【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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第三十三話~また一難?~

 扉の奥の巨大な空間に座っていたのは白い竜騎士だ。

 ちなみにこの場合の竜騎士は竜に乗る騎士ではなく、竜の騎士という意味である。

 

「ロイヤルナイツ、デュナスモンだ。よろしく頼むぞ、ジェネラル」

 

「またか!?あ……いや、私は旅人といいます。こちらはドルモンです」

 

「旅人が敬語を使ってる!?あ……いや、ドルモンです。よろしくお願いします」

 

「ナム。それとリュウダモン」

 

「リュウダモンだ」

 

 相手によってはちゃんと敬語くらい使う……というかお前らオレのことどう思っているんだよ!

 そんな旅人の心の中が伝わったのか、ドルモンたちは明後日の方向を向く。

 旅人とて敬語の一つや二つ使うこともある。ただ単に今までは目上の相手に会うことなど滅多になかった上にその目上の相手はいきなり襲いかかられた相手だったりするのだから、使う機会がなかっただけだ。

 そんな理由はさておき、この世界に来てからされ続けた勘違いにうんざりとする旅人は早めに勘違いを解いておくことにするのだった。

 

「はぁ……それから私たちは……」

 

「無理に敬語を使わなくともいい。別に騎士団でもない君たちが敬語でなくとも気にしない」

 

「んじゃ、遠慮なく。オレ達はジェネラルじゃない」

 

「敬語やめていいの!?」

 

「いや……だって……」

 

 気にしないって言ったし。

 そう考えているであろう旅人をナムたちは残念な子を見るような目で旅人を見ている。

 途中でやめるくらいなら初めからやらないほうがマシだ。相変わらずの旅人の中途半端さが出ているのである。

 ちなみに当の言葉言ったデュナスモンは気にした風もなく、どちらかといえばジェネラルではないという言葉に驚いている。

 

「阿呆だな。今時の若者……いや、そやつだからこそか」

 

「馬鹿」

 

「お前ら酷くね!?」

 

「いや、それよりもジェネラルではないとは?」

 

「ん?あぁ、諸事情でこのデジタルワールドに……というか、事故?今この世界でバグラ軍と戦っている連中とは無関係だよ」

 

 要領を得ない――というよりも濁すような――旅人の言葉に、“何か理由があるのか?”とデュナスモンはそれ以上の追求をやめた。

 それでもコテモンやグラディモンは旅人の身の上に興味深々である。上司が追求をやめたので仕方なく黙っているというのがもろ分かりだった。

 

「ふむ……そうか。噂のジェネラルというのならば協力を要請したかったのだが……」

 

「とりあえずオレ達はバグラ軍とは事を構えるつもりはないよ。……もう遅いかもしれないけど」

 

「それは流石に都合が良すぎるというものではないか?」

 

「同意」

 

「どういうことだ?」

 

 事情の分かってないデュナスモンに旅人はフェスティバルゾーンでの一連の出来事を語る。

 始めは話半分に聞いていたデュナスモンだが、タクティモンと戦い、生き残ったという部分で驚愕の声を漏らした。

 

「まさかタクティモンとまともに戦って無事だとは……」

 

「実際強かったし、負けるとこだったけど、そこまでの奴なのか?」

 

「タクティモンはバグラ軍の最高幹部の一人だ。奴の刀……蛇鉄封神丸はこのデジタルワールドを分断した原因でもある。今は封印によってその力を封じているらしいが……その状態でも一対一では我々ロイヤルナイツでも苦戦は免れん」

 

「……思ったよりもずっと凄い奴だった……!」

 

 どうしていつもこういう奴ばっかり敵になるんだろと。

 そのような敵といつも戦いながらも、生き延びている旅人は己の不運を嘆けばいいのか、笑えばいいのか、分からない。

 

「さっきの言葉からしてバグラ軍と敵対してるんだろ?ロイヤルナイツの役割はネットワーク守護って聞いたけど……何でこんな所に隠れているんだ?」

 

「隠れている……そう見えたか。まあ、あながち間違いでもない。端的に言えば我々は負けたのだよ。数百年前にね。そして未だ決起の時を待ちながら、細々と抵抗を続けている」

 

「ロイヤルナイツが!?」

 

「まさか!?」

 

 前の世界でオメガモンやデュークモンといったロイヤルナイツの面々を知る旅人にとっては、いや、旅人でなくとも驚きを隠せない。

 あの普段無表情のナムですら目を見開いて驚きを露わにしている。

 

「何があったんだ?」

 

