次元の彼方へと鉄球は消え去ったのと同時にドルモンも糸が切れたかのように気絶した。
とりあえず全員が無事だったことに安堵するが、その感情もすぐ消える。
現在は不思議空間の迷子真っ只中である。全然安心できる要素はない。
「……で。どこだよここ」
「さぁな」
オウリュウモンは真っ直ぐに進んでいるが、そもそも景色の変化がないため本当に真っ直ぐに進んでいるのかどうか分からない。
ついでに言えば出口らしきものも、入口も見えない。
「ナムはまだゲートは……」
「開けない」
「だよな」
カードで別世界に行くかどうするか。
旅人の頭の中で計算が始まる。カードの転移で別世界に行けば、この状況は抜け出せる。だが、また前の時のようにギスギスとした空気に当てられ続けるのはゴメンである。
ついでに前回は運良くデジモンのいる、旅人の世界に近い世界へとたどり着いたが、今回もたどり着けるとは限らない。
「……最終手段にしよう」
カードによる世界転移をどうしようもない時の最終手段として思考を終了する旅人。
このような
「……ん?」
「どうした?耳でもおかしくなったか?」
「なにげに失礼なこと言ってんじゃねぇよ。……何か聞こえないか?」
そんな時、旅人の耳に声が聞こえた。
声といっても獣が吠えているような、唸り声のようなものであったのだが。
「そのようなものは聞こえなかったぞ……幻聴ではないか?一度休むことをオススメする。……永遠にな」
「どういう意味だ?」
「そういう意味だ」
「お前オレのこと嫌いだろ?」
「何を今更」
そんな軽いやりとりの間にも声は響き続けている。
今度は先ほどよりも大きく、旅人以外にもしっかりと聞こえた。
「……聞こえるな」
「……だろ?一体何……」
「後方。デジモン」
ナムが珍しく緊迫したような表情で告げる。
そんなナムの姿に若干の嫌な予感を感じながらも、旅人とオウリュウモンは後ろを振り向いた。
「……!千年魔獣がなぜこんなところに!?」
「千年魔獣……?」
竜のようなオーラを背負った四本腕のデジモンが後ろから迫ってきていた。
そのデジモンの姿を見た瞬間、オウリュウモンさえも緊迫した表情になったことに旅人は緊張する。
「逃げるぞ!ミレニアモン相手にまともにやり合うつもりはない!」
「ミレニアモン……?え?おいっ!逃げるってどこにっ!?」
「分からん!」
ミレニアモンを視界に収めた瞬間に猛スピードで逃走を開始したオウリュウモン。そのあまりのスピードに旅人はしがみつくことで精一杯である。
一方でナムは平気そうだったのだが。
「……っく!埒があかん!」
「おい!ちょっと!?」
逃げ切れん!
いくら逃げても距離が縮むばかりの事実にオウリュウモンは苦い顔をする。
本当のところはオウリュウモンは一人では逃げる自信はある。
だが、ナムや旅人を背中に背負っているため、思うほどスピードが出せないのだ。それを分かっているからこそオウリュウモンは旅人とドルモンを右手に、ナムを左手に
「……おい?」
「舌を噛むぞ!自殺するなら他の方法でしろ!」
「……っ!」
“何をする”と旅人が握られたことに抗議しようとした瞬間、今までの比ではないスピードでオウリュウモンが進みだした。
一方でミレニアモンの方もそれを見たのか、スピードを上げて追ってくる。
「アレが出口か!」
旅人は安堵したようなオウリュウモンの声を聞いた。オウリュウモンの視線の先には光があり、その光はこのデジタル空間の終わりを示していた。
アレ?このまま出たらアイツも追ってくるから変わらないんじゃ?
