【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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遅くなりました。
はじめに予定していた話をやめて、書き直ししていたもので……。

なにはともあれ。第五十九話です。


第五十九話~どうしようもない感情~

 学術院に朝日が昇る。もちろん地下都市の学術院の中にあってのその朝日は偽物なのだが、そこに住んでいる者にとってはそれが偽物かどうかなど関係ない。学術院に住んでいる者にとっては朝日とはそういうものだからだ。

 そんな朝も早くの時間帯。そんな時間帯にとある道を仲良く歩く三つの影があった。だが、普段ならば和気あいあいとしていそうなその影たちの間に会話は一切なかった。

 しかも、ただ会話がないだけではなく、凍えるほどの冷たい空気が三人の間に漂っている。正確には冷たい空気を発しているのは一人で、その冷たい空気を受けているのも一人だ。

 

「……勘弁してくれ」

 

 なぜこんなことになっているのか理解できない、その影のうちの一人である旅人の心からの叫びだった。

 ちなみに冷たい空気を発しているのはドルモンで、その空気を一身に受けているのはコアドラモンだ。旅人はその二人に挟まれているので、精神的にも大変よろしくない状況だ。

 

「……」

 

「ドルがあそこまで怒るなんて相当だし……昨日からずっとああだぞ?お前本当に何したんだよ」

 

「知らねぇよ!俺は……昨日少し話したぐらいで……」

 

「んじゃ、明らかにそれが原因だろ」

 

 ドルモンに聞こえないように旅人はコアドラモンの背に乗って小声で話すが、それを見たドルモンの機嫌はさらに急降下した。

 一方でコアドラモンはなぜドルモンの機嫌がこうも悪いのか分かっていないようだ。

 いや、コアドラモンも本当は分かっている。昨日の会話が原因だということは。だが、昨日の会話のどこがドルモンを怒らせたのかが分かっていない。

 コアドラモンは先ほどからずっと首を捻っている。

 そんな様子を見た旅人は意を決してドルモンに直接聞くことにした。このままの雰囲気はごめんなのである。

 

「……なぁ、ドル?お前……」

 

「ッ!」

 

「……」

 

 刹那、ドルモンの眼光が旅人を貫いた。

 そのあまりの迫力に旅人は、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまいドルモンに声をかけることができなかった。

 そして、そんな一連を見ていたコアドラモンは退散を決意する。コアドラモンもこの空気の中でずっと居たくはないのだ。

 

「あ、俺修行に行ってくるわ!」

 

「おい!ちょっと待てこの修行バカ!お前のせいだろ!オレを置いてくな!って速っ!」

 

 空気に耐えられなくなり、退散を決意したコアドラモンは逃げた。

 元々高速飛行タイプのコアドラモンだ。空を全速力で飛んで行ったコアドラモンはあっという間に見えなくなった。

 後に残ったのは、旅人とドルモンだけだ。いたたまれないなんていうものではない。旅人にとっては完全なトバッチリだ。

 

「……」

 

「えぇと……とりあえずそこら辺の店行くか?」

 

 空腹の獣の檻に一人残されたような状況の旅人は、とりあえず落ち着いて話を聞ける場所を探すのだった。

 

 

 

 

 

 その後、上品で落ち着いた感じの内装が目立つ喫茶店へと旅人たちは来ていた。

 街の住人からこの喫茶店の情報を得た旅人は、これ幸いにとこの喫茶店を目指したのだ。

 朝一で開店したばかりということもあって客はいない。旅人たちを除けばマスターのピンクと緑の植物らしきデジモンだけだ。

 

「んで?何をお前はそんなに怒ってんだよ?あ、マスター……オレはコーヒーで」

 

「オレはミルクで。……別に旅人に怒ってなんかないよ」

 

「怒ってんのはコアドラモンに……だろ?それくらい分かるわ。どうしてそんなに怒ってんだって聞いてんだ」

 

 話がループしている。

 ドルモンとしては旅人にそれを言いたいのだが、旅人が変に聞き出すからつい意地になってしまっている。

 結局しばらくの間、旅人とドルモンの間で言う言わないの攻防が繰り広げられていた。

 