「あまり負けた時のことは思い出したくもないのだがな……数百年前、この世界の神から一つの予言が下された。赤黒の双頭竜が世界を滅ぼすという予言が。我々はその双頭竜を七大魔王をはじめとする強大な魔王型デジモンだと考え、予言を未然に防ぐため行動を開始した」

 

「その口ぶりだと違ったのか?」

 

 デュナスモンは目を伏せ、首を横に振る。未だその答えは分かってないと。

 次に目を開けたデュナスモンの目には怒りが宿っていた。旅人たちにはその怒りはバグラ軍に向けられているようにも、戦に負けた自身に向けられているようにも見えた。

 

「だが奴らは事態を諦観し動くことはなかった。そんな中、突然奴ら……バグラ軍の進行は始まった。何の前触れもなく、突如として現れた奴らは赤黒の双頭竜捜索で手薄になった天界に攻め入り、デジタルワールドを分断したのだ!」

 

「何の前触れもなく?軍団が?ありえないだろう。」

 

「そうだ。普通は有り得ない。故にそこを突かれた。かつて神に逆らい息絶えたと思われていたバグラモンを皇帝にすえ、北の地で天災と恐れられていたブラストモン。刹那的な目的でしか動かないことから我々の包囲網から外れていた、色欲の七大魔王リリスモン。そしてその両者に比類するほどの実力、知略を持ちながら、今まで一度も歴史に現れていないタクティモン」

 

「タクティモン」

 

「ッ!」

 

 タクティモンの名前が出たことで絶対零度の呟きを呟くナムの目は暗い。あの時の取り乱す様といい、相当な感情をタクティモンに抱いているのだろう。

 

「彼らを相手取るには時間も準備も足りなかったのだ」

 

「それでこんな所に?」

 

「そうだ。デジタルワールドが分断されてすぐにこのゾーンに流れ着いた。それから見習いたちを鍛えながら、来たる日を待っているのだ。そしてそれはもうすぐだと思っている」

 

 デュナスモンの言葉。それは確かな確信を持って告げられていた。

 次こそは勝つという意思と、この戦乱を終わらせるという意思。

 デュナスモンのそれらの意思はは確かな圧力となって旅人を気圧する。

 

「ジェネラル伝説が出たときは何をありえないことを……とも思った。しかし、彼らは現れ、バグラ軍と覇権を争うまでになっている。奴らとの決戦を前に、少しでも戦力を集めたい。他の生き残ったメンバーも動いているはずだ」

 

「ッ……」

 

「君たちにもできれば……」

 

 デュナスモンの思いは嫌というほど伝わった。しかし、だからといって旅人には命を賭けてこの戦いに参加する理由がない。

 

「……それでも……悪い」

 

「……そうか。まぁ、無理強いはしない。今晩はもう遅い。何もない所ではあるが、休んでいってくれ。コテモン!グラディモン!」

 

「……」

 

「こらっコテモン!……いやぁ、無口なやつで済みませんね」

 

 断ったことに気を悪くするでもなく、デュナスモンはコテモンとグラディモンを呼び、旅人たちをさらに奥の部屋へと案内させる。

 ちなみに案内された部屋には家具も何もない、本当に何もない所といった風であったが、部屋のサイズだけは幸いにしてか人間用だった。

 

 

 

 

 

「それではゆっくりとお休みください」

 

 グラディモンはゆっくりと休めといったが、何もない場所でどう休めと言うのか。

 そう思う旅人だが、天気の悪い日の野宿よりはずっとマシだし、そもそも泊めてもらっているのは自分たちだ。文句を言うべくもない。

 

「最近の生活が贅沢だったのかもしれないけどさ……set『木』」

 

 グラディモンがいなくなってすぐに旅人は『木』のカードを使ってドルモンと旅人が寝むれるだけの簡易的な木製ベットを作った。

 ちなみに旅人がカードの力でベットを作るのはこれが初めてである。

 

「勝手に弄っていいの?」

 

「……やっべ」

 

「やっべ!?」

 

「いやだって……どうしよ?」

 

 冷や汗を流す旅人。

 結局そのまま黙っている訳にもいかずにグラディモンを呼び、許可を得たのだった。

 ちなみにその時のグラディモンは、はっきりとわかるほど引き攣った笑顔を見せていたりする。

 

「それじゃ、おやすみ」

 

「……おやすみ~」

 

 これ以上余計なことをする前に寝ることにした旅人とドルモン。

 さっそくベットに――さすがに布団はないが――入って目を閉じるのであった。

 

「……」

 

「……」

 

「……グゥ……」

 

