すみません。テスト明けでちょっとおかしなテンションになってました。
ここからは普通に更新を再開します。
あるホテルの一室。そこで旅人とドルモン――今はウィザーモンの魔術によって人間の姿になっているが――はベットで気持ちよく寝ていた。
その寝顔は穏やかなもので、大層気持ち良く眠っていることが分かるほどであったのだが、残念ながらその眠りは唐突に終わりを告げた。
「ぐー……すー……」
「さっさと起きるでしー!」
「ぐぇっ!」
掛け声とともに部屋へと飛び込んできた、小学生くらいの女の子がドルモンへと突撃したのだ。
いきなりな事態に別の意味で眠りそうになるドルモンはさておいて。
旅人が落ちそうになる瞼をこじ開けながら見た風景は、扉の向こうでごめんなさいのポーズをしている人間の姿のテイルモンとやはり人間の姿であるウィザーモンだった。
「……まだ朝の七時なんだけど?」
「もう朝の七時とでも言うべきか?まぁ、……」
言葉を切ってウィザーモンが見た先を、旅人も見て納得する。そこには随分なハイテンションでドルモンを叩き起そうとしている、女の子の姿があった。
「確か……コトネだったか?一応クロスハートのジェネラルだろ?いいのか?」
こんなところで隠蔽工作していた旅人たちからはそんな雰囲気は感じなかったが、今はバグラ軍との戦争中である。
一応とはいえ、指揮官の一人がこんなところにいていいのか。
言外にそう言う旅人に対して、ウィザーモンは“良いことではないだろうが、別に構わないだろう”と呆れた雰囲気で返答する。
「彼女も、実の姉が敵と共に行方不明になっている。こういった息抜きは必要だろう。外にもう一人待っている。時間もないし、急ぐぞ」
「早くするでしよー!」
「まぁ、疲れているところ、悪いけど……なるべく早くね」
好き勝手したメンバーは好き勝手に言うと部屋から出ていった。
旅人としては二度寝したいところではあるが、もし二度寝なぞした暁には、そこでボロ雑巾のように転がっているドルモンのようになるだろう。
「おい……起きろドル。またそうなるぞ」
「……」
「はぁ」
着替えた旅人は溜息吐きながら、ドルモンを背負って部屋を出たのだった。
なぜこうなった。
旅人の心境を端的に表す言葉である。今旅人たちは、東京、浅草にて観光をしている。コトネが来たということは、最終決戦までもうあまり時間はないということだろう。
元々戦力外である旅人とドルモンは、そうなった場合、巻き込まれないためにも別のゾーンに移る手はずのはずである。
それなのに迎えに来たはずのコトネは呑気にテイルモンと、その横の活発そうな少年――例によって人間の姿をしているスパロウモンである――と共に遊び倒している。
ちなみにドルモンは疲れてダウンして近くのベンチに横たわっている。
もっともこの場合のダウンとは気絶とイコールなのだが。
だが、旅人とウィザーモンも一時間も経たないうちに疲れたので同じくベンチに座ることとなった。
「……空が青いなぁ」
「……」
空を見上げて黄昏る旅人は、さながら休日サービスに疲れたお父さんを体現した姿だった。
もっとも、その当人はお父さんとは程遠い人物であるのだが。
一方でウィザーモンはベンチに座りながら、頻りに何かの紙とにらめっこしている。
「ふむ。よし、実証だ」
「何を?」
前日までの疲れもあってウトウトし始めた旅人は、いきなり立ち上がったウィザーモンを疲れた目で見る。
一方で旅人のそんな目を気にしていないウィザーモンはゴソゴソと腰の辺りからある機械を取り出した。
最近どこかで見たような、マイクのような機械を前に、旅人はボーっとする頭で必死に思い出そうとする。
「眠たそうにしている場合じゃないぞ。旅人、これを見てくれ」
「なんだっけ?それ。どっかで見たことが……」
必死に思い出そうとするが、思い出せない。この世界で見たことは確かなのだが、どこで見たのかが、思い出せない。思い出そうと考え込むと、だんだんと瞼が下がってくる。
そんな旅人の姿に焦れったいものを感じたのか、ウィザーモンは種明かしをするのだった。
「クロスローダーだ」
「……それ何だっけ?」
がっくりとウィザーモンは肩を落とす。正直なところ、もっと違う反応を期待している部分もなかった訳ではないのだ。
だが、旅人も数回しか見ていないそれを覚えているはずもない。しょうがなくウィザーモンは説明するのだった。
「タイキが持っていただろう?デジクロスやデジモンを収納、果ては時空ログや、ゾーンの移動までできる……」
「……あぁ!あれか!……あれ?アレって結構大切なものじゃないのか?」
