【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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今回の話を某ポケットに入るモンスター風に言うと。
おや?ドルモンのようすが……。
です。まぁ、タイトルでバレバレですが。


第四十二話~掴み取った未来!新たな進化!~

 時は少し戻って。旅人はドルモンを背負って必死にミレニアモンから逃げていた。あの後、旅人はミレニアモンに食われる前に何とか目を覚ますことができたのだ。

 だが、背負っているドルモンは何故か体が薄れ始めていて、旅人は若干のパニック状態になっている。

 

「うぉおおおおおお!set『加速』『最大強化』!ドル!さっさと起きて!ついでに体も元に戻って!」

 

「グギャアアアア!」

 

 只管に走って逃げる。先ほど白紙のカードを変化させた『再生』をドルモンに使ったが、効果はなかった。未だドルモンの体は薄れ続けている。

 それを見ながらも旅人はその現象がどういうものかを考えないようにしてひたすらに走った。

 

「死ぬ!マジで!」

 

 だんだんと背中が軽くなっていくことを感じながらも旅人はひたすらに走る。

 だが、この場面で使うべきカードが思いつかない。ミレニアモンの――知能はともかく――スペックはかなりのものだ。

 カードの効果もほとんど効かないものが多いであろう。逃げることができるのも時間の問題である。

 

「ッ!ガッ……!」

 

 一瞬油断した。背中の砲身から放たれた閃光。

 それを旅人は何とか避けるが、その余波でかなりの距離を飛ばされた。

 “マズイ、ミスった”と内心でぼやきながら、旅人は己の状況を呪う。距離を離しすぎてもダメなのだ。あの砲撃は攻撃範囲が広い。距離が離れていれば、当然遠距離攻撃であるあの砲撃が来る可能性が高いのだ。

 あの威力ではカードを使っても、防げない。防げたとしても、その後が詰まる。

 

「間に合え!」

 

 ドルモンを背負ったまま急いでミレニアモンの方へと走る。狙うは背中。ミレニアモンの腕が届かないような位置。

 四本の腕を避けて背中に――届こうとした直前で使用していたカードの効果が切れたために旅人のスピードがガクンと落ちる。

 そのせいか足を滑らせてミレニアモンの足元に着地した旅人は、急いでカードを取り出した。

 

「っち……set『不可視』『無臭』『気配遮断』『無音結界』」

 

 焦りを抑えて四つのカードを同時に使う。そのうち三つは白紙のカードを変化させたもの。

 初めて使うカードへと変化させたが、ミレニアモンはこちらを見失っている。どうやら首の皮一枚繋がったようだった。

 『不可視』でこちらの姿を消し、『無臭』で匂いを消す。『気配遮断』で気配を消して、『無音結界』自分の周りの音をミレニアモンに届かないようにした。

 もっとも実際はかなりの賭けだった。ミレニアモンがそれら以外の知覚手段を持っていたり、何らかの手段で周囲を探せるほど知能が高かったりしたのならば、旅人たちはすぐに見つかっている。

 とはいえ効果は長くない。旅人が背中のドルモンを見れば、消えかかって――。

 

「っておい!」

 

 ドルモンの肩を揺らすが、起きる気配が全く無い。若干消えるスピードが早くなった程度だ。カードをすべて取り出して考えるが、思いつかない。白紙のカードは残り一枚。元からあるカードには役に立ちそうなカードはない。あの時師匠からもらったカードは、使えた試しがない。

 唯一可能性がありそうなのは、黒いカード。アルファモン――別世界のドルモン――から受け継いだ命という名のカード。

 命という名がついているのだ。今にも消えそうなドルモンを救ってくれるかもしれない。というよりもこれしかもう縋るものがなかった。

 

「っぐ……頼む。ドルを助けてくれ」

 

――命は受け継がれていくものだから――

 

 あの時、アルファモンはそう言った。

 旅人は自分があのアルファモンの命を継げたとは思っていない。迷いながらも答えを出して、世界を救ったあの騎士ほど旅人は大層な人間ではないから。

 だけど、今だけは。受け継がれたと言われたその命に縋りたかった。

 黒いカードが、少しづつドルモンの中へと溶け込んでいく。

 そして旅人のその手から黒いカードが完全に失われた瞬間――。

 

「う……?旅人?」

 

 ドルモンが目を覚ました。もっとも体はまだ半透明のままなのだが。

 

「……はぁ……良かったよ」

 

 起き上がったドルモンに旅人は一息ついて安堵する。

 一方でドルモンはまだ現在の状況がつかめていないらしかった。彼方此方を見回して、近くにいるミレニアモンを見て顔が強張っている。

 

