やっと主人公組と合流です。
どこかで聞いたような声が旅人の耳に届く。
ふと旅人はそこで、自分が硬い地面ではなく、柔らかい布団のようなものに寝かされていることに気づいた。
「……どこだ、ここ?」
「おっ!起きたか?」
「……ウィザーモン?またかよ……」
旅人の目に飛び込んできた、見覚えのあるとんがり帽子の魔法使い風の人形。既視感を覚えるその光景に旅人はうんざりするが、目の前にいるのはもちろん人形ではなく、ウィザーモンだ。
つくづく旅人はウィザーモンに縁があるらしい。今まで訪れた全ての場所で旅人はウィザーモンを見ている。
「ん?僕を知っているのかい?」
「いや、まぁ……正確には別の……だけどな」
「ウィザーモン……その人起きたの?」
言葉を濁している旅人を気にした風もなく、ウィザーモンはただ旅人の容態を見ている。
そんな中、部屋の窓から白い猫のようなデジモンのテイルモンが入ってきた。テイルモンは猫のように伸びをしながら旅人をしげしげと見ている。
「猫……?」
「猫じゃないわ。テイルモンっていうの。よろしく」
「……猫にしか見えん」
二足歩行すらしているテイルモンを猫といっていいものかどうか分からないが、外見上は黄色い手袋を前足に付けた普通の猫である。
そんなテイルモンは旅人をあちらこちらから眺めながら、観察している。思わず居心地が悪くなる旅人だが、どうすることもできない。
「ふーん……思ったよりも普通ね」
「どう言う意味だ」
「こら……テイルモン失礼だぞ」
「ごめんなさい。噂通りの人だったらもっと……こう何かあると思って。……あれ?貴方、どこかで……。ねぇ、私と会ったことない?」
いや、会ったことも何も……初対面ですが?
そう答える旅人にテイルモンはどこか釈然としていない雰囲気を纏っていた。
ほのぼのとした雰囲気で忘れかけていたが、その瞬間旅人の脳裏に訪れるフラッシュバック。
直前までのことを一気に思い出した旅人はとりあえず生きていることを喜ぼうとして、そこにドルモンがいないことに気づいた。
「そういや……ドルは?」
「君と一緒に倒れていたデジモンなら無事だ。もう起きて外にいる」
「……そっか。なら……」
「キノコってる~!」
良かったと。
そう続けようとした旅人の言葉は続かなかった。
今度は扉から入ってきたドルモンが旅人に突撃して来たからだ。大型犬サイズのドルモンが旅人を
「……どうしたのだ?」
「いや、食べ物がキノコでデジモンで、デジモンがキノコで食べ物で……」
「訳が分からないんだけど……」
布団に包まりガタガタと震えているドルモンの事情を必死に紐解こうとするウィザーモンとテイルモン。
だが、ドルモンが揺れているのは自身の震えだけではなかった。
「……だからっ――」
「重いわっ!」
「うぇっ……な、何!?」
次の瞬間、ドルモンの下敷きになっていた旅人はそのまま起きてドルモンを投げ飛ばす。
意識してもいなかった下からの襲撃にドルモンは目を白黒させて呆けるしかなかった。
「あれ?旅人。起きたんだ……おはよ~。……ってオレの下で何してたの?」
「言いたいことはそれだけか?」
冷静になったドルモンは辺りを見回して、ようやく事情を理解したらしい。
“あはは~”と冷や汗をかきながら旅人と目を合わせないように明後日の方向を向いている。
“何故起きた傍からこんなに疲れなきゃならんのだ”と旅人はそんな妥当な怒りをドルモンに抱く。
「……それだけか?」
「……ごめんなさい」
即座に謝ったドルモンに尚も言い募ろうとした旅人だったが、それを止めたのは新たな参入者だった。
中学生くらいのその少年は傍に赤いマイクを持ったトカゲのようなデジモンであるシャウトモンを連れている。
「起きたんですね。良かったです」
「……?お前は?」
「オレは工藤タイキ。チームクロスハートのジェネラルです」
ジェネラル。
その言葉を旅人は知っている。“思ったよりも面倒なところにいるらしい”とそんな旅人の心境は誰にも伝わらない。
ちなみにジェネラルという言葉の印象が強すぎたため、この後の“未来のデジモンキングだぁ!”と威勢よく名乗り上げたシャウトモンの自己紹介は旅人の中ではあまり印象に残らなかったりするのだが、それは誰も知らない。
お互いの自己紹介を終えた後、旅人たちは数人で薪を囲みながら話していた。
ちなみにクロスハートのメンバーはかなりの数であり、これで全員ではないというのだから旅人たちは驚くしかない。
旅人たちの話は量も内容も大したものではなかったのだが、やはり進化が使えるという部分ではクロスハートの面々にかなりの驚きがあった。
「なるほど……旅人さんたちはだから……」
「ん?何かあるのか?」
「いえ。最近はタクティモンと引き分けた、僕らとも違うジェネラルがいるって噂があるんです」
別に引き分けた訳ではない。オレたちは負けただけだ。なのに何で噂が曲がって伝わっているんだよ。
