というわけでお待たせしました。第七十二話です。
ちょっと突貫で書いたので、なんとかGOサインは出せましたが、気に入らない部分も多々あります。
……ですので、加筆修正時にかなりの修正があるかもしれません。
加筆修正がいつになるのかは置いておいて。
――竜。その名は真理――
声が響く。
以前の時と同じような雷鳴の如く天に響き渡る声が。
――汝、竜の名を持つものとして相応しい者か?――
「くるか……っ!」
響き渡る声は試練開始の合図だ。
以前ウイングドラモンはこの一つ目の試練を何事もなく、それこそ拍子抜けするほど楽に乗り越えることができた。
だからこそ、ウイングドラモンは以前乗り越えることができなかった第二の試練以降が問題だと感じていた。それが間違いだと気づかずに。
「弱いな」
「……今なんて言った?」
「聞こえなかったか?はは……。そんなんだからお前は……弱いんだよ」
「ッ!てめえ!」
以前とは違う声の主の話す内容。
その事実にウイングドラモンは一瞬疑問を抱くが、それもすぐに怒りで掻き消えた。
今すぐに目障りな声をやめさせようと、ウイングドラモンは怒りのままに声の主を攻撃しようとする。だが、残念ながらウイングドラモンにはそもそもこの声の主がどこにいるのかが分からない。
「……っち」
「反論できないからって力ずくか?はは……本当は分かっているだろう?お前は弱い。もしお前が強かったなら、あの機竜に一人で勝てたはずだ。いや、そもそもお前が強かったなら、お前の友がああなるのを防げた筈だ」
「ぐ……」
「怒って、悩んで、己の弱さを見ないふりして。結局お前は逃げているだけだ。だからこそ、お前は弱い。あぁ……弱いからこそ逃げているというべきか?いや、どちらでもいいことか」
ウイングドラモンは思わず耳を塞ぎたくなる。そんな状況で必死にこの試練を終わらせる方法を探すが、見つからない。
以前この試練を受けたときには一言で終わった。そしてその後すぐに次の試練へと進んだが故に、ウイングドラモンはこの試練がどういう目的の試練なのかを知らない。
「ッ!そんなことは……てめえに言われなくても――!」
「分かってるって?冗談よせよ。お前は本当の意味で分かっちゃいない。だからこそ、こうなってるんだ」
そう、ウイングドラモンだって頭では理解している。声の主の言うことは正しいのだと。
だが、自分で分かっていても、他人に言われると反論してしまうというのは、所詮分かった
どちらにせよ、それは心の片隅では認めきれていないということの肯定だ。
「心の片隅ではまだ強さに固執してんだろ?」
「っく……。そうだ……俺は強くなりたかった。今更簡単に変われねえよ!」
「……だろうな。だからこそ、お前はここへ来た」
「……っち。分かったようなことを……!」
「分かるさ。ここは
「……どういう意味だ?」
問い返したウイングドラモンの声に、声の主は答えない。
主導権を握られ、一方的に遊ばれているという今の状況にウイングドラモンは自然と――怒りとは別の意味で――苦い顔をする。
「話を戻すと……だ。お前は強くなりたい。だというのなら、いい方法があるぜ?」
「何……?」
「手っ取り早く強くなる方法だ。強く……なりたいんだろう?」
「……」
強くなりたい。
そう言われてウイングドラモンはその言葉に違和感を覚えた。強くなりたいのはウイングドラモンの本心だ。だが、どう強くなりたいというのか。どう強くなりたかったのか。
「どうした?お前は強くなりたいんだろう?ここに来た目的だって――」
「……俺は――!」
いや、他人からそう言われたことで、初めてウイングドラモンは気づいたのだ。
己が求めていたことに。
そして気づいてしまえば簡単なことだ。それに気づいたウイングドラモンの心は驚くほどに凪いでいた。まるで先ほどまでの怒りが嘘であるかのように。
