【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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第六十八話~近づいてくる謎と脅威~

 学術院へと戻って来た旅人たちは、疲れながらも宿を探して街を歩いていた。

 理由は単純で、旅人たちは元々泊まっていた宿から追い出されたのである。

 何故そんなことになったのかというと、これまた単純な理由でウイングドラモンがいたからである。

 ウイングドラモンは進化したことによりコアドラモンだった時より巨大になった。その体の大きさは下手な建物より大きいくらいだ。

 外にコアドラモンの居場所を提供してくれた前に泊まっていたその宿も、ウイングドラモンほどの体躯の大きさの場所を提供することは無理だったらしく。

 結果、旅人たちは宿を引き払うことになったのである。

 

「宿……」

 

「ねぇな……」

 

「野宿でもする?」

 

「街中でか?」

 

 仕方なしに新たな宿を探す旅人たちは途方に暮れていた。

 ウイングドラモンほどの体躯のデジモンが住める宿はそう多くはない。これはそれほどの体躯を持つデジモンは大抵街の外で、一人で生きることが多いからだ。

 巨大な体躯を持つ者たち用の宿も無いわけではないのだが、そんな者たち用の宿となると広い場所が必要になるために、そう多くはない。

 そして、その多くない宿は大抵誰かしらいるために旅人たちが泊まることができない状態になっている。

 

「手がないこともないんだけどな……」

 

「え?」

 

「そんなんあんの?」

 

 そんな時、ポツリと呟いた旅人の言葉にドルモンとウイングドラモンが目敏く反応する。

 実際、この場の誰もが野宿でも構わないのだが、二人はこの状況を変える手というものに興味が出たのだ。

 

「ドル……覚えてないのか?クロスローダーってデジモンの収納ができたんだぞ?」

 

「へ?クロスローダー?……ああ!」

 

 クロスローダーにはデジモンの収納機能がある。そして、旅人の持つアナザーも機能的にはクロスローダーとはほぼ同じものだ。

 クロスローダーという記憶の片隅に忘れ去られた物を引き合いに出されたドルモンは一瞬首を傾げるも、すぐに旅人の言わんとしていることを理解した。

 

「くろすろーだー?なんだそれ?」

 

 ただ一人、クロスローダーというものを知らないウイングドラモンだけが、旅人の言いたいことが理解できていなかった。

 それを承知の旅人は自分の言いたいことを簡単に説明する。

 自分の持つアナザーはデジモンの収納機能があること。それを使ってウイングドラモンを収納すれば、宿の問題は解決できること。

 “まぁ、たぶん窮屈な思いをさせるだろうから最終手段だけど”そう締めくくった旅人だったが、旅人の予想に反してウイングドラモンは乗り気だった。

 

「いいじゃねえか。安全なところで眠れるんだ。贅沢ってもんだろ?」

 

「……意外と乗り気……まぁ、確かに……」

 

「眠るときの安全は大切だよね~」

 

 現在はもう夜でそれなりの時間だ。

 結局。行動するなら早いほうがいいだろうと、とりあえず今日はウイングドラモンに我慢してアナザーの中に入っていてもらい、旅人たちは宿に泊まって、詳しいことはまた明日決めることなった。

 ぶっちゃけると問題の先送りである。

 

「んじゃ、やるか。なにげに初めてだな……」

 

 旅人がアナザーを起動させて、ウイングドラモンへとかざすと一瞬後にウイングドラモンの姿がぶれて消えた。

 うまくいったことに若干の安堵の息を吐きながらも、旅人は中にいるウイングドラモンへと居心地を尋ねる。

 しばらく後に、“外の音も聞こえるし、風景も見える。それなりに快適だ!”という機嫌が良さそうなウイングドラモンのくぐもった声が返ってきた。

 

「まぁ、窮屈じゃなくてよかったよ……」

 

「それじゃ行こっか~」

 

 場所の問題をとりあえず解決した旅人たちは今夜の寝床を探しに歩き出す。

 学術院へと帰ってきて数時間後の話だった。

 

 

 

 

 

 