「……」

 

 やがて疲れていたのか、十分も経たないうちに部屋中に静かな寝息が響き渡るようになる。

 

「……グゥ……グゥ……」

 

「……スー……ズッ……スー」

 

「グゥ……ぁあああああああああああ!」

 

「うるさい!」

 

 だが、そんな中でドルモンが突如悲鳴を上げて飛び起きる。ついでに叩き起された旅人も怒声を上げながら飛び起きた。

 ここ数日のいつもの風景である。

 

「はっはっ……また……はぁ~」

 

「……」

 

「……旅人、寝てるよね?」

 

 飛び起きたハズの旅人はもうスゥスゥと寝息を立てており、既に眠りに就いていることを伺わせた。

 一方でいつもの悪夢を見たせいで眠る気の起きないドルモンは天井を眺めながら、思考の海へと潜っていく。

 

「旅人はきっとずっと旅を続けるよね……それが旅人の未来。()は?()の未来は……」

 

「……」

 

「アレが()の未来というのなら……()がこの手で旅人を……――――――」

 

「ッ!……グゥ……」

 

「ん?気のせい……だよね……」

 

 ドルモンの最後のつぶやきは小さなものだ。

 しかし静かな部屋の中、そのつぶやきは寝たふりをしている旅人の耳にもしっかりと届いていた。

 

「これからもずっと旅を続ける……それが僕らの未来だと思ってた。でも……あんな事になるのなら……僕はいない方がいいのかな……」

 

 何かを決意したかのような表情をしたドルモンは立ち上がって部屋から出て行く。

 目をつぶり必死に寝たふりを続けていた旅人にはドルモンがどんな表情をしていたか分からなかった。

 だが、だからといってこのままにしていいわけではない。

 

「たっく……あぁもう!何言ってんだよアイツはっ!」

 

 すぐに旅人も起き上がってドルモンを追い部屋から出ていく。

 ちなみに旅人がすぐ起きてドルモンに話しかけなかったのは単にタイミングを逃したからである。

 決して深刻そうな悩みを、寝たふりをしながら聞いてしまって気まずくなったからではない。

 

 

 

 

 

「アイツどこいったんだ?」

 

 起き上がった旅人は建物内を走り回ってドルモンを探すが、一向に見つからない。そもそも建物の構造を把握しているわけではないので、探している旅人自身が迷子になっている。

 もっともその本人は迷子になっていることに気づいていないが。

 

「くっそ……このままどっか行って帰ってこないんじゃないんだろうな……」

 

 迷子になっていることにも気づかずに動き回る旅人は、そうこうしているうちにデュナスモンがいた部屋の近くまで来た。

 一周回って戻ってきた感じである。

 

「あれ、戻ってきた?何で?」

 

 それは同じところをグルグルと回っていた結果なのだが、繰り返すが旅人は迷っていたことに気づいていない。本気で疑問に思っていた。

 そんな旅人の気配を、部屋の中の主は確かに感じ取っている。

 こんな夜更けに焦ったように動き回る旅人に興味を持ったのか。その部屋の中の主であるデュナスモンは扉を開けて、悩んでいる旅人に声をかけるのだった。

 

「ん?デュナスモンか……ドル……あ、えーっと……ドルモン見なかったか?」

 

「いや、見てない」

 

「そっか。本当にアイツどこいったんだよ……」

 

 何かあったのかと尋ねるデュナスモンに対して、旅人はドルモンが部屋から妙な雰囲気のまま出て行って心配だという旨を伝える。

 もちろん寝たふりをして盗み聞きしたことは伝えていない。

 

「……ふむ。誰だって悩みの一つ位あるだろう。心配するようなことでもない。……それに黙って居るのは君も同じだろう?」

 

「ッ!……なんのことだかさっぱり」

 

「それほどわかりやすい反応を示して誤魔化せると?」

 

 露骨な反応を見せて尚、誤魔化そうとする旅人をデュナスモンは呆れた目で見ている。

 旅人は“何で気づかれた?”と疑問に思っているが、デュナスモンとてロイヤルナイツの一員である。

 今までさまざまな経験を積んできているのだ。大抵のことは経験則で分かる。

 

「なに、君よりも人生経験は豊富だ。それくらいは分かる」

 

「っぐ……」

 

「別に言いたくなければ聞かん」

 

 元々頭の出来がよろしくない旅人は自身だけで考えることに限界を感じていた。

 ここで関係のない、それでいて人生経験が豊富――だと思われる――デュナスモンに相談するのもいいだろうと、旅人は自身の悩みを話し始めた。

 ちなみにこの時点で旅人の頭の中からドルモン探しのことは消えていた。鳥頭である。

 

