【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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第六十一話。三月最後の投稿です。
なにげにサブタイが難産でした。


第六十一話~ドリモン頑張る!~

 ドリモンが幼いデジモンたちを率いて階段を駆け上っていく。

 小さなデジモンたちが背丈ほどの段差をボールが跳ねるかのように、ジャンプしながら登っていく様はたいそう可愛らしいものだ。

 だが、当人たちの表情は鬼気迫るものである。今はこの脱走という一大逃亡の最中なのだから当然なのだが――それでも何も知らない者から見れば微笑ましい光景だ。

 

「ハッ……ハッ……大丈夫~?」

 

「……何とか……でも、後ろの子たちが……」

 

 近くにいるピンク色の毛玉の報告に、ドリモンは顔を顰めた。

 あまり遅いと犯人に気づかれる可能性がある。ドリモンとしてはもっと急ぎたい。だが、これ以上ペースを上げれば、後続のデジモンたちはついてこられないだろう。

 

「もう階段が終わる!これであとは出口に向かうだけだ~!」

 

「うん……みんな頑張るぞー!」

 

「お……う……!」

 

 出口が見えたことにより、皆のテンションが少し上がる。

 “このまま一直線に行く!”とドリモンは出口である扉に一直線に駆けていく。

 だが――。

 

「ぬべらっ!……また……?」

 

 数秒後、ドリモンは扉のオブジェとなった。扉は開かなかったのである。

 もちろん、前のように“実は引き戸だった”とかそんなオチではない。どうやっても扉は頑なで、動くことはなかった。

 扉のオブジェとなったドリモンのその格好。それは、数日前に路地裏での格好と同じものなのだが、ドリモンは学習能力が乏しいのか、気づかなかった。

 

「そんな……」

 

「ここまで来て……」

 

 見えた出口は出口ではなかった。

 希望が潰えたという事実を前に、幼いデジモンたちの心に絶望が広がっていく。

 幼いデジモンたちの心が砕ける――。

 

「まだ……」

 

「え……?」

 

「まだだァ!」

 

 その直前。オブジェから回復したドリモンは扉に体当たりをする。

 明らかに先ほどよりスピードが遅い。攻撃力でいえば先ほどよりも劣っているだろう。先ほどよりも劣っている攻撃だ。それで扉が破れるという可能性は低い。

 だが、ドリモンだってやめる気も、諦める気もない。

 こことは別の世界で、もっと絶望的な状況を乗り越えたことだってあるのだ。

 このくらいのことを諦めたのならば、消えた黒い自分やあの謎の声の主を失望させてしまうだろうし、旅人の相棒として情けないだろう。

 

「どうして……?」

 

「……これくらいのことは……諦めるようなことじゃない!」

 

 そんなドリモンの姿に、幼いデジモンたちの心に潰えかけた希望が蘇る。

 “俺も!””私も!”と次々にドリモンに続くように扉へと体当たりを始めたのだ。それだけではなく、効果があるかどうかも怪しい、技らしきモノを放つ者もいた。

 

「おぉおおお!」

 

 やがて、ピシリと扉に一筋の亀裂が走る。

 直後。ある幼いデジモンの一撃で、扉は壊れた。

 幼いデジモンたちはやり遂げたのだ。

 

「やったぁあああああ!」

 

 声を上げて全員が外へと出て行く。久しぶりに見た外の光景。

 それを見た幼いデジモンは涙を流して喜んだ。だが、ここで終わりではない。ここから無事に逃げ果せるまで、気は抜けないのだ。

 

「急ごう!街の皆にここのことを伝えるんだ!」

 

「うん!」

 

 頷いて、全員が街の方へと駆け出そうとした。その瞬間――。

 

「ニイ……サマ……。テイル……モン……ドコ?」

 

「そんなっ!」

 

 青い毛玉を抱えている三本ヅノの赤茶色の獣人。ドリモンたちを誘拐した犯人が、目の前の歪んだ空間から現れた。

 獣人は明らかに怒気を纏っており、どう見ても話し合いが出来そうな雰囲気ではない。

 自分たちより十数倍も大きな相手を見て、幼いデジモンたちの間に動揺が走る。再びの絶望が、幼いデジモンたちを襲おうとしていた。

 だが――。

 

