ので、週に二回以上の投稿を目指して頑張ります。
あと、新しい生活リズムが確立されるまでの一ヶ月くらいの間は投稿が不定期になるかもしれません。
ある夕暮れのひととき。
ウィッチモンはとあるレストランの一角にて優雅に紅茶を嗜んでいた。
ウィッチモンにとって、ウィザーモンのことや最近のストレスを忘れることができるこの時間は至福というに尽きるひとときである。
だが、そんな至福の時間は――。
「ウィッチモン!ドルのやつ知らないか!?」
「……」
トラブルに好かれやすい
ウィッチモンの最大の過ちはレストランのテラス席にいたことである。天気の良さ――そもそも地下都市である学術院にはあまり関係ないのだが――に誘われて外の席に座っていたウィッチモンは、走っていた旅人に見つかったのである。
一方の旅人は息が相当荒れている。かなりの距離を走り回っていたらしい。
“何をそんなに焦っているのか”とウィッチモンは至福のひとときを邪魔されたことに腹を立たせながらも旅人に尋ねた。
ちなみにウィッチモンの容赦ない魔術攻撃が襲わなかっただけ、旅人は幸運である。それはウィッチモンの機嫌はそれなりにマシな方であるということなのだから。
「数時間前にドルがいなくなった。数時間待っても帰ってこないし……街中どこ探してもいないんだ」
あれからのことだが、ドリモンがいないことに気づいた旅人は一旦、宿へと戻った。
だが、ドリモンは宿にも戻っていなかったのだ。数時間待っていても戻ってこないドリモンに不安を感じた旅人は街中を探し回っているのである。
「心配しすぎじゃないの?」
「まぁ、それならいいんだけど……」
ウィッチモンは珍しい旅人の姿に少しからかうような口調で言う。
旅人としてもそれが杞憂であるのならばまだいいのだ。その時は、後でドリモンに八つ当たりすることになるだけだ。
だが、いなくなる直前に旅人は謎の襲撃を受けているのだ。時間的にもその襲撃とドリモンの失踪が無関係であるとは考えにくいだろう。
「ふーん。よく分からない空間に閉じ込められて、出てきたときにはドリモンはいなくなっていた。おまけに襲撃者らしき影もなし……ね」
「あぁ。普段なら気にしないけど、時間的にも無関係とは思えない」
「もしかして、それ……」
話を聞いていて何かに気づいたかのような顔をしたウィッチモンは、旅人に最近ここら辺で起こっているというデジモンたちの失踪事件のことを話しだした。
ウィッチモンの話によると、最近この街では、小さいサイズのデジモンがいなくなる事件が多発しているらしいのだ。
目撃者の話によると、空間の歪みのようなものが発生した直後にそのデジモンたちはその場から消えているとのことだ。
「まあ、旅人が閉じ込められた特殊な空間っていうのは分からないけど……ドルモンって退化したその姿はどのくらいのサイズだったの?」
尋ねるウィッチモンに対して旅人は手を使ってジェスチャーをする。
旅人のジェスチャーを見てドリモンのおおよその大きさを知ったウィッチモンは、自分の持つ情報の“小さい”という部分に十分該当する大きさだと判断した。
「あと、毛が生えてるデジモンがいなくなりやすいって……まあ、ここは未確認だけどね」
“それで?”と旅人が尋ねる。旅人がもっとも聞きたい情報はそんなことではないのだ。
ウィッチモンもそれを分かっている。だが、“ええと……”と判然としない様子で言葉を濁していた。そのウィッチモンの様子を見て旅人も分かった。ウィッチモンの持っている情報はこれだけなのだ。
「……」
「何なのよ!その目はっ!」
「いや別に。まぁ、ありがとな」
求めている情報は手に入らなかったが、そのことについてヒントになるであろう情報は手に入った。
旅人はそれだけでとりあえずは良しとする。何の情報もなかった今までとは違うのだ。
とりあえずはその犯人を追う。ウィッチモンに礼を言った旅人は、当面の目的を確立して走り出した。
まずやることは――。
「聞き込みからか」
何だかんだ言ってドリモンがいなくなってからもう二日が経った。
旅人はその間ずっと聞き込みをしているが、事態は目立った進展をしていない。
毎日修行に出るコアドラモンにも行き帰りの片手間に探すようお願いしてあるが、こちらもやはり効果は薄かった。
ちなみに旅人が聞き込みして新たに分かったことといえば、学術院の自警団も動いていること、聞き込みをしている旅人をウィザーモンが“やはり”と言いたげな目で見ていたことぐらいだ。
それ以外はどれも似たような情報でしかなかった。
