「シュシュッ!ポッポ!シュッ!ポッポ~!」
車内に謎の擬音が響く。
「シュシュッ!ポッポ!シュッ!ポッポ~!」
それは外からする音に呼応するようで、大半の人が聞けば全く調和の取れてない音にしか聞こえない。
いや……それを発する本人からすれば調和のとれたシンフォニーのつもりなのかもしれない。しかし、しかしである。
「シューシューポッポポー!」
「ドルうるさい!」
やはり鼻歌というものは、聞かされる他者からすれば、カオスにも似た雑音にしかならないのである。
「なんだよ~?せっかく人が気持ち良く歌っていたのに……」
「歌うのはいい。下手に歌うな!人がせっかく気持ち良く眠ろうとしていたところだったのに!」
「オレは列車なんて初めてだぜ?祝・列車デビュー!ということで見逃して」
「見逃すか!」
現在一行は列車型のデジモン――トレイルモン――に乗っている最中である。
前の街を出発してしばらくたった日。後ろから線路が伸びてきてその上を走って来たのがトレイルモンである。
なんでも、いろいろなデジモンを乗せて走るのが生きがいらしく、特に駅も決まっていない、タダで乗れる幻の列車として有名なデジモンである。
人間の世界では動物ということで乗ることにできなかった列車に乗ることができた……それだけでドルモンのテンションはうなぎ登りである。
「やばい……すげぇ嬉しい!」
「テンションおかしいことになっているぞ……。他の客に迷惑だから静かにしてろ!」
いつもよりずっと高いテンションで騒ぐドルモンに、旅人は苦言を呈する。
ちなみにこの旅人の苦言は他の客にかけてしまう迷惑というより、自分にかかる迷惑ゆえの苦言である。
「まあまあ。ドルモンも少し落ち着いて。旅人も。音を漏れないようにしといたから」
「ほんと?やった!ありがとう!ウィッチモン!」
「……先程まで旅人とドルモンのやりとりを微笑ましいものを見るような目で他の客が見ていたのは……言わない方がいいのだろうな」
そんなこんなでそれなりに客数がいるトレイルモンの列車内。
旅人たちはウィザーモンが言ったように夏休みの家族連れの旅行客のごとく、微笑ましいものとして捉えられていたのである。
「はぁ。次の駅……あれ?どこまで行くんだっけ?」
「終着までだが……旅人も大概だな。そんなのでよく旅をしているといえるものだ。どちらかといえば放浪している、の方が正しいのかもしれないぞ?」
旅人的には旅……なのだが、ウィザーモンが言うように放浪といっても変わりはない。
そもそも目的があるわけではないのだ。ただ風まかせにあっちこっちと放浪するのが旅人のいう旅である。
「っぐ。同じだろどっちも!それに師匠がそう言っていたからオレもそう言っているだけで深い意味はないよ!」
「師匠?」
かれこれ数ヶ月話題にも上がらなかった存在が話題に上がりウィザーモンは興味を示す。
“是非聞きたい”という旨を全面に出すウィザーモンに釣られたのか、ドルモンたちも静かに聞き入る態勢に入る。
「これ……話す流れか?まぁ、どうせ時間はあるし、いいんだけど。あんまり面白くも何ともないぞ?短いし」
旅人がいろいろと言っているが、その間の全員の心境は“何をごちゃごちゃ言っている早く話せ”である。
一方で旅人の心境は“めんどい”その一言に尽きる。話すような程の内容でもないのだ。言ったところで、で?で終わる話である。
「はぁ。本当に短い。オレは孤児院で暮らしていたらしくて、オレを引き取った人が師匠。そんでしばらく一緒に世界中をまわった。以上」
「……短いよっ!」
全員の心境をドルモンが代表してツッコミを入れた。
短いとは言っていたが、ここまで短いというのは流石に予想外だったらしい。
「そんなこと言ったってなあ。オレ昔語り……というか説明苦手だからなあ。じゃあ、そっちから質問しろよ。答えるから」
いきなりの提案に戸惑う全員。旅人はこの状況で最も楽な方法を見つけたためか、安堵の息にも似た溜息を吐いている。
しかし、最も立ち直りが早く、質問開始したのはやはりというべきかウィザーモンである。
「それじゃあ、僕から。師匠と言ったが、何かを習ったのか?」