「諦めるなっ!走って!オレが時間を稼ぐからっ!」

 

 ドリモンが獣人へと向かって襲いかかる。対して獣人は青い毛玉を放り投げてドリモンと向かい合った。

 ドリモンは突進をしながら鉄粒を吐き出す。ドルモンの時と比べても、小さく弱々しいというしかないその鉄球。

 そんな吐き出された鉄粒は寸分違わずに獣人へと向かい、当たった。だが、効いていない。獣人は気にも止めていない風でドリモンたちへと向かっていく。

 

「ドコ?ドコ?ドコダァアアア!『クラブアーム』」

 

「ッ!……グハッ!」

 

 棍棒のように振り回された獣人の両腕。それを察知したドリモンは避けようとする。だが、その動きは遅い。

 地力で劣るドリモンは、迫り来る腕を避けることができなかったのだ。

 何とか直撃を避けたものの、余波によって吹き飛ばされたドリモンは転がっていく。

 そんな光景を見ながらも、幼いデジモンたちは動けないでいた。初めて見る命懸けの戦闘とその恐怖を前に、体と心がついていけてないのだ。

 

「う……」

 

「テリアモン……ドコダ……」

 

 獣人は唸る。その瞳はドリモンたちを見ているようで、見ていなかった。どこか別の誰かを見ている。

 ドリモンは傷だらけになりながらも、立ち上がった。今、ドリモンの後ろには幼いデジモンたちがいるのだ。ここで倒れたり、逃げるわけにはいかないだろう。

 

「おぉおおお!」

 

 ドリモンは駆ける。それしかできないから。それでもそれができるから。何もできないという訳ではないのだ。

 その諦めない思いが、道を切り開こうとする思いが――。

 

「ドリモン!進化――!」

 

「ナニ……?」

 

「ドルモン!」

 

 進化を呼ぶ。

 ドリモンはドルモンへと進化した。たったそれだけのこと。

 ドルモンにとっては慣れ親しんだ己のいつもの姿。だが、ドルモンは、なぜか今だけはこの姿にいつもとは違う、特別な何かを感じているような気がした。

 

「うぉおお!『メタルキャノン』!」

 

 だが、進化したからといってドルモンは己の地力が敵である獣人と並んだとは思えなかった。ドルモンは、少なくともあの獣人が成熟期以降のデジモンであることを察したのだ。

 ゆえに狙うのは目。生物の弱点の一つ。そこを集中的に狙う。

 放たれた鉄球が獣人の目を貫く――。

 

「消えた?」

 

 直前で獣人の姿が消えた。

 獣人の周りの空間が歪んだかと思えば、獣人は一瞬にしてその姿を消したのだ。

 獣人がいなくなったことで、辺りは静まり返った。ドルモンはもちろん、恐怖で動けない幼いデジモンたちもそれが嵐の前の静けさだと気づいている。

 

「ッ!グッ……」

 

 直後、背後から棍棒のような腕がドルモンへと襲いかかった。

 完全な奇襲。

 ドルモンは悪寒と直感で回避動作へと移るが、やはり死角からの意図せぬ攻撃というのは大きかった。完全に避けることができずにカスリ傷を負う。

 

「っく……」

 

 すぐさま敵に向かって鉄球を放つが、獣人は棍棒のような腕を使って鉄球を砕いた。やはり地力という面でドルモンは目の前の獣人に劣っている。

 再認識したその事実にドルモンは苦い顔をする。

 

「カエセ……テリアモン……カエセ!」

 

「まず……!」

 

 前へと駆け出した獣人の姿が消える。

 感じた悪寒とこれまでの経験から、即座にドルモンはその場から飛び退いた。直後にドルモンのいた位置を通り過ぎる混紡のような腕。

 その場に留まっていたのならば、ドルモンはその腕の直撃を受けていただろう。

 

「あっちこっちに……ッ!」

 

 一瞬にして消え、別の位置に現れる。その現象の正体をドルモンはなんとなくだが気づいていた。

 ただの高速移動ではない。あれは転移の一種だ。転移は旅人も時々使うが、あれほどまでに使い勝手が良くはない。

 転移の発動時間から、“転移先が分かればやりようがあるのに……”とドルモンは歯がゆい思いをする。

 

「ドコ……ダァアアアアアアア!」

 