ようやく理解した旅人は、クロスローダーをウィザーモンがタイキから借りてきたのだと思っている。
だが、ウィザーモンの返答は旅人の斜め上を行っていた。
「複製した」
「あぁ……複製……へ?」
「だから複製した」
思わず変な声を上げる旅人だが、現実は変わらない。
さまざまな現象をもたらす、この戦争の鍵ともなっている重要なアイテムらしいものを、ウィザーモンは複製したと言っているのだ。
その言葉の軽さに旅人が思わず疑ってしまうのも無理はないだろう。
「……そんなことできんの?」
「とてつもなく精巧で、一部魔術的知識はいるが、クロスローダーはあくまでただの機械だ。重要なのは、一部人間が持つ才能、
「ふーん」
旅人はウィザーモンが凄いことをしたと分かっているのだが、クロスローダーをよく知らない旅人にとっては、“それこそ凄いな……だから?”と言うしかできない。そのような反応をする旅人は実に自慢し甲斐の無い相手である。
旅人の雰囲気でそのことに気づいたウィザーモンは、先は長そうだと溜息をつきながら、クロスローダーの説明から入ることにしたのだった。
「主な機能として、情報の保存がある。この情報の保存によって、デジモンを収納することもできるし、収納したデジモンを回復させることもできる。あと、今まで渡った時空間のログを残す」
「時空間の?」
それがあれば『世界転移』とか使っても毎度のごとく迷子にならないんだろうか。
そんなことを名案とばかりに旅人は思いついた。それがあれば異世界を旅し放題である。
ちなみに。後に、例えログが残っても“旅人が”その情報を理解することはできないことが分かり、未練タラタラで諦めることとなるのは別の話である。
「後は持ち主のクロスコードを利用してデジクロスができる。まぁ、クロスコードがなければデジクロスはできないのだが」
ウィザーモンは言葉を切って、ここまでが前置きでここからが本題だと静かに言った。
もっともその発言は別の意味で旅人を驚かせるものだったりする。
「旅人。君にも、クロスコードに似た何かがあることが調べた結果分かった」
「いつ調べたんだよ……」
「そんなことはどうでもいい。その何かでもデジクロスができることには違いないということも分かってる。ということでやってみてくれ」
クロスローダーを手渡された旅人だが、そんなことを言われてもどうしていいか分からない。しかも、さりげなく旅人の“いつ調べたんだよ”発言は流された。
しばらく旅人は手でそれを弄っていると、予想通り訳の分からない情報が画面に色々と表示される。
「うん、分からん」
「デジクロスを試してみてくれ。デジモンを選択して、それでデジクロスと言えばいい。声認識もあるから複雑な手順を踏まなくてもいい。君でも使えるだろう?」
言外にこういう機械音痴と言われて、旅人はイラっときた。旅人が機械類を使えないのは、使ったことがないからであって、機械音痴というわけではない。
もっとも旅人自身にこういう物は面倒くさいと思っている部分もないわけではないのだが。
「はぁ……分かったよ。でもやるデジモンがいないぞ?」
「一度デジクロスというものを経験してみたかったんだ。僕とドルモンでいい」
「……ドルモンネテル」
自身を実験体にするといっているウィザーモンに思わずカタコトで喋る旅人。しかし、そんなことは関係ないとばかりに、ウィザーモンは急かす。
旅人が引くほどの雰囲気である。
「……ドル何かあったらスマン。ウィザーモン!ドルモン!デジクロス!」
「……」
「……何も起こらないんだけど?」
勇んで言った割には何も起こらない。
旅人は自身がゴッコ遊びをしたみたいで猛烈に恥ずかしくなった。穴があったら入りたいという状態である。
一方でウィザーモンは、“おかしいな”とブツブツ呟いている。
やがて、ウィザーモンは人目を逸らすという結界を急いで張ると、何やらさまざまな魔術を使い始めた。
ドルが起きなくてよかった。
そんな安堵の思いを感じながら、居た堪れなくなった旅人は手に持っていたクロスローダーをそっとベンチに置くと、顔を押さえて寝たふりをし始めた。
「そうか!分かったぞ!」
「……そうか。良かったな。オレのことはほっといてくれ」
「そうはいかない。聞いてくれ!」
“この状態で無理強いするとか鬼か!”と旅人は抗議の視線を送るが、ウィザーモンはどことなく吹く風だ。
「どうやら、旅人の中のその何かはデジクロスするには足りないみたいだ」
「……さんざんひっぱっといてそれかよ。あーあ……もし出来たのなら手札が増えると思ったのになー」