そう旅人が疑問に思った瞬間、旅人とドルモンは
「……またか。Set『風』」
『風』の力でドルモンを抱えながら空に浮くとナムとオウリュウモンがミレニアモンをデジタル空間から出てこないように空間の割れ目を閉じているところが旅人の目に入った。
どうやらあの空間の割れ目から飛び出したらしい。
「……入った場所がちゃんとした
地面に座り込んだ旅人は助かったという安堵と単純な疑問に襲われた。
ちなみに入った入口が門というしっかりとしたものに比べて出口が空間の割れ目だったのは、ミレニアモンに追いかけまわされたことも関係しているのだが、旅人がそれを知る由はない。
「やれやれ……やっと一息つける……」
「終わった」
「っていうか、リュウダモン!出た瞬間に人を放り投げるな!」
いつのまにか
一方の旅人としてはどうしてもリュウダモンに文句を言わなければ気がすまなかったのである。出た瞬間に握っていた旅人とドルモンは明後日の方向に放り投げられたのだ。助かったとはいえ、文句の一つでも言いたくなるだろう。
「そうか。そんなにミレニアモンに食われたかったのか。それはすまないことをした」
「誰がそんなこと言っているんだ……」
「礼を言われても責められる謂れはないと言っているんだ。礼はどうした?礼は?」
「……」
嫌味たらしくいうリュウダモンに旅人の中の礼を言う気持ちは急速に薄れていく。
だが、助けられたのは事実なので言わなければならない。そんな葛藤をしている旅人を差し置いて先陣を切ったのはナムだった。
「リュウダモン。助かった」
「姫様!もったいない御言葉を!……ありがとうございます!」
「礼を言われて礼をするって……はぁ。とりあえず、ありがとうな」
「気持ちがこもっておらんぞ!」
「……ありがとうございました」
嫌味さえなければ素直に感謝できるものを。
そういう旅人の心情は残念ながら伝わらない。もっとも伝わった上で無視している可能性もあるのだが。
「はぁ。ここどこだよ?」
「知らん」
「ま、そうだよな。とりあえず移動するか」
未だ目が覚めないドルモンを旅人が背負い、全員が移動する。遠くには街らしきものが見えており、街に続く道がある。
人間の街らしきその街に旅人は言いようのない不安を感じながらも、しっかりと歩いていくのだった。
「また人間の世界に来たんじゃないだろうな……」
「でも人気がないよ。どうするの~?」
「どうもこうも……どうしよ?」
訪れた街はビルや道路などがある、人間の世界の都会に近い作りだった。その街の外観に思わず呟く旅人だったが、異様なほど人の気配がしない街に途方に暮れる。
ちなみにドルモンは旅人の背中でとっくに起きていたが、寝たふりをしていた。
「とりあえずなんか歩くか。そのうち何か分かるだろ。ナムたちもそれでいいよな?」
「いい」
「姫様が良ければ言うことはない」
「はいはい」
とりあえず辺りを散策するが人もデジモンも見当たらない。
本当に何もないな……他に何かあるとしたら建物の中か?
そう考えた旅人は、何も代わり映えのない光景に探す場所を変えて一番大きなビルの中へと入っていく。
「はぁっ!」
「何だ?」
だが、ビルの中をしばらく歩いていると何かが突然、後ろから奇声を発しながら斬りかかってきた。
もちろん今から不意打ちしますと、告げているような不意打ちをくらうはずもなく。
半身を引く形で旅人は避けた。そして当然、旅人が避けたために襲撃者は目測を誤ってバランスを崩すことになった。
もっともその時、旅人は避けるのに必死になったために、ドルモンを放り投げることになったのだが。
「イテッ!」
「ぐぇ!」
ちなみに避けることができたのは旅人と離れていたナムたちだけであり、襲撃者は旅人が避けた代わりに放り投げられたドルモンと激突した。
その急激な痛みにドルモンは寝たふりを続けることができなくなり、不満そうな顔になっている。
「一体何だよ……」
「イテテ……誰~?」
「……」
襲撃者は剣道で使われるような武具を身にまとっているデジモンだった。ダボダボの袖ながら、竹刀はしっかりと握っている。
「で?お前は誰だ?何でオレ達を狙ってきたんだ?バグラ軍の差し金か?」
「……」
コテモンは旅人が質問しても答える気はないらしく沈黙を貫いている。
「コヤツはコテモンだな。正義感の強い奴だから、バグラ軍とは考えにくいだろう。多方、誰ぞの運の悪さが引き寄せた誤解ではないか?」
「リュウダモン……どう言う意味だ?」
「言われなければ分からんか?やはり貴様も今時の若者か……。行く先々で、面倒事に巻き込まれている奴を運の良い奴と思うのならば、おめでたい頭をしているという意味だ」
リュウダモンの言っていることは間違いではない。思わず旅人の頬が引き攣った。
これは明らかに特定個人のことを言っている。旅人もそれが分からないほど馬鹿ではない。
「喧嘩売ってんのか?」
「そこで自身に行き着くあたり、自分のことだと分かっているのだろう?」
「まぁまぁ、それで、コイツはどうするの?」
横道に逸れかけた話をドルモンが戻す。元々今回の襲撃の犯人であるコテモンに対する詰問だったはずだ。それがいつの間にか、リュウダモンとの喧嘩になっている。
「……」
「ん?……ダメだ。分からん。ドル?」
「……分かんない。リュウダモンは?」
「こんなものが分かるか」
黙っていたコテモンは埒が明かないとばかりに身振り手振りで何かを伝えようとしていた。
だが、何かを伝えようとしているのかは分からない。先程の襲撃の時に声を上げていたため、喋れないということはないはずである。
