原作世界は一先ず終わってオリジナル世界編です。
第五章以降原作シリーズはまだ出てくるのでそちらが好きな人も安心してください。
「ラプター……ドラモン?」
突如として未知の進化をした己の相棒を前に旅人は呆然と呟いた。
ドルモンが今までに進化した姿は、どの段階の姿でも共通の特徴を見出すことができた。趣のない言い方をすれば、それらの姿は、大きくなっただけでどれも似通った姿と言える。
だが、今回ドルモンが進化したラプタードラモンの姿の特徴は今までとその異なるものだ。
全体的に金属の鎧で武装した体。所々に見える黄金の毛。鋭利的な顔や翼。
そのすべてが、普段進化する姿とは似ても似つかない特徴だ。
「テメェ……姿が変わっただと?そうか。これが最近噂の現象か!」
そんな中でオーガモンはラプタードラモンに対して疑問を伴った驚愕の声を上げた。
その驚愕の声に旅人は現実に引き戻された。忘れそうになっていたが、今は戦闘中。気を抜いていい訳ではない。
「っは!姿が変わった程度でこのオレ様をどうこう出来ると思うなぁ!」
「グルル……」
オーガモンが地を駆けた。いきなりのトップスピード。
先ほどよりも速いその動きに、旅人は目を見開いた。
だが――。
「グェ!」
すぐにラプタードラモンにカウンター気味に蹴飛ばされた。
当然である。速いといっても、あくまで先ほどまでのゴブリモンの動きと比べてのことだ。別世界でこれ以上の速さと強さを持つ者相手に戦ってきたラプタードラモンが捉えられないはずがない。
地面に叩きつけられたオーガモンは、すぐさま起き上がった。
「っく、なかなかやりやが……」
不意にオーガモンは黙り込んだ。ワナワナと体を震わせている。
「なんじゃこりゃァアあああああああ!」
「は?」
いきなり叫びだしたオーガモンに旅人の目が点になる。
先ほど起き上がったオーガモンは、ラプタードラモンを真っ直ぐ睨んでいたように旅人には見えていた。
威嚇目的の咆哮ならまだ分かる。だが、“なんじゃこりゃあ”。割と本気で意味がわからない。
「オレ様のキュートな真っ赤なモヒカンがぁ!白髪になってやがるじゃねぇか!あぁ!」
“何を今更なことを”と旅人は割と本気で呆れていた。
確かにゴブリモンだった時は、真っ赤なモヒカンがその頭にあった。だが、オーガモンに進化した時点でその頭のモヒカンは白髪になりボサボサになっている。
ちなみに、モヒカンがキュートかどうか。それに突っ込みを入れる者はここにはいない。
「ってよく見りゃ、オレ様の体なんか違うし!」
「今気づいたのかよ!」
旅人にとって本日何度目になるか分からない驚愕である。オーガモンは、ゴブリモンから進化したことに気づいていないらしかった。
オーガモンは自分の意思で進化したわけではないらしい。
「それに……体中がゴツゴツして……カッコ悪いったらありゃしねぇ!」」
「……」
オーガモンは己がカッコ悪いと言っている姿が、自分が尊敬していた者と同じ姿だということを気がついていない。
そのことを教えてやるべきかどうか。旅人は悩んだ。
「それになんか……スゲェ腹減った……っち、お前ら覚えてろ!」
「なして?」
「今日はたまたま不調だっただけでぇ!次会った時がお前らの最後だ!」
それだけを告げると、オーガモンは
一方であまりの急激な事態の変化に旅人はついていけない。
だが、しばらくして聞こえ始める奇声に旅人はハッとした。妙な進化をしたのはオーガモンだけではないのだ。
「た、たたたたた旅人ぉ!へるぷみ~!」
「……はぁ。どした……ドル?」
やけに慌てて近づいて来るラプタードラモンに、旅人はホッとする。
まったく違う姿になった己の相棒に思うところが無いわけでもなかったのだ。だが、内面は変わりない事を知って、思わず安堵した旅人だった。
「で?」
「戻んないんだよ~!ドルモンに!」
「はい?」
一瞬ラプタードラモンが何を言っていることか、旅人は理解できなかった。
思わず一瞬フリーズする旅人に対して、ラプタードラモンの慌てようは世界が揺れるほどだった。
「旅人~!」
「いいいいかかかららら……くくくびびびびをゆゆゆらららすすすななな」
短い前足で旅人の頭を掴んだラプタードラモンは、慌てるままに旅人の頭を振っている。
超高速で揺れる世界。襲い来る吐き気。吐き気を撃退した後に訪れる舌を噛むという恐怖。それらのすべてが旅人を蝕んでいた。
「やめんか!」
「ぐぇ!旅人~
「お前もかよ……流行ってんのか?」
未だ治らぬ揺れの後遺症と戦いながら、旅人はラプタードラモンの様子を見た。
地面をガジガジと噛んでいるその姿は、見る者にすべてに哀れみを感じさせるだろう。