「とりあえず、ミレニアモンからはカードの力で隠れている。今のうちに……」

 

「でもこっち見てるよ?」

 

「……あれ?」

 

 言われて旅人は上を見る。ミレニアモンは確かにこちらを見ていた。まだはっきりと気づいてはいないのか、その目の焦点はあっていない。

 だが、その感じから言ってあと少しで見つかることは確実だった。

 その時。立ち上がったドルモンが旅人を庇うように前に出る。

 

「おい、ドル……?」

 

 その雰囲気から旅人はドルモンがやる気だと分かった。

 先ほど一度負けた相手に、それでも尚挑もうとしている。その姿に旅人はいつかのドルモンを思い出した。

 

「大丈夫」

 

「いや、大丈夫って言ったって……」

 

「もう大丈夫。旅人の……いや、僕たち(・・・)の未来は……オレが掴み取る」

 

 いつかどこかで聞いたようなドルモンのそのセリフ。

 だが今回は、以前のような不安を感じさせるようなセリフではなく、頼もしさを感じさせるセリフだった。

 何があったのかは分からない、でももう大丈夫。それを旅人は感じ取ることができた。

 

「くそぅ……何か知らない間に子供が成長していた親の気持ちだ」

 

「っぷ……何それ」

 

「あ。……えぇと、やる気んとこ悪いけど、ドルゴラモンまで進化できるほどカードがない」

 

 ピキリ。旅人の言葉を聞いたドルモンはそんな感じの音を立てて――少なくとも旅人にはそう聞こえた――固まった。

 究極体のドルゴラモンに進化するには白紙のカードと『進化』のカード、ないし白紙のカードが二枚いる。だが、白紙のカードは残り一枚で『進化』のカードはまだ戻ってきていない。

 『二重』のカードは使ってないので、完全体のドルグレモンになら進化できる。が、流石にドルグレモンでどうにかできるほど、ミレニアモンは甘くないだろう。

 固まったまま動かなくなったドルモンはギギギと鈍い音を立てて――繰り返すが、少なくとも旅人にはそう聞こえた――再起動する。

 

「……まぁ、なんとかなるでしょ。奥の手もあるしね」

 

「……。前にやったカードなしでの進化じゃないだろうな?」

 

「……」

 

 旅人の言葉にドルモンが顔を背ける。

 正解だった。もちろん旅人だってそれをさせる気はない。それをさせた場合の代償のことがあるから。

 

「……また振り出しに戻る気かよ。あの後苦労したんだぞ?それにまだお前半透明のままだろうが」

 

「半透明……?うぇ!ホントだッ!」

 

「気づいてなかったのかよ!」

 

 “どうなってんのこれ!”と幽霊のような自身の状態を指して旅人の肩を揺るドルモンだが、そんなこと旅人の方が知りたい。

 だが、焦るドルモンを前に旅人はひどく冷静だった。自分よりひどく取り乱した他人を見て、急に冷静になるアレである。

 ついでに冷静な旅人はそこで気づいた。辺りが暗くなっていることに。上から()が降ってきていることに。

 そして冷静な旅人はそれが何かすぐに分かった。分かってしまった。

 

「……泣きてー」

 

「え?」

 

 旅人はすぐさまドルモンを抱えて走る。上を見なくてもわかった。

 暗くなったのはそこに何かがいたからだと。雨が降っているように感じたのは何かが、口から出た涎だと。

 当然こんな辺鄙なところにいる生き物など、先ほどまで戦っていた奴しかないだろう。

 そう――。

 

「グギャアアアアア!」

 

 ミレニアモンである。

 逃げ出した旅人をミレニアモンは逃がさないとばかりに執拗に追い掛け回す。

 もっともそれは旅人の主観であり、実際には五メートルも逃げることが出来ていない。

 ミレニアモンが腕を振り下ろす。

 それを感じた旅人が“マズイ、避けきれない”とそう悟った瞬間、抱えられていたドルモンが旅人を蹴飛ばした――。

 

「ドッ……ドル!」

 

 一瞬後に振り下ろされた拳。それがドルモンを押しつぶした。

 

 

 

 

 

 大丈夫だよ。オレは――。

 そんなことを考えながら、目を見開いて焦る旅人の顔をドルモンは静かな気持ちで見ていた。

 迫り来る異形の拳。一瞬後に来たる衝撃と、あの(・・)感覚。ドルモンはただ一人で暗闇の中に落ちていく。

 感覚すら無くなるあの現象を感覚という言葉で表現するのはおかしいかもしれない。だが、他に表しようがないのだからしょうがない。

 ある意味どうしようもない状態なのに、ドルモンの心は静かだった。

 もうこれ(・・)は恐れるようなものではない。これ(・・)はその程度のものだと知っているから。こんなところでは終われない。諦めることはできない。だから、これ(・・)を恐れている暇があるのならば、一歩でも前に進む。死んでいる暇などない。死など乗り越えて――未来を、掴むのだ。

