あの後、旅人達は騒ぎを聞きつけやって来たこの隠れ里の長老に、長老の家にまで連行された。
長老宅で話された話の内容は難しいことではなく、ただ単に隠れ里から出て行って欲しいというものだった。
「ゴメンねぇ。君たちが悪くないのは分かるのだけれどねぇ……」
「いえ、こちらもやり過ぎましたし……」
あのオーガモンは元々悪者として嫌われていたらしく、倒すこと自体は良かった。
……のだが流石に殺すことまでいったのはまずかったらしく、争いごとに縁がないこの里の住民達は旅人達を怖がっているとのことだった。
「本当にごめんなさいね。最近はかの英雄が訪れたこともあって、皆不安がっているのよ」
「英雄……?」
「えぇ。かの英雄は何かを探しているようだったから……。皆、何か……良くないことの前兆だと思っているの」
長老――ババモン――の話だと、英雄という存在が訪れたこともあってか隠れ里内での最近の雰囲気が少し暗くなっているという。そんな中で厄介事を持ち込んだ存在を歓迎はできないとのこと。
「まあ、仕方ないか。オレたちはいいけど、ウィザーモンは?」
「いや、僕ももう用はないが……いいのか?」
「いいもなにも。元々俺たちは余所者だしな」
その言葉を最後に長老の家を出て、隠れ里の外へ向かう。
途中レストランで会ったピヨモンやタネモンたちに別れを告げ、少しばかりの食料をお礼として貰う。
隠れ里は巨大なデジモンが来ることも想定しているためか、かなり広く、出口まで三時間はかかった。
「はぁ……また……うぅ……どうせオレなんて……役たたずだし?でも……また……」
「……旅人。アレは……?」
「めんどくさい状態。何かやらかすとときどきなる。基本なんとかしないとそのまま。ほっとくが吉」
「何とかしないとそのままなのにか?」
あえて触れなかったドルモンの状態にウィザーモンはどうしたものかと考える。
旅人は何を考えているのかダンマリである。
そんな中でドルモンの自虐とネガティブテンションはかなりひどくなっていく。
「あはは~……。どうせ壊すことしか能がないオレなんて……。簡単にプッチンしちゃうオレなんて……だから頭に乗せてもらえないんだよね~……」
「…………」
回りまわって解決した問題まで出てきた。落ち込んでいくドルモンにウィザーモンは声をかける。
「いや……今回のことは……」
「ふふふ~気を使わなくてもいいよ~」
そう言われると、ウィザーモンとしては黙るしかない。付き合いが浅いのだ。ウィザーモンがドルモンにかけることができる言葉などたかが知れている。
「はぁ……壊れたな。寝りゃ治るんだが……」
「そうなのか?」
「鳥頭だからな」
基本旅人は悪い雰囲気が嫌いだ。放っておけば治るとはいえ、このままこの空気が続くのは旅人としても避けたい。
「もういいよ。過ぎたことは……お前が役立たず……違う。すっとこどっこいな奴なのは昔からだし。だから……うーん」
「それってバカってこと?」
割と支離滅裂な言葉。旅人としては、慰めの言葉のつもりだったのだが、慰めになっていない。
言葉の内容はどう受け取っても、ドルモンを貶しているようにしか聞こえないものばかりだ。
「うっ!……アレだ。アンポンタンってことだ」
「っぷ……相変わらず教養がない言葉だね。旅人」
「っておい!慰めてんのに何だよ!喧嘩売ってんのか!買うぞ?いくらだ!」
少し歩くペースを速めながらも、またいつもの喧嘩をしだす二人。いつの間にかドルモンの機嫌は治っていた。
その後ろ姿に正しく相棒だということを再認識したウィザーモン。二人の小学生のようなやりとりにウィザーモンは子を見守る親のような気持ちで、緩む頬を抑えられないのだった。
「何笑っているんだよ……」
「いや?別に」
ちなみに後日。ウィザーモンは似たような状態が旅人にもある―しかも旅人の方が些細なことでもなる分、発生率が高い――と知ることになる。
ウィザーモンは二人のこの面倒くさい状態が日常茶飯事だったことに頬が引き攣るハメになるのだが、それはまだ知らないことである。
「んで、結局野宿かよ」