「くそ……これでひょっこりと戻ってきたりなんかしたら、絶対にきのこフルコースを食わせてやる……」
「アホなこと言っていないで、聞き込みを再開したら?」
そう言って、机に突っ伏した旅人を宥めるのはウィッチモンだ。
ここ二日、旅人はウィッチモンの至福の時間にお相伴に――正しくは邪魔しているの間違いなのだが――あずかっている。
別に変な意味はない。特定時間帯に特定場所に出没するウィッチモンは、聞き込みをしている旅人にとっては、聞き込みのしやすい対象であるのだ。
それに旅人はウィッチモンの魔術の腕を知っている。“何か新しい情報はないか”とつい期待してしまうのも無理はないことだった。
「はあー……」
「ちょっと旅人。これみよがしに陰気そうな溜め息を吐かないでよ」
「……オレじゃないよ」
てっきり旅人が吐いた溜め息だと思っていたウィッチモンは、旅人の否定の言葉に呆気にとられた顔をした。
“じゃあ誰が……”と溜め息の主を確かめようと振り返ったウィッチモンが見たのは、両手にバルカンを装備して、ジーンズを履いた緑と白を基調とした体毛で大きな耳が特徴の獣人だった。
「……あっ!ごめん」
「いや……」
「それはいいんだけど……」
旅人とウィッチモンの視線に気がついたのか、そのデジモンはすぐさま謝った。
だが、旅人たちが前を向いてそのデジモンに視線を向けなくなると、そのデジモンは再びどんよりとした雰囲気をまとって溜め息を吐き出した。
その雰囲気たるや、事情を知らない旅人やウィッチモンを欝な気分にさせるほどである。
「あっ……本当にごめん!」
「まぁ、いいよ。誰だって落ち込みたいことくらいあるさ」
「ありがとう!……はあー……」
「……」
旅人たちが振り返ると、そのデジモンは謝りはする。しかし、旅人たちが視線を外すと再び溜め息を吐き出す。
そのタイミングの良さを前に“ワザとやっているんじゃないだろうな?”と旅人たちが疑うのも無理はないことだった。
「すみません……」
「……何か用?」
しばらくして、そのデジモンが旅人とウィッチモンに話しかけてきた。
そのデジモンにはウィッチモンが対応した。だが、さんざん欝な雰囲気を放ち続けていたそのデジモンを前に、ウィッチモンのした対応は冷たいものとなったもの仕方ないことだろう。
冷たい視線を放つウィッチモンに怯えながらも、そのデジモンは二人に聞きたいことがあるようだった。
「僕はガルゴモンって言うんだけど……。僕の妹……ロップモンっていうこのくらいのサイズの茶色とピンクの体毛のデジモンを知らない?」
「……いや、悪いけど知らない。ウィッチモンは?」
「……私も。その子がどうかしたの?」
「数週間前から行方が分からないいんだ……」
“それって……”とどこかで聞いたような話に旅人とウィッチモンは顔を見合わせた。
ガルゴモンの証言の内容は、旅人が今追っている事件の内容と合致する部分があるのだ。
事件について何か知っていないか旅人はガルゴモンに尋ねる。
ガルゴモンもその事件については知っていたが、知っている内容は旅人の知っている事件の内容と大差がなかった。
「……そっか。君も大切なヒトが行方知らずになったんだね……」
「まぁな。今必死に探してるんだけど……」
旅人が濁した言葉の先をガルゴモンは聞き出そうとは思わなかった。どうせ何を言おうとしたかぐらい、ガルゴモンだって分かっている。
「どうすっかな……」
「じゃあ、囮捜査してみたら?」
急なウィッチモンの提案に旅人はハッとして、“その手があったか”と感心した。
なるほど確かにそれならば何らかの情報は手に入る可能性が高い。
だが問題は、現在囮をするようなメンバーが旅人たちの中にいないことである。
ウィッチモンはそこら辺のことを考えての提案だったらしく、“うーん”と唸る旅人に対して詳しい内容を話し始める。
「なるほど……それなら……」
「でしょ?あと、私の魔術で仕掛けをしておいて、場所を特定すれば……」
「いいのか?」
「ここまで来たら手伝うわよ」
ちなみにウィッチモンはドリモンを助けるという目的もあるが、それ以上にこの至福の時間を旅人に邪魔されたくないがゆえに手伝いを申し立てたのである。
かくして。至福の時間を取り戻すべく行動するウィッチモンと相棒を取り戻すべく行動する旅人の囮捜査計画が開始された。
数時間後。夜の街の路地裏に旅人たちはいた。なぜ路地裏かというと旅人が襲われたのが、そこだったからである。