 その頃。ウィザーモンはウィッチモンと共に頭を悩ませていた。

 先日ミスティモンから依頼されたものは、ウィッチモンの手伝いもあり完成させることができた。

 問題はソレをどうするかである。

 完成したソレは旅人に渡すように指示されたのだが、ソレは思ったよりも大掛かりなものとなり、持ち運びが出来そうにない。

 ただでさえ、今のものはミスティモンの将からもたらされた情報を元に、さまざまなものを度外視して何とか完成させることができたのだ。

 ここからさらに持ち運びができるように利便性を充実させようとすれば、百年単位での時間が必要になる。

 どうしようもない現実にウィザーモンは溜め息を吐くことしかできない。

 

「ちょっと。辛気臭いもの吐かないでよ」

 

「溜め息を吐きたくもなるだろう?ここから……どうしろと?」

 

「そりゃあ……ね。分かるけど……」

 

 そう。ウィッチモンもウィザーモンの気持ちは痛いほどわかる。ウイッチモンとて溜め息を吐きたいのは同じなのだ。

 

「ん?」

 

 そんな時。ウィザーモンの部屋にノックの音が響き渡った。ノックがされたということは、当然誰か客が訪れたということである。

 今は夜も遅い時間帯だ。ウィザーモンとウィッチモンはそのような時間帯に訪れた客に苦い顔を隠せない。客の姿を見ていないというのに、二人とも“どうせ常識のない者なのだろう”と決めつけかけていた。

 もっともそれはほとんど当たっているのだが。

 

「どうぞ。ドアは開いてるから、入っていいぞ」

 

 ドアがゆっくりと開く。訪れた客が姿を現す。

 “一体どこの誰だ?”とドアに視線を向けていたウィザーモンとウィッチモンはその客人の姿を見て思わずガックリと肩を落とした。ある意味でお約束である。

 

「あはは……お邪魔します?」

 

「お邪魔だと思っているなら帰ってくれ」

 

「すまん。一日でいいから泊めてくれ」

 

 ドアから入って来たのは旅人とドルモンだ。

 あの後、結局二人は宿を見つけることができなかったのだ。というよりほとんどの宿が、夜遅くになったために今日の営業を終えていたのだ。

 夜遅くの時間帯に図々しく泊めてくれと頼みに来た旅人たちにウィザーモンとウィッチモンは呆れるしかない。

 

「……まあ、事情は分かったが……。こちらは忙しい」

 

「そこをなんとか」

 

「そうだな。前の話の続きを聞かせてくれるというなら……吝かでもないが?」

 

 ウィザーモンのその言葉を聞いた時、いつかの徹夜を思い出して旅人の顔が引き攣った。

 だが、背に腹は変えられない。ここで野宿でもしようものならば、ウイングドラモンに申し訳が立たなくなる。

 そんな考えの元に、睡眠時間の確保を絶対条件として提示して、旅人はウィザーモンの条件を呑んで泊めてもらうことにしたのだった。

 

「ん?そういえばコアドラモンは?」

 

「コアドラモン?あぁ、あいつはウイングドラモンに進化したぞ。あいつは……ここだ」

 

 ウイングドラモンの不在に疑問を感じたウィザーモンに、旅人はアナザーを見せることで返答とした。

 アナザーからは鼾が聞こえており、中のウイングドラモンがもう既に眠りについていることを感じさせた。

 

「……そうか。そういえばアナザーには収納機能があったな。というかまた進化したのか。ん?……」

 

「ん?おーい?どうしたー?……ダメだな」

 

「何それ?」

 

 そういえばと。そこでウィッチモンには説明していなかったことを思い出して、旅人は軽い学術院に来るまでの数ヶ月のことを簡単に説明する。

 一通り旅人の話を聞いたウィッチモンは、呆れた目を隠そうともせずに旅人を見ていた。

 ちなみにウィッチモンの視線が話の途中から、呆れた目から慈愛を込めた生暖かい目となっている。そのあまりのシフトに、思わずムカついて頬を引き攣らせていた旅人は悪くないだろう。

 

「……それにしても」

 

「何?」

 

「これ……何してたんだ?」

 

 今まで触れなかったが、ものすごい部屋の荒れようについて喧嘩でもしたのかと旅人はウィッチモンに尋ねる。

 部屋は足の踏み場もないとまではいかないが、部屋はそれなりに散らかっており、いくつもある移動式黒板には旅人が理解できない何らかの式が大量に書き込まれていた。

 明らかに何かの作業中であったことを伺わせた。

 

