まぁ、量が多すぎて分割しただけなんですが。
街の中を荷物片手に、箒に乗って空を飛ぶ一人の魔女。
先を急ぐその魔女は焦っている。そのあまりの焦りを前に自然と口数も少なくなっていた。
「お前らに付き合ったんだから、今度は俺の番だ。修行するぞ!修行!」
「めんどい……。ドル、修行だってさ」
「え~」
魔女の乗る箒は相当なスピードが出ている。人に当たりでもしたらまず間違いなく大怪我は免れないであろう。もちろん、大怪我をするのは当たった人だ。
だが、その魔女にとって箒の扱いは自身の魔術の次に自信のあるものだ。事故を起こす可能性などないに等しかった。
だがそれは――。
「いいからさっさと……」
「……ドラコモン。前」
「あ?ぶばッ!」
あくまで平常時の話である。
焦りのあまり安全確認を怠っていた魔女は、道を歩いていた緑色の竜に気づかなかった。その結果、緑の竜を盛大に轢くことになったのだ。
思わず魔女は悲鳴を上げた。その緑色の竜を轢いてしまった時、その魔女は大事に持っていた荷物を道に落として割ってしまったからだ。
魔女にとっては緑の竜などどうでもよく、自身が持っていた荷物の方が大事だった。
「あー!新品の水晶がー……高かったのにー!」
「おい、ドラコモン……大丈夫か?」
「アンタたち何してくれて……旅人?」
「……ん?ウィッチモンか?」
とても喜ぶことができそうにない、旅人たちとその魔女――ウイッチモン――の再会だった。
「せっかく苦労して手に入れた水晶だったのに……」
「……っていうかウィッチモンの不注意だったんだから、とりあえず謝れよ」
そう言って旅人が見るのは、未だ頭を押さえて蹲っているドラコモンだ。
普通の者なら大怪我は免れないであろう突撃を受けて無事でいるドラコモンは、頑丈という他ない。
もっとも、無事であったドラコモン自身はカンカンに怒っており、痛みが引けばすぐにでもウィッチモンに飛びかかりそうな勢いだ。
「うぐぐ……よくもやりやがったな!」
「あら?死ななかっただけありがたいと思いなさいよ。こっちだって貴重な物が壊れちゃったんだから、おあいこじゃない!」
「そっちの事情なんか知るか!」
感情のままに突っかかってくるドラコモンを、ウィッチモンは軽くあしらっている。
明らかにウィッチモンに非があるのだが、そんなことはウィッチモンの知るところではない。そもそもそんなことを気にしていられないほどウィッチモンは腹が立っているのだ。
「まぁまぁ。ここはお互いに痛み分けということでどうだ?」
「そうそう。ケンカはよくないよ~!」
「それ、旅人たちにだけは言われたくはないけど……まあ、いいわ」
ウィッチモンは風の魔術を使って割れてしまった荷物の残骸を片付けていく。
そのあまりの手際の良さを見たドラコモンは、先ほどまでとは別の意味でウィッチモンへと突っかかった。
「っち!なら、俺と勝負しろ!そしたらさっきのことはチャラにしてやる!」
“いきなり何を言い出すのかこのトカゲは”そんなウィッチモンの視線が旅人を貫いた。
目は口ほどにものを言う。そのことわざを体現するかのようなウィッチモンの姿に旅人は思わず引き攣った笑みを浮かべながら、“さぁ?”と肩をすくめる。
ちなみにウィッチモンが旅人を見たのは、旅人がドラコモンの保護者的役目の人物だと察したが故である。
「お断りよ。今からまた……そうだっ!」
ドラコモンの戯言を断った時。ウィッチモンは名案とばかりに閃いた。
ちなみに閃いたそのときのウィッチモンの顔は、見るものに恐怖を与えそうな笑顔だったという。
「何でこんなことになってるんだ……オレが悪いんじゃないのに……」
そう呟く旅人の手にはつるはしやドリルといった道具が握られている。
先ほど
ちなみに、学術院の正規の門とは、旅人たちが落ちた穴より一週間ほど歩いた場所にある転移用の魔法陣のことである。
大昔に、学術院を作った大魔法使いが敵から攻められにくくするために作ったという噂だ。その噂の真偽はともかく、旅人たちはそこから山岳地帯へと出て山登りをしているというわけである。
「だって、私の水晶壊したじゃない。弁償とは言わないから、私の用事に付き合いなさい」
「……それについて悪いのはドラコモンだろ。何でオレたちが……」
「だって旅人はあの二人の保護者じゃない」
何となく罪を押し付けられた気がして、旅人の気分は晴れない。
そんな旅人の心情ゆえか。旅人には手に持った道具がやけに重く感じられた。ちなみにドルモンも同じくである。
一方でドラコモンは、手伝うことによってウィッチモンと戦える権利を約束されたので旅人たち以上にやる気を出している。先に場所だけを聞いてどんどんと先へと向かっていった。
「んで?聞かされてないけど、何しに行くんだ……?」
