ちなみに作中で言うことないので言いますが、前回最後にちょろっと登場したのはこいつです。
分かりきったことかもしれませんが。
新たな目的地である学術院へと向かう旅人とドルモン。
朝一で旅立った二人は、北へと歩いていた。
もっとも、二人はその学術院の場所を詳しく知っているわけではないので、“北にある”という情報のみで進んでいたりする。適当すぎる二人だった。
「そういえば、ドルの
旅人が訪ねたのは、ドルモンが少し前に初めて行なった進化のことだ。
あの進化は任意でできるのか、そうでないのか。旅人は知っておきたかったのだ。
「今更?」
「う……」
ドルモンの鋭い指摘に旅人は押し黙る。実際、初めてあの進化をしてからもう二三ヶ月経っているのだ。今更だろう。
一応旅人にも言い分はある。アナザーの説明書解読でそのことを忘れていたのだ。
今ふと思い出したので、旅人は学術院までの道すがら聞こうと思ったのである。それでも今更感は否めないのだが。
「分かんない」
「分かんないって……」
「あれからやってないし。試してみる?」
ドルモンは軽い口調で言う。
だが、旅人としては何もない時に究極体まで進化させるなど、御免被りたい。
唯でさえ、あの進化によってなる姿はとてつもない威圧感を出すのである。仮に成功した場合、要らぬ面倒を引き起こす可能性があるだろう。
「別に究極体じゃなくても……出来ると思うよ」
「そうなのか?」
「たぶん。そんな感じがした……たぶん」
今一自信なさげに言うドルモン。
だが、いざという時に使えなかったでは済まされない。試すことは必要だろう。
“どのみちやっといた方がいいか”と旅人はカードを取り出してドルモンに向き合う。
“失敗したときはそのままドルガモンに乗って空を飛んでいけばいいか”とドルモンが聞いたら怒りそうなことを考えながら。
「set『進化』」
「ドルモン!進化――!ドルガモン!」
前日妙な姿に進化したことも相まって、旅人にはドルガモンという姿が随分と久しぶりに思えた。やはり旅人にとってはラプタードラモンという未知の進化体よりも、ドルガモンの方が見慣れている分いろいろな意味で安心する。
しばらく“あ~”だの“う~”だの唸っていたドルガモンだが、やがて目を閉じて黙り込んだ。
「うん。出来る……たぶん」
数秒後ドルガモンは一人頷くと、目を開けた。その様子はまだ自信なさげではあったが。
その直後、黒い靄がドルガモンを包んでいく。
それと同時に旅人は、まるで己の首が断頭台にかけられているかのような錯覚をした。怖気すら感じるその雰囲気は、ドルガモンのは悪いが旅人にはどうしても好きになれない感覚だった。
実際、黒い靄がドルガモンを包んでいた時間は一秒も無かっただろう。だが、旅人にとってのその時間は見た目の奇妙さと壮絶な雰囲気も相まって数秒にも数十秒にも感じられた。
黒い靄が晴れる。
やがて現れるとある竜。もちろんドルガモンではない。全体的なシルエットはドルガモンに近い。だが、全身に拘束具や機械的な部品が見えていた。顔にマスクが付けられているその姿は、見る者にミイラを連想させる。
その名前は――。
「デクスドルガモン」
新たに進化した自身の名前をデクスドルガモンは静かに呟いた。
「……うん。ちゃんと出来た」
そう呟くデクスドルガモンだが、その声はいつもの声よりだいぶ低くなっている。地獄からの使者だと言われても納得できそうな声色だ。
成功したことが嬉しいといった様子を見せるデクスドルガモンだが、その見た目と声が相まって、だいぶ怖い。
「ちゃんと出来たよ旅人!……旅人?」
「いや……うん。なんか……ごめん」
「なんでちょっと引いてるの!」
ちなみに言うが、ちょっとどころではない。旅人は思いっきり引いている。
別にデクスドルガモンの見た目や声が怖いことに対してではない。旅人が引いているのはもっと別のことだ。
それは――。
「なんで!?」
「いや、だって……」
“臭いんだよ”と。その言葉の意味をデクスドルガモンは一瞬考えて、やがてその言葉の意味が分かったのか、その場に静かに崩れ落ちた。
その様子を見ていた旅人もデクスドルガモンから静かに、だが確実に距離を取る。
そう臭いのだ。デクスドルガモンはナマモノが腐ったような臭いを全身から放っている。究極体であるデクスドルゴラモンの時はしなかった臭いが、成熟期のデクスドルガモンからは出ているのだ。
「まぁ、元気出せよ?」
「だったらもっと近づいて!」
「いや、無理。臭いし……だってお前の口臭茶色だぞ?」