「ちょっと頼まれごとをね……そういえば完成品は旅人に渡せって言われてるらしいよ?」

 

「オレに?誰から?」

 

「ミスティモンから」

 

「ミスティモン?……知らないぞ」

 

 まったく知らない者から渡される何かに嫌な予感しかしない旅人だった。

 それからしばらくして。思考の海に沈んでいたウィザーモンが再稼働したかと思えば、急に黒板に何かを書き始めた。

 黒板に書かれたものを見て、ウィッチモンはしきりに頷いている。だが、書かれている事が毛ほども理解できない旅人は呆然とするしかない。

 一人で所在無さげに立っているしかない旅人は、気持ち良さそうに眠りについているドルモンに思わずイラっとした。

 

「……これしかないな」

 

「……でしょうね」

 

 数分後。頷きあったウィザーモンとウィッチモンはすごい勢いで旅人に迫る。

 その奇妙な勢いに旅人は思わず後ずさりするが、逃がさないとばかりに迫り来るウイッチモンとウィザーモンに、挟み撃ちされた。

 

「……何だよ?」

 

「いや何。アナザーを少し貸して欲しいだけだ」

 

「……解体する気じゃないだろうな?」

 

「そんなことはしない。ちょっと弄るだけだ」

 

 “安心できる要素がまったくないんだけど!”と思わずツッコム旅人。そんな旅人に対するウィザーモンたちの説得攻撃が開始する。

 ちなみに、この説得攻撃が終わったのは、開始から実に数時間後。朝日が昇ってからのこと。

 決めては眠気のあまり正常な思考ができなくなった旅人に対するウィザーモンたちの思考誘導だ。

 

 

 

 

 

 

 ウィザーモンとウィッチモンに旅人たちは見送られていた。

 アナザーを弄るということで、アナザーの中に入っている訳にもいかなくなったウイングドラモンは旅人とドルモンの上空を飛んでいる。

 

「一日くらいでできる筈だ。それくらいに取りに来てくれ」

 

「貸したはずなのにこの対応。なにこれ?」

 

「まあまあ、いいじゃない」

 

 ちなみに、ウィザーモンの口車に乗せられて、ついでとばかりに貸した白紙のカード一枚は、実は貸す必要のないものだということに旅人は気づいていない。

 そんなこんなで今にも落ちそうな目蓋をこじ開けながら、旅人たちは街を歩き出すのだった。

 

「……行ったか。さて。最後の仕上げとしようか。ウィッチモン」

 

「そうね……疲れたし……さっさと終わらせましょう」

 

「……ん?」

 

 旅人たちを見送った後、魔術を使ってアナザーを見ていたウィザーモンはあることに気づき怪訝な声を上げた。

 

「どうしたの?」

 

「いや……アナザーのアームズデジクロスについて調べていたんだが……」

 

「だが?」

 

「アームズデジクロスには……人間(・・)とデジモンの融合は想定されていない」

 

「え?それって……」

 

 想定されていない。その事実が示すものは、人間とデジモンの融合という力はアームズデジクロスの機能ではないことになる。

 それが何を意味するのか。ウィザーモンとウィッチモンは、頭を悩ませるが分からないことだった。

 

 

 

 

 

「なあ、旅人……」

 

「どうしたリュウ?」

 

 ウィザーモンと別れて数時間後、妙にソワソワしている街を疑問に思いながらも、昼時ということもあって旅人は、ドルモンとウイングドラモンと共に昼飯を食べていた。

 旅人たち三人が――物理的に――入ることのできるレストランを探すのが面倒だったので、旅人たちは街外れの広場に座って食べている。

 いつも空を飛んでいるウイングドラモンも流石に食事の時だけは降りてくるようだったが、広場はウイングドラモン一人でほとんどの場所をとっている。

 ウイングドラモンも言葉には出さないが、不便そうな気配を纏っていた。

 そんなこともあり、“近いうちに学術院から出て行こうかなぁ”と旅人は考え始めている。

 

「いや、アームズデジクロスってなんだ?昨日ウィッチモンに話してたろ?」

 

「あぁ。あれか……っていうか起きてたのか。まぁ、あれだ……」

 

 アームズデジクロスについてウイングドラモンに軽く説明する。

 ウイングドラモンは少し驚いていたようだったが、カードのこともあって旅人の力については耐性ができていたらしい。取り乱すほど驚くということはなかった。

 ようするに“まあ、旅人だし気にすることでもないか”と思ったのだ。

 