 どこかで自分ではない自分がニヤリと笑う。そんな幻影をドルモンは見た気がした。

 

――死の化身。死の進化。有り得ない。死は終わりそのものだから。だが――

 

 目が見えているのかどうかも分からない、暗闇の中でドルモンは光を見た。暗闇と同じ色。だが、暗闇の中でもはっきりと分かるような、暗闇を塗りつぶすほどの黒い光を。

 

 

 

 

 

 瞬間、暗闇がミレニアモンを吹き飛ばす。直後、その暗闇から一体の竜が現れる。

 その竜を前に旅人は目を見開いた。ドルゴラモンのソレをはるかに凌ぐほどの威圧感。かつて対峙した時とはまるで別種のような存在感。その姿を旅人は知っている。その姿は――。

 

――もし……もし仮に死を乗り越えることができたのならば……それは……――

 

 基本的なシルエットはドルゴラモンによく似ている。だが、ドルゴラモンではない。体全体を包む黒い拘束具。拘束具の隙間から見える体は半透明で、その拘束具の下はすでに朽ちて存在しないことを見る者に悟らせる。

 とある世界でデクスドルゴラモンと呼ばれた死の化身。それがドルモンの新しい未来(進化)だった。

 

「ドル……?」

 

「……大丈夫」

 

 突然現れた一体の屍の竜。それが自分の相棒が進化した姿だと、旅人にはすぐわかった。だが、今まででその姿を見たのは敵としての一回だけだ。

 見方によってはおぞましく見えるであろうその姿。そしてその姿を人一倍恐れていた己の相棒が、その姿になっていることに旅人は困惑する。

 デクスドルゴラモンは旅人を守るように立っている。旅人に意識を向けながらも、ミレニアモンからは決して目を離していない。

 

「この姿で旅人が心配するようなことは何もないよ。ドルゴラモンの時みたいに旅人に任せただけの……他人まかせなモノじゃない。死さえ乗り越えて……掴み取ったオレの未来だよ」

 

 デクスドルゴラモンは自分の心理状態を把握する。

 少し前までこの姿になることを恐れていた自分が嘘みたいだと。それほどまでにこの姿は馴染んでいた。

 もちろんこの姿でいることに躊躇いがないわけではない。だが、それ以上にこの姿に自信を持っていた。

 扱えるようになっただけでこんな感情を持つなんて現金だろう。

 だが、そうなのだ。あの声の主にもう一人の黒い自分。二人の後押しによって自分はこの姿で、ここにいることができる。前に進むことができる。旅人と旅を続けることができる――と。

 この姿でいることは、声の主とあの黒い自分の二人に認められた姿のような気がして、デクスドルゴラモンは誇らしいのだ。

 

「……ふっ」

 

「ギャァアアアアアアアア!」

 

 直後にデクスドルゴラモンは突っ込んできたミレニアモンを片手で押さえつける。そのまま頭を掴んで遠くへと投げ飛ばした。

 デクスドルゴラモンは旅人をチラリと見ると遠くへと投げ飛ばしたミレニアモンの下へと走っていこうとする。

 だが、それを容認する旅人ではない。例えどのような姿でも、自身の相棒なのだ。

 

「……行ってくるよ」

 

「おい……まぁ、ちょっと待てってドル」

 

「旅人?」

 

「オレも行く」

 

「……え?」

 

 完結にそれだけ言った旅人はデクスドルゴラモンの肩に飛び乗る。

 あの時。アルファモンとの戦いの時。旅人には何もできなかった。己の相棒が決死の覚悟を持って、自身の力をはるかに超えているであろう相手と戦っているというのに。旅人はその戦いに間に合わなかった。

 あの状況では何もできなかった。むしろ足でまといだった。どうしようもなかった。すべて言い訳だ。結局旅人がその場に着いたのは、すべてが終わってからだ。

 ……だから、今度こそは。いや、今度から(・・)は。

 一方でそんな旅人の思いをよそに、デクスドルゴラモンは何か言おうとしていたが、旅人が降りる気がないのを悟って諦めた。

 そのまま旅人を乗せてミレニアモンの下へと向かって行き――屍の竜と千年魔獣が激突する。

 

「グァアアアアア!」

 

「おぉおおおお!」

 

「ドル!頼むからもう少し丁寧にっ!」

 

