広大なネットの中をリュウダモンは泳ぐ。
この道の先にはあのクラモンがいる。そこが目的地だ。
「リュウダモン。クラモン、進化してる。今完全体」
「もうですか?まだ別れて数十分と経ってないというのに……」
「今究極体になった」
「……」
クラモンのあまりの成長の速さにリュウダモンは肝を抜かれる。
幼年期というデジモンの成長段階の最小位から、究極体というデジモンの成長段階の最大位まで数十分足らずで到達したのだ。驚かないほうがおかしいだろう。
「ならば……こちらも本気で!」
リュウダモンの姿が変わっていく。より強大な存在へと。二本の刀を左右の手に持つ黄金の龍デジモンであるオウリュウモンへと。
ドルゴラモンが竜とするならば、オウリュウモンは龍だろう。
だが、オウリュウモンのソレはドルモンのそれと違う、まるで元の姿に戻るかのように鮮やかな変化だった。
「出口。もうすぐ。究極体二体と成長期二体が奴と戦っている」
「はっ!」
オウリュウモンが道を抜ける。その先の広い空間。そこに鎧をまとった怪人のようなデジモンであるディアボロモンはいた。
間違いなく、ディアボロモンがクラモンの進化した姿なのだろう。その雰囲気からして同じものを感じる。
「なっ!?」
「貴方はっ!?」
ディアボロモンと戦闘を行っていたデジモンたちのパートナーだろう。
空間に投影された二つの映像。そこには赤い髪の少年と金髪の――おそらく兄弟と思われる――二人の少年。 そしてオウリュウモンがどこかで見たようなゴーグルをかけた活発そうな少年という四人の少年が映っていた。
「儂はオウリュウモン!訳あって助太刀に来た」
「……ありがたいぜ!行くぜウォーグレイモン!」
「行けっメタルガルルモン!」
オウリュウモンが増援として戦闘に加わる。
ゴーグルをかけた少年と金髪の兄の声に応じて勇気の竜戦士であるウォーグレイモンと友情の機械狼であるメタルガルルモンが攻撃を開始する。
ディアボロモンは抵抗するが実質は三対一だ。どうにかなるものではない。オウリュウモンが尾を使って吹き飛ばしたディアボロモンをウォーグレイモンとメタルガルルモンが狙う。
「よし!今だっ!」
「うぉおおおおお!」
だが、ディアボロモンとてタダではやられない。飛んできた両者の攻撃を、右手を犠牲に避けたのだ。
トドメといきそうだったのに避けたディアボロモンを見て、ゴーグルの少年が声を荒げた。
だが、その瞬間――。
「避けるなっ……」
「太一?おい!太一!ウォーグレイモンが動かなくなったぞ!」
急に太一と呼ばれたゴーグルをかけた少年の映っていた映像が途切れた。
それに呼応するかのように、ウォーグレイモンさえも動かなくなったのだ。
急な事態に慌てる金髪の少年だが、それをオウリュウモンが諌めた。
「落ち着け小僧!ここはネットワークの中!おそらく使っているパソコンに何らかの事態があっただけだ!それよりも気を引き締めろ!敵はまだ……」
「ッ!そうだ!メタルガルルモン!」
だが、遅い。ディアボロモンが胸にある穴から放った砲撃が三体を狙う。完全に油断していたメタルガルルモンと、そしてパソコンの不調らしきものによって動けなくなったウォーグレイモンはその砲撃をその身に受ける――。
「『永世竜王刃』!」
はずだった。
だが、オウリュウモンが両腕の刀より放った斬撃が砲撃を両断する。
動けないウォーグレイモンはともかく、オウリュウモンに助けられたメタルガルルはすぐさまディアボロモンと向かい合おうとして――。
「……逃げられたか」
ディアボロモンがこの空間からいなくなっていたことに気づいたのだった。
一方その頃の旅人たち。
「なぁ……元気出せって」
「クラちゃん……いじめられてないかな?」
「ないって……たぶん」
ちなみにそのとき。クラちゃん――現ディアボロモン――は一対三で戦っているというある意味イジメのような状態なのだが、そんなことは旅人たちの知る由ではなかった。