そんなデクスドルガモンをなんとか励まそうとする旅人だが、距離が遠い。そんな距離では火に油を注ぐだけだ。
「うぅ~だったら旅人だって臭いよ!」
「いや、今のお前には負けるって」
一応旅人だって水浴びくらいするし、服の替えくらいはある。ちなみにその服は以前捨てられていたものを失敬しただけの物だが。
そんな旅人と、現在進行形で腐った臭いを発しているデクスドルガモン。どちらが臭いかといったら圧倒的に後者だ。
“うがぁ~”と唸るデクスドルガモン。だが、その時その姿が光り輝き、一瞬にして旅人の見慣れたドルガモンの姿へと戻った。
「戻った?やった~!」
「随分と早いな。まだ三十秒も経ってないぞ」
「いいんだよ!あんな姿はもうウンザリだぁ~!」
この数秒の出来事はドルガモンに消えない傷を残したらしい。ドルガモンはこの前までとは別の意味で、この進化をすることが嫌になっていそうだった。
旅人はこの進化の不自然さに眉をひそめた。
今回進化した姿は成熟期。前にこの進化をした時の姿は究極体。ランク的には今回より前回の方が二段階も上のランクである。
だが、前回は戦闘というエネルギーを極端に消費する行いをしていたのにも関わらず、数時間もその姿のままでいた。しかし、今回は進化してものの数秒で元の姿に戻っている。
“何か条件があるのか?”と旅人は悩む。だが、ドルモン本人でない旅人に答えが出せるはずもなく。結局襲われた時の当てが一つなくなったことに溜め息を吐く旅人だった。
一方で、未だ喜び続けるドルガモンは、喜びのあまりに旅人へと突撃する。もちろん、そんな攻撃をタダで食らうような旅人ではない。
向かい来るドルガモンを避けようと旅人が準備をした瞬間に――ドルガモンは緑色の影によって殴り飛ばされた。
「……は?」
一連の出来事を旅人はポカーンとアホヅラを晒しながら見ていた。
ドルガモンを殴り飛ばしたことから、“敵襲か!”と警戒した旅人だったが、それにしては旅人に敵意を向けていない。
緑色のそのデジモンは、未だドルガモンだけを見ている。否、睨んでいる。
「へッ……これで終わりか!たわい無いな!」
おそらくドルガモンを倒したと思ったのだろう。そう言いながらそのデジモンは旅人と向き合う。そのデジモンが旅人と向き合ったことで、旅人は初めてそのデジモンの全容を目にすることができた。
ドルモンやリュウダモンとは違い、全身で竜というものの存在を体現しているかのようなその体。頭の上の二つの赤い角と背中の赤い羽が妙な存在感を主張している。
「やっと見つけたぜ!俺はドラコモン!お前のパートナーだ!」
「はい?」
続けて言ったドラコモンのその言葉に、やはり旅人は口を開けて呆然とすることしかできなかった。
「で?お前何なんだよ」
自己紹介の後、そう尋ねる旅人だが、それに対するドラコモンの解答は旅人の望んだものではなかった。
「だからーお前のパートナーだって!」
先ほどからずっとコレである。いきなり現れて“お前のパートナー”発言をかましているドラコモンに、流石の旅人も戸惑いを隠せない。
そんな中で勇敢にドラコモンへと立ち向かうのは、ドルモンである。
ちなみに先ほどドルガモンから退化した。
「ちょっと待ってよ!旅人はオレの相棒!」
「はぁ?お前さっきコイツを襲ってた奴だろ?」
「襲ってたわけじゃない!」
無駄にテンションが高いドルモンを呆れた目でドラコモンは見ている。
旅人的にはドラコモンについて別に反対はしないのだが、ドルモン的には反対らしい。
ドルモンからは“何があっても認めない”という不退転の意思を感じられた。
「でもなーお前……弱いだろ?」
「お前よりはずっと強いよ!」
「オレのパンチ一発で沈む成熟期に進化する奴が強いもんかよ。オマケにその先へ進化するのならばともかく、前の姿に戻ってるし」
一応言うと、ドルモンはドラコモンの攻撃を食らったからドルガモンから戻ったのではなく、単に気を抜いたから戻っただけだ。
だが、ドラコモンの中では格下の己の攻撃でノックアウトされ、さらに進化した姿を保つことのできない情けない奴という評価がされてしまったらしい。
その瞳にはっきりと“私、貴方を馬鹿にしています”と書かれていた。
「これは単なる時間切れで戻っただけだよ!」
「時間切れ?お前さぁ……つくならもっとマシな嘘をつけよ。進化は確かに
「嘘じゃない!」
明らかにドルモンの言うことをドラコモンは信じていない。
だが、ドラコモンは気になることを言っていた。“進化はつい最近から起こるようになった現象”だと。