隠れ里を出るのに予想以上の時間がかかったため、隠れ里からそう遠くない位置で野宿である。
晩御飯はピヨモンから貰った、ゲテモノ乾燥食品。量がないので明日の朝にはなくなりそうだったが。
「そうは言ってもな。どのみち明日以降はこうなのだからな。諦めろ」
「いや、別に野宿自体はいいんだけどな。この森ってどのくらいデカいんだ?」
隠れ里が想定の数倍だったことに驚いたのだ。ならばこの森も考える数倍大きいのだろう。そ
う考えてした質問だったが、返ってきた答えは旅人の想像より少なかった。
「この森自体は小さい。歩いて半月と言ったところだ。ただ……」
「ただ……?」
「いや、迷わなければ……の話だ」
「不吉すぎるだろ、おい」
半月。かなり歩くが森であることを考えれば食料には困らない。そして道も道しるべを辿っていけば迷うようなものではないとのこと。その言葉に旅人は安心する。
ちなみに反応がないドルモンは食後すぐに夢の国へと旅立っていた。
「そういや、一つ聞きたいことがあるんだけど?」
「ん?なんだ?」
カードによって取り出したテントで寝る支度をしながらも会話を続行する。
「長老がさ?英雄がうんたらって言ってたじゃん?どんな奴なのかなと思ってな」
そのデジモンが現れただけで里の雰囲気が変わるのだ。とんでもない影響力を持っていることだけは確かである。だが、答えたウィザーモンの表情は優れないものだった。
「言いにくいことなのか……?」
「いや。そういうことではない。英雄についてはあまり知らないのだ。僕の故郷だった世界が滅びの道を辿っていた時に現れて世界を救ったこと。故に僕の故郷では伝説の英雄と呼ばれていること。この世界ではその目撃例の少なさから幻想の戦士の別名があること。数少ない究極体の一体であること……くらいかな?」
「それだけ知っていれば十分だと思うけどな」
世界に数体しかいない究極体の一体。それだけでどれほどのものかは想像できる。だが、次に出てきた言葉は旅人の想像を遥かに超えていた。
「ああ!後英雄の伝説の一文に時を超えて尚存在するが、世界に何かある時にしか姿を現さないとある。そんな存在が目の前に現れたんだ。動揺しない方がおかしいと思うけどね」
どんなものも時の中で消えていく。そんな世界の大原則から真っ向に逆らう存在が目の前に現れる。
確かに動揺しない方がおかしい。そんな奴が現れた。
“面倒な時に来たのかもな”旅人はそんなことを考えながら、見張り交代までの間、眠りについた。
隠れ里を出発してから一週間。そろそろこのメンバーでの行動に慣れ、全員が気楽な様子で歩いている時に事件は起こった。
「……。さっきからおかしくないか?」
朝、数少ない食料を消費し出発した。だが出発してすぐに旅人が違和感を訴える。
違和感自体は大きいというわけではない。しかし、僅かな違和感でも違和感があることには変わりない。
「え~?そんなこともないと思うよ?どこまで見ても木ばっかりだし」
「…………」
ドルモンが役立たずなのはいつもどおりとしてもウィザーモンが何も言わないのは明らかにおかしい。
旅人のそんな視線を感じ取ったのか、ウィザーモンが口を開く。
「いや、おかしいといえばおかしいが……まぁ、問題ないといえば問題ない」
「どっちだよ?」
「とりあえずは問題ないということにしといてくれ。そのうち分かる。はぁ。アイツは何をしているんだ……」
“呆れました”と言った体のウィザーモンに二人は首を傾げるしかない。最後の言葉的に知り合いが関わっているようだが、旅人達には知りようがない。
仕方ないので問題ないことにしておいて歩き始める。すぐにウィザーモンの言った意味が分かることになるのだが。
「ここか。ょじいかうほま。さてもういいぞ。行こうか」
「?」
立ち止まったウィザーモンは何かを呟くとまた歩き出した。内容的にはさっきの違和感が関係しているようだったのだが。そこで旅人は先程までの違和感が消えていることに気づいた。
そして突然辺りに奇声が響き渡った。