ディアボロモンはこの空間にはいない。
となればネットのどこかに移動したのだろう。だが、どこに移動したのかわからない。
“一度姫様に連絡を取るべきか”とオウリュウモンが考え込んでいると、急に目の前に映像が現れた。
映っているのは、ゴーグルの少年太一と赤い髪の少年。ようやく戻って来た二人を見て、今まで出さなかった感情に火がついたのか、金髪の少年の怒りが爆発した。
「太一!光四郎!お前ら何してやがった!」
「ヤマト!」
「オウリュウモンがいなかったら、オレたちはやられてたんだぞ!」
太一はすぐさまウォーグレイモンを見る。
傷はなかった。太一とて馬鹿ではあるがアホではない。自分たちが不在の間、オウリュウモンがウォーグレイモンを守ってくれたということを想像することは難くなかった。
「ゴメン。……それからありがとう。オウリュウモン」
「別にいい。どのみち儂は手伝いだ。それよりあやつがどこに行ったか……だ」
“どこに行ったか”そんなことはこの場の誰にも分からなかった。オウリュウモンは知らないが、太一たちは一度ディアボロモンと交戦し、逃がしている。
それから次に戦うまでディアボロモンによって起こされた災害は数知れない。ディアボロモンはデータを食う。データが食われたことにより起こる電子機器類の不具合が現実世界を混乱させるのだ。
クラモンとして旅人たちと一緒にいたときに何もなかったのは、単に食うものがなかったから。それだけだ。
「あぁっ!」
「光四郎はん?どないしました?」
画面の向こうで光四郎と呼ばれた赤い髪の少年が声を上げた。そんな中、先ほどまでの究極体同士の争いに加われなかった、成長期のデジモンが二体出てきた。そのうちの一体、関西弁のテントウムシのようなデジモンのテントモンが光四郎の尋常ならざる様子に声を上げる。
画面の向こうでは、太一と光四郎が頻りに何かを話し合っていた。
やがて、“冗談であってくれ”そんな祈るような顔で光子郎たちが話し始める――。
「アメリカの軍事基地で……核ミサイルが誤射されたそうです……もちろん奴の仕業です。今、奴からメールが来ました」
「ふむ……してなんと?」
「時計を持っているのは誰だと。すごいスピードで分裂を繰り返しています。もう百を超えています。……この中の一体。時計を持っているのを倒さなければ……このミサイルが何処かに落ちるんでしょう」
そのメールはヤマトと呼ばれた金髪の兄第の方にも行っているのだろう。その場にいた全員が愕然とした顔をしている。
「だからって……この数相手にどうすんだよ!時計を持ってんのは一体だけなんだぞ!?」
「一体一体しらみつぶしに行くしか……」
「そんなことやってたら……日が暮れちまう!」
画面の外から太一と光四郎の言い合いが聞こえる。
そんな言い争いを止めたのは、ウォーグレイモンだった。
「太一!大丈夫。任せておけ……」
「ウォーグレイモン……そうだよな。弱気になってる場合じゃないよな」
「ディアボロモンの下へとゲートを開きます!」
目の前の空間に道ができる。それがゲート。
おそらくディアボロモンの下へとつながっているのだろう。メタルガルルモンとウォーグレイモン、そしてオウリュウモンがそのゲートをくぐり、ディアボロモンの下へと向かう。
「絶対に……」
「諦めるもんか!」
時折聞こえてくる声。付き合いの浅いオウリュウモンには、それが誰の声か分からなかった。
だが、“この子たちは全員が諦めてはいない”と知るには十分すぎる声だ。
「頑張れウォーグレイモン。負けるなメタルガルルモン……すごい!何百という数のメールが!世界中から届いてます!」
「……これだけ言われているのだ。負けるわけには行かんぞ!」
「あぁ!」