「はぁ。んじゃ、まぁいいよ。無理して聞くことじゃないしな」

 

 だが、結局先に折れたのは旅人の方だった。面倒くさくなったのだ。本人たちの問題は本人たちに任せればいいだろうと。これでこの話はおしまいという風に、ちょうど来たコーヒーを飲み始める。

 だが、ドルモンも注文したミルクを飲み始めるが、やはり釈然としていない様子だ。

 元々は言うつもりだったのに、言う前に話が終わってしまったのだから当然だろう。自業自得とも言うのだが。

 “どうしたものか……”とドルモンはしばらくの間ミルクを飲みながら考え込む。

 だが、考え込んでいるうちにドルモンは、“どのみちいつかは言わないといけない”とそういう考えに思い至る。

 結局、ドルモンはコアドラモンのことを言うことにしたのだった。

 

「なあ、旅人はコアドラモンのことどう思っているんだ?」

 

「どうって?」

 

「あいつのこと……本当にパートナーだと思ってる?」

 

 それを聞いた旅人は少し考え込んだ。

 別にコアドラモンのことは嫌いではない。今まで自分の周りにいないタイプだけあってちょっとイラっとする時もあるが、それなりに楽しくやっていると思っている。

 結論として。旅人の中ではコアドラモンは、パートナー云々はともかく良い旅の仲間だということだった。

 

「だよね。……アイツが……旅人を利用しているとしたらどうする?」

 

「なんだよ藪から棒に。別にどうもしないだろ。特に害もなけりゃ。いちいちそういうこと考えて行動するのってめんどくさいしな」

 

 ちなみにドルモンも旅人と同じ意見である。

 だが、自分の相棒である旅人が利用されている側だと思うと、なぜか自分自身の考えとは違ってひどく腹が立ってしまうのだ。

 

「持ちつ持たれつの関係でもいいだろ。ドルは何をそんなに気にしてるんだ?」 

 

「う……」

 

 それが旅人の反応だった。

 旅人の反応があまりにも淡白だったために、もっと違う反応をすると思っていたドルモンは思わず拍子抜けしてしまう。

 だが、もし逆の立場だったらドルモンも同じ反応するだろう。

 

「ドルだって逆の立場だったらこう反応するだろ?」

 

「う……まあ、そりゃ~ね……」

 

 旅人は、改めて話を聞いてもやはりドルモンがどこに対して怒っているのかを理解できていない。

 一方でドルモンもなぜここまで自分が怒っているのか理解できていない。ドルモンは今、自分ではどうにもならない感情を持て余している。

 そんなドルモンを見た旅人は、“気晴らしになれば”とドルモンに何かやりたいことはないかと尋ねた。こういう時はリフレッシュした方がいいのだ。

 

「えっ……。せっかくだし……じゃあね~……」

 

 今のその考えを旅人は後に後悔することとなるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 昼過ぎ。とんがり帽子が目立つウィザーモンは街を散歩していた。今日の受け持っている講義はもう終わったので、ウィザーモンはこれからの時間はフリーである。

 “何をしようか。データベースであの石版解読の続きでも……いやいや、他の……”とこれからの予定を半ばワクワクしながら計画しているウィザーモン。

 そんな彼は前方に見知った顔を見つけた。旅人である。

 

「やあ、旅人。君が一人とは珍……そうでもないか。ドルモンやコアドラモンはどうしたんだ?」

 

「いや、ドルならいるだろ目の前に。コアドラモンは知らんけど」

 

「……何を言っているんだ?ドルモンはどこにも……」

 

 そう言いかけたウィザーモンは気づいた。旅人の頭の上にあまり見ないような毛玉が乗っていることに。

 青紫色の毛玉は小さな四本の足があり、全身が体毛で包まれていて一見するとぬいぐるみのようにも見える。

 だが、旅人はぬいぐるみを頭に乗せて出歩くような性格をしていないだろう。

 

「……頭の上のソレは?」

 

