【完結】ワールド・トラベラー   作:行方不明

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話自体は数時間で書き終えたのに、なぜか気に入らずに数日かけて直し続けた今回の話。
思わぬ難産でした。


第七十話~交わした約束と昇り消えゆくその先に~

 時は少し戻って数時間前。

 ウイングドラモンを追っていた旅人たちは、街の住人からウイングドラモンが街の外へと出て行ったという情報を得ることができた。

 そのことを知った旅人たちは“これは急がないとまずい”と焦る。なにせ別れてから数時間も経っているのだ。急ぎ、得た情報を元にして白紙のカードを使ってウイングドラモンの位置を探し出して、『転移』のカードを使ってその場に急行。

 もっとも、“ようやく追いついた”と若干の安堵の心持ちでその場に訪れた旅人たちが見たものは、ブレイクドラモンにフルボッコにされているウイングドラモンの姿だったりした。

 

「マジか……ドル!頼む!」

 

「了解!」

 

「set『進化』『究極』」

 

「ドルモン!ワープ進化――!ドルゴラモン!」

 

 ウイングドラモンが一方的にやられているという事実に、完全体のドルグレモンではキツイと感じた旅人が、すぐさま白紙のカードと『進化』のカードを使用する。

 カードの力により、究極体へと進化したドルゴラモンは拳を構えたままブレイクドラモンに突進。そのまま拳を振り抜いて、ブレイクドラモンと戦闘を開始した。

 

「……!」

 

「旅人!」

 

「分かってる!そいつ任せた!set『転移』」

 

 ブレイクドラモンの相手をドルゴラモンに任せて、旅人は白紙のカードを『転移』のカードへと変化させて、ウイングドラモンを連れて安全地帯まで退避する。

 安全地帯まで下がったことによって一先ずの安全を得た旅人とウイングドラモンだが、それでもウイングドラモンはボロボロで今にも死にそうなことには変わりない。

 

「おい!リュウ、大丈夫か!?」

 

「ぁ……ぃ……ぉ?」

 

「っち。ちょっと待ってろ!set『再生』」

 

 一瞬後、白紙のカードが変化する。

 『再生』のカードへと変化したそのカードはすぐにその効果を発揮した。

 ボロボロだったウイングドラモンの体がまるで時間を逆行させるかのように無傷の体まで戻っていく。

 表面上の効果は同じように見えながらも唯の治癒とは違う、それとは別次元の現象だった。

 

「う……」

 

 『再生』のカードによって傷の治ったウイングドラモンはすぐさま目を覚ました。

 起きたウイングドラモンは目の前の旅人、そしてブレイクドラモンと戦うドルゴラモンを見て、自身の置かれた状況に混乱している。

 

「たっく……あんまり心配させるなよ……」

 

「……旅人?え?ここは……っていうか、アイツはっ!?」

 

「起き抜けで混乱してるのは分かるけどいっぺんに聞くなよ……。アイツは今ドルと戦っている」

 

「え?あれドルモンか!?」

 

 遠くに見える白銀の竜がドルモンの進化した姿だと知って、ウイングドラモンは驚いた。

 今まで弱いと思っていた奴が、自分の手も足も出なかった奴と互角以上に戦っているのだから当然とも言えるのだが。

 

「アイツ……あんなに強かったのか……」

 

「とりあえず、お前は逃げてろ。オレはドルの方へ行く」

 

 “こんなことならアナザーを返してもらってから来ればよかった”と旅人は内心で舌打ちした。

 旅人はウイングドラモンを急いで追わないといけないという焦りのあまり、ウィザーモンたちからアナザーを返してもらってくるのを忘れていたのだ。

 究極体デジモン相手にカードだけでは心許ない。比べるのもおこがましいほど地力が劣っている以上、一撃でも食らったらアウトになってしまうからだ。

 

「ち、ちょっと待てよ!」

 

「ん?何だよ?一応全快してるだろうけど、病み上がりだし無理するな」

 

「いや、俺も行く!」

 

 案の定の返答をしたウイングドラモンの分かりやすさに旅人は苦笑する。

 あれだけボロカスに負けておいて、それでも向かって行こうとするのは、それだけウイングドラモンにとってブレイクドラモンと因縁があるからなのか。それともただの負けず嫌いだからなのか。