「まぁ、生活に必要な知識とかもろもろ。一般常識は自分で学べって言われたけど。あぁ、あとカードの力も師匠から教わったなぁ」
師匠という存在が思いのほか重要な要素を占めていたらしいことにウィザーモンは驚く。
今、ウィザーモンが最も関心を寄せるカードについても師匠を起源とするならば、ウィザーモンとしてはどうしても知りたいことである。
「カードの力も?ということは君の師匠はカードを使えたと?」
「ああ。というか、オレが使っているカードも元は師匠のだしな。だからカードについて詳しくは知らん。誰が作ったのとか、どうしてオレだけ使えるのかとか。師匠は使い方だけ教えてくれただけだしな」
「そうなのか?そうなるとやはりカード自体に認証ロックみたいなものが?いやしかしそれでは……」
最近はマシだったのだが、癖というのはなかなか抜けないらしくウィザーモンはまた思考の海を泳いでいる。
“終わりか?”そう思った旅人だが、ウィザーモンの質問が終わり、今度質問してきたのはウィッチモンだった。
「旅人の師匠のことじゃないんだけど質問いい?」
「ん?いいぞ?」
「ドルモンとどうやって出会ったの?ドルモンは人間界に居たんでしょ?どうやって出会ったのかなぁって」
「え?いや……それは……」
言葉を濁したのは何故かドルモンである。目を泳がせている。
そんなドルモンの様子を知りながらも、“どうせ大したことじゃないし”とドルモンにお構いなしに旅人は話しだした。
「出会いと言ってもたいしたことじゃない。ドルモンはオレが卵から育てた。要するにオレはドルモンの親だ」
「え?親?ウソッ!」
ドルモンは頭を抱えている。余程旅人が育て親ということは知られたくなかったらしい。
例えるならば、授業参観に来て欲しくないのに親が来た感じである。子供にとって親というものは自慢であるとともに気恥ずかしいものなのだ。
「本当に?え?旅人男だよね?」
「女に見えるなら眼科行け。というか、なんでオスメス関係ないこの世界でそんな知識があるんだ……」
ウィッチモンの様子がおかしい。ドルモンも頭を抱えるのをやめて、様子を伺っている。
二人が怪訝に思っていると途端にウィッチモンが吠えた。
「人間って男が卵を産むの!?」
「誰が産むか!ドルモンの卵は元々師匠が持っていたものだ!本当になんで、生き物が勝手に
「え?オレの卵ってコウノトリが運んできたんじゃなかったの!?」
そこで驚愕の事実に狼狽えたのはドルモンである。どこからか得た知識かは分からないが、旅人の知らないうちに、卵や子供はコウノトリが運んでくるものと思い込んでいたらしい。
「なんだ……。そうよね。男が産むなんて……ありえない……よね……?」
「何今更なこと言ってんだドルモン!それからウィッチモン!ありえないから!その頭に浮かんだ疑念を今すぐ捨てなさい!」
「だって旅人が言ったんじゃん!」
“あ、そうだった”と。旅人はドルモンが生まれた時に冗談で言ったことを思い出す。
生まれて間もない頃に教えたウソをまだ信じていたとは驚きである。
ちなみにこの事態が収集したのは五分後。ウィザーモンが思考の海での遭難から生還してからのことであった。
「結局。君のことに関わることは全て師匠絡みというわけか」
「まぁ、そうなるな。オレが旅しているのだってそうだし」
「旅をしている理由?それは興味あるわね。どうして?」
“しまった。終わったことを掘り返してしまった”と後悔の思考にとらわれる旅人だが、時はすでに遅い。言ったことを撤回することはできないのだ。
「昔……師匠と旅し始めた時に幼心にいろいろと思ったんだよ。見知らぬ場所に行って、見知らぬ風景を見て。いろいろな国へ行って、いろいろな人と出会って。自分の知らない世界があることを知って。これからも旅を続けて、自分の世界を広げ続けて行く師匠を見てたら……そういうの……なんかいいなって思ったんだよ」
「へぇ?旅人にとっての知識欲みたいなものね。うんうん。まぁ思ったよりはいい理由なんじゃない?」
「っぐ……このくらいでいいだろ?ちょっと風に当たってくる」
“だから嫌だったんだよ”と若干からかわれていることに不機嫌になりながら、旅人は席を立ち、後ろの車両へと向かっていく。