ラプタードラモン本人的には、ドルモンという犬のような姿はそれなりに気に入ったものだったらしい。
「何とかしてよ~」
腰にしがみついてごねるラプタードラモンを引き剥がそうとしながら、旅人は考える。
正直言えば、方法はないわけではない。ただ、それが一時的なものになる可能性が高く、旅人はなかなか言い出せないのだ。
「白紙のカードならなんとか出来るでしょ~」
「う……」
旅人は唸った。ラプタードラモンの言った方法は旅人が考えていたものと同じものだ。
現にカードで進化をすることはできた。ならば、その逆もできないはずはない。
不確定要素はある。だが、旅人としてもこのままというのは落ち着かなかった。
“モノは試し”と旅人は白紙のカードを取り出した。
「行くぞ?」
「う、うん!」
「set『退化』!」
ラプタードラモンの姿が光に包まれる。
やがて光が収まった時、ラプタードラモンは――。
「やった!戻った~!」
ドルモンといういつもの姿に戻っていた。ドルモンはピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいる。
だが、“本当に大事なのはこの後、しばらくしてからだ”と、そう旅人は思っていた。
今まで進化をした場合、一定時間が過ぎたり行動不能になったりすると必ず元のドルモンの姿に戻っていた。だからこそ、一定時間過ぎてもドルモンに戻らなかった今回の進化は異常と言えた。
話を戻すと。いかに白紙のカードを変化させた『退化』のカードとは言え、効果的には今までの『進化』のカードの逆だ。特別な効果は何も――そのカードがもたらした現象が普通ではないとはいえ――ない。
今までの逆の効果ということはつまり、一定時間後に再び進化する可能性があるということだ。
あまりのドルモンの喜びように、結局そのことを告げられなかった旅人だった。
結論から言うと、ドルモンは何時間してもラプタードラモンへと戻ることはなかった。
“進化と退化。この二つは何が違うのか”と考えた旅人だったが、やがて“どうせ自分には分からないだろう”とキッパリと考えるのをやめたのだった。
「それにしても……ここって違う世界なのか?明らかにいろいろと違うだろ。主に遺跡とか進化とか……」
「でも、街の名前や出来事は同じみたいだよ?」
この世界のあまりの違いように二人は首を傾げていた。
数ヶ月前は、進化という現象はあんなに簡単なものではなかった。
数ヶ月前は、この遺跡はもっとまともな形を保っていた。
この世界が数ヶ月間で変化したというより、ここが似ているだけの別世界だと考えた方が、いろいろと辻褄が合うのだ。
「でもね~。ん?……」
「こういう時にナムたちがいれば……何も変わらないか」
旅人は少し前に何処かへと消えた知り合い二人を思い浮かべる。
“あの二人がいれば、いろいろと分かっただろう”と考えて、旅人はすぐに首を横に振った。確かにあの二人はいろいろと知っている。だが、今まで事が終わってからアレコレ言うことはあっても、事の最中にアレコレ言うことはなかった。それを考えると今回もあまり期待できたものではなかっただろう。
どのみちその二人は今いないので、意味のないことではあるのだが。
旅人としては少しでも目の前の現実から目を逸らしたかったのである。
「はぁ。でもだからってここが違うとは限らないし……しばらくはここを旅するしかないよなぁ。……ドル?」
先ほどまで会話をしていた己の相棒の返答がないことに旅人は首を傾げた。辺りを見渡すがいない。
“どこに行ったのか”と考え込む旅人。だが、その時。旅人の耳に聞きなれた声の危機的な声が届いた。
「……はぁ」
“また何かやらかしたのか”と溜め息吐きながらその声の方へ向かった旅人が見たものは、遺跡の残骸に埋まっているドルモンの姿だった。
ご丁寧に尻尾の先端だけが分かりやすいように飛び出て、揺れている。
「……何してんの?」
「埋まった。旅人助けて……」
助けを求めるドルモン。
だが、旅人としてはどうしてこのような状況になったのかが分からない。辺り一帯は遺跡の残骸によって荒れているとはいえ、遺跡の残骸は高く積み上がっているわけではない。
どのようすれば、このように埋まることができるのか分からない。
「痛い!痛い!尻尾引っ張らないで~!」
「尻尾引っ張らずに抜けるか!」
旅人はドルモンの尻尾を引っ張りながら、瓦礫を退かす。しかし、旅人が思った以上にドルモンは深く埋まっているようだった。
「本当にどうしたらこうなるんだよ!」
「何か地面が光ってたから……何かあるのかなって思って掘ったら、埋まった」
ドルモンの説明は至極簡潔だった。
数分前。旅人と会話していたドルモンは光り輝く地面を発見。
