ではどうぞ。
太陽が沈みかけた逢魔が刻。花火も空に栄えるようになり、祭りはますます盛況を催している。
「ドル!とりあえずあの苦労分は食いまくるぞ!」
「おう!食って食って食いまくる!」
その頃、旅人とドルモンはピッコロモンから貰ったフリーパスを使って祭りの露店で買い物をしまくっていた。
ちなみに二人が主に買っているものは食べ物である。
「デジノワアメ?よく分からないけどそれ一つ!あ、あとリンゴアメも一つ!」
「たこ焼きとたい焼き!一つずつくれ!」
「はは……ニーチャンたち良く食うなぁ!はは……はぁ」
そんな風にフリーパスで買い物を続ける旅人たちは店側にとってはあまり嬉しくない客であることは確かだろう。
初めは珍しそうに旅人たちを見ていた店主だが、その顔から覇気が抜けるまでそう時間はかからなかった。
「あ、ついでにいくつかストックしとくか。すいません!焼きそば十個!」
そんな中で旅人は気に入った食べ物はそれなりの数を収納袋の中へとしまい込んでいっている。ここぞとばかりに食料を調達しておくつもりなのだ。
そんなこんなでしばらくして。
食べ過ぎたのか旅人は若干気分が悪くなっていた。
「ふぅ……ちょっと食いすぎたな……」
「え?オレもうちょっと食べていたいんだけど」
「いや、オレだけ食休みするから。もしはぐれたらここに集合な?」
「分かった!んじゃ、オレちょっと行ってくる!」
「……はぐれる気マンマンだな」
その言葉を告げただけで人ごみに紛れていったドルモンに旅人は苦笑する。
とはいえ、“少し食いすぎたな”と辺りを見回す旅人の目に入ったものとは射的と書かれた文字だった。
「……腹ごなしにちょっとやるか」
射的と書かれた店に行った旅人が見たものは、幾つもの大きさの銃と少し離れたところにある景品郡。そして足元にあるいくつかの目印だった。
「何だ?この印?」
「おう!ニーチャン!さっきぶりだなぁ!」
足元にある印に疑問を抱いていた旅人を前に店奥から出てきたのはオヤジを体現したようなデジモンであるナニモン。
その正体は高度な魔法を数多く使いこなすピッコロモンである。のだが現在は何故かナニモンの姿である。
「……なんでいんの?」
「いやーちょっとニーチャン達が気になったんでなぁ!少し話そうと思ってなぁ!」
「いや、それはいいけど……そのキャラ気に入ってんの?」
「おう!」
「……まぁいいや」
話をしに来たというナニモンを旅人は放っておき、射的という本来の目的をすることにした。
「話すのはいいけど、まず射的したいんだけど」
「おう!これが銃でこっちが弾だぁ!ほんで、ニーチャンは足元の目印の二つ目から射ってくれ!」
「二つ目?この足元の目印ってなんなんだ?」
「デジモンは種によって大きさが違うんでなぁ!難易度調整のためだァ!」
「なるほど」
ナニモンの言葉に納得した旅人は銃に弾を込める。
そのまま的である景品をジッと狙って撃つ。放たれた弾は寸分だがわず景品に当たったが、落ちなかった。
「……当たっても落ちないんだけど?」
「偶然じゃないかぁ?」
「……」
ど真ん中に当てたのにピクリとも動かなかったんだが。
そう言いたい気持ちを抑えて二回目。同じ景品に狙いを定めた旅人はそのまま撃つ。今度は景品の隅に当たったがちゃんと落ちた。
「なんか釈然としない……」
一度目にど真ん中に当てたのに落ちず、二度目の隅に当たったことで落ちた。非常に釈然としない旅人だったが、とりあえず手に入れたことには変わりない。
せっかくの景品を見る。デジノワと書かれた菓子は先程ドルモンが食べていたデジノワアメというものを髣髴とさせる箱型をしていた。
「まぁまぁ!次行ってみ!次!」
「……」
お前が何かしているんじゃないんだろうな?