「ほら、私って水と風の魔術を専攻していて得意なんだけど、その他の属性魔術も人並み以上に扱えるようになりたくなったの」
「……それで?」
「今のところ複数の方法があるんだけど、そのうちの一つに宝石を使うものがあって……買うと高いから取りに行くの。もちろん、分け前はあるわよ?どうせお金ないんでしょ?」
“魔術ってそんなに下準備がいるのか?”という疑問が思い浮かんだ旅人だったのだが、ウィッチモンはそんな旅人の心内を察したかのように話を続ける。
「別に得意分野とかメジャーになるほど簡単なやつならそうでもないんだけど……あれよ。苦手なやつや難易度が高いやつとかは下準備がいるの。魔法陣とか……今回の宝石みたいな媒体をね。もちろんモノがいいほうが処理速度が速くて楽できるわ」
「へ~ウィザーモンと簡単にやってたからもっと簡単なのかと思った。それでどうしていきなり別の属性まで試したくなったの~?」
“そこはそっとしておいてやろうぜ”と内心で己の相棒に言う旅人だったが、当然ながら内心の声が届くはずはないし、気分が良くない旅人はそのことを言う余力もない。
ドルモンの言葉を聞いたウィッチモンは、焦ったかのように吃りながら盛大に自爆するのだった。
「べ、別に大したことじゃないのよ!ちょっとウィザーモンの鼻をあかしてやろうと思っただけで……」
「ウィザーモンと喧嘩しているの~?」
「そ、そう!そんなところ!」
ウィッチモンはウィザーモンと喧嘩していると思い込んでいるのだが、旅人は知っている。その認識は一方的なものだということを。
ウィザーモンは“ウィッチモンと喧嘩をしている”という認識ではなく、ただ“ウィッチモンの機嫌が悪い”という認識をしている。
そして二人の間の認識の違いが、今回の仲違いの原因だ。
もっとも、ある意味で懐かしさを旅人に感じさせる二人である。
「謝れば済む話じゃないの?」
「嫌よ。謝るのならアイツから!だって私が謝る必要性がないもの」
「……」
“なんていうか、空回りが過ぎるんだよなぁ。ウィッチモンって”とウィッチモンの苦労と残念さを改めて思い知った旅人は、知らずのうちにウィッチモンを見る目が生暖かいものとなっていく。
旅人とドルモンとしては至極どうでもいいことなのだが、当人たちは真面目なことなのだ。“好きなだけ、好きなようにやらせとけばいい”と旅人もドルモンも放っておくことにしたのだった。
「おい!お前らさっさとしろよ!着いたぞ!」
話題が途切れたちょうどその時。先に行ったドラコモンの旅人たちを呼ぶ声が聞こえた。
旅人たちが見上げると、山肌にポッカリと空いた一つの洞窟。そこにドラコモンはいる。
その体が多少汚れているところを見ると、旅人たちを待たずして先に中へと入ったのだろう。
「とりあえず今は実験段階。宝石ならなんでもいいから。掘って掘って掘りまくって!」
「了解~!」
洞窟内へと入った旅人たちは、奥を目指す。
タダ働きではなくちゃんと分け前がもらえるのだ。学術院での生活を豊かにするためにも、旅人とドルモンはなけなしのやる気を出す。
ある程度奥に来たところで、“さぁやるか!”と旅人はつるはしを振り上げて、壁に突き立て――。
「あ、ちょっと待って。ここじゃなくてこっちの方よ」
ようとしたところで、ウィッチモンから待ったの声がかかった。
勢いを削がれた旅人は恨めしげにウィッチモンを見るが、そこにウィッチモンはいなかった。どうやら言うだけ言って置いていかれたようだった。
ウィッチモンだけではない。ドルモンもドラコモンもいない。三人の声は今いる位置よりさらに奥から聞こえてくる。
しかも聞こえてくる声の声色が平常時のソレではない。
“なんでオレだけ……”と置いていかれた事実に一人落ち込みながらも旅人はさらに奥へと進む。幾度かの曲がり角を曲がったその先。そこにウィッチモンたちはいた。
そこは――。
「おぉ!すごいなっ!」
一面の部屋中が壁から突き出たかのような宝石で満たされている部屋だった。
天井、壁、床。どこを見てもさまざまな宝石で満たされている。自然の神秘とでも言うべき光景だ。
その光景に声もなく旅人は圧倒されてしまった。旅人だけではない。ドルモンもドラコモンも口を開けて固まっている。
「さ、作業作業」
おそらくここへ来るのは初めてではないのだろう。ウィッチモンはその光景を前にしても顔色一つ変えずに作業を始めた。
風の魔術を使って宝石を切り取り、自身の持つ収納袋の中へとしまっていく。
そんなウィッチモンを前に、旅人は何とも言えない気分になった。
「そりゃ、取りに来たからにはそうなるけど……こういう景色ってそのままの姿であって欲しいような気が……ウィッチモン?」
「ウィザーモン……見てなさい……!」
「……聞いてないな」