頭を抑えてそんなことを考える旅人だが、残念ながら噂というものは歪んで伝わるものである。
「はぁ……オレはジェネラルじゃないし、そもそもタクティモンには負けた。引き分け……まぁ、引き分けか。引き分けたのはナムの方……あれ?そういやナムは?」
「今頃?多分はぐれちゃったんじゃないかな」
“何でこう……うまくいかないんだろ”とため息と共に吐き出した旅人のそんな思いは誰にも伝わらない。
そんな中で、タイキとシャウトモンは何かを話し合っている。やがて結論が出たのか、シャウトモンが勢いよく口を開いた。
「……なぁ。もしよかったら俺達と一緒にバグラ軍と戦ってくれねぇか!お前らがいれば百人力だっ!」
「こらっシャウトモン。俺からもお願いします。旅人さん……バグラ軍との決戦が近いんです。一緒に戦ってくれませんか?」
旅人は話の流れからそうなるだろうなとは思っていた。しかし、元々旅人はバグラ軍と事を構えるつもりはなかった上に、現在旅人たちは戦えない。
否、戦わない。
「あー……悪いけど、ちょっと今訳ありでね。オレ達は戦えないんだ。だから……」
「……いえ、分かりました。一緒に戦えないのは残念ですけど……」
「っておい!いいのかよ、タイキ!」
シャウトモンはまだ何か言いたそうだが、対するタイキは旅人の意思が分かったのか、元から無理強いするつもりはなかったのか、それ以上は何も言わなかった。
その後はただ雑談をしていたのだが、そこで旅人はナムたちのことを
「やっべ……どうしよ」
「どうしようもないんじゃない?」
「ふわ……ナムっていうのは誰キュ?」
先ほどの話題にも上がった、ナムという人物にピンク色のウサギのようなデジモンであるキュートモンが反応する。
キュートモンは橙色の狼のようなデジモンであるドルルモンの背中に乗っており、もう夜遅いとあってだいぶ眠そうではあったのだが好奇心だけは抑えられなかったらしい。眠るよりも会話することを選んだようだった。
「……まぁ、なんか凄いやつ。あと無表情」
「無表情……キュ?」
「あぁ……この前のゾーンまで一緒にいたんだけど……」
はぐれてしまった。
それはその場にいた全員が察せたことだった。今のご時世はバグラ軍が様々なゾーンを席巻しているのだ。むしろ命が助かっただけでも儲けものというほどである。
「どこのゾーンではぐれたんですか?もしかしたら協力できるかもしれません」
アカリという名前の人間の女の子が旅人に訪ねるが、残念ながら旅人はあのゾーンの名前を知らない。
しょうがなしに、そこで会ったことを逐一上げていく。
するとデュナスモンの名前が出たところで、タイキが持っているクロスローダーと呼ばれる赤いマイクのような機械の中から、食いついてきた声があった。
「デュナスモン?デュナスモンにあったのか!?」
「え?あぁ……会ったけど……その機械って喋るのか」
「いや、クロスローダーじゃなくて……中にいるアルフォースブイドラモンが……」
彼と話がしたい。ここから出してくれ。
そう言う声の主をタイキはクロスローダーの
「リロード。アルフォースブイドラモン!」
「うぉっ!一体どこから……」
全身が青く、羽の生えた騎士デジモンであるアルフォースブイドラモンが、旅人の目の前に現れる。
一方でいきなり巨人が目の前に現れた旅人は驚くしかない。そんな旅人を安心させるようにゼンジロウと呼ばれたもう一人の男の子が説明するのだった。
「クロスローダーはデジモンを収納できるんですよ!」
「マジか!便利だな……」
そんな便利なものがあるなんて。
そう思いながら旅人はクロスローダーという便利な機械を羨ましそうに見た。
一方でアルフォースブイドラモンはデュナスモンのことを知りたいらしく、ウズウズしている。
「あぁすま……すみません。えぇと……デュナスモンなら元気でしたよ」
「本当かい!?」
アルフォースブイドラモンの雰囲気に半ば気圧されるように、旅人は少々引き気味に話す。リリスモンとの戦い。そしてリリスモンの爆発。あの異空間。
多分ナムも一緒だから、飲み込まれても大丈夫だとは思うけど。
そう付け加えた旅人を前に、“ナムって人は一体?”とタイキたちのナムについての謎が深まるばかりだった。
「そうか……無事だったのか」
「……知り合い何ですか?」
「あぁ、同じロイヤルナイツだからね」
ロイヤルナイツと、アルフォースブイドラモンのその言葉に驚くのは旅人である。
立て続けにロイヤルナイツに会っているのだ。この調子だと他のメンバーにも会いかねない。別にロイヤルナイツがどうという訳ではないが、旅人の中でロイヤルナイツイコール厄介事の方程式は完成しつつある。
「そ、そういえば。そっちは……あれだろ。デジクロスとかいうのを使うんだろ。どんなのなんだ?」
「デジクロス?」
そんな嫌な予感を胸に仕舞い込み、旅人は話を逸らす。