旅人としても非常に気になる言葉だったのだが、どんどんヒートアップしていくドルモンを前に、深く考え続けることができない。
「まぁ、ドルモンも落ち着けって。ドラコモンは何でオレのことをパートナーだと思ったんだ?」
「お前が人間だからだ!」
「……それだけ?」
“それだけ”と言い切ったドラコモンに、旅人は頭が痛くなる。
その言葉を聞いたドルモンは、“だったら違うでしょ!”と余計に騒がしくなっている。
そんなドルモンを片手で押さえつけて、“それ以外にも何かあるだろ”と旅人はドラコモンと会話を続ける。
「何か理由があるんじゃないのか?」
「あるって言えばあるけど……ない!」
“それはあることになるんじゃないかな”とそう思う旅人だが、ドラコモンはその理由を断固として教えようとしなかった。
「強いて言えば、俺は強くなりてぇ!だからだ!」
「……そうですか」
もはや旅人には何が何だか分からなかった。会話が成立しているのかどうかも、旅人には分からない。
“どうにでもなれ”といった体で旅人はドルモンを引きずって歩き始めたのだった。
「どこ行くんだよ!」
「学術院って街。オレたちはそこに向けて旅をしている。ついてくるならご自由にどうぞ」
「おぉ!武者修行の旅だな!あれ?でも学術院ってそんなに強い奴いないと思ったけど……」
「……もうそれでいいよ」
突っ込むこともめんどくさくなった旅人は、未だ騒がしく騒いでいるドルモンを見る。
これからは今まで以上に騒がしい毎日になりそうだった。
歩き始めてしばらくして。旅人は胃がキリキリと痛み出していた。理由は無言の圧力によって攻撃されていたからだ。
もちろん攻撃しているのはドルモン。攻撃している理由は唯一つ。“なぜドラコモンの同行を許した”である。
そもそもドルモンがドラコモンを嫌っているのは、旅人のパートナー発言をしているからだ。意外だが、ドルモンは別にドラコモン自体を嫌っているわけではない。
もっとも自身を馬鹿にしているドラコモンについて、ドルモンは思うところがないわけでもないのだが。
「何にもないなー」
「……」
“この空気を何とかしてくれ”と旅人は切に願っている。
少し前まで一緒にいたナムやリュウダモン、ウィザーモンたちがだいぶ懐かしくなった旅人だった。
ともかくとして。そんな旅人の願いが通じたのか。この空気を払拭するとある一体のデジモンが旅人たちの前に現れた。
「やっと見つけたぜ!」
「お前は……」
現れたデジモンはオーガモン。おそらく昨日のオーガモンだろう。
“昨日の今日でよくもまぁ”とそのやる気に感心する旅人だが、ドルモンとドラコモンは既に戦闘態勢に入っている。
だが、旅人としても予想外のことが起きて呆然としていた昨日とは違う。旅人たちは別にわざわざオーガモンと戦う理由はないのだ。
ゆえに逃げることにする。旅人はカードを取り出して、ドルモンとドラコモンとアイコンタクト。即座に逃げる準備を――。
「おらぁ!」
「グッ!やるじゃねぇか!チビトカゲ!」
「誰がトカゲだァ!」
「……」
その逃げる準備も無駄になった。ドラコモンがオーガモンと戦い始めたのだ。
先ほどの“隙を見て逃げるぞ”という旅人のアイコンタクトをドラコモンは“好きに戦え”というアイコンタクトと勘違いしたというのか。旅人は頭が痛くなる。
「『ベビーブレス』!『ベビーブレス』!ついでに『テイルスマッシュ』ゥ!」
「ぬがッ!」
高温の吐息二連続にオーガモンが怯んだ瞬間、ドラコモンは全身を横に回転させてその尻尾で打撃を与えた。
あまりに鮮やかなドラコモンの戦い方。おそらくこれが始めての戦いということはないだろう。強くなりたいという動機からして経験だけは積んでいるようだった。
「グェ!」
オーガモンは地面に叩きつけられる。その光景に旅人とドルモンは口を開けて呆然とする。
ドラコモンは一人でオーガモンを倒してしまったのだ。
「へッ!どんなもんだ!」
「ッ!ドラコモン!」
そう自慢げに言うドラコモンは気づかない。まだ戦闘は終わっていないことに。
ゆらりと立ち上がるオーガモン。その額には青筋がいくつもその表情に浮かんでおり、明らかに正気ではない。
「ふざけやがってぇ!テメェらァ!」
「なっ!」
自身があっさりとやられたのがそこまで不服だったのか。怒りのままに手に持った骨棍棒を振るうオーガモン。怒りのせいか身体能力が上がっている。
そのオーガモンの骨棍棒を前に戦闘態勢を解いていたドラコモンは、為すすべもなく殴り飛ばされ――。