そんな視線を旅人は投げかけるが、ナニモン本人は飄々としていて本当のところがどうなのかは旅人には分からなかった。
「……はぁ。やるか」
「おっ!また落としたなぁ!」
「っていうか、景品全部デジノワってどういうことだよ!」
「今更だなぁ!」
それ以降も連続して落とすが落ちるのは全てデジノワ。
というか、的として置かれている景品全部デジノワだった。
「デジノワはスゲェうまいんだぜぇ?それだけ落とせたならいいじゃねぇか!」
「……まぁ、所詮腹ごなしだし、別にいいけどな」
結局、旅人は合計で五個のデジノワを手に入れた。
その後、後で会いにいくと言ったナニモンと別れた旅人は別の店に向かう。旅人の向かう先にある店の内容は金魚すくいだ。
旅人はとことんこの祭りを楽しむ気である。
「……なにこれ?」
店に入った旅人がそう言うのも無理はない。
金魚すくい屋では巨大な水槽に入れられた魚。それまではいい。
ただ、その魚が――。
「なんでサケ?っていうかナマズにアロワナにアレってウナギか?」
大物ばかりなのである。
“無理だろ”とそう思った旅人だったが、もしかしたら金魚すくいに使うポイがでかいのかもしれない。とりあえず店主に五回分やることを伝える。
「……やっぱ無理だろ」
受け取ったポイはやはり直径十センチくらいの普通サイズだった。
水槽は梯子を使って登るようになっており、中の魚は最低でも五十センチはある。というか、水槽の深さは目測で五メートルはあり、魚のサイズの前にポイが魚まで届かない。
「……あ。そうだ。あのー!」
だがその時、旅人は天啓を受けたかのように閃いた。そのまま店番のロウソクのようなデジモンに“特殊な力を使うのはアリですか?”と尋ねる。
ちなみに店番の返答は“それがなきゃできないだろ”というありがたい言葉と馬鹿を見るような視線だった。
「……よし。Set『巨大化』『強化』」
「おい……ちょっと待て!」
カードの力で一メートル位となったポイを『強化』し、水槽に入れる。ロウソクのようなデジモンが何か焦ったような言葉を発したが、それを聞く暇は旅人にはない。
「……今だ!」
ウナギとサケがポイの範囲に入った瞬間、勢いよくポイを引き上げる。強化されたポイはただの水では破れず、魚と
その瞬間、旅人も辺りも巻き上げた水によってずぶ濡れになってしまう。
「あ……しまった」
「ぎゃー火が!火が!消えるー!」
とりあえず梯子から降りた旅人が見たのは水から上げられて跳ね回っている魚と頭の上の火が消えかけて死にかけているロウソクのようなデジモンだった。
「……ってマズイ!set『炎』スマン!大丈夫か!?」
「きゅー……」
慌てて火を付けなおすが、ロウソクのようなデジモンは目を回して気絶していて、しばらく起きる気配がない。
「……おーい?」
「っは!あ!お前!何してくれんだ!」
「ごめんなさい!」
それから小一時間、濡れた地面に正座させられて説教を喰らうことになった旅人だった――。
「……オレって……ほんとバカ……」
通行人の目にさらされながら説教を喰らい続けた旅人の心理状態は最悪に近かった。間違いなく恥である。知り合いに見られていなかったことは旅人にとって幸いなことだった。
「……どうしてこうなったのかなぁ……」
現在もずぶ濡れでベンチに座っているが、ずぶ濡れの段階で通行人の目を引いていることに旅人自身が引きつった笑いを零すしかない。
目を引いているのはずぶ濡れという以前にそもそも人間というものが珍しいということもあるのだが。
ちなみに旅人のせいで人間は基本ずぶ濡れという間違った認識をしているデジモンたちもいることにはいたりする。
「……もう嫌だ。なんで祭りでこんな目に……」
愚痴る旅人だが、半分以上は自業自得である。
ちなみに旅人が掬った魚は貰えなかった。店番のデジモンが旅人のことをひどく嫌がったのだ。
もっとも殺されかけた相手を良く見ることができるわけないのだが。
「何してるっぴ?」
「……あぁ。ピッコロモンか。今はナニモンじゃないのな」
「あれは店番……祭り用っぴ!今は違うっぴ」
「あぁ……そう」
「どうしたっぴ?」
落ち込む旅人を前にピッコロモンはどうしたらいいか分からない。
ピッコロモンは事前に話してあったとおり、話をしに来たのだが、肝心の旅人がこれでは話せない。
「……ん?って!おい!」
そんな時、落ち込む旅人が感じた悪寒に顔を上げるとピッコロモンが持っている槍――フェアリーテイル――が目の前に迫ってきていた。
慌てて避けた旅人が眼前に見たのは顔を少し赤くして怒っているピッコロモンだ。
「いい加減に人の話を聞くっぴ!コッチも暇じゃないっぴ!」
「コッチはそんな気分じゃ……分かった。聞きます」
見た目的にいかにもといった爆弾をその手に持って、いい笑顔をしているピッコロモンを前に旅人は出かかった断りの言葉を飲み込む。
もし旅人が断っていたのならばその爆弾によって泣きっ面に蜂状態になっていたことは間違いなかった。
「まず前提として聞くっぴが……旅人はジェネラルじゃないんだっぴ?」
「だから違うって。そもそもジェネラルってなんだよ?」
いい加減にその勘違いは止めてほしいとうんざりとする旅人であるが、確認しただけっぴとピッコロモンは意に介していない。
「おほん。ジェネラルとは伝説の合体強化を操り、多数のデジモン達を率いて戦ったといわれる人間のことだっぴ!」