「……分からん。あぁもう!喋れよ!」
「……っ!ひっく!うぇっぐ!……うぅ」
「うぇっ!おい……なんで泣くよ……」
イラついた旅人が怒鳴ると、いきなりコテモンは泣き出した。これには強気だった旅人も狼狽えるしかない。
それを見ていたドルモンとリュウダモンはジト目で旅人を見ている。
「あ~あ……泣~かっした!泣~かっした!」
「若造……いくらなんでも、それはないと思うぞ……」
「っておい!お前ら……酷くね!?っていうか……ほら……怒鳴って悪かったから……泣きやめよ……ほら、デジノワだよ?美味しいよ?」
「泣き止ませ方が怪しい人にしか見えない」
旅人としては一生懸命泣き止ませようと奮闘している。のだがドルモンの言うとおり、実際のところは食べ物で釣る怪しい人にしか見えない。
「はぁ……コテモン。私たちをバグラ軍と間違えていた。もう謝っている」
「……え?ナムはコテモンの言っていたこと分かるのか?」
「分かる」
だったらもっと早く教えて欲しかった。それもコテモンが泣き出す前に。
そんな旅人の心情はともかくコテモンはデジノワを食べながら、徐々に泣き止み始めている。
「……!」
「泣き止んだか?」
「……」
お礼のつもりなのか、ペコリと一礼するとコテモンは奥に向かって走り出した。 途中で止まって手招きをしている。こちらに来いと言っているらしい。
「ふむ……ついて行きますか?姫様」
「行く」
「……だから喋れよ」
「まぁまぁ……ナムたち行っちゃったよ?」
さっさと先へと進んだナム達を追いかけるように旅人達もコテモンの後を追う。
僅か数分のうちにドッと疲れた旅人だった。
コテモンが目的としている場所へ着くまでには二時間かかった。
コテモンの案内は普通だったのだが、そこへ到るまでの道が普通ではなかった。具体的に言うとほふく前進で進む場所が大半だった。
「旅人、結局ここどこ?」
「分からん。うねうねと上ったり下がったりしたから……多分まだビルの中だとは思うけど」
「ここ。街の地下。ビルじゃない」
「……」
ナムの説明にコテモンが首を縦に振る。
どうでもいいことだが、コテモンはナムには懐いており、ナムと会話するときの身振り手振りは首や四肢が取れそうな勢いで動かす。
反対に旅人は懐かれておらず近づくとコテモンはナムたちの傍に隠れる。
「へぇ?っていうかコテモン……いい加減にオレを怖がるのをやめてくれないか?」
「……」
「無理。コテモン。旅人が怖い」
「……ははっ。どうせオレは……」
ちなみに落ち込む旅人やドルモンのこの状態の時のナムたちが旅人に抱く感想は一つ。
“ウザイ”である。
「相変わらず鬱陶しいな……」
「同感」
「……」
自身もときどきこうなるドルモンも少し鬱陶しいと思っている中、そんな唯一コテモンだけはオロオロしており、その純粋さを伺わせる。
「……!」
「ここ?旅人~ここだって!」
そんな中ようやくたどり着いたのか、コテモンが大きくバンザイしながら飛び跳ねた。
そこは巨大な空間が広がっており、その空間を塞ぐように巨大な門が立ち塞がっていた。
コテモンは門を開けようと四苦八苦しているが、どう贔屓目に見てもその体の十倍以上はある門を、開くことはおろか、動かすこともできてない。
「……!……!ぅ……ん……!」
「はぁ……手伝うよ」
見かねた旅人が近づいて行く。しかし、旅人が近づいた瞬間、コテモンは離れてナムの後ろへと隠れた。
「……これってもうイジメじゃね?」
「……」
そんな意図はないとばかりに首を横に振るコテモン。
だが、“そういうつもりならば近くに来て欲しい”とそんな旅人の思いは残念ながら伝わらない。
「もっと腰を入れて押さぬか!」
「旅人頑張って!」
「頑張れ」
「お前らはちょっとは手伝えよ!」
手伝う気がない他のメンバーは旅人を応援している。誰一人として旅人を手伝おうとはしなかった。
そんなこんなで数十秒が経ち不意に扉が動いた。
“これはいけるか!?”とそんなことを旅人が思った瞬間――。
「グェ!一体何が……?」
「おや……すみません。まさか誰かいるとは思わなかったもので……あ、私はグラディモンと申します。」
扉から現れた騎士風の丸いデジモン――グラディモン――が門を勢いよく開け、旅人を吹き飛ばした。
そう、この門は引き戸式だったのである。
「これ引き戸だったんだ……」
「っていうかだったら何でコテモンは押してたんだ!?」
「……!……!」
「コテモン。忘れてた。謝ってる」
「というか、鼻血が出ているぞ。さっさと拭かんか!汚らわしい……」
恐縮するぐらい必死に土下座しているコテモンを見ていたら怒る気も失せてくる。そんな旅人にチリ紙を渡したのは先程現れたグラディモンだった。
丸い体を器用に使って礼をしながら旅人に謝っている。
「これを使ってください。すみませんね。コテモンが迷惑をかけたみたいで……」
「ふむ……珍しいな客か?」
扉の前でそんな会話をしていると奥から声が聞こえた。
その声に導かれるようにコテモンとグラディモンが旅人たちを奥へと案内する。どうやら旅人たちは歓迎されているようだ。
「どうぞこちらへ。こちらにいらっしゃる御方がかのロイヤルナイツのデュナスモン様です」
そこには一人の巨大な竜騎士がいた。
ということで第三十二話でした。
ちなみにこのミレニアモンはクロスウォーズ第二巻で原作主人公たちに追い出されたミレニアモンです。
そして書き終わって気づく。ロイヤルナイツの登場率。ドゥフトモンと迷いました。
ロードナイトモン?そんな人いましたっけ?