旅人はあるカードとある機械――アナザー――をその手に戦線に加わる。
「さて行くか。Set『リリスモン』!ついでに……リリスモン!アームズデジクロス!」
『リリスモン』のカードを使ったことで、旅人の前に半透明なリリスモンが現れる。ついでアナザーを掲げて言った言葉。
アームズデジクロス。
その言葉通りにリリスモンと
旅人アームドリリスモン。言うなればそれが今の旅人である。
そのまま戦線に加わった旅人をドルゴラモンが驚愕の目で見ていた。やはり、ドルゴラモンにとっても驚きだったのだ。その姿は。
「旅人!?それが特別仕様のデジクロス?……キモッ!」
「オレもちょっと思ったけど!そんなにはっきりと言うなッ!」
アームズデジクロスとは、デジモン同士の融合であるデジクロスという力を
その代わりに力の上昇率は本家のデジクロスには及ばないし、一体分しかできない。
まあ、ドルゴラモンが何を言いたいかというと。
今の旅人はリリスモンのコスプレをしているような姿なのである。ついでにリリスモンの服装は女性のものなので致命的に旅人が変態臭く見えてしまうのだ。
「旅人がそんな趣味を持ってたなんて……」
「溶かすぞ」
旅人の異質な右腕をチラリと見せる。そこにはリリスモンの魔爪『ナザルネイル』が備わっていた。それを知っているドルゴラモンは思わず冷や汗を垂らす。
その間ユピテルモンと戦っていたのはブラックウォーグレイモンただ一人であるのだが、それにも限界がある。
ブラックウォーグレイモンの隙をつき、ユピテルモンは旅人たちの方へと雷を放ってきた。
だが、それをドルゴラモンは拳で相殺し、旅人は『ナザルネイル』で切り裂く。
「ほう。なかなかやるな」
「……ブラックウォーグレイモンってもしかして戦闘狂の気があるか?」
「戦闘狂だと?……俺は強い奴を探し求めているだけだ」
“それを俗に戦闘狂って言うんだ!”という旅人の心の声はブラックウォーグレイモンには伝わらない。
ともかくとして。旅人が加わったことによって三対一の構図が出来上がった。いかにユピテルモンが強かろうと、複数の同格の存在と戦うのは厳しいだろう。
「……」
「静かになったな」
「諦めたんじゃない?」
静まり返り、極限まで動かなくなったユピテルモン。だがそんな状態でも攻撃すればちゃんと反撃してくるので、旅人たちとしてはやりにくいことこの上ない。
ユピテルモンは動かない。まるで何かを貯めているように。
「ッ!」
「旅人!?」
「何をする気だ?」
“アイツは大技を放つ気だ!”と湧き上がるエネルギーを前にそれを理解した旅人は、ドルゴラモンとブラックウォーグレイモンを近くに寄せた。そのまま白紙のカードを取り出して変化をさせる。逃げるために。
「set『転移』ィ!」
一瞬後にユピテルモンが遠くに見える位置まで転移する。距離は離れたが、旅人たちは誰ひとりとして気を抜くようなことはしない。
一方でユピテルモンは標的が目の前から消えたというのに微塵も動じていない。
まるで慌てる必要などないとばかりに。
「『ワイドプラズメント』」
その声は遠く離れた旅人たちの位置にまで届いた。
その声とともに旅人たちが見た光景。それは光そのものといっても過言ではない程の光を纏うユピテルモンの姿。
『ワイドプラズメント』によって超高圧プラズマと化したユピテルモンは全身凶器と言わんばかりに、周囲の雲が消え去っている。アレで突っ込まれれば、今の状態の旅人はいざ知らず、ブラックウォーグレイモンやドルゴラモンもタダでは済まないだろう。
「ふん。面白い」
「え?」
思わず旅人が呆けた声を返す。ブラックウォーグレイモンは受けて立つ気のようだ。
“コイツがこの調子だと引くことはできない”とそれを理解した旅人とドルゴラモンは溜め息を吐いてブラックウォーグレイモンの案――案というにはお粗末だが――に乗ることにしたのだった。
ちなみにその際、旅人は頬が引き攣り、若干の自棄糞が入っていたりする。
ドルゴラモンが拳を構える。ブラックウォーグレイモンが火球を作り出す。旅人も白紙のカードを取り出しながら、リリスモンの魔術を使うために魔法陣を展開。
各々の最大火力の準備をする。
「裁きを!……受けよ!」
「来るぞ。『ガイアフォース』!」
「set『最大強化』……ついでにいけぇ!」
ブラックウォーグレイモンの『ガイアフォース』を『最大強化』で強化して。旅人自身も準備していた魔法陣から魔法を放つ。
閃光と赤黒の火球と黒い靄が激突する。凄まじいほどの衝撃波。数秒の拮抗の後、閃光が飛び出してくる。ユピテルモンだ。
だが、それは予想できたこと。飛び出したユピテルモンに向かってドルゴラモンが駆けた。
「『ブレイブメタル』!」
「もういっちょset『最大強化』ァ!行っけぇえ!」
旅人がドルゴラモンを『最大強化』で強化する。
ユピテルモンとドルゴラモンが激突する。再びの拮抗。だが、数瞬後に打ち負け、吹き飛んだのはユピテルモンだった。
