最近分割ばっかりだな……
あと、地味に前話のサブタイトルが変わっていますが、内容は変わっていません。
四大竜の試練を失敗した旅人たちは学術院へと戻るために、再びの空の旅をしていた。
二回目となればさすがに慣れたのか、それともコアドラモンが行きよりも速度を落としているからか。旅人とドルモンはウトウトしながら景色を楽しむ余裕が出来ている。
一方でコアドラモンは不満そうだった。もちろん、不満なのは自分だけが空を飛び、苦労していることにではない。
「ぜってーおかしいって……」
「まあまあ、オレは嘘ついてないからね」
コアドラモンが不満なのはドルモンの四大竜の試練についての結果である。
確かにドルモンはコアドラモンと同じで四大竜の試練すべてを乗り越えることはできなかった。だが、ドルモンはコアドラモンと違って四つ目の最後の試練まで進んでいたのである。
自分は二つ目までしか進めなかったのにドルモンは最後の試練までいった。
そのことがコアドラモンは不満なのだ。
「いやいや、俺より弱いお前が何で……」
「コアドラモンってちょくちょくオレのこと下に見るよね!?」
ちなみにドルモン曰く、“最後の試練は別に失敗した訳じゃなくて、受けなかっただけだよ!”とのこと。
本当のことは分からないが、“ドルモンは臆病風に吹かれた”ということにして、コアドラモンはひとまずの溜飲を下げたのだった。
「なんかまたオレのこと……」
「気のせいだろ!」
ドルモンの追求を振り払ってコアドラモンは空を飛ぶ。
行きよりも速度を落としているだけあって、学術院へはまだまだかかりそうだった。
学術院まであと数時間の距離まで来た頃。
コアドラモンの飛行進路上に、小さな黒いナニカが現れた。ポツリポツリと空に染み渡るインクのようにも見えるソレ。
旅人たちには嫌な予感しかしなかった。
「旅人……」
「まぁ、そうだよな……コアドラモン。分かってるよな?」
「おう!全力で相手しろ……だろ?」
旅人たちもソレが何か分かっている。
ソレはデジモンだ。空を飛ぶ黒いデジモンの群れ。パッと見でも十体はいる。
そのデジモンたちの雰囲気は、この距離からでも旅人たちが分かるぐらいに殺気立って見えた。
そしてその姿を捉えた時のコアドラモンのドヤ顔といったら、腹立たしいことこの上ない感じだ。
「違う。見つからないうちに逃げるぞ」
「えーなんでだよ!」
「何でもだ。お前怪我は治っても疲れはとれてないだろ。別に無理するようなところでもないし……」
「へっ……だからなんだってんだ!まあ、見てろって!」
逃げるという旅人の消極的な言葉を聞いたコアドラモンだったが、やはり納得しなかった。
旅人の言葉を無視して、コアドラモンは黒いデジモンたちの群れへと突っ込んでいく。
そんな様子のコアドラモンに溜め息を吐きながら、旅人はカードを取り出した。自分やドルモンをその手に持ったままで、コアドラモンに空中高速戦闘されるのはゴメンだと思ったのだ。
「恨むなよ?set『転移』」
「ちょ、おい!」
コアドラモンの不満そうな声を聞きながらも、旅人は『転移』のカードを使う。
面倒事は回避するに越したことはないのだ。もっとも、この後にあるであろうコアドラモンに対する面倒さを考えられてないのだが。
だが、ここで旅人はミスをした。転移先を学術院の入り口としてしまったのだ。
『転移』のカードは距離が長ければ長いほど発動までに時間がかかる。言い換えれば、発動までに旅人たちをどうこうする時間ができてしまうのだ。
転移先である学術院の入口まではここから高速飛行で数時間の距離。かなりの距離だ。
つまり――。
「『デスクロウ』」
「ぬわっ」
「おわっ」
転移発動までの間に邪魔されることがあれば、その発動はキャンセルされるということだ。
どこからともなく伸びてきた腕を避けたコアドラモンは、横薙ぎにされたその腕に吹き飛ばされて地面へと落ちていく。
その攻撃によって『転移』のカードの発動はキャンセルされてしまった。
このことは、敵は遠くに見える黒いデジモンの群れだけと思い、横着して転移先を遠くの場所へと設定した旅人のミスだ。
「っく……何だ?」
「痛え……」
地面に叩きつけられながらも、旅人たちは突然の強襲をした何者かを見つけるためにすぐさま周りを見渡す。
直後、旅人たちの目の前に、先ほどの攻撃の主が現れた。
黒い羽に、漆黒の衣に身を包んだ悪魔のような風貌のそのデジモンは――。
「獲物がかかったな。我が名はデビモン。この地を支配する者だ」
「獲物?俺に何か用かよ?」
「ふん。貴様のようなトカゲに用はない。あるのは……貴様だ。人間」
そう言ってデビモンは旅人を指す。その目は殺気と狂気に満ちており、纏う雰囲気は野心と野望を感じさせた。
「……手荒な歓迎をしてくれて……何の用だ?」
「ふん。貴様のその力。それがあれば、我が闇の力も更なる力を得ることができよう。