「これ?新しい帽子……痛ッ!」

 

 旅人がふざけて言った瞬間、旅人の頭の上の毛玉が動いて旅人に噛み付いた。

 やはり青紫の毛玉は生き物だったらしい。

 そのことを理解したウィザーモンはジッと毛玉を観察する。未だ旅人の頭に噛みついて離れないソレは、ドルモンを彷彿とさせる生物だった。

 そしてウィザーモンは思い至る。旅人がこの前使ったというカードとそのカードの効果のことに。

 

「……まさかドルモンか?」

 

「気づいてなかったの!?こんなにも可愛いのに……!」

 

「いや、関係ないし。気づかんだろ普通」

 

 そう、旅人の頭の上に乗っている毛玉は、成長期のドルモンが幼年期へと退化したドリモンだった。

 もちろん、旅人の『退化』のカードを使ったのである。

 なぜこうなったのかというと。ドルモンは、以前タネモンが旅人の頭に乗ってご機嫌だったのをしつこく覚えていたのだ。羨ましかったのである。

 ちなみに“この姿のまま戻れなくなったらどうするつもりなのか”とは実行前に少し考えたことだが、旅人は気にしないことにした。決してドルモンの期待する目に耐え切れなかったわけではない。

 

「……大丈夫なのか?」

 

「うん!結構快適!」

 

「いや、そうではなくて……」

 

 ウィザーモンは二つの意味で旅人に聞いたのだが、答えたのはドリモンだ。

 ちなみにどちらの意味でも旅人は気にしていない。半ば悟りを開きかけているとも言う。旅人の目が半ば死んでいるように見えるのは、ウィザーモンの気のせいではない。

 

「まぁ、そろそろオレたちは行くよ。またな」

 

「ああ、また……最近ここら辺で起きるデジモンたちの失踪事件について言ったほうがよかっただろうか……」

 

  去りゆく旅人とドリモンを見ながら、頭の中にふと思い浮かんだ情報をウィザーモンは言えなかったことに少し悔やんだ。

 いろいろなことに巻き込まれる旅人たちだ。

 “言っても言わなくてもどうせ巻き込まれるのだろうな”と旅人たちがその事件の渦中に巻き込まれるであろうことを予測して、ウィザーモンは歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 ウィザーモンと別れた旅人は横道へと入った。

 別に時間はあるので普通の道を歩いてもいいのだが、旅人たちとしては知らない道も歩いてみたいのである。

 その結果迷子になったことが何回かあるのだが、それは余談である。

 

「……随分とご機嫌だな?」

 

「まあね!すっげ~久しぶりだし!」

 

 “そりゃそうだろうな”と旅人は内心で愚痴る。

 卵から孵ったばかりの頃は時折頭に乗せていた。だが、ここ数年はドルモンとしての姿になったがためにこんなことはしていない。

 

「そろそろ頭が疲れてきたんだけど……」

 

「もう少し!」

 

「……」

 

 何はともあれ、ドリモンの機嫌が直ったことで良しとすることにした旅人だった。

 ところで、ドルモンがドリモンへと退化してかれこれ数時間は立っている。だが、やはり元のドルモンへと戻る気配はいつまで経ってもやってこない。

 

「おい……ドル。いつになったらドルモンに戻るんだよ?」

 

「さあ?」

 

「さあって……。いつまで経っても進化できなかったらどうするつもりだよ……」

 

「別に進化しなくてもいいよ~。楽だし」

 

 あっけらかんと言い切ったドリモンに旅人は呆れる。

 旅人としては昨日のウィザーモンとの話もあって、今のこの世界の進化というものに不安を抱いていないわけでもないのだ。

 だからといってそんなに気にしているわけでもないのだが。

 “そろそろドルモンの姿に戻ってくれた方が楽なんだけどな”というのが今の旅人の本音だ。結局なんだかんだ言って理由付しているが、疲れてきたのだ。

 数時間も頭の上に乗せっぱなしなので当然といえば当然である。

 そこで旅人は、“このままでは己の相棒がヘタレてしまう”という言い訳をして謎の使命感を発揮する。ようするにドリモンを頭から下ろすことにしたのだ。

 ちなみに普段から少しヘタレであるかもしれないというツッコミはない。

 