ウィッチモンが魔術で探りながら旅人の後ろを歩き、旅人の前をガルゴモンが旅人を守るようにして歩く。真ん中を歩く旅人はワニャモンという青い猫のような毛玉を抱えている。
もちろんこのワニャモンは本物ではない。街を歩いていた本物のワニャモンを旅人が『投影』のカードを使って勝手にコピーしたものである。
ちなみにガルゴモンがいるのは、旅人たちの話を聞いて居ても立っても居られなくなったからだ。
「……」
「囮捜査なんだから、普段通りの雰囲気でいなさいよ……」
そんな中で、ウィッチモンが旅人たちにそう言うのも無理はなかった。
旅人とガルゴモンはいかにも臨戦態勢といったピリピリとした雰囲気を纏っている。
明らかに“何かあります”という雰囲気の者たちのところに犯人もバカ正直に来ないだろう。だが、この状況で警戒を表に出さないほど旅人たちは演技が得意ではない。
「といっても……何か話すことあるか?」
「うーん……」
唸ったところですぐに気分を変えることができるわけでもない。
結局、しばらくの間ギスギスとした雰囲気のまま三人は歩いて行く。普段通りの雰囲気に戻ったのは、それから数分後の話だ。数分で普段通りに戻るあたり、なんというか。
「そうだねー……ッ!」
「来たかっ!」
瞬間、旅人たち三人のいる空間が変わった。
この間旅人が閉じ込められたのと同じ、暗闇の空間。そして旅人の抱えていたワニャモンコピーは旅人の手の中から消えていた。
遂に旅人たちの思惑通りに事が運び、作戦を実行する時が来たのである。
「旅人ッ!」
「分かってる!set『空間破壊』!」
即座に旅人の白紙カードの力でこの空間から元の空間へと戻る。
元の空間へと戻ったウィッチモンは、即座に魔術を使ってワニャモンコピーの場所を探り始める。
「いた!こっから北北東に行ったところの街外れ!」
「よし!行くぞ!」
「おー!」
犯人の居場所は分かった。あとは捕まえるだけだ。
目的地を見つけた旅人たち三人は犯人の下へと駆け出した。
一方。とある家屋のとある地下。どこに十数匹の小さなデジモンたちはいた。全員がゲッソリとした疲れた表情をしており、中には泣き出している者もいる。
「う~どうしよう……」
その小さなデジモンたちの中にドリモンはいた。他の小さなデジモンとは違い、あくまでドリモンは
他の小さなデジモンたちに比べて精神の余裕があるドリモンは、ここに来てからは他のデジモンを励ます役目をしている。
不安に駆られる、明らかに自分より幼いデジモンたちを見て、ドリモンは一人呑気にしていられなかったのだ。
「でも、そろそろ限界かも……」
だが、そんなドリモンとしてもそろそろ限界だった。
ここでは食べるものは与えられていないのだ。ドリモンはまだいい。だが、数日間飲まず食わずで過ごしている幼きデジモンだっている。そんなデジモンたちにこれ以上我慢させることなどできないだろう。
だが、ドリモンとしてもこれ以上はどうしようもなかった。
ドリモンは一度だけ自分たちをここへと拐ってきた犯人を見たことがある。正確な強さは分からないが、今の自分では勝てないことは明白な相手だった。
“進化できないことがこれほど辛いなんて……”と普段旅人のカードによってサポートされているドリモンは今更ながらに旅人のカードの有り難さを思い知っていた。
「……進化できればな~」
だが、進化は起こらない。基本の姿である成長期のドルモンの姿にも戻れないのだ。ドリモンという幼年期の姿のままではどうしようもない。
だが、このままでは自分たちは餓死で死ぬこととなる。
旅人が見つけてくれるだろうとは確信しているが、だからといって何もしないという理由にはならないだろう。
「しょうがないか。ねえ~!」
ドリモンはその場にいる全員に話しかけ始めた。
今、ドリモンたちをここへと連れてきた犯人は不在である。であるならば、このチャンスを利用しない手はない。
しばらくの間、デジモンたちの理解は得られなかった。当然だ。デジモンたちは正体不明の犯人が怖いのだ。
だが、自分たちと同じような存在でありながら前を向いて進んでいくドリモンを見て、元気づけられたのか。デジモンたちはドリモンの案に賛成する。
かくして。ドリモンをリーダーとしての脱出計画が始まった。
というわけで第六十話。なにげに難産でした。
ここ最近物語が思うように進まない……この話だって本当は一話に収めるつもりだったのに……。
ちなみに予定では第四章は十五話くらいで終えるつもりでした。
……はい。もう無理ですね。
さて次回は……ドリモンが頑張ります!
次回ドリモン頑張る!お楽しみに!