「オレってさ……旅をしているんだよ。だけど、最近それが正しいかどうか分からなくなってきて……」

 

「……」

 

 旅人の話を聞きながらも、デュナスモンは何も言わない。

 急かすわけでもなく、目を閉じ、ただ黙って旅人の話を聞いている。

 

「前に行ったところで、こう言われたんだ。お前は無関係な世界で無責任に、無関係に関わってきたのかって。ほとんどその場の流れで行動するようなオレが、無関係なことに関わるのは良いことなのかって。その後、色々と考えたけどさ……なんか旅なんてすること自体が間違っているのように思えちゃうんだよ」

 

「……」

 

「旅をしていると関係ない事まで無責任に関わってしまうから……。デュナスモンなら……どう思う?旅なんてしないほうがいいのか?」

 

 しばらくの間、デュナスモンは腕を組みながら目をつぶり何かを考えていたが、不意に目を開けて旅人を真っ直ぐに見据えた。

 

「その答えは分からん。第一にその答えは私が出すものでもない」

 

「う……まぁ、そうだけど……」

 

 もうちょっと何か言ってくれると思ったんだけどな。

 期待していた分、旅人はデュナスモンの投げやりともとれる答えにがっくりと肩を落とす。

 相談した側としては至極真っ当な反応ではあるが、相談された側としては至極迷惑な反応でもある。

 

「少し違うかもしれないがな……我々はいつだってこの世界の為に戦ってきた。この世界の正義と秩序の為に。しかし、我々はそう在ろうとするべく戦うが、そう在れるのはいつだって結果の中でしかない」

 

「?すまん……よく分からない」

 

「つまり正義も不義も善も悪も人によって……見方によって変わる。我々の行い、我々の正義だけが全てではない……ということだ。しかし、我々はそれを正義だと思うから戦う。たとえそれが誰かにとっての不義……悪だとしても」

 

 そう言う彼は他者から悪とみなされながらも自身の正義の為に戦ったことがあったのだろうか。

 旅人を見据えながらも、デュナスモンはどこか遠くを見ている。

 

「それが正しくないかもしれない。間違ったことかもしれないと思ってもデュナスモンは戦えるのか?」

 

「ああ。それが正義だと信じているからだ。それが我々の戦いだからだ。……旅人、お前はなぜ旅をしている?お前の戦い……旅は、誰かに何か言われたくらいでやめるモノなのか。もしそうならば、お前の旅はその程度のもので、間違っているのだろう。その程度のものならば、しない方がいいだろう」

 

 そう言われて旅人はようやく気づいた。

 自身の行為について迷っている旅人に、どんなことでも見方によって評価もその善悪も変わると言うことをデュナスモンは伝えたいのだと。

 

「……。オレは」

 

「別に言う必要はない。ただ自身で考え、出した答えでなければ己を納得させることはできない。たとえどれほどの正当性を突きつけられても」

 

「……」

 

「そこに己の信じる正義がなければ真に己を信じることはできない。己を信じることができない者がする行為はどのようなことであろうと無意味なものとなる」

 

 ロイヤルナイツとして流石の貫禄を見せるデュナスモンは言葉で旅人を圧倒する。そこには積み重ねてきた年月の重みが感じられた。

 

「……精一杯悩むといい。自分の正義を見つけるまで……きっと答えは出るだろう」

 

「簡単に言うなぁ」

 

「ふっ……まあ、頑張りたまえ。……ところでドルモンを探していたのではないか?」

 

「あっ……」

 

 しまった。すっかり忘れていたと。

 デュナスモンに言われて旅人はようやく本来の目的を思い出す。

 

「……」

 

「いやいや、確かに忘れていたけども!」

 

 デュナスモンに残念な子を見るような視線で見られて動揺する旅人。

 “このままでは体面がマズイ”と、あるはずのないものを気にして言い訳を始めようとするが――。

 

「だから……っ!」

 

「何事だ!?」

 

 その直後、旅人たちがいる建物が大きく揺れた。

 

「デュナスモン様!バグラ軍の……魔王リリスモンの襲撃です!」

 

 まだ難は去ってはいない

 




第三十三話。今までで一番難産でした。妙に長い会話が多い……。
二週間近くある冬休みをストックを食いつぶしながらこの話の作成だけで消費しました。書き上げたのも今日ですし。

あと下手すると木曜は更新できないかもしれません。

ではまた。よろしくお願いします。
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