「ふーん。眉唾物っぽい言い方だな?」
「まあ、そうだっぴ!でも、最近バグラ軍と戦っているクロスハートやブルーフレアといった軍団のリーダーが人間でジェネラルだって噂っぴ!」
クロスハートにブルーフレア。
新しい軍団が登場して、Xプログラムがあった世界と比べてこの世界は随分と複雑な模様を呈している。
「なるほどね。んで、さっきも言っていたが、バグラ軍って何だ?」
「バグラ軍も知らないっぴか?」
言外にそんなことは常識だと告げているピッコロモンは旅人のことをどこかバカを見るような目で見ている。
なんとか誤魔化そうとする旅人だが、いい言い訳が思い浮かばない。
「……まぁ、そう。オレたちは旅をしていてな。そこら辺のこと知らないんだ」
「旅をしているなら知っていなきゃおかしいっぴが……まぁ、いいっぴ。バグラ軍とは皇帝バグラモンと三元士と呼ばれる最高幹部を柱としている軍団っぴ!さまざまなゾーンを侵略している軍団っぴ!」
「ゾーン?」
また旅人の知らない単語が出た。
だがそこで旅人は、ここはフェスティバルゾーンという場所であることを思い出し、この世界の国みたいなものかと推測した。
「ゾーンも知らないっぴか?なるほど……分かったっぴ。旅人はアホなんだっぴね!」
「……」
普通ならば不審と思われるほどの常識を尋ねる旅人をアホで片付けるピッコロモン。まず間違いなくピッコロモンもアホである。
「まぁ、旅人は人間だから知らないのかもしれないっぴね。このデジタルワールドは大昔には一つの巨大な世界だったっぴ!大昔にあった謎の災厄によって分断され、幾つものゾーンに分かれてしまったっぴ!」
「分断?バラバラになったってことか?」
「まあそうっぴ。それぞれのゾーンはデジタル空間中に独立して存在し、移動には特殊な方法でしか移動できないっぴ」
「思ったよりも離れてたな……」
「コードクラウンとはそのゾーンの全データが記録されたメモリーチップで、そのゾーンの支配者の証っぴ!コードクラウンを使えば別のゾーンへと移動することもできるっぴ!」
「そんなもん気軽に人に渡すな!」
自分が思っていたよりも随分と大事なものを気軽に受け取っていた事実に旅人は目眩がする。
一方で渡した側のピッコロモンはそのことについて気にしていないようだった。
「しょうがないっぴ!今コードクラウンの大半はバグラ軍が持っているっぴ。まだこのゾーンには来てないっぴが、それでもいつか来るっぴ。そんな時に私よりお前たちが持っていた方がいいと判断したっぴ!」
「いやいや、判断したっぴ!って……いい加減すぎるだろ!返す!」
「まぁ、いいっぴ!巻き込んで悪いとは思うっぴが……。まぁいいっぴ。それじゃ行くっぴ!」
「っておい!ま……行っちゃたよ。どうしよ?捨てよっかな?……無理か。」
言うだけ言って話はもう終わったのか、どこか行こうとしたピッコロモンを旅人は引き止めようとした。
だが魔法でも使ったのか気づかない間にピッコロモンは一瞬で姿を消している。
いなくなったピッコロモンに対して、やれやれと一息ついた旅人は気づかなかった。
立ち去る前、ピッコロモンが最後に呟いた言葉に。
――仕方ないんだっぴ……コードクラウンがお前を……お前たちを選んだのだからっぴ――
宿――というか、タダで泊まれるボロ屋とも言うべきところ――に戻ってきた旅人はナムとリュウダモンの部屋へと寄ってみたが、二人はすでに眠りに就いていた。
しょうがなく自分の部屋へと戻った旅人は、そこで部屋の窓から空を見上げていたドルモンを目にする。
「ん?先帰ってきていたのか?」
「……」
旅人が話しかけるが反応がない。
「おい……ドル?まさか立ったまま寝てるのか?」
「……グゥア……」
一瞬、だが確かにしっかりと聞こえた唸り声。
感じた異常に少し怪訝な顔をしながらも旅人はドルモンへと近づいてその肩を軽く叩いた。
「おい!ドル!無視はないだろ!」
異常な雰囲気で旅人に背を向けているドルモンは肩を叩かれたことでようやく気付いたのか、ゆっくりと旅人の方へと振り返った。
「……」
「おーい?……ッ!ドル!?」
振り返ったドルモンは瞳孔が開いていた。
“これは……マズイッ!”と思わず感じた恐怖に、旅人は取り憑かれたように反射的にカードを取り出した。
見つめ合ったまま――睨み合ったとも言う――時間が経過する。
数分か、数十分か、はたまた数秒か。どれほど時間が経過したのか旅人には分からなかったが、不意にその時は終わりを告げた。
「……あれ?旅人どうしたの~?」
「……ドル?」
ドルモンの先程まであった異常な雰囲気は消えており、雰囲気も元のものに戻っていた。
「なんともないのか?」
「何が?」
「……いや、なんでもない」
きっと気のせいだ。寝ぼけていただけなんだ。
そう考えて先程のことを忘れることにした旅人。
寝る支度をしながら一日を振り返り、“この世界の事情に巻き込まれたくはないな”と切に願う旅人だったのだが残念ながらそれは叶わない。
コードクラウンを持っている時点でこの戦乱の世界に巻き込まれることは確定しているのである。
……一話一話の最後の切り方とサブタイを付けるのが苦手です。
どうすれば上手くなるんでしょうか……。
あ、あとこのクロスウォーズは、タグにも表記しましたが漫画版です。二章と違って主人公組との合流はまだ先です。