“ここほるわんわん”とばかりにその場所の地面を掘り進んでいたドルモンだが、そこら辺の遺跡の残骸が崩れて生き埋めになったのだ。
ギャグのようなマヌケを晒したドルモンに、旅人は“コイツこのまま生き埋めにしとこうか”と割と本気で考えた。
やがてドルモンは掘り起こされた。掘り起こされたドルモンはその手に光る石版を持っている。
「助かった……」
「助かった……じゃない!」
「ごめんごめん……でもこれ」
そう言ってドルモンが旅人に手渡したのは光っている石版。表面に何か文字が書いてある。書いてある字は難解で旅人には読めそうになかった。
「石版……これ……がッ!」
旅人が石版を持った瞬間、石版が砕けた。
そんな石版を見てドルモンは真っ白になっている。あれほどの目にあってようやく手に入れたものがすぐに粉々になったのだから当然である。
一方で旅人は気まずい雰囲気を隠せない。“やっべ……どうしよう”とドルモンの様子を伺っている。
「あ、あのだな……」
「……」
「ごめんなさい」
謝る旅人だが、真っ白になったドルモンが元に戻ることはなかった。
裁きを待つ罪人のような面持ちでドルモンを見る旅人。
だが、その時、急に石版の欠片が輝きだした。
「何だ……?」
――あ、あー聞こえるか?ウィザーモンだ――
光りだした欠片から、ここで待ち合わせした相手の声がしたことに驚く旅人。
一方でドルモンもウィザーモンの声が聞こえたことによって、ようやく再起動したようだった。
――長く録音するのは面倒だから簡潔に言う。君たちがなかなか来ないせいで、待っている間に遺跡を壊してしまった――
「お前ら何してんの!?」
「っていうかこれウィザーモンとウィッチモンがやったの!?」
突っ込みどころ満載な説明に思わず声を上げるドルモンと旅人。
二人の心境は同じだった。すなわち“簡潔に言わなくていいから、過程を言え!”である。ウィザーモンの言ったとおりだと、この遺跡を壊した理由が自分たちにあるみたいで二人は嫌なのだ。
実際には旅人とドルモンの二人は、ウィザーモンたちの遺跡破壊の理由に――間接的にとはいえ――関わっていたりするのだが。
――そんなわけで――
「どんなわけだ」
――僕らはここから北に行った場所にある、学術院という街に行く。以上だ――
それだけを告げてウィザーモンの声は消えた。先ほどまで光っていた石版の欠片。その光は消え、既にただの石と変わらないものとなっていた。
だが、そのことはどうでもいいとばかりに旅人とドルモンは顔を見合わせた。
この石版を見つけたことはドルモンの今日一番のお手柄であろう。
「学術院ね。とりあえずいろいろと謎はあるけど……まぁ、ウィザーモンたちに聞けばいいか」
「そうだね~」
ドルモンと旅人は頷き合う。
すぐさま支度をして、明日の朝一でここを旅立つことにする。
「そうと決まれば、さっさと寝るぞ!」
「ほ~い!」
当面の目的地は決まった。学術院。知識の都とも言われるその街へと二人は向かうのだ。
トレイルモンは無人の客車を引いて走っていた。
客が乗っていないということが不満であったのだが、彼自身は元々走ることは嫌いでない。それなりに楽しんで走っていた。
「こんな時間帯では流石にお客様は……おや?」
トレイルモンは自身の行く先に一体のデジモンがいた事に驚いた。
今は夜遅く。夜行性のデジモンを除いて、こんな時間帯まで起きている者はほとんどいない。こんな時間帯まで起きている者などよほどの変わり者である。
だが、相手が誰であろうと関係ない。トレイルモンにとってそのデジモンは、お客様になるのかもしれないのだ。
「お客様……デジタルワールドの快列車!このトレイルモンにお乗りになりますか?」
「乗る」
短く一言を告げたそのデジモンは、いつまで経ってもトレイルモンの客車へと乗ろうとしなかった。
「お客様……?」
不審に思ったトレイルモンが尋ねる。
しばらくして、そのデジモンはトレイルモンに向かって口を開いた。
「……人間を知っているか?」
「人間……?あぁ。驚くかもしれませんが、つい先ほどまで乗せてましたよ?めいわ……珍しいものを見ましたねぇ」
「そいつがいったところまで行きたい」
「わ、分かりました……フォルダ遺跡跡まで発車しますー!」
それだけを告げたそのデジモンは、さっさと客車へと乗り込んだ。
“もしかして面倒な奴を乗せちゃった?”と思いながらも、客が乗ったことでテンションが上がったトレイルモンだった。
最後に出たデジモンは一体……?すぐに分かるんですけどね。
第四章は世界の真実と物語の核心にちょこっと(もしかしたらガッツリと)触れる章でもあります。
格好良く言うと、変貌世界編です。楽しんでください。