 考えておいて速攻で後者の考えを否定した旅人だったが、どのみちウイングドラモンは引く気は無いようだった。

 

「何でだ?」

 

「え?」

 

「気になったけど……どうしてだ?どうしてあの機竜に拘るんだ?」

 

「……」

 

 それは旅人の純粋な疑問だ。

 だが、他意なく真っ直ぐに見つめられて聞かれれば、焦りのあまり一人で先行してボロボロされたウイングドラモンとしては後ろめたい罪悪感に襲われることになる。

 結局、ウイングドラモンはゲロ(白状す)ることになる。いや、もしかしたら迷っている今の自分のことを旅人に知って欲しかったのかもしれない。その心情はともかく、ウイングドラモンは話した。

 あのブレイクドラモンと自身との因縁を。始まりから今まで続くそのすべてを。

 

「……そっか。んじゃ、リュウはどうしたいんだ?聞いた限りじゃまだ迷ってんだろ?」

 

「……分かんねぇ」

 

「……まぁ、いきなりだし……そうだよなぁ。世界ってほんとに優柔不断というか、迷っている奴に優しくないしなぁ……」

 

「しみじみ言うなよ……こっちは真剣なんだ」

 

 旅人のその言葉も、今までの旅人やドルモンの旅路を知らないウイングドラモンは旅人にからかわれた程度にしか思えない。

 それでも旅人にとっては諸々の意味を込めて言った言葉だったのだが。

 

「……どうしたいんだろうな……俺……」

 

「ん?」

 

 そんな旅人の言葉を理解したわけではないし、ゆっくりと考えられるほど今は猶予ある訳ではない。

 だが、それでもウイングドラモンは残された少ない時間の中で必死に考え続けた。

 その中で“そういえば”とウイングドラモンは思い出す。自分の友は一体どんな奴だったのかということを。

 

「……」

 

「……そうだったな……」

 

 目を瞑って考え込むようにして捻り出されたウイングドラモンのその言葉を、旅人わざと聞き流すように努める。

 その言葉はウイングドラモンが自分自身に聞かせるための言葉だと、旅人は思ったのだ。

 

「あいつは――」

 

 臆病で、好奇心旺盛で、好戦的で、泣き虫で、いつだって自分に自信を持てなかったあの友は、きっと本当は誰よりも強かった。

 かつての自分はそれを詰りながらも、本当は友を追い越そうと必死だった。

 自分が強くならなければ、否、強くなりたかったのは、約束のこと以上に自分はあの友よりも本当は弱かったからだ。

 そうやってあの友のことを思い起こす中で、“自分が追い越したかったあの友は、果たして本当にあそこいるあの機竜なのだろうか”と、ウイングドラモンは自身に問う。

 

「……違う」

 

 そう。

 確かにあの機竜はあの友だろう。

 確かにあの友はあの機竜だろう。

 だが、自分が追い越したかったのはあの友であって、あの機竜ではない。

 同じように、自分が約束したのはあの友とであって、あの機竜とではない。

 

「おーい?いい加減決まったかー?」

 

「……」

 

 “そうだよな……”とウイングドラモンは静かに遠き日に思いを馳せる。

 自分はかつてあの友と交わした約束を覚えている。

 強くなったら戦うという幼い頃のその約束。

 例え時が過ぎ、自分やあの友の姿が変わっても、仮にその存在が消えたとしても、その事実だけは絶対に消えることはない。

 

「どうしたい……か……。やっぱり分かんねえ。でも……今、俺に何ができるかは……はっきりと分かる」

 

 あの時。友が進化した時。どうすれば良かったのかは今でもわからない。

 今まで自分は、何もできなかったかつての自分を呪うこと“しか”できなかった。

 だが、今はもう違う。今できることはそれ以外にも確かにあるのだ。

 遠き日から目の前の現実に意識を戻して、ウイングドラモンは遠くに見えるブレイクドラモンを睨む。

 旅人はカードを取り出しながら、ウイングドラモンを横目で見る。その目には旅人たちが学術院の街で見たような迷いはもう無かった。

 

「……そうだよな。約束は破るもんじゃねえ。守るもんだ。……でも今のアイツはああだし……しょうがねえから、アイツの代わりに俺が今ここで約束を果たすしかねえ」

 

「……」

 

「今の俺はこれくらい強いぞって。散々自分の強さを見せつけてきたアイツに……教えてやる。俺が……アイツを倒すことによって」

 