「あっ……あー!なんで壊しちゃうのよー!せっかく作ったのにー!」
「……はぁ。ウィッチモン。何をしているんだ?」
いきなりの奇声に驚いて声のした方を見ると魔女――ウィッチモン――がいた。
どうやら彼女がウィザーモンの知り合いであり、先程までの違和感の原因だったらしい。テンションが高くなっていくウィッチモンとは対称にウィザーモンは面倒くさそうである。
「あれ作るために一週間もかかったのよ!?進行ルートを予測してそれから……」
「分かった。分かった。それで?何をしているんだ?」
ウィザーモンの対応がだんだんとぞんざいになって行く。
旅人とドルモンに関しては置いてけぼりである。
対照的にウィッチモンは旧友との久々の再会にテンションがうなぎ上りで上がっていく。
「あんたが勝手にこっちに来ちゃったから、慌てて来たのよ?何そのぞんざいな対応は!」
「……修行に行くと言っておいたはずだが。別に君まで来る必要はないだろう」
「べ、別にどこにいようと私の勝手でしょ?私だってアンタに負けない大魔道士になってやるんだから!」
「そうだな。お互いに頑張ろう。ではな」
そう言うとウィザーモンは歩き出す。置いてかれないように旅人たちもついて行くがはっきり言って状況についていけてない。
「……もお~!なんでアイツはああなのよぉ!」
後ろで奇声が聞こえた。よく聞くと雷鳴らしき音も聞こえた。
「誰?」
「ウィッチモンだ。僕の故郷での友人みたいなものだ。」
「友人ね~。他には?」
いつになくドルモンが質問する。まあ、旅仲間のことを知るいい機会なので旅人も止めようとは思わなかった。
一方でウィザーモンはウィッチモンに対して、結構なものを溜め込んでいるらしく、かなりの数の愚痴をこぼし始めた。
「いつになく質問してくるなドルモン。他といっても何もないよ。アイツはいたずら好きでな。朝僕にイタズラしようと部屋に忍び込んできたり、私を食べてなんて……絶対に何か体に仕込んであると見る。腹を下したらどうするつもりだったんだか。あぁ、そういえば毎日ご飯を作ってあげるとも言われたな。まったく。毎日ご飯を作るなんて……よくもまあそんなにイタズラし続けようと思えるものだ。魔術の腕は僕と並んで上位クラスだというのに。」
「……ウィザーモン。本当にイタズラ好きで済ませているのか?」
「?面白いことを言うな。今のシチュエーションにイタズラ以外することがないだろう。彼女ならな」
「苦労してんだな……あの子」
ウィッチモンの大胆な頑張りとそれが報われない世知辛さに旅人とドルモンは彼女の幸運を祈った。
その苦労が報われるとは限らないのだが。
「苦労?あまりしてないと思うよ?アイツはそれなりに頭良いからね」
「いや……そう言う意味じゃなくてな。とりあえず、食べるの意味はそのままの意味じゃないと思うぞ?」
「他にどんな意味が?」
「言えることじゃねぇよ!」
知らないことは知りたがる天才。代わりに恋愛方面は疎い。
旅人はいつか刺されるんじゃないだろうかと考え、その考えをすぐに打ち消した。旅人は素で言えるようなことではないことを追求してくるウィザーモンから逃れるために走り出す。
「旅人~。どうしようもないって」
「まぁ……取り敢えず頑張れとしか言い様がないな」
追求から逃れるために走っていたのがいつの間にか鬼ごっこに変わっていた。そんな中でも会話ができているのは単に能力が高いからか。判断に困るところである。
「何についてかは分からないが……分かった」
「お前にじゃない!」
ドルモンと二人で苦笑しながら、旅人とドルモンは次にウィッチモンに会った時は優しく接してあげることを心に決め、森の出口まで駆けていった。
ウィッチモンが登場しました。ウィッチモンのスタイルとしては悪くはないんだけどなんか残念といいますか、要領が悪いといいますか、そんな感じです。今回も久しぶりの再会でちょっとテンションが上がっていただけです。普段からこうではありません。というか、普段からこういう性格のキャラは作者の力量的に書けませんでした。
では、次もよろしくお願いします。