「危ないッ!」
る直前によって、ドルモンによって助けられた。自分を助けたドルモンに、目を見開いて驚くドラコモン。
タッチ交代とばかりに、旅人が二人の前に立ってオーガモンの気を引く、
「お前ッ……何でだ?」
「何でって……見捨てる訳にもいかないでしょ」
そう言い切ったドルモンにドラコモンは驚いて。不機嫌そうに、けれど確かに礼を言うのだった。
「悪い……助かった。お前弱いけどいいやつだな」
「どういう意味!?」
未だわんわんと叫ぶドルモンを放っておいてドラコモンは立ち上がり、駆ける。
そのまま旅人と戦っているオーガモンへと向かってジャンプした。
「旅人避けろ!」
「……?げッ!」
「『テイルスマッシュ』!」
ドラコモンの声に振り向いた旅人が見たのは、高速で
転がるようにして旅人が避けた瞬間、回転で勢いが付いたドラコモンの尻尾が、オーガモンの顎を捉えた。顎を打ち抜かれて、吹っ飛ぶオーガモン。地面に叩きつけられたオーガモンはしばらく起き上がれそうになかった。
今回旅人にとって収穫だったのは、オーガモンの登場である。
ドルモンの機嫌は未だ治ってはいないが、それでもだいぶ気が紛れたらしく、無言の圧力を放つことはなくなったのである。
“オーガモンには悪いけど、来てくれて助かった”と思っている旅人だった。
「もっと強い奴こないかな」
「……もうちょっと落ち着こうよ~」
「お前は弱いからな。俺が守ってやるから心配すんな!」
ドラコモンの中でドルモンは弱いということは決定事項になっているらしい。
ドラコモンのあんまりな言葉に、ドルモンの頬は面白いほど引き攣っている。ドルモンは普段そんな表情を見せないだけあって、かなりレアな表情だ。
「あ。言い忘れてたけど、俺のここにある鱗。ほら、一つだけ逆さに生えてるだろ?逆鱗って言うんだけど、この鱗に触れられると大変なことになるから気をつけてくれよ!」
そんな中でドラコモンは首下にある一つだけ逆さに生えている鱗を旅人たちに見せる。
それを見たドルモンは、ほんの少しの悪戯心が湧いた。普段ならばそんなことを考えないだろうが、今のドルモンはドラコモンによってだいぶフラストレーションが溜まっている。
ドラコモンとしては割と真面目な忠告だったのだが、いかんせん説明不足だ。
“大変なことになるのは、自分ではなく旅人たちだ”ということをドラコモンは説明しなければならなかった。
「あ!オーガモン!」
「何!?まだやるってのか!」
「今だッ!」
嘘によってドラコモンの気を引いた瞬間、ドルモンはドラコモンの逆鱗に触れる。
瞬間――。
「ウッ!グァアアアアア!」
「はい?」
「おい……ドル何した?」
「何もしてないって!逆鱗に触れたぐらいで……」
旅人とドルモンが焦るが、そんなことお構いなしにドラコモンは叫んでいる。尋常じゃない叫び方だ。しかも、ドラコモンの頭部の赤い二本の角が発光している。
「『ジ・シュルネン』『ジ・シュルネン』『ジ・シュルネン』『ジ・シュルネン』……」
「なんかビーム吐き出し始めたんだけど!」
「大変なことってこれか!おい、ドラコモンやめろ!……駄目か」
無差別に口からビームを吐き出し続けるドラコモンを前に、逃げ惑う旅人とドルモン。
旅人がドラコモンに対して声をかけるが、反応がない。意識を失っているようだった。そんな中での攻撃だ。かなり怖い。
「旅人~助けて~!」
「知るか!お前のせいだろ!set『防壁』」
「『ジ・シュルネン』『ジ・シュルネン』『ジ・シュルネン』『ジ・シュルネン』……」
事の犯人であるドルモンを放っておいて旅人は一人カードで安全圏を作る。
ドラコモンが意識を取り戻し、ビームを吐き出すのをやめたのはこの二時間後。辺り一帯が焼け野原となり、ドルモンが無傷ながらも疲労困憊となった直後のことだった。
第四章のある意味主人公なドラコモンの登場でした。
ちなみにドラコモンは旅人やドルモンと違って色々な意味で王道を目指します。
ちょっと入れておいたほうがいいかもしれない解説。
ドルモンがデクス系に進化していられる時間ですが、デクスドルガモンは三十秒、デクスドルグレモンは十秒、デクスドルゴラモンに至っては一秒です。
戦闘すればもっと時間は短くなります。とある状態でないとこの数値のままです。
ちなみに言うと第三章の進化した時はとある状態でした。
さて次回は某有名物語に登場する主人公一行モドキが登場します。
やっぱり他の小説の作者さんたち見たく次回予告とかやったほうがいいんだろうか……