その後ろ姿をにやけながら見送る二人。ちなみににやけてないのは何かを考えているウィザーモンだけである。
「照れてたね」
「うん。照れてたね」
普段見られない旅人の姿に微笑ましいものを見たといった風のウィッチモンとドルモンである。普段と立場が逆転している。
「ドルモン。旅人の師匠がどこにいるのか知っているか?」
「え?いや……知らない。というか、僕も会ったことはないよ?」
「そうなのか?」
「うん。オレが生まれる前に……カードの束だけを置いてどっかに消えたらしいよ?別れの言葉もなかったって愚痴ってた。それから一度も会ってないらしいよ」
“どこにいるか分からない”薄々と感じていたその言葉にウィザーモンは追求を諦める。
“結局、カードの謎は自分で解くしかなさそうだ。まぁ、あれほど高度な力ならばどこかしらにヒントはあるだろう”と半分正解にたどり着きかけていたウィザーモン。もちろん本人はその事を知る由もない。
風が吹く。
「風が気持ちいいなぁ。というか、ドルのやつ……最近なんか強かになったような……。気のせいか」
風が吹く。強く。強く。
「……寒い。風が強すぎるな。はぁ、戻るか。後ろの車両には客が一人もいなかったな。しばらく後ろで静かに列車旅を楽しむか?」
不意に風が吹いた。一際強い英雄の風が。
「戻る前にひと試合願おう人間よ」
「なっ!」
気付けば後ろの一車両まるごと切り離されて吹き飛ばされていた。旅人は振り落とされないように手すりにしがみつく。
どれほど飛ばされたのか……もう線路も見えないくらい――と言ってもこの世界の線路は生き物のように大きさ、形を変えるのだが――のところでようやく落下した。
「っぐ。誰だ……?」
「我は英雄、メディーバルデュークモン。人間よ。その力を示せ!さもなくば……排除する!」
そこに降り立つ、自らを英雄と名乗る、全長十数メートルの巨大な西洋風の鎧を着た騎士。
「アンタが噂に聞く英雄ってやつか?……嫌だと言ったら?」
「それは無理だ。貴様に拒否権はない。覚悟することだ」
予想通りの返答に内心辟易としながらも懐からカードを取り出す。
旅人とて十数メートルもの大きさを誇る巨人を相手にはしたくない。無意味な戦闘はしないタイプである旅人が取る選択肢は一つだった。
「はっ。嫌だね。Set『転移』」
体が浮くような感覚についで景色がゆっくりと歪んでいく。基本遠くに行くほど、時間がかかる『転移』だが、相手は動く気配がないので普通に使うことができる。
完全に効果が発動し、次に見る風景はドルモンたちの顔……のはずだった。
さっきとも違う見知らぬ草原。ドルモンたちとの距離がさっきより離れたことは明白である。
「あれ……どこだここ?」
「ふん。愚かなことだ。この世界の魔術とは貴様たちで言うハッキングに近い。そして、貴様のカードの力もな。自身でソレを成すか、カードでソレを成すかの違いだ。それなのに何故同じ質の力で
「なんだと?」
そう。要するに旅人が発動した『転移』に合わせて魔術で干渉。強制的に行き先を変更したのだ。
逃げ道を塞ぎ、戦うことを余儀なくさせる。ここまでのことを全て仕組んだのだ。その先を見通す目に旅人は“これが英雄か”とため息を吐く。
「やり合うしかないってか?」
「貴様の未来。我より勝ち取ってみせよ!」
英雄と旅人。戦いが今始まった。
ちなみにその頃のドルモンたち。
「旅人遅いな~。あ、フォーカード」
「大方後ろの車両でのんびりしているのだろう。フルハウスだ」
「もしかして、私たちのせい?あ……ブタ……。また負け?」
仲間のピンチに気付かず呑気に過ごしていた。
ということで説明会的な第六話でした。相変わらず、日常回が短い……いや、キリがいいところで分割しているのでしょうがないのかもしれませんが。
ところでこの小説のデジモンの大きさは無印やクロスウォーズなどを基準としています。
メデューバルデュークモンの大きさは大体ウォーゲームのオメガモンと同じくらいを目安にしてますが、あれって十数メートルでいいんですよね?まぁ、違っても特に不自由はないんですけど。
次回もよろしくお願いします。