しかし……やりたいことまでが遠い。頑張ろう。
今回はあの有名な黄色い恐竜が登場します。
「何故あそこでチョキを出したんだ……」
スカルグレイモンの強襲から二週間。旅人達は荒野を抜けた先の湖の――湖といっても大きさが分からない程のものだが――畔にある街で一休みしていた。
そこで旅人はジャンケンで負けた為、食料調達のための皿洗いのバイトをしていた。
ちなみに町ごとで通貨が違うため、余所者は大抵が交換による方法で物を得る。……のだが、交換する物すらない旅人たちはこうして稼いだ金を使うしかないのだ。
「ドルは手伝ってくれない……ていうか逃げたし、ウィッチモンやウィザーモンはどっか行っちゃうし、もう嫌だァ!」
「オラバイト!さっさとその皿片付けろ!まだまだあるんだよ!」
かれこれ四日。植物――ベジーモン――にいびられ、ひたすらに皿を洗う作業である。いっそのことカードの力で大道芸をした方が儲かる気がすると旅人は考えているが、それは効率が悪いと全員に言われている。
ちなみにウィザーモンとウィッチモンは情報の本棚――人間界で言う図書館――に行き、ドルモンは一日中散歩していたり、寝ていたりしている。
“二週間前の決意表明はなんだったのか”と問い詰めたい気分になっている旅人だった。
「ベジさんそんなにバイトをこき使っちゃダメだって~!」
あははと笑いながら言うのは黄色い恐竜――アグモン――である。
旅人を擁護しているようではあるが、どちらかといえば酔っ払いがチャチャを入れる感じに近い。
ちなみに今は夜遅くである。閉店間際とあってアグモンを除き客がいない。
「アグさんもそんなこと言って!ウチはコレでいいんですって!なぁ!」
「いや……オレは……なんでもないです」
この街は幼年期と成長期というデジモンの成長段階の中でも前半の者達しかいない。理由としては、基本成熟期以降は一人で暮らすことができる力を持つため、街に住まないからだ。
体のサイズによって
もちろん例外――隠れ里にいたババモンのように――はある。
子供が多いため、街全体が寝静まるのが早くこんな時間まで起きているアグモンは珍しいのである。
「アグさんはこんな時間まで起きて!また失敗したんですかい?」
「うん。これで何回目だろうね」
アグモンは何かを失敗したらしく、その雰囲気は暗い。アグモンがしている行為として、似たものとしては自棄酒に近い。
旅人も口を挟もうとしたが、ベジーモンと二人だけの世界を作っており、聞き手に回るしかなかった。
「アグさんはよくやったよ。もうそろそろ諦めてもいいんじゃないですかい?」
「無理だよ。諦められないんだ。この湖の中心にあるという僕達の
「すみません。伝説の地ってなんですか?」
旅人は聞きたいことが出来たので思わず聞いてしまう。一応雰囲気を壊すことになったため、腰が引けたのか、敬語である。
ベジーモンは“知らないのか?”とばかりに驚いているが、アグモンはそんなベジーモンを構わずに語り始めた。
「伝説の地は文字通り、伝説に記された地だよ。一説によると三大ターミナルの悲劇以降機能停止したイグドラシルがかつてあった場所ともされ、何人たりともそこに行けた試しはない。そこはすべてのデジモンの始まりと終わりの地」
「始まりと終わり?」
「そう。すべてのデジモンは死んだあとそこに流れ、そこで卵となり、そこで生まれる。そしてこの世界のどこかに飛ばされる。という話だ。僕らとしても、生まれたらいつのまにか育った場所にいるからただの伝説とも言い切れないんだ」
「御伽噺だよ。ただのね。オメェはそんなことに気をとられてないでサッサと仕事しろ!」
今の話を否定したベジーモンの声色は暗い。アグモンの行く末を心配しているような声色だった。
そんな様子のベジーモンにアグモンは少し明るめの声で言う。
「でもこの湖の中心に何かあるのは確かなんだ。進んでいるとどうしても一定の位置から別の位置へ飛ばされてしまう。まるでそこから先は行かせないとばかりにね。何かある。それだけで今の僕には十分なんだ。皆僕のことを馬鹿にする。そんなことは無理だって。ソレは御伽噺だって。でもどんなに馬鹿にされても、僕はソレを見たい。だから諦めずに頑張るんだ!」
アグモンのその声色に旅人は自分も人から見たらこんな感じなのだろうかと感慨にふけりながら、会計を済ませて店を出るアグモンを見送った。
“叶うといいな”そんな独り言を、夜風に乗せて。
それから数日。まったく状況は変わっていなかった。
「いつまで……やればいいんだ……」
旅人が泊まっている宿に戻る頃にはもうメンバー全員が寝静まっている。
そのくせ、メンバー内で誰より早く行動開始するのだから文句に一つ言いたくもなるだろう。
ちなみに全員個室。店側の対応としては外部からの客は珍しく、年中部屋が空いているとかなんとか。
「そろそろ疲れたんだけどな。まあ、晩御飯出してくれるからいいけど」
ベジーモンはその凶悪な見かけによらず、結構バイトに対していろいろとしてくれる。賄い食とかもあり、給料もそれなりにいい。その代わり朝が早く、夜が遅いのだが。
“やれやれ、やっと寝れる”そう旅人が思った、ちょうどその時、扉にノックの音がした。