「最近リュウのオレに対する扱いが雑になった気がする」

 

「元々だろ。しっかしアームズデジクロスか。やってみたいな」

 

「……。まぁ、アームズデジクロスについてはまだ一度しかやってないんだけどな」

 

「なんでだ?話聞く限り便利そうじゃねえか」

 

「……まあ、単純に使うタイミングがなかったっていうだけだけどな……」

 

 そんな話をしながら、昼飯を食べたことで腹が膨れた旅人はだんだんと眠気に襲われる。

 もっとも丸一日眠っていないので当然なのだが。

 寝転がって目をつぶり、うつらうつらと旅人が船を漕ぎ出した時――。

 

「ギャ?いつかの人間たちじゃないギャ!」

 

「……ちくしょう」

 

 旅人は歩いてきた博士っぽいアグモン――博士っぽいも何もアグモン博士なのだが――の声によって叩き起される。

 睡眠の邪魔をされた旅人は思わずアグモン博士をジト目で睨むが、アグモン博士は気にしていないようだった。

 

「それにしても……このデカイ竜は邪魔だギャねー」

 

「ああ!?」

 

「ギャ!ウイングドラモンじゃないかギャ!珍しいギャね!」

 

 毎回会うたびに同じようなことを言っているアグモン博士に旅人は微妙な気分になる。

 といっても旅人がアグモン博士と会ったのはこれで二度目なのだが。

 一方でせっかくの食後ののんびりとした時間に、邪魔だと言われたウイングドラモンは不機嫌そうだった。

 

「すまんギャ。まさか生きている時間のほとんどを空中で過ごすウイングドラモンが地上にいるとは思わなかったんだギャ!」

 

「確かに空の上の方が心地いいけど……どこにいようと俺の勝手だろ!」

 

「まあ、そうなんだギャね……ん?もしかしてあの時ドラコモンが進化したのかギャ?」

 

「まぁ、そうだな」

 

 直球で肯定された己の問いに間接的にだがウイングドラモンの進化の速さを目の当たりにしたアグモン博士は、だいぶ感心した様子を見せている。

 

「それにしても純潔の竜型種から進化したんだギャら……強そうだギャね。竜型といえば……四大竜の試練って知っているギャ?」

 

「あ……」

 

 アグモン博士の言った単語に旅人は思わず頬を引き攣らせる。

 その単語はおそらく今のウイングドラモンにはタブーとなるものだ。一瞬後のウイングドラモンの喚きが目に浮かぶようで、旅人は“余計なことを言ってくれる……”とアグモン博士をジト目で睨んでいた。

 だが――。

 

「ああ、この前挑戦してな。失敗しちまった」

 

「……?」

 

 旅人の予想に反して、ウイングドラモンの反応は静かだ。そんなウイングドラモンの

反応に旅人は思わず首を傾げた。正直なところ、もっと感情を押し出した反応をすると思っていたのだ。

 

「そうなんだギャ?それは申し訳ないこと言ったギャ。ゴメンギャ!」

 

「別に謝んなくてもいいって。次は絶対に乗り越えてみせるから」

 

 だが、再挑戦する気はしっかりとあるようで、ウイングドラモンのそのいつもと変わらない姿に何となく安心した旅人だった。

 

「ギャ?やばいギャ!昼の休憩はもう終わりだギャ!」

 

「おいおい……大丈夫か?」

 

「何とかするギャ!それじゃ、またギャ!ああ、そうだギャ!最近巨大な機竜型のデジモンがこの街に向かっているって報告があったギャ!今も自警団が討伐隊を作っているって話だギャ……。万一を考えて避難することをオススメするギャ!」

 

 言いたいことだけを言って、アグモン博士は去っていった。

 その嵐のようなさり際に思わず苦笑する旅人。

 だが、ウイングドラモンはそれどころではなかった。

 巨大な機竜型のデジモン。そのデジモンにウイングドラモンは覚えがあったからだ。

 

「ウイングドラモン?どうかしたのか……?」

 

「いや、まさか……アイツが……!」

 

 愕然と呟くウイングドラモンに旅人は嫌な予感を感じられずにはいられなかった。

 




次回はウイングドラモンが主人公します。たぶん。
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