地面に打ち付けられるユピテルモン。その姿は所々がボロボロだった。
「勝ったか?」
だが、ユピテルモンは立ち上がる。外見はボロボロでも立ち居振る舞いにまで影響されていないのは、さすがというべきか。それともただの痩せ我慢か。
どちらにせよ、ユピテルモンはまだ戦闘続行可能であるということは確かだ。
だが、一方で旅人は時間切れだった。アームズデジクロスは疲れるのだ。無情にも解除されて元の姿へと戻ってしまう。
そのまま座り込んで寝たい衝動に駆られながらも、ユピテルモン健在の今、気合だけで旅人は立っている。
「まだやるというのか?」
ブラックウォーグレイモンは少しやる気で両手の籠手であるドラモンキラーを構えているが、旅人からしたら“勘弁してくれ”という気分である。
だが、ユピテルモンはその両手に持ったハンマーがいつの間にかなくなっていた。旅人たちを見る目にも――未だ機械的ではあるが――敵意や害意といったものは含まれていない。
「いや。汝らの力は我に示された。故に汝らの刑は撤回する。早々に立ち去るといい」
それだけ言ってユピテルモンは去った。最後まで壮健たるその姿は旅人とドルゴラモンにある意味での格の違いを見せつけたのである。もっとも格という意味では今更だったりする二人でもあるのだが。
ユピテルモンが去ると同時に空のカミナリ雲も綺麗さっぱりとなくなり晴れ渡ったのだった――。
「逃げた?」
「いや、どちらかというと……見逃してもらった、だろ」
“あれだけ裁きを受けよと言っていた割に随分とあっさりと引くんだな”そう感じた旅人だったが、これ以上の面倒事は御免なので素直に喜ぶとする。
ちなみにそれにはちゃんとした理由があり、後日旅人はリュウダモンから、“ユピテルモンが悪としたものとユピテルモンの判断に異を唱えたものには神罰が下される”ということと“ユピテルモンに挑み勝てば、ユピテルモンが下した判断は撤回される”ということの二つを聞くことになるのだがそれはまだ先の話である。
あの後、旅人とドルゴラモンから戻ったドルモンは地面にへたり込んでいた。疲れたのだ。だらっとしている旅人とドルモンをブラックウォーグレイモンはどうするわけでもなく座りながら眺めている。
「……何故俺に味方した?」
「へぁえ?あぁ、だから、お礼と成り行きだってば」
「それが納得出来ないと言っている」
もちろん旅人出した変な声には触れられない。ブラックウォーグレイモンはそれでは納得がいかないとばかりに旅人に尋ね続ける。
だが、旅人としては言った通りの理由しかないので、ブラックウォーグレイモンが何を気にかけているのかが分からない。
「あいつの言う通り……俺は存在するだけで世界を歪ませる。そんな存在を庇って何になる?事実今まで俺が訪れた何処の世界でも、俺の存在を受け入れてくれる世界はなかった」
その言葉で、ブラックウォーグレイモンが何を気にしているのかは旅人もドルモンも分かった。ようするに今までされなかった扱いをされたことでブラックウォーグレイモンは戸惑っているのだ。
“もう少し人の親切を素直に受け止められないものかな”そう思う旅人とドルモンだが、それを言ったところでブラックウォーグレイモンには届かないだろう。なんて言えばいいのか分からずにドルモンと旅人は唸り続ける。
「俺が出会った中で、お前たちのような反応をしたのは初めてだ。大抵はさっきのやつと同じように世界だの何だのを理由に俺を排除しようとしてきた。なのにお前たちは何故だ?」
「そんなこと言ったって……さっきの理由で全部だってば。なぁ?」
「ねぇ?」
旅人とドルモンは顔を見合わせ、心を一つにする。“そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。深く考えていなかったんだから”と。
一方で旅人たちの答えが自身の求めるものと違ったからか。ブラックウォーグレイモンは僅かながらの落胆の色を見せた。
もっともソレは、よく観察していなければ分からないほどだったのだが。
「……そうか。世界を乱す存在である俺が、何故本来ないはずの心というものを持って生まれたのかを……いや、それだけではない。俺は俺の存在の意味を知りたい。……ただそれだけのために俺は世界を渡り歩いてきた」
「……」
「いや、渡り歩いていくだろうな。これからも」
最後の言葉は旅人たちに聞かせたというよりは、己に言い聞かせるための言葉だったのだろう。それだけを言ってブラックウォーグレイモンは去ろうとする。
最後に旅人とドルモンが見たブラックウォーグレイモンの横顔は少し悔しそうだった。例えるならば、掴みかけたものが勘違いだった時の、ヌカ喜びした時の顔。
そんなブラックウォーグレイモンに何を思ったのか。ドルモンがさり際のブラックウォーグレイモンの背へと声をかける。