“残りの”その言葉が指し示す通り、デビモンのその手には旅人のカードがあった。
先ほどの攻撃はコアドラモンを狙ったのではなく、旅人の持つカードを狙ったものだったのだ。先ほどの攻撃の時に奪われたカードは実に半数以上。奪われなかったのは、一応使うかもしれないからと旅人がその手に持っていたカード数枚だけである。
「ッ!旅人!」
「あぁ!set『進化』」
戦闘は避けられない。そのことを認識したドルモンは声を上げ、旅人を呼ぶ。
ドルモンの意図を正しく理解した旅人は、すぐさま残ったカードのうちの一枚を使う。
「ドルモン!進化――ドルガモン!」
だが、ドルモンにとって誤算だったのは、『二重』や白紙のカードを使われなかったせいで成熟期のドルガモンまでにしか進化できなかったことだ。
もちろん旅人が出し惜しみしたのではない。残ったカードの中には白紙のカードはもちろん、『二重』のカードもなかったのだ。
「進化をしたか!なるほど……やはりこのカードの力は素晴らしい!さあ、我に寄越せ!」
「誰が……っ!」
「あげるか!」
ドルガモンが駆けた。同時にコアドラモンもデビモンへと向かう。
だが、そんな二人の行動を読んでいたようで、デビモンは背後に魔法陣らしきものを出現させた。その魔法陣はまるで入口だ。そこから黒い靄のような煙が出てきている。
「せろこしっめをきてがわ。のもるなくあゃじよでい!」
「グァアアアアア!」
「あれは……!」
「さっきの!」
さらにデビモンの呪文らしきモノと同時にデビモンの背後の魔法陣から現れたデジモンたち。それは旅人たちが先ほど上空で見かけた黒いデジモンたちだ。
デビモンのような風貌でありながら、赤い複眼の竜。そのデジモンは――。
「我がダークエリアより連れてきた我が下僕デビドラモン。トカゲ。貴様にはこちらを相手してもらおうか」
「っく!」
突然現れたデビドラモンたちの攻撃を避けようとするコアドラモンだが、四大竜の試練の時の疲労がまだ回復しきっていないのだろう。いくつかの攻撃は避けられずに食らってしまう。
攻撃を食らわなかった――というより攻撃されなかった――ドルガモンだけはデビモンの元へとたどり着き、攻撃を仕掛けるのだが――。
「おぉおお!」
「……そうだな。少し興が乗った。貴様の相手は後回しだ人間。少し貴様も我が下僕と遊んでいろ」
「何っ!?」
デビモンの言葉に旅人が驚いた瞬間、デビドラモンが旅人に襲いかかった。
しょうがなく応戦する旅人だったが、やはりカードの大半が奪われているという事実が痛い。防戦一方にしかならなかった。カードがなければ、いかに人間離れしかけている旅人とはいえ、成熟期クラスのデジモンに敵うはずもない。
「っく……ん?これは……!」
「グギャアァアアアア!」
「っち!邪魔すんな!」
そんな中でコアドラモンは気づいていなかったが、旅人は気づいていた。デビドラモンは自分たちと戦いながら少しずつではあるがだんだんと場所を移動していることに。
ドルガモンとデビモン。二人の戦っている場所から離れるように、デビドラモンは旅人たちを襲っている。
だが、それが分かったからといって旅人にはどうしようもない。いつもならともかく、今は戦力の大半を失っている。防戦一方の状態で戦う場所をコントロールするなんて器用なことは旅人にはできない。
結局、敵の思惑通り旅人たちとドルガモンは離されたのだった。
「……くそっ!」
一方でコアドラモンも焦っていた。
そのワケは、もちろんドルガモンとの距離を離されたからではない。自分が思うように戦えていないからだ。
先ほどの四大竜の試練の中での戦いでコアドラモンは勝てなかった。また、自分より格下だと思っているドルモンが、試練では自分よりも先へと進んだという事実。その二つの事実が、コアドラモンのストレスとなっている。
そこへ来てのこの襲撃。多勢に無勢の襲撃は、ストレスの溜まったコアドラモンを思うように戦わせない。思うように戦えないことでストレスが溜まる。溜まったストレスによって更に思うように戦えず、劣勢に追い込まれて――とコアドラモンは悪循環に陥っている。
「っち……くしょおおおおお!『ブルーフレアブレス』!」
「ガアアアア!」
コアドラモンの吐いた青い炎を躱して、デビドラモンの一体がコアドラモンへと接近し攻撃する。
コアドラモンはそれを避けるのだが、避けた先には別のデビドラモンの攻撃。それを避けてもまた別のデビドラモンの攻撃。
無間地獄のような攻撃の嵐に、コアドラモンは苦い顔をする。時折コアドラモンも攻撃を仕掛けるのだが、結果は同じ。
しかも、デビドラモンはコアドラモンを飛行させないように立ち回っている。
得意の空中戦を封じられ、多勢に無勢。戦況は限りなく悪い。
「っく……」
「よっとset『風』……で反発もどきってね!」