「でも、あの機竜はお前のこと覚えていないんだろ?……意味ないことかもしれないぞ?」

 

「それでもだ。……昔、俺は何もできなかった。今、何かアイツに出来るとしたら……きっとこれくらいしかない」

 

 ウイングドラモンがかつて逃避のために、かつての自分のために使っていたその約束。

 その約束を本当の意味で、自分のためではなく友のために果たすこと。

 きっとそれだけが、今の自分が変わり果ててしまった友に対してできることだと、ウイングドラモンは思い当たったのだ。

 一方で、どこか寂しそうな声で言ったウイングドラモンの言葉の最後の部分を聞かなかったことにして、旅人はウイングドラモンの横に並び立った。

 

「まぁ、いいけどね。でも、悪いけどオレやドルも手を出させてもらうぞ。オレたち(・・・・)でアイツを倒すんだ」

 

 言った旅人としては何気ない言葉だったのだろう。だが、そんな旅人の言葉にウイングドラモンは驚いて。

 ウイングドラモンはその言葉の意味を理解すると共に、不思議な感情に襲われた。

 同時に、ウイングドラモンはかつてサンゾモンに言われたことを思い出す。

 自分一人で戦わなければいけないというウイングドラモンの気負い、そしてウイングドラモンの考える強さという概念を少しずつ砕いていく。

 

――強さとは、貴方が思っているような単純なものではありません――

 

「……サンゾモンの言ってたことは今でもよく分かんねえ。でも……何かお前と……いや、お前らといたら掴めそうな気がするな」

 

「……?」

 

「だから。言い直す。俺たちでアイツを倒したい。力を貸してくれ。旅人!」

 

「……あぁ。任せろ、リュウ!」

 

 そしてウイングドラモンと旅人が参戦する。

 

 

 

 

 

 一方でドルゴラモンはブレイクドラモンに対して苦手意識を感じていた。

 別にドルゴラモンがブレイクドラモンに負けているとか、そういうことではなく。ドルゴラモンはいくら攻撃しても止まる気配がないブレイクドラモンに嫌気が差しているのだ。

 まるで痛みを感じていないかのように。ブレイクドラモンはいくら攻撃を受けても止まらない。

 

「おりゃあ!」

 

「ガッ……。……ガアァアアアアアアア!」

 

「うぅ……いい加減にしてよ~」

 

 とはいえ、ブレイクドラモンも戦闘開始時とは違って、その装甲は所々がかなりボロボロになっている。

 ドルゴラモンがあと一二発拳を叩き込めば、倒せるだろう。

 

――あーテステス――

 

 その時。ブレイクドラモンと戦うドルゴラモンの頭の中に旅人の声が響いた。

 その突然の現象に一瞬驚くドルゴラモンだが、すぐにそれが旅人の『念話』のカードによるものだと気づく。

 

――端的に言うぞ。リュウが大技ぶちかますから、時間稼ぎよろしく!あ。……あと気をつけてな――

 

「軽ッ!え?大技って……っていうか気をつけて!?」

 

 それきり聞こえなくなった旅人の声に、ドルゴラモンは嫌な予感を隠せない。

 ブレイクドラモンを上手くあしらいながら、ドルゴラモンはチラリと旅人たちがいるであろう方向を横目で見る。

 その時。ドルゴラモンには上空を駆け昇る蒼い影が見えた――。

 

 

 

 

 

 一方で、旅人と軽い作戦会議をしたウイングドラモンは遥か上空へと駆け昇っていた。

 先ほどのウイングドラモンの全身全霊を込めた一撃は通じなかった。

 故にウイングドラモンがブレイクドラモンと戦うために考えたことはシンプルだ。

 もっと疾く。もっと鋭く。

 ただそれだけだった。遥か上空からの一撃。先ほどとは違う、最高速での意図せぬ場所からの一撃にウイングドラモンは賭けていた。

 

――リュウ、お膳立ては任せとけ。お前は何も考えずにただ突っ込めばいい――

 

 ウイングドラモンの頭に響く旅人の声。

 響いた声にウイングドラモンはなぜか安心感を覚えていた。その存在を感じるだけで、安心できる。後ろを振り返らずに前を向くことができる。

 そんな安心感を自分にもたらす旅人のことを疑うことなくただひたすらに信じて。ウイングドラモンはただひたすらに加速する。

 