「自分の意味って言うけどさ。……たぶんそういうのって後から分かるんだと思うよ。悩んで、苦しんで。全部終わってからやっと気づくんだと思う。だから、苦しくても辛くても……生きてくしかないんだ」
自分自身のことを思い出して言っていたのだろう。ドルモンは少し遠くを見ていた。
いつか、生きることが怖いと感じたとき。死ぬことが怖いと感じたとき。それでもドルモンは生きていくしかなかったのだ。二つの思いに雁字搦めになりながらも、答えの出ぬまま悩み続けたのだ。
「途中誰かの助けもあるかもしれない。でも、そうやって少しずつ前へと向かって……いつか自分自身で答えを出すんだ。きっとね」
「生きていくしかないだと?他人に助けられてまで?それでも尚、後にならないと答えは出ない。出るまでは苦しみ、悩み続けるながら生きると。……随分と無様な生き方だ」
「でも君だって今そうやって生きてるんじゃないか」
「……」
思い当たる節はあるのだろう。ブラックウォーグレイモンは黙り込んだ。
現にこうして他人である旅人とドルモンに質問し、答えは出ず、苦しみながらも答えを探して生きていこうとしている。ドルモンの言った通りの生き方だ。
それでも尚、答えは出ていないのだから、本当にドルモンの言う通りでしかない。
“自分はそれを無様な生き方だと思った。だが、既にそんな無様な生き方をしていた”その事実はブラックウォーグレイモンの心に大きな波紋を残す。
「……お前さ。さっきから聞いてりゃ、ああ言えばこう言うし……どんな答えなら納得するんだよ。そもそも、自分だけ悩んでますって顔、やめろよ」
「なんだと?」
「オレたちだってお前となんら変わらない。そりゃお前からしたらすごいくだらないことかもしれないけどな。でも、オレたちにだって悩み位あるんだよ」
旅人のその言葉を、どんな意味でとったのか。後ろから背を眺めることしかできない旅人たちにはブラックウォーグレイモンがどんな表情分からなかった。
だが、旅人の言葉の後にブラックウォーグレイモンが息を飲んだことだけは旅人たちにも分かった。
「世界を乱す存在であるという俺を、自分たちと同じ扱いをするのか。ッフ……」
「急に笑って……何だよ?」
「何でもない。……だが、お前たちのような無様な馬鹿共と話が出来て良かった……のかもしれないな」
ブラックウォーグレイモンが飛び上がる。空には黒い歪みのようなものが出来てブラックウォーグレイモンはその歪みの中へと消えていった。
後に残ったのは、“今言外に馬鹿にされたのだろうか”と間抜け顔を晒している旅人とそんな旅人を見て“言外じゃなくてはっきりと馬鹿にされたんだよ”と呆れているドルモンだけだった。
とある世界。旅人たちと別れたブラックウォーグレイモンは新しい世界へと訪れていた。
「あ!お前はっ!」
突然誰かが大声で叫んだ。“お前”という言葉が己を指して言われた言葉だと気づいて、ブラックウォーグレイモンはその声の主を探す。
声の主はブラックウォーグレイモンのすぐ近くの木の陰から出てきた。その姿にブラックウォーグレイモンはデジャヴを見る。
「誰だお前は……」
「俺か?俺は――」
この出会いが何をもたらすのか。それはまた別の話。
旅人の新能力(と言っていいのか分かりませんが)アームズデジクロスのお披露目でした。ちょっとやりすぎたかもしれません。
オリ設定満開……皆さんが付いてこれているかどうか……なるべく後書きと本文で説明しているつもりですが、質問は随時受け付けてます。分かりづらかったらいつでもどうぞ。
このペースで行けば来週には第四章に入れそう……頑張ろう。
今回は忘れなかった本当に必要かどうか分からない用語解説
『アナザー』
正式名称クロスローダーアナザー。
旅人がウィザーモンから貰った機械。見た目は某ス○ホ。
主な機能は本家のクロスローダーとほぼ一緒。情報の保存とアームズデジクロス。情報の保存を利用して、デジモンの収納や、収納デジモンの回復、時空間移動ログなどができる。
旅人のデジヴァイス的機械。
『アームズデジクロス』
アナザーで行う特別仕様のデジクロス。
作中通り、外部武装専用のデジクロスとすることでコストと負担が削減されている。ただ、力の上昇率は本家の方が上。そして一体同士でしかできない。
デジクロスが掛け算とすればアームズデジクロスは足し算。
名前は○○アームド△△となる。○○のデジクロスした側は△△のデジクロスされた側の力や技が使えるようになるという特典付き。
見た目は対象デジモンのコスプレをしているみたいになっている。やる対象を選ばないと、見た目が大変なことになる。
今回見たくリリスモンのコスプレをした旅人とか、ドルモンの生皮かぶったウィザーモンとか。
『武装進化』と似ているがあちらは“全能力を攻撃に集中させる”というのに対して、アームズデジクロスは“全体的に能力が上がる”という違いがある。