「旅人……?起きているか?」
「おー。要件はなるべく早くしてくれ。眠いんだ」
「ふむ。ではサッサと終わらせよう」
夜遅くに訪ねて来たウィザーモンの話によると、“一週間後辺りに出発しないか”というものだった。
当然、慣れないバイトで疲れている旅人は断る訳もなく、承諾する。要するにバイトがめんどくさくなったのだ。
「それはいいけど、なんで一週間後?」
「なんでも毎年湖の中心が幻想的な風景を見せる日があるそうだ。それがちょうど一週間後。どうせならそれを見ていこうと、ウィッチモンとドルモンが提案した。僕も興味があるしね。旅人はどうだい?」
「ん?そうだな。もちろん興味があるに決まってる。そこでしか見られない風景ってのは旅の醍醐味だしな。今から楽しみだよ」
本当に楽しみなのだろう。かなり声を弾ませる旅人にウィザーモンは旅人を地獄に落とす一言を言うのだった。
「そうか。ではバイトの方もしっかりと頼むよ。君は結構重要な役なんだからね」
「っぐ。せっかく忘れかけていたのに……。わかってるよ!しっかりやるよ!」
「ふふ。では、おやすみ」
そう言うとウィザーモンは出て行った。
しばらくは眠れないといった風で、起きていた旅人だったが、明日のバイトを思い出し、すぐに眠りについた。
一週間後。旅人の稼いだ金を使って食料を買い込んだ一行。
いつも通り、『転送』のカードを使い何処かへと食料を送る。その何処かが不安になるのは旅人以外の共通認識だ。
「あ、そういえば旅人。言い忘れていたけど……」
「set『転送』ん?何?」
「……なんでもない」
「僕やウィッチモンが『転送』より手軽な荷物を運ぶ手段があると言ったらどうなるんだろうな?」
旅人の『転送』によって全部送り終わり、出発の準備を整えていた。
久しぶりにメンバー内で会話した旅人であったが、そこで驚愕の事実が判明した。この街での旅人の役割についてである。
「で?旅人のほうは何か情報はあったか?」
「え?オレの役割って金稼ぎじゃないの?」
「そんなわけ無いだろう。わざわざあの店を選んだのは客から情報が聞けることを考慮してのことだ。しっかりと言っただろう。重要な役だと。……まさかしてないのか?」
「……」
しているわけがない。旅人は本気で金稼ぎが自分の役割だと思っていたのだから。
「……」
「旅人……オレでもいろいろと情報集めたのに……」
ドルモンの一言で旅人は地面に手をつく。謎の敗北感だった。
普段役立たずと言っている奴と立場が逆転する。これほど屈辱的なことはないだろう。
「あぁっ!ま、まぁ食料調達の為になったし、旅人のしたことは無駄じゃないよ?ねぇ?」
「まあ、そうなのだが……」
「はは、役立たずかぁ。オレってドルモンより使えないヤツだったんだなぁ」
落ち込む旅人を抜きにして、全員が準備を進める。
歩き始めてもなお戻らない旅人にどうしたものかとメンバー全員が考えるも、結局めんどくさくなって放置である。
今日のアレを見れば元に戻るだろうという考えもあるのだが。
「おぉ~!」
周りの声に反応して全員が湖を見る。そこには幻想的な風景が広がっていた。
天に流れる緑色の光の流れが湖の中心へと流れていく。それもあちこちから。よく見ると光の一つ一つは小さな粒であり、数え切れないほどの粒が空に舞っている。
「綺麗……」
「でしょ?バイトさんの一行さん」
「アグさん」
気付けばいつか店に来たアグモンがそばにいた。アグモンは感動したようにこの現象の由来について説明してくれる。
「あの光の粒はね、この世界で死んだデジモンたちの一部だそうなんだ。それが、この湖の中心にあるといわれる伝説の地に集まって、再び命となる。そんな話があるんだ」
「興味深いな。伝説の地についてはいろいろと調べたが、コレといって否定するモノがないのも事実。いつか調べてみたいものだ」
「まったく。もう少し見たままを楽しもうって気にはなれないのかしら」
興味深々といった風のウィザーモンにウィッチモンは慈愛の微笑みを向けている。この数週間、進展はなかったのだが、二人きりで過ごせたために彼女にとっては嬉しい数週間であったのだろう。
「まったく。風情がないなぁ」
「ドル!それはオレのセリフ!」
「セリフとか別に誰が言ってもいいでしょ!」
始まるいつものケンカに近くにいた全員が呆れながらも誰も止めはしようとしない。休息の日々は終わり、また新たな旅が始まるのであった。
荒野の一角。影が二つ。片方の影の主は明らかに傷だらけであり、しかもだんだんと体が崩れている。見るからにもう消滅間際だということが分かり、ソレをやったのはもう片方の影の主だということも分かる。
対してもう片方の影の主は異常だった。見た感じは西洋の騎士のソレである。しかし、相手と争ったことは確かなことであろうに、西洋の騎士のような荘厳な鎧は傷一つ付いていない。
やがて、その姿が揺らぎ霞んだかと思えば、次の瞬間西洋風の騎士の姿は何処にもなかった。辺りに風が吹く。とても強い、英雄の風が。
「さて、見せてもらおうか、人間。貴様がこの先にあるであろうナニカを乗り越えるに値する者かどうかを」
英雄の風は吹く。旅人の価値を見定めに。旅人を新しき場所に連れて行くために。