「っく……」

 

 だが、できないことをどうこう言っても仕方ない。ドルモンは出来る範囲で獣人と戦わなければならないのだ。

 一方で獣人の方も、なかなか倒れないドルモンにイラついているのか、より攻撃が苛烈になってきている。だが、イラついているせいか、攻撃は単調なものへと変わって、転移の回数も減ってきている。

 もっとも、ドルモンにとっては転移を使わなくなっている分だけ今の方が戦いやすいのだが。

 

「うわっ……」

 

 だが、どうしても限界は来る。

 そもそもドルモンは後ろに控える幼いデジモンたちの方へと獣人の注意がいかないように戦っていた。

 幼いデジモンたちは共に戦う訳でもなく、自分で身を守れるわけでもない。ただ近くにいるというだけの者たちを守りながらの戦いというのは、ドルモンにとって初めてだ。

 初めてで勝手のわからない状態での戦いは、予想以上にドルモンの精神を削っていた。

 

「ドコ……カエセ……カエッテキテ……」

 

「ッ!」

 

 獣人の周りの空間が歪む。転移の前兆だ。

 どこから攻撃されてもいいように即座にドルモンは身構えて――。

 

「set『解析』……ドル!右斜め後ろだ!」

 

 聞きなれた声からの聞こえた言葉に従って、鉄球を放った。

 

「グッ……」

 

「当たった!」

 

 放った鉄球は、今まさに攻撃を仕掛けようとして現れた獣人の顔へと完璧に入った。

 さすがの獣人もそれにはたまらずによろめいて後退。顔を抑えながらも、獣人は新たな乱入者を睨みつけた。

 ドルモンは旅人が来ることは分かりきっていたことだった。

 だが、それでも“もう少し早く来てくれたら……”と助けに来てもらっておいてあんまりなことを考えていたりする。まあ、そこら辺は今まで苦労していた分、そう思ってしまうのは仕方のないことだろう。

 

「旅人!……遅いよ!」

 

「来てすぐにそれか……。あっけなく捕まってた奴の言うセリフじゃないだろ」

 

「投影で作った偽物が消えて何分たったと思ってるの~!」

 

 そう。ドルモンは目ざとく気づいたのだ。獣人が持っていた青い毛玉が光となって消えたということに。そしてそれが己の相棒のカードによって作り出されたものだということに。

 ちなみに旅人が遅れた理由は、ウィッチモンのある手伝いをしていたためである。

 

「まぁ、いいだろ。さっさと片付けて帰るぞ!」

 

「……納得いかない」

 

 そんなドルモンに苦笑しながら、旅人は遠くから見ているだろうウィッチモンたちに合図を送る。

 それと同時に獣人の気配が変わる。獣人は何か戸惑っているような雰囲気を放ち始めたのだ。

 

「どうしたんだろ……」

 

「そりゃ、ウィッチモンが魔術でウェンディモンの能力を抑えているからだろ」

 

「えっ?っていうかウェンディモン?」

 

「あぁ、あいつのことね。ウィッチモンの話だとあいつはウェンディモンと言って時間と空間を操る能力があるんだと」

 

 それを聞いてドルモンも納得する。空間転移や特殊空間の作成はその能力があるからできたことなのだと。

 とはいえ、いつまでもウィッチモンがウェンディモンの能力を抑えていられるとは限らない。後ろで怯える幼いデジモンたちを守るためにも。

 ウィッチモンが頑張ってくれている、今のうちに終わらせるべきだ。

 

「旅人!……行くよ!」

 

「あぁ!set『進化』!」

 

「ドルモン!進化――!ドルガモン!」

 

 ドルモンは成熟期のドルガモンへと進化する。これでおそらく地力はほぼ同じかドルガモンの方が上。“能力が解放される前にさっさと終わらせる!”と旅人とドルガモンはその考えを胸に駆け出した。

 一方で突然の事態に戸惑っていたウェンディモンも襲い来る旅人たちを前にして、拳を構えて迎撃の態勢を整える。

 

「set『反発』!ドル!いっけぇ!」

 

 だが、その構えは旅人のカードによって崩される。『反発』のカードによって磁石のように後ろに弾かれたウェンディモンの両腕。

 その時、ウェンディモンの胴体はがら空きである。

 