コアドラモンが何度目になるかも分からない回避をしようとした瞬間、デビドラモンの一体が吹き飛んだ。
振り落とされた時のために取り出しておいたカードの一枚。辛うじて奪われなかったカードを旅人は使ったのだ。
ちなみにやったことは至極単純で、風を操り、風の弾丸をデビドラモンに叩きつけて吹き飛ばしただけである。
「ちょっと場所移すぞ」
「……俺は……」
「勝てるのか?」
「っち……」
旅人を背に乗せて、コアドラモンは飛び立った。“逃がさない”とばかりに、デビドラモンも旅人たちを追って飛び立つ。
だが、コアドラモンは傷が深いようでうまく飛べていない。追ってくるデビドラモンを全然引き離すことができなかった。
「くそっ……」
高速飛行を得意とする自分が引き離せない。
その事実が余計にコアドラモンを苛立たせる。
そんなコアドラモンを見て、旅人もこのままでは追いつかれることを悟るのだった。
「おい……コアドラモン……」
「うるせぇ!ちょっと黙ってろ!」
「……」
傍から見てもコアドラモンは冷静さを欠いている。そんな状態では勝てるものも勝てないだろう。
溜め息を吐いて旅人は持っているカードと手荷物を確認する。
アナザーは無事だ。だからアームズデジクロスはできる。だが、デジクロスは絆の力だ。そしてコアドラモンは旅人やドルモンを侮っている節がある。そんな状態で旅人がコアドラモンとアームズデジクロスをしてもうまくいかないだろう。
というか、旅人はアームズデジクロスをカードのリリスモンでしかやったことがない。生きている普通のデジモンとやったことがないので、どうなるか分からずに不安が付き纏う。
となるとカードしかないのだが、こちらも殆どを奪われている。主力カードと万能な白紙のカードがないのは痛い。手持ちのカードは残り三枚。この中でどうこうしなくてはならない。
「できると言えばできるか……問題は……」
「……何だよ?」
手持ちのカードを見直して、戦って勝利しこの状況から脱することは不可能ではないと旅人は考える。
だが、“このままじゃ、無理だよなぁ”と旅人はぼんやりとそう考えた。この作戦には
今の冷静さの殆どを欠いたコアドラモンでは、作戦実行以前にある種の不安が付き纏う。
時間はない。デビドラモンには遠距離攻撃がないのが救いだが、状況は変わっていない。
何とか生きてこの状況をくぐり抜けるためにも。どのような選択をするにしても、コアドラモンの精神的ケア――というよりは頭を冷やさせる時間――は必要だろう。
「何をそんなにイライラしてんだよ」
といっても旅人はそんな気が利いたことができるわけではない。
結局、下手したら起爆につながりかねない地雷地を直接的に行くしかないのだった。
「……」
「言えないか?」
旅人の問いにもコアドラモンは沈黙を続ける。
だが、時間がないのだ。少々手荒いが、無理矢理にでも聞き出さないといけない。
別に頭を冷やせば問題ないのだが、旅人もコアドラモンのことをそう知っているわけではない。旅人には直接な問題を解決ないし一時的にでも忘れさせること以外、コアドラモンの頭を冷やす方法を思い付かなかった。
「……黙ってると分かんないんだけどな」
「……うるせぇって言ってんだよ!どうせお前も俺のこと弱いって思ってんだろ!?」
「……っとやっと話したな。っていうか随分と卑屈なこと考えてまぁ……」
前々からコアドラモンがただの戦闘狂や修行好きという性格ではなくて、“強さ”というものに異常ともいえる執念を持っているだけということは旅人も知っていた。
だが、ここまでとは思わなかったのだ。
コアドラモンがなぜそんなに“強さ”というものに執着しているのかは分からない。
だが、ゴクウモンに始まって、コアドラモンは日々を過ごすうち知らず知らずにいろいろなものを溜め込んでいたらしいということだけは、旅人にも分かった。
「……はぁ。いいか?あのな……ッ!」
「何ッ?」
その瞬間、コアドラモンの動きが止まった。否、一瞬だけ止まりそうになった。
驚いた旅人が後ろを振り向くと、一体のデビドラモンが赤い四つ目でコアドラモンを睨んでいた。旅人とコアドラモンには分からなかったが、おそらく身体の動きを封じる何らかの攻撃だったのだろう。
コアドラモンは負けじと力を込めたためにその硬直はすぐさま解けることとなった。だが、デビドラモンはその一瞬の時間で十分だったのだ。
一瞬の時間で追いついたデビドラモンが、コアドラモンの翼へと長く伸びた腕を伸ばす。
一瞬後、無情にもコアドラモンの翼は切り裂かれた。
翼を失ったコアドラモンはもう飛ぶことはできない。コアドラモンは、その背に乗っていた旅人ごと地面に落ちて――。
というわけで、第六十四話。
初代初期ボスの登場です。
次回は戦闘の続き。旅人とコアドラモンは無事に切り抜けられるのか?ドルガモンとデビモンの戦いは?
すべては次回以降に。