オウリュウモンの喝を入れるかのような声。その思いを受け取って……ディアボロモンの下へと――たどり着く。
道の先、そこは闇だった。否、闇にしか見えないほど、ディアボロモンが空間を埋め尽くしている。
「八万……十六万……どんどん増えています!」
だが、その声が引き金だったのだろう。
増殖をやめたディアボロモンが一斉にオウリュウモンたちを狙う。ディアボロモンの胸にある穴が火を噴き、何万という数の砲撃がオウリュウモンたちを襲った。
「っふ!」
オウリュウモンは、両手に持った剣で己に当たる砲撃
だが、ウォーグレイモンとメタルガルルモンはそうはいかない。何故か動きが鈍い二人は砲撃を次々と受けてしまっていた。
「……そうか!さっきのメールがウォーグレイモンたちのレスポンスを下げているんだ!世界中の皆……ウォーグレイモンたちの動きが下がっちゃう!メールを送らないで!」
ウォーグレイモンたちの動きが鈍い理由に思い当たった光四郎が対応しようとするが、時は既に遅い。
砲撃が止んだ。無事なのはオウリュウモンただ一人。ウォーグレイモンとメタルガルルモンは死体のように横たわり動かない。
「そ……んな……」
画面の外で二人の少年の声が響いた。そして同時に、この暗闇の世界に一筋の光が差す。
「あぁ……ぁあ!ウォーグレイモン!」
「メたル……メタルガルルモン!」
太一とヤマトの――それぞれのパートナーに向けた声が
二人は願ったのだ。同じ場所で共にいたいと。だから、二人は来たのだ。この場に。己のパートナーの傍に。
「俺だ!ヤマトだ!俺もここに来たんだ!」
「ウォーグレイモン、目を覚ましてくれ……今度は一人にしないから、俺も一緒に戦うから!」
一体のディアボロモンの砲撃が二人を狙う。
オウリュウモンが二人を守ろうと、二人の下へと向かおうとした瞬間。一件のメールが盾のように表示された。表示されたメールがディアボロモンの砲撃を防ぐ。
それを皮切りにして、すべてのディアボロモンが再びの砲撃を放ち始めた。
こうなるとオウリュウモンとて、自身のことで手一杯だ。二人を守る余裕はない。
だが、オウリュウモンの心配は杞憂だった。再び表示されたメール。今度は一件ではない。次々と何百という数のメールが二人を、パートナーたちと共に包んでいく。まるで卵のように。
卵とは孵るものだ。卵が割る。その中から
「ウォーグレイモンと……」
「……メタルガルルモンが……」
「合体した!」
己の守るべきパートナーたちをその肩に乗せたその騎士は正しく忠義の騎士といった風だった。
左手にウォーグレイモンの頭部を模した籠手。右手にはメタルガルルモンを模した籠手。そして白い騎士。とある世界でロイヤルナイツに名を連ねる最強の騎士の一人。オメガモンだった。
「オメガモンに進化したのか!っむ!?」
三度の一斉砲撃。だが、オウリュウモンとてもう後手に回る必要はない。足でまといは、頼もしい増援となったのだ。もうためらう必要はない。
オメガモンが左腕を構える。左腕の竜の籠手から現れる一つの剣。
オウリュウモンが両腕を振るう。オメガモンが左腕を振るう。二人の斬撃はディアボロモンの砲撃を押し返し、ディアボロモンの数の多くを消し去った。
オメガモンが右腕を構える。右腕の狼の籠手から現れる一つの砲。
オメガモンの右腕の砲が四度煌めく。それだけで、残ったディアボロモンはすべて消え去った――。
「いました!最後の一体!アイツが時計を持っている奴です!」
たった一体を除いて。
オメガモンが右腕の砲を構えるが、その先にディアボロモンはいない。
「一体どこにッ!」
「そ、そうか!未だオメガモンのレスポンスは下がったまま……このままじゃ、パワーで勝っていても、レスポンスの差でアウトだ……」
“もう時間がない”この場の全員がそれを分かっているが、どうすることもできない。
しかも、何故かオウリュウモンは先ほどから姿が見えない。