「もう限界だ。下ろすぞッ!」

 

「ぬわっ……ひどっ!」

 

「なんとでも言え。ほら、さっさと歩け」

 

 “わぁ~ん!旅人の鬼~!”と半泣きになりながらドリモンは走り始める。小さくなったので走らないと旅人の歩くペースに追いつかないのだ。

 チョコチョコと足を必死に動かして走るドリモンはたいそう可愛らしいのだが、一緒に歩いている旅人は気が気でない。サッカーボールくらいのサイズのソレはつい蹴っ飛ばしてしまいそうになるのだ。

 そんな中で走ることに慣れたのか、だんだんとドリモンのスピードが上がっていく。もう旅人が走らないと追いつけないくらいのスピードだ。

 

「おい……ドル、そこ行き止まりだぞ」

 

 曲がり道で前方が行き止まりであるにも関わらずドリモンは止まろうとしない。否、止まれないのだろう。

 止まらない己に気づいたのか、ドリモンは涙目で頬が引き攣っている。

 

「うわぁ~ん……ぶべらっ!」

 

「……大丈夫か?」

 

「あんまり……」

 

 楽をした罰が当たったのだろうか。ドリモンはすっかり壁のオブジェクトになっている。

 そんな光景を前にして、旅人はやれやれと呆れながらも、ドリモンを助け起こしてやる。

 今、ドリモンは頭をぶつけたせいで世界が回って見えているのだろう。ドリモンは千鳥足でフラフラと歩いている。

 そのまま放っておけば、またどこかにぶつかる羽目になるだろう。

 “しょうがないな……”と旅人は内心で溜め息を吐いてドリモンを己の頭に乗せるべく歩き出す。

 その瞬間のことだった。

 

「おい、ド……ッ!何だ?」

 

 風景が変わった。

 旅人は今まで街の路地裏とでも言うべき場所にいた。だが、今旅人がいるのは前後左右が不確かな暗闇の中だ。

 おまけとばかりに近くにいたはずのドリモンもいなくなっている。

 

「……set『転移』!……やっぱダメか」

 

 特殊な空間であるゆえか、いつかの次元の通り道のように『転移』のカードがその力を発揮しない。

 しょうがないので旅人は近くを探るため歩き出す。だが、歩き出しても何かに触れることはない。つまり旅人の目がおかしくなった訳ではなく、視界通りの場所ということだった。

 

「……おーい誰かいるかー?」

 

 試しに旅人が出した声は暗闇に響いた。無音の空間というわけではないらしいが、返事がなかったことから誰かがいるとも考えにくい。

 

「……どうするべ。いや、ふざけてる場合じゃないな」

 

 どうしようもない。白紙のカードを使えばおそらく脱出することはできるだろう。

 だが、ここか外のどちらかには自分をここへと送った者がいるはずだ。まさか今更にこれは旅人が特殊空間へと続く落とし穴へと落ちたなんて間抜けなことはないだろう。

 もし仮にそうだったら、旅人は恥ずかしさのあまりここにひきこもる所存である。

 

「……まぁ、ここにいても埒があかないか。set『空間破壊』……空間?」

 

 変化した白紙のカードの名前に嫌な予感を感じる旅人。

 直後、ピシリピシリと何かがひび割れるかのような嫌な音が辺りに響いた。

 思わず冷や汗を垂らして焦る旅人だが、その焦りは結論から言えば杞憂だった。

 一瞬後。暗闇はガラスのように割れて、旅人は元の街の路地裏へと戻ることができていた。

 

「戻ったか。ドル……ドル?」

 

 その代わりとして、そこにいるはずのドリモンがいなかったのだが。

 




ちなみにドリモンになってもニックネームはドルです。

さて。旅人を襲ってきたのはいったい誰でしょうか。
消えたドリモンの行方は?
答えは次回。お楽しみに。

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