“せっかくの景色が”と残念がる旅人の思いも虚しく、景色の破壊は現在進行形で続いていた。
ウィッチモンは変なスイッチが入ったらしく旅人の言うことを聞いていない。
しかも、部屋の宝石はよく見れば形が変なものがある。ウィッチモンに掘られたのでも、自然にできただろう形でもない。何かに食べられたような、そんな形だ。
「……何かこの宝石妙な歯型がついて」
「うぉ!これうめっ!うまい!」
「……」
犯人はすぐそばにいた。ドラコモンは部屋の宝石を片っ端から食いあさっている。
中でも青っぽい色の宝石がお気に入りらしく、その宝石を重点的に探して食いあさっている。以前盗もうとした水晶といい、ドラコモンは光るものが好きなようだった。主に食用として。
そんな中でドルモンは、旅人と同じ気分なのかウィッチモンやドラコモンを止めることに苦心していたのだが、やがて無理だと悟ると沈んだ面持ちで旅人の方へと歩いてきた。
「……旅人。もうどうしようもないよ。せめてこの景色の最後を見届けよ~?」
「そうだな。そうしてやるか」
目の前の現状を変えることのできない、どうしようもない無力感を旅人とドルモンは味わい続けたのだった。
それからしばらくして。景色の破壊は終わりを迎えた。部屋の中のめぼしい宝石が無くなったのだ。
ウィッチモンもドラコモンも大量の宝石を手に入れられて満足といった表情をしていた。
もっともドラコモンは手に入れたほとんどの宝石を食べてしまったのだが。
ちなみに余ったドラコモンの手に入れた宝石は旅人が預かっている。また食べられては堪らない。
「……帰るか」
「そだね……」
ちなみに後日。ドラコモンが好んで食べていた宝石は、この山で取れる宝石の中でも特に希少なブルーディアマンテと呼ばれる宝石だったことを知り、旅人は卒倒しそうになるのだがそれはまた別の話だ。
「旅人とドルモン……なんにもやらなかったじゃない!」
「やる気が起きなかたんだよ」
「ドラコモンとウィッチモンのやりようを見てたらね~。取るのが申し訳なくなるよ」
旅人とドルモンにそう思わせる二人はかなりすごいのだが、当の二人は気づいていない。
もう何もする気が起きない旅人とドルモンは入り口の方へと戻ろうとして、あることに気づいた。
それは――。
「あれ、ドラコモンは?」
「いないね」
ドラコモンがいないということだ。
ドラコモンはいつの間にかこの辺りを去ったらしく、いくら呼んでも返事がない。
「あのトカゲなら食後の運動に修行してくるって外に行ったわよ?」
「旅人……」
「言うな。ドル」
「うん……」
嫌な予感をひしひしと感じながら、旅人たちはドラコモンを探しつつ来た道を戻るのだった。
一方その頃。
ドラコモンは山道を走っていた。別に何かから逃げているとかそういうことではなく、単に食後の軽い運動である。
修行すると言って洞窟から出たのはいいが、運動くらいしかやることがない。だが、そのことがドラコモンにとって不服だった。
“修行なんだから、誰かと戦わないともったいない”と考えて、そこでふとドラコモンはウィッチモンとした約束を思い出した。ウィッチモンが約束を守る気があるのならば、今からでも戦ってくれるはずだ。
“そうと決まれば!”とドラコモンは、思い立ったが吉日といった体で来た道を猛スピードで引き返し始める。
「さっさと……ん?」
だが、ドラコモンが走り始めてしばらくして、天候が変わった。
先ほどまで快晴といった様子を見せていた空はどんよりと曇り、辺りからは突風が吹き始める。そのうち雨、雪、霰、雹といったものが急激な勢いで大地に降り注ぐようになる。
嵐の到来だった。
「っち!急いでるってのに……」
遠くには巨大な竜巻が発生している。
有り得ないほどの天気の変容。いくら山の天気が変わりやすいとはいえ、限度があるだろう。
ひどくなる一方の天気を前に走り続けるドラコモンは舌打ちする。もう前も見えなくなるほど視界が悪くなっているのだ。
“いい加減にしろ”とドラコモンはイライラしていた。この状況は普段のドラコモンならば修行と称して納得するのだろうが、ウィッチモンとの戦いを目前に控えるドラコモンにとっては鬱陶しいことこの上ない状況だ。
「あーもう!いい加減にしろやー……ッ!」
我慢の限界を迎えたドラコモンが叫んだその直後。遥か上空からドラコモンへと真空の刃が殺到した。
バレバレですが、最後にドラコモンを襲った犯人は一体誰でしょうか!?
はい。というわけで次回は戦闘回です。
感想は随時募集しております。
別に最新話の感想ではなくてもOKです。
感想ではなくても、アドバイスや批評なども募集しております。
すぐには無理かもしれませんが、加筆修正や次回作などの時にできる限り参考にして反映させますので。
では、次回もよろしくお願いします。