「俺は……確かに強くなりたくてここに来た。お前の言うとおりだ」
「なら……」
「ここでお前の言う通りにして強くなることはきっと簡単だ。でもな……それで追いつける気がしないんだよ」
ウイングドラモンが思い出すのはドルゴラモンのことだ。
自分を真正面からいとも簡単に打ち負かしたあの機竜を、同じように正面から立ち向かい打ち負かしたドルモンの進化体。
あの機竜と同じくらい鮮烈に脳裏に焼き付いて離れないあの姿に、ウイングドラモンは幼い頃のあの友に見た羨望と同じものを見たのだ。
「やっと分かった。まだ俺はあいつ
「……それで?」
「ただ強くなるだけなら……きっとあの機竜と同じだ。それじゃ意味がねぇ。俺はあいつらと同じ場所に立ちたいんだよ」
だだ力のままに暴れたあの機竜。
きっと力を求め続けた者の果ては、ああいう風な姿になるのだろう。そう考えるからこそ、ウイングドラモンは信じられなかったのだ。あの友があんな姿になったことが。
「それに……俺はな。後悔してるんだよ。あいつのこともそうだし……それに、旅人のことも……」
「出会わなければ良かったって?」
「誰もそんなこと言ってねぇよ。もっと普通に……それこそ、あいつのパートナーとしていたなら……」
それはウイングドラモンの願望であり、最近思うようになったことだ。
強さを求めるという自分の逃げ道の先にいた旅人にしがみつき、利用しようとしたという事実をウイングドラモンは後悔している。
だからこそ、普通のパートナーとして旅人と出会えたのならば。ウイングドラモンはそう思ってしまうのだ。
「今のままで俺があいつ
「……それが?」
「そうだ。俺は頭がいいってわけじゃないからな。でも、お前に言われたような楽な道へ行くことがそういうことじゃないってのは分かる。……ただ強くなるだけじゃ意味がねえんだ」
「へぇ?」
面白そうな声を上げた声の主を差し置いて、ウイングドラモンは続ける。
それはきっと自分に言い聞かせているのだろう。ウイングドラモンはそれをある意味の誓いとしているつもりなのだ。自分に言い聞かせているのは、それを忘れないようにするためだろう。
「まだ見つけられてねぇけど……俺自身で俺の求めるものを決める。勝手にお前が決めるんじゃねぇ」
「はは……。ちょっとあれだったけど……ま、これは本来の四大竜の試練じゃないし……いいか」
「なんだと?」
「及第点で、チンロンモンの真理は合格だ。次行っていいぞ」
「はい?」
一瞬ウイングドラモンは声の主の言葉を理解できなかった。
ポカーンと口を開けて固まるウイングドラモンに声の主は呆れたように同じことを繰り返し言う。
「だから、合格って言ってんだろ。ほら、次行け。次」
「なんか納得いかねぇ……」
「じゃ、不合格でいいか?どうせ
「いいわけあるか!」
試練の内容を知らないウイングドラモンとしては前回と同じように、いきなりの合格を言い渡されても納得ができない。
それでもウイングドラモンにとって以前の時とは違い、いろいろと気づけたのは僥倖と言えることである。
さすがは“試練”だ。だが、問題と思っていた第二の試練以前の試練でウイングドラモンはドッと疲れている。怒ったり、悩んだりするのにも、それなりに体力を使うのだ。
“やっぱりこれも四大竜の試練なんだな……”と、どこか侮っていた自分を引き締め直して、ウイングドラモンは次の試練へと向かって行く――。
暗闇を抜けた先。そこが第二の試練の行われる会場だ。
――竜、その名は力――
「来たな……」
獄炎のような地に響く声が聞こえてくるのと同時に、ウイングドラモンは臨戦態勢を取る。
この試練は前回失敗した試練なのだ。四大竜の試練の中でも、ウイングドラモンは特に警戒してしまうし、そもそも先の試練で侮りは消えている。
――汝、竜の名を持つものとして相応しい者か?――
現れる少し黒ずんだウイングドラモン。