“自分たちでやるしかない”それを理解したメンバー。そんな中で参謀役である光四郎があることを閃いた。
「そうか……メールによってレスポンスが下がっているなら……このメール全部奴に送りつければ!」
残り時間一分。
ディアボロモンが先ほど送ってきたメールに書かれたディアボロモン自身のアドレス。光四郎はそれを打ち込み、すべてのメールの一斉送信の準備をする。
残り時間四十五秒。準備は出来た。後は――。
「いっけぇえええ!」
エンターキーを押すだけ。直後、すべてのメールがディアボロモンの下へと送られる。
同時にメールの重さと転送の過負荷によってディアボロモン自身の動きが大きく鈍った。
“今!”その思いとともにオメガモンが剣を構えて駆けた。時間はあと少し。果たして――。
「しかし、姫様も人が悪い。あそこで帰って来いとは……」
「あれなら最後までいなくてもいい。勝負は見えた」
オウリュウモンは既にリュウダモンへと戻っていた。
現在は電気屋から出て、旅人たちのところへと向かっている所である。
オメガモンが出現したとき、リュウダモンはナムから連絡があったのだ。“早く戻って来い”と。
リュウダモンとしては最後まで見届けたかったのだが、ナムの命令に逆らうつもりはない。だからさっさと戻ってきたのだ。
「アイツと同じ。大勢の意志の結晶。その後押し。あのオメガモンは普通のオメガモンより強い。そもそも、
「いつになく不機嫌ですな。あのオメガモンの成り立ちが、あの御方と同じで気に食わないので?」
「リュウダモン。うるさい」
「はっ!」
睨みつけて黙らせるナムに“それでは答えを言っているようなものだろうに。引っ張られているとはいえ、こういう変化は果たして良いことか悪いことか……”と真剣に悩むリュウダモンだった――。
一方その頃。旅人とドルモンは歩いていた。
「なぁ……そろそろ機嫌直せよ?」
「落ち込んでないってば」
機嫌を直せと言っているのに落ち込んでいないと言っては、落ち込んでいることを公表するようなものだが、落ち込んでいるドルモンはそれに気づかない。
旅人は気づいているが、それを指摘しないのは一種の優しさである。
「な……ん?」
「……?」
ドルモンに声をかけようとした旅人は、聞きなれない音が自身の持っている機械から聞こえて首を傾げた。その機械――アナザー――を取り出して画面を見ると、メールという文字が画面に表示されていた。
「メール?これメール機能なんてあったのか……なになに?」
“どれだけ多機能なんだよ”とツッコミたくなる旅人だが、メールを見て表情を変えた。一刻も早くそのメールはドルモンに見せるべきだと思ったのだ。
「ドル、これ見てみろ」
「なに?ってこれっ!」
メールを見たドルモンは旅人が思ったとおり、目を見開いて驚いている。
「そっか。そうだよね。うん!」
“いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない”それだけを感じ取ったドルモンは顔を上げて前を向いた。
そこには、さっきまでの落ち込んでいるドルモンはいなかった。
「やっと元に戻ったか。ったく……面倒かけさせてくれる」
「ごめんごめん~。でも旅人よりはマシだと思うよ?」
「どう言う意味だ?」
「そう言う意味だよ。旅人ってすぐ落ち込むじゃん」
簡単なことですぐ落ち込むが立ち直りの早い旅人と落ち込む時はとことん落ち込むドルモン。その特徴はときどき逆転するのだが、両者は似た者同士だということに変わりなかった。
「何だとー!」
「あはは~!」
ちなみに。メールにはこう書いてあった。“マタアソボウネ”と。このせいで再びの面倒事に巻き込まれることになるかもしれないことを、呑気に喧嘩している旅人とドルモンは知らない。
これにて番外編終了。次回から第四章に入ります。