デジクロスについて、興味がないわけでもないのだ。興味本位の旅人の質問に答えたのは、やはりというか、ウィザーモンだった。
“普通使い手が説明するものではないのだろうか”とそんな旅人の心の声はやはり届かない。
「デジクロスは……簡単に言えばデジモン同士の合体強化の力だな。一言で言えば絆の力だ。」
「絆?何か……」
「意味が分からないか?」
そこまでは言っていない。少し嘘っぽく聞こえたのも事実だが、旅人は全く意味不明というわけでもない。
絆、詰まるところ信頼や信用といったものの大切さくらい旅人だって知っている。
「絆の力はそこまでありえないという訳でもないのだがね。……デジクロスはとどのつまりデジモン同士の融合だ」
「はぁ」
「うーん……融合ということはつまり、自分の体の中に異物が入ってくるということだ。例を挙げれば、全く信用ない奴と組んで背中を気にしながら行動するのと、信用のある奴と組んで背中を任せながら行動するのとではどちらの方がより良いかということだ」
なるほどウィザーモンのその説明は分かりやすい。
もっとも合体強化の力で覚えておけばいいのだが、無駄なウィザーモンの説明は旅人にとっても分かりやすかった。
一方でそれを使っている本人たちは“全くそんなことを意識していませんでした”という顔をしている。
「って話がズレていましゅよ!」
「ん?ちびっ子いのが……」
子供が苦手気味な旅人にとって子供とはあまり関わりたくない。
明らかに小学生くらいの子供が影から飛び出してきて、ツッコムように話の修正をかけてきた。
「ちびっ子いの……?ちがいまち。あたちの名前は天野コトネ!花も恥じらう十七歳!」
「十七歳!?嘘でしょ!」
ドルモンが奇声を上げ、驚く。
しかし、後ろにいた黄色い飛行機のようなデジモンであるスパロウモンがコトネのそんなジョークを読んでいたかの如く、すぐさま訂正を入れた。
「マイナス百二十ヶ月ね……」
「何だ~びっくりした」
「はいここ笑う所!なんでちか!やっぱりアメリカンジョークの通じない人でちねー!」
“あはは~”と律儀に笑う――といっても愛想笑いだが――ドルモンにコトネのお守りを任せて旅人は逸れに逸れた話を元に戻す。
決してドルモンにコトネの相手を押し付けたわけではない。
「話がズレてしょうがないな。多分ナムはデュナスモンと一緒だと思う……多分」
「多分って……はっきりしねぇな」
「だってあいつの行動読めないんだよ」
謎行動しかしていないナムの行動を読むことなど旅人には不可能である。
これからどうしようか、とこれからの行動を悩むそんな旅人に対し、タイキが一つの提案をしてきた。
その提案は――。
「だったらしばらく俺たちと一緒に行けばいいんじゃないですか?」
「なして?戦うところに行くのは無理だぞ」
「そんなこと言ってませんよ」
タイキが言うには単独行動するより、一緒にいた方が安全ではないかということ。
バグラ軍との決戦にはロイヤルナイツも来るだろう。そこにはきっとデュナスモンも。ナムがデュナスモンと一緒であるというのならば、闇雲に動くよりも一緒にいたほうが再会の確実性が上がるだろう。
そして、これからある理由で人間界へ行くウィザーモンたちについて行けば、戦闘に関わらないのではないかということだった。
「……」
「……どうしたんだ?」
「いや、頭いいなと思って。だけど……」
その案は、確かに確実性は上がるが、リスクもある。
それだけではなく、タイキたち一緒に戦うという提案を断っておいて、こちらだけ世話になるのは虫のいい話である。
「気にしないでください。俺は困っている人はほっとけないんです」
「……すごいなぁ」
「え?」
周りの旅人とドルモン以外の全員が、“またタイキのほっておけないが……”という生暖かい目でタイキを見ている。
そして真っ直ぐに言い切ったタイキに旅人は素直に感心した。
正直に言えば、このような戦争中に戦えないのに動くのはキツイ。しかも、ナムたちを探しているためにとっとと逃げることもできない。
しばらく考えて、若干申し訳なく思いながらも旅人はタイキの提案をありがたく受け入れることにしたのだった。
「いや、なんでもない。んじゃ、よろしく頼むよ」
ちなみに人間界でする面倒な仕事の面倒さに旅人は泣くことになるのだが、旅人はそのことをまだ知らない。
ひ、人が多かった……書くのがキツイ。
まぁ、なにはともあれ、そろそろ第三章も後半突入です。
あと、この小説を楽しみにしてくれている方(いるのかどうか分かりませんが)には申し訳ないのですが、しばらく更新を停止します。
理由は大学のテスト二週間前に突入したからです。息抜きにちょこちょこ書くつもりではあるのでもしかしたら、もう一回ぐらいはテスト前に投稿するかもしれませんが……。まぁ、約二週間後……一月の下旬にはちゃんと再開しますので。
それでは次回もよろしくお願いします。