「『パワーメタル』ゥ!」

 

 がら空きの胴体。

 そこへドルガモンが吐き出した必殺の鉄球が直撃した――。

 

「ガァッ……!」

 

 吹き飛び、地面に倒れ付したウェンディモン。生きてはいるのだが、満身創痍といった体だ。ウェンディモンは尚も立ち上がろうとするが、傷ついた体は持ち主の言うことを聞かない。奮闘の意思は虚しく、ウェンディモンは起き上がることはできなかった。

 

「……どうする~?」

 

「捕まえた後、傷を直して自警団に引き渡すか?」

 

 旅人たちはウェンディモンを倒したはいいが、その後のことは考えていなかった。

 街の自警団に引き渡すというのが一番いいのだろうが、そもそも空間転移をその能力で扱えるデジモンだ。ただ渡しただけではすぐに逃げられることとなるだろう。

 

「ニイ……サマ……」

 

「ん?」

 

「テ……イル……モン……ドコ……?」

 

 “あいつは何を言ってんだ?”と旅人はドルガモンに視線で問いかけた。そんな旅人に対してドルモンは肩をすくめて、“さあ?”と返すだけだ。

 だが、そうしている間にもウェンディモンは満身創痍の体で足掻き続ける。

 旅人とドルガモンにはウェンディモンのその姿が、迷子の子供のようにも見えた。

 

「ドコ……」

 

「……」

 

 これ以上どうすればいいのか。旅人とドルガモンは迷っていた。

 ウェンディモンは先ほどのドルガモンの攻撃で満身創痍だ。もう何もしなくても、放っておくだけで死ぬだろう。

 ウェンディモンはだんだんと力が抜けていっている。いよいよ死が近くなったのだ。

 

「ッ!ちょっと待って!」

 

「ちょっ!待ってよ!今行かれたら魔術がッ……!」

 

 遠くで聞こえた叫び声。

 そのすぐ直後に、旅人たちとウェンディモンの間に一人のデジモンが現れた。

 現れたのは、この事件に妹が巻き込まれているかもしれないという理由で、旅人たちと一緒にこの事件の犯人逮捕に協力した――。

 

「ガルゴモン?どうかしたのか?」

 

 ガルゴモンだ。

 相当急いでやって来たらしい。ガルゴモンは息を切らせている。

 そんなガルゴモンを怪訝な顔で見ながらも、旅人はそれ以上何かを言うことをしなかった。ガルゴモンの焦り必死な顔を見て、旅人は彼に時間を取らせるべきではないということを悟ったのだ。

 

「ロップモン!?ウェンディモンはロップモンだよね!?」

 

「ダレ……」

 

 必死なガルゴモンの呼びかけ。

 ガルゴモンの探しているという妹の名前が出てきたことに驚きながらも、旅人は黙っていた。ドルガモンから退化したドルモンも同じく黙っている。

 姿は違う。その行いもかつての妹からは考えられないものだ。だが、それでもガルゴモンは、目の前の獣人が自分の妹であることを確信しているようだった。

 

「ロップモン!どうしてっ……僕は……っ!」

 

 極限の焦りと疑問、そして驚愕の中でガルゴモンは何と言えばいいのか分からなくなったのだろう。時間がないことは理解している。だというのに、ガルゴモンの口は空回るばかりで自身の望むような言葉を吐き出すことはなかった。

 そんなガルゴモンの姿に何を見たのか。ウェンディモンには、必死なガルゴモンのその姿が誰かの姿と重なって見えた。

 

「ニイ……サマ……?」

 

「ッ!そうだよ!僕が……!」

 

「……ガウ」

 

「え?」

 

 だが、ウェンディモンは気づいてしまった。重なった誰かの姿と目の前にいる者の姿が違うことに。ウェンディモンにとって自分の兄とは、自分と同じくらいの背丈だった、一本ヅノの小さな獣だ。

 断じて目の前にいるようなジーンズを履いた獣人ではない。

 

「チガウチガウチガウッ!ニイサマハ……ドコダァ!」

 

「ロップモン!?」

 

「ッ!ガルゴモン!」

 