「おぉおおお!」

 

 ウイングドラモンは遥か上空から地上めがけて落下する。

 最大速力まで加速しながら、ウイングドラモンは地上へと急降下する。

 その時、地上ではブレイクドラモンをドルゴラモンが押さえ込んでいた。

 

――set『最大強化』!――

 

「うげっ!」

 

「おぉおおお!『エクスプロードソニックランス』!」

 

 ドルゴラモンの引き攣った声と旅人のカード発動の力強い声が聞こえたのと同時に。

 ウイングドラモンはブレイクドラモン目掛けて背中の槍を打ち付けた――。

 

 

 

 

 

 ブレイクドラモンは痛みを感じていないとはいえ、元々ドルゴラモンとの戦闘で体にガタがきていた。そんな体でカードの力を上乗せされたウイングドラモンの一撃に耐えられるはずもなく。

 ウイングドラモンの槍はブレイクドラモンを穿った。

 だが、自分の一撃で見事に勝ったというのに、ウイングドラモンは浮かない顔をしている。

 

「……」

 

「ドル」

 

「ん」

 

 そんなウイングドラモンの表情を見た旅人はウイングドラモン一人残して、ドルゴラモンと共に歩いて行く。

 そんな旅人たちに気づかず、ブレイクドラモンと二人きりになったウイングドラモンは、どうすればいいか分からずに途方に暮れていた。

 結局、ウイングドラモンがブレイクドラモンと戦う選択をした時点でこの結末は決まっていたのだ。

 それでも心が晴れないのは、やはり“もし”を考えてしまう知性ある生き物の悲しい性だろう。

 

「グググ……」

 

「約束果たしたつもりだったんだけどな……やっぱりつもりはつもりか……」

 

 呻き苦しむかのような顔で消滅していくブレイクドラモンの姿に、ウイングドラモンは自分が間違った選択をしてしまったかのように思えて、落ち込むのを避けられない。

 先ほどウイングドラモンはいろいろとグダグダ考え、そして自己の悩みを振り切り、納得してこの選択をした。

 たが、ブレイクドラモンがあの友の人格を残していない以上、ウイングドラモンがどのような選択をしても、極論的には自己満足の領域になってしまう。

 否、なってしまった。

 だから、ウイングドラモンはこうして気持ちが晴れることがなくなっている。

 

「……弱ぇな……俺……」

 

「……ォ……ィ……ナ……」

 

「……え?」

 

 だが、そんな時。

 不意に聞こえたブレイクドラモンの声に、ウイングドラモンは思わず聞き返した。

 

「……ゥ……ァ……ツ……ヨ……イ……ナ……」

 

「……」

 

 それはブレイクドラモンとしての言葉なのか。それともあの友としての言葉なのか。

 そのことを今のウイングドラモンに理解する術はなかった。

 

「……ョ……ェ……ヤク……ソ……ク……。ハ……ァ……シ……」

 

「……!はは……最期の言葉がよりによってそれかよ……」

 

 光となって消えかかっているブレイクドラモンの言葉に、ウイングドラモンは心臓を鷲掴みにされたかのような錯覚に陥る。

 おそらくブレイクドラモンは“約束”と言ったわけではないのだろう。何かを言おうとして、ウイングドラモンがたまたま聞き取れた部分が“ヤクソク”となっただけの話だ。

 だが、それでも。ブレイクドラモンの中にあの友の部分が残っているかのような気がして、嬉しいやら、悲しいやら、悔しいやらとウイングドラモンは複雑な気持ちになった。

 

「……やっぱり俺は――」

 

――やっぱり君は強いね――

 

 直後に、風に乗って聞こえたあの友の声をウイングドラモンが聞くことなく。

 

「……ちくしょう……」

 

 ウイングドラモンの前で、ブレイクドラモンは光となって消えた。




プロローグ除いて七十話突破&UA10000突破!
それもこれも読んでくれている皆さんのおかげです!
これからもよろしくお願いします!

思い出したので追加。カード説明。
『再生』――白紙のカードの変化。『回復』のカードの上位版。
      回復のカードで治せないような重傷や、疲労、さらには腕の一本や二本取れていても      治る。
      ただし、死んでいる者は治せない。第三章で一度だけ、名前が登場したこともある。

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