」

 

 起きたピッコロモンはしばらく黙り込んでいたり、妙な言葉でこの場を逃れようと足掻いていたりしている。

 だが、旅人たち二人にジッと見つめていることに気づいて、これ以上逃げられないと悟ったのか。しばらくしてからゆっくりと喋り始めたのだった。

 

「ふっふっふ!よくナニモンとして化けていた私を見破ったっぴね!ちょっと順番が違うッピがまぁいいっぴ!」

 

「何が?」

 

「私はこのスタンプラリーを通して私はお前たちの力を測っていたっぴ!噂のデジクロスとやらは見られなかったっぴが……まぁいいっぴ!受け取るっぴ!このゾーンのコードクラウンだっぴ!私よりお前たちジェネラルが持っていた方がきっといいっぴ!」

 

「……ジェネラル?」

 

「……デジクロス?」

 

 バレたことのショックゆえか、ピッコロモンは旅人たちが気づいていなかったことまでネタバレしていることに気がついていない。

 ジェネラルにデジクロスそしてコードクラウン。きっとこの世界固有のものなのだろうが、残念ながら旅人たちはこの世界の存在ではない。どうやらピッコロモンは旅人たちのことを誤解しているようだった。

 

「っぴ?……惚けなくてもいいっぴよ!バグラ軍と争うジェネラル達は人間って聞いたっぴ!お前がそのジェネラルっぴ!」

 

「違うけど」

 

「っぴ?……ぴー!?」

 

 旅人の一言でようやく自信が勘違いしていたことに気づいたピッコロモンは奇声を発した。

 そんなこの世の終わりとでも言うような奇声を発したピッコロモンが落ち着くのを待って話を聞いたところ、やはり旅人たちをそのジェネラルとやらと勘違いし、力試しの為にこのスタンプラリーを仕組んだとのことだった。

 

「はぁ。なんかドッと疲れが……」

 

「オレも……」

 

「で……勘違いだったんだろ?ならこのコードクラウンとやらは返すよ」

 

 持っていると面倒事に巻き込まれそうだし。

 旅人は喉から出かかったその言葉を飲み込み、先程受け取ったSDカードらしきものが入っている結晶をピッコロモンへと突き返した。

 

「……まぁいいっぴ!お前たちが持っている方がいいっぴ!」

 

 旅人たちの返答に明後日の方向を向いていたピッコロモンは何かを考えていたが、やがて旅人に向き合うと、旅人からのコードクラウンの返却を拒否。そのまま旅人にコードクラウンを返した。

 

「……押し付ける気だな?」

 

「まぁ……そうっぴ!バグラ軍に取られるより、お前たちが持っている方がずっといいっぴ!」

 

「嫌だよ!なんか面倒事に巻き込まれそうな気がする!返す!」

 

「イヤっぴ!もし受け取ってくれるなら祭りの参加費を出すっぴよ!」

 

 返すといって止まない旅人たちを納得させるためにピッコロモンの口から出た言葉。その言葉を前に旅人とドルモンの動きが止まる。

 元々の目的はそれだったのだ。ここまで苦労して何も得ることができなかったというのもムカつく話である。

 

「ま、まぁ?そこまで言うなら?なぁ?」

 

「オレたちが持っていても……いいよ。ねぇ?」

 

「ありがとうっぴ!あ、このパスを渡すっぴ!これを持っていればどこの店でも買い物できるっぴ!」

 

「やった!ありがとう!」

 

 ピッコロモンから渡されたフリーパスと書かれたものをドルモンが受け取る。

 そんな光景を見ながら、この世界の奇妙な事情に旅人はこの世界でも面倒なことに巻き込まれそうな気がして止まなかった。

 

「この扉から出れば元の場所に戻れるっぴ!あ、あと時間は一時間しか経過していないから心配しなくてもいいっぴ!」

 

「なんで?」

 

「魔法っぴ!」

 

「マジか……」

 

「旅人!旅人!早く行こう!」

 

「わ、分かったからちょっと待て!」

 

 全て読んでいたんじゃないんだろうな?

 そんなことを考えながら、扉の先、スタンプラリーのスタート会場に戻ってきた旅人はどこか釈然としていない気分となっていた。

 




ナニモンとピッコロモンが似ていると思うのは自分だけだろうか?

まぁ、それはともかく。デジモンウェブではいつになったらエンシェントグレイモンを更新してくれるのだろうか……。
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