 ガルゴモンを押し退けてウェンディモンは動く。

 ウェンディモンの行くその先。そこには未だ幼いデジモンたちがいる場所だった。

 旅人たちにとって誤算だったのは、ウェンディモンがまだ動けたことだ。死にそうな姿を見て油断していた。ドルガモンはもうドルモンへと戻っているし、旅人はカードを取り出してもいない。そんな状態で走り出したガルゴモンを止めることはできない。

 “間に合わない”そう感じながらも、旅人とドルモンは動こうとする。

 

「ッ!あぶないっ!」

 

 そんな中で、幼いデジモンの一人が前に出た。一本の角が頭部に生えた小さなデジモン。恐怖を感じているであろうそのデジモンは己の仲間を守るために、恐怖を押し殺してまで迫り来るウェンディモンの前に立ちふさがったのだ。

 もちろん、幼年期相当であろうそのデジモン一体が前に出たところで意味はない。後ろにいる幼いデジモンたちごとまとめて吹き飛ばされるのがオチだ。

 だが――。

 

「……止まった?」

 

「どうして……?」

 

 ウェンディモンは止まった。その幼きデジモンたちを前にして。

 幼いながらも己を奮い立たせて、後ろに怯える幼いデジモンたちを守るその姿に、ウェンディモンは在りし日の自分と兄の姿を見たような気がしたのだ。

 

「ニイサマ……アアァアアアアアアア!」

 

「ッ!ロップモン!」

 

 慟哭ともとれる咆哮。直後、ウェンディモンは消えた。満身創痍の体を引きずって、いるはずもない過去の己の兄を探して。

 

 

 

 

 

 一夜明けたその翌朝。旅人たちは学術院の門のところにいた。

 理由はガルゴモンの見送りだ。

 

「何ていうか……済まなかったな。……行くのか?」

 

 あれから旅人たちは、自警団に一連の事件のことを報告して、幼いデジモンたちをそれぞれの家へと見送った。

 その後、自警団にお願いしてこの街の警備システムを最大利用して調べてもらったところ、もうこの街にはウェンディモンはいないことが分かったのだ。

 そのことを聞いたガルゴモンは、己の妹だと確信しているウェンディモンを探しに、学術院を去る決意をしたのである。

 

「うん。妹は……ロップモンは優しかった。あの時最後に攻撃をしなかったのは……きっとその優しさが残ってたから。望まない進化をして……きっとどこかでまだ苦しんでいる」

 

 本当のところは分からない。だが、ガルゴモンはそうだと信じたかった。

 

「僕は兄ちゃんだから……助けないとね」

 

「そっか……」

 

 助けることができる可能性はゼロに等しいし、そもそも逃げたウェンディモンは満身創痍だ。今どこかで野垂れ死にしている可能性もある。

 そのことを理解しながらも僅かながらの可能性を信じて助けに行くというガルゴモンを、旅人たちは応援したかった。例えそんな資格はないとしても。

 

「あはは……旅人たちが気に病むことはないよ。きっと……」

 

「ん?」

 

「いや、何でもないよ」

 

 言葉を濁したガルゴモンだが、本当は気づいていた。己の妹があんな姿になってこんな事をしでかしたのは、自分が原因だということに。

 妹が進化する少し前に自分は進化した。だが、自分が進化したということを、妹は信じることができなかったのだ。妹にとって自分は兄ではなく、兄を語る偽物にしか見えなかったのだろう。だから、失意と狂気のままに探し出したのだ。

 妹をあんな風にしたのは自分だ。ならば、自分がなんとかしなくてはならない。例えもう手遅れだとしても。

 そう決意して、ガルゴモンは前を向く。

 

「いろいろとありがとう!それじゃあバイバイ!」

 

 己の妹を探して、ガルゴモンは学術院から旅立っていった。

 ちなみに後日。一連のことを聞いたコアドラモンが“俺も手伝えば良かった!”と後悔するのだが、それはまた別の話だ。

 そのまた後日。ウィッチモンがウェンディモンの能力を封じるために使った魔術が、ゴクウモンの緊箍児を壊しかけた魔術だということを知り、旅人たちは思わず頬が引き攣る羽目になるのだが、それはさらにまた別の話だ。

 




これにて誘拐編は終了。
本当は一話にまとめるつもりだったのに、どうしてこうなった……。

ともかく。次回は久しぶりにあの方が登場するかも!?
はい。次回内容は未定です。

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