「手札が?」
もしデジクロスが成功した場合、旅人はクロスローダーを譲ってもらうつもりだった。クロスローダー、そしてデジクロスというものはそれなりに魅力的だったのだ。
だが、結果は恥ずかしい思いをしただけである。こうなりゃヤケだとばかりに旅人はウィザーモンに話し始めた。
「まぁ、戦闘を避けるっていう方針だとあんまり使いどころがないかもしれないけどさ。オレってカードの力を使うんだ。けど色々と制限があるからな」
「カードとやらは使い捨てなのか?」
「いや……そういうわけじゃないけど、ただ一度使うと同じやつはしばらく使えない。数が多くないし、一種類ずつしかないから使いどころを見極めないといけない。実際この前はほぼ使い切って、役たたずになったこともあったし。」
そう言った旅人はあの死の化身との戦闘を思い出す。
あの時は主要カードのほとんどを使い切り、アルファモンとオメガモン、ドルゴラモンに任せるしかなかった。
ドルモンが戦わない今、出し惜しみができるかどうかわからない。そんな時のために、旅人は使えそうな物は何でも欲しいのだ。
「そうか。済まないな……ぬか喜びさせてしまったな。まぁ、少し調整すればできるとは思うから、また頼むよ」
「……いや、いいよ。ドルが戦わないなら、デジクロスができたってあんまり意味ないし。そもそも二体もデジモンいないし」
話が途切れたことで旅人は先ほどの醜態を思い出した。
急に恥ずかしさがぶり返し、話を逸らそうとする。もっとも逸らそうとした先の話はある意味で地雷なので、本人がいないことを確認した上で、だが。
「ゴホン。あ、あーそういえば……コトネの姉ってどんな奴なんだ?」
「いや、僕らも会ってはないが……そうだな。バグラ軍とクロスハート。クロスハートと同盟を組んでいるブルーフレア。だけどそれとは別にもう一つの勢力がいるんだ」
新しい勢力が出てきたことにより、旅人は頭痛がした。
勢力という、ただでさえ複雑な関係が、追加でさらに面倒なことになったのだ。
話を振っておいてなんだが、これ以降さらに勢力が追加された暁には旅人は思考を放棄する所存である。
「まぁ勢力というと語弊があるかな。ダークナイトモンというデジモン……そこに付き従うシェイドモンと一緒にいるらしい」
「人質ってやつか。意外と大変なんだな。あの子も」
「人質とは少し違う。シェイドモンと彼女の姉……天野ネネがデジクロスしてしまっているらしい。解除もできず、しかも肉体の主導権をシェイドモンに握られている」
ウィザーモンのその言葉に旅人は驚いた。人質ではないという部分にではなく、
「へぇ……んじゃ、タイキたちも?」
「いや、タイキたちはそんなことはしていない……そもそもデジクロスは……ん?……」
「おい……どうした?」
旅人にとっては軽い気持ちでした質問だったのだが、ウィザーモンは何かを思いついたらしい。下を向いて黙り込んだウィザーモンはブツブツと何かを呟いている。
いきなり黙り込んだウィザーモンを不審に思った旅人が近づいた瞬間、何かを思いついたのだろう。勢いよくウィザーモンは顔を上げた。
ついでに顔を上げた時に目の前にいた旅人の目にウィザーモンの三角帽子のとんがっている部分が刺さったりする。
「ごっ!目がぁっ……地味に痛い!」
「すまない旅人。少し用事を思い出した。ちょっと行ってくる。帰りまでには戻る!」
そう言って走り去るウィザーモンだが、旅人は目の痛みに集中していて聞いていない。
最後にウィザーモンが言った“すまない”は、用事を思い出していなくならなければならないことに対してか、それとも帽子が旅人の目に突き刺さったことに対してか。どちらの意味だったのかは不明だが、前者の方がありそうではある。
そして走り去ったウィザーモンと入れ替わるように、テイルモンとスパロウモン、そしてコトネがやって来た。
「浅草はやっぱり人が多いわね。あれ、ウィザーモンは?」
「どうしてそんなところで蹲っているでちか?あ、分かったでし!キ……」
「コトネ!それ以上はダメだよっ!」
勝手なことを言う三人を前に旅人は、目を押さえながら、事の経緯説明とウィザーモンが去った方向を指で差す。
ちなみにその後しばらく、何故か機嫌の悪くなったテイルモンがいたのは、ほんの余談である。
予定ではもう三章は終わっていたはずで、四章に入ってたはず何だけど……おかしいな~。まぁ、第三章はもうちょっと続きます。
というわけで前書きにも書きましたが、今回からまた通常通りの更新を再開します。
では、またワールドトラベラーをよろしくお願いします!