 デクスドルゴラモンとミレニアモンの戦いは激しさを増し続けていく。

 ちなみに旅人は肩から振り落とされないようにするので精一杯だったりする。ついでにそんな状態で喋っていたので旅人は舌をかんだ。

 そんな中でミレニアモンは四つの腕を使って攻撃してくるが、デクスドルゴラモンはミレニアモン以上の速さで腕を動かして、ミレニアモンの四つの腕に対応している。

 ミレニアモンが背中の砲身で砲撃を放とうとすれば、力ずくで押さえ込んで砲身の方向を変えて、砲撃を見当違いな方向へと向かわせていた。

 戦闘は拮抗。復活したデクスドルゴラモンの戦いは先ほどまでの汚名を晴らすかのようなほどのものだった。

 

「ぬがっ!きっつ……」

 

「旅人、顔引っ張らないで!」

 

「無理!」

 

 軽口をたたける分、実はこの二人結構余裕である。

 そんな中でも埒があかないとばかりにミレニアモンはデクスドルゴラモンの腕に噛み付いてくるが、デクスドルゴラモンはそのままミレニアモンの頭を掴んで投げ飛ばした。

 

「……ガァ!ググ……グァアアアアア!」

 

「ちょっと怒ってない?」

 

「そりゃ……やられてるからじゃないのか?」

 

 自分が負けそうになっていることが信じられないのか。ミレニアモンは先ほどよりも気迫が増している。

 ものすごいスピードでこちらへと向かってくるミレニアモンをデクスドルゴラモンは迎え撃つ。

 戦況は間違いなく旅人たちの方へと傾き始めていた。

 

「おりゃぁあ!」

 

「ギャ……」

 

「……」

 

 何か怪獣大決戦って感じだよな。

 そう思った旅人だが、口には出さない。また舌を噛むのはゴメンなのだ。

 見るとミレニアモンは傷だらけでフラフラとしてきている。対してデクスドルゴラモンは無傷だ。さっき負った傷だってもう治っている。

 

「いや……治んの早すぎじゃね?」

 

「勝手に治った」

 

「勝手に!?」

 

 勝手に(・・・)治ったという言葉に驚く旅人だが、そういえばと、かつて戦ったデクスドルゴラモンも傷が速攻で治っていたのを思い出した。

 これがデクスドルゴラモンの能力なのかと、半分ハズレで半分正解なことを考えながら、旅人はまったく反応しなくなったミレニアモンのことを思い出して、即座にミレニアモンを探した。

 いた。何やらうずくまっている。まるで力を貯めているかのように――。

 

「ってマズイ、ドル!」

 

「えっ!?」

 

 ミレニアモンが顔を上げる。狂気と憎しみで染まったような表情はそのままに、先ほどよりも数倍強く輝いているその砲身をこちらへと向けていた。

 放たれる閃光。あまりの眩しさに旅人が顔を覆ったとき、デクスドルゴラモンは逃げるでもなく前に出た(・・・・)――。

 

「っぐ……耳が……」

 

「ちょっと痛かった……」

 

「あれ……が。ちょっと。ね」

 

 轟音に耳が痛くなりながらも、自身の無事を感じ取って旅人は目を開ける。

 そこには信じられないような顔をしているミレニアモンがいた。

 旅人は見ていないが、あの時前に出たデクスドルゴラモンは、砲身の口を手で押さえたのだ。出口を失った砲撃はそのままデクスドルゴラモンの手の中で爆発した。

 もちろんそんなこと普通はできない。というか、どうしたらそんなことができるのか分からない。

 

「何が……って!」

 

「このまま終わらせる!」

 

 デクスドルゴラモンが呆然としているミレニアモンへと駆ける。

 一方で旅人は再びデクスドルゴラモンの顔へとしがみつく。一歩でも気を抜けば振り落とされるのだ。

 デクスドルゴラモンが拳を構える。呆然としていたミレニアモンも慌てて攻撃態勢に移るが――遅い。

 

「これでっ……終わりだァああ!」

 

 デクスドルゴラモンの拳がミレニアモンに当たる瞬間。旅人は声を聞いた。

 

――デジタルゲート・オープン!――

 

 皇帝のような、この世の不条理に嘆いているかのような優しい声を。

 直後。ミレニアモンの後ろに裂け目(・・・)ができる。ミレニアモンとデクスドルゴラモンと旅人は、その裂け目に飲まれてこの空間から消えた――。

 




はい。というわけで皆さんの予想通り、デクスドルゴラモンへの進化でした!
分かり易すぎて欠伸が出ますね。伏線も、伏線(笑)になってましたし。

さて、あと蛇足的な第三章エピローグ話を一話、伏線(笑)の番外編を二話ほど挟んで、波乱の第四章へと移ります。

それでは!次回もお楽しみに。



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