以前と同じだというのならば、現れたウイングドラモンはウイングドラモン自身と同じ力を持つはずである。
ウイングドラモンはこの試練をクリアする条件を知らない。以前この試練を乗り越えたドルモンにも聞かなかったし、自身で考えてみても答えは出なかった。
だが、それでも。ウイングドラモンは引く気はないのだ。
「おぉおおお!『ブレイズソニックブレス』!」
「『ブレイズソニックブレス』」
小手調べとばかりに放ったウイングドラモンの灼熱のブレスはやはり同じ技で相殺された。
だが、それは予想通り。ウイングドラモンはその事実に顔を顰めることなく、戦闘を開始する。
別に策がある訳ではない。勝機があるわけでもない。それでもウイングドラモンは構わずに戦うのだ。
「ガァアアア!」
「おぉおおおお!」
速さも。力も。そして技も。何もかもが同じ相手である目の前の同じ姿の相手に向かって、ウイングドラモンはひたすらに攻撃する。
当然、一度としてその攻撃が通ることはない。だが、それは相手も同じこと。
前回、ウイングドラモンは焦りのあまり気がつかなかったが、攻撃が通じないのはこちらだけではなく相手も同じなのだ。
「……まだだ……!」
前回。ウイングドラモンは、相手は自分と同じハズなのに攻撃が通じないという状況に恐怖を抱いた。
だからこそ、前回の時はあのような最後を迎えてしまったのだ。その恐怖に耐えられなかったが故に。
「おぉ……おお……――!」
だが、今はもうあの時とは違う。ウイングドラモンは知ったのだ。
自らが追いつき、追い越したいと思う者たちの強さを。
自らが隣に立ち、共に歩きたいと思う者たちの姿を。
それを知ったウイングドラモンにとって、
その程度の相手に恐れを抱いているようでは、自分は一生あいつらに追いつけないだろうと。ウイングドラモンはそう思うのだ。
「おぉおおおお――!俺を――!」
攻撃が通じない。だからなんだ。相手は自分と同じ。だからなんだ。
その程度のことでウイングドラモンは諦められない理由があるのだ。
だからこそ。ウイングドラモンはその恐怖を押さえつけて戦うのだ。その恐怖を乗り越えるのだ。
「舐めるなぁっ!」
幾百、幾千の攻防の後。既に体力は限界で。
技も何もない。ウイングドラモンが気力だけで行う攻撃は、正直平常時のただの体当たりにも劣るだろう。
だが、咆哮と共に行われるウイングドラモンの突進。
それは――。
「えっ!?」
当たる直前に敵が消えたことで、空振りとなった。
突然の事態にウイングドラモンは辺りを見回すが、結果は変わらない。あの黒ずんだウイングドラモンはどこにもいなかった。
「どうなって……?」
「第二の試練、メギドラモンの強さ、合格ー!」
「はい?」
突如聞こえてくる第一の試練の時の声。突如聞こえてきた声に、ウイングドラモンは怪訝な顔をする。
「……なんでコエダケがここに!?」
「変な名前つけるな!俺はキノコじゃない!……ったく。俺は四大竜の試練の進行役だ」
「……進行役って……四大竜の誰かがやるんじゃねえのかよ?」
「ここのは大昔にあった四大竜の試練のレプリカだから、俺みたいなのが必要なんだよ。本来の四大竜の試練はどうだったが知らないがな」
進行役だというのなら、試練開始直前に試練の内容の説明くらいするべきだろと。そう思うウイングドラモン。だが、そんなウイングドラモンの思いに声の主は飄々とした声で答える。
「はは……なんでもかんでも教えてもらえると思うなよ?知らないで乗り越えることが重要なんだよ」
「なんだと?」
「試練の内容を知れば、
「当たり前だろ!試練なんだから!」
「だからだよ。
要はそういうことだ。
試練に対する対策をして望んでも、その者の真価は問うことができない。
試練とは唐突に行われるからこそ試練足りうるのだと。そういうことなのだ。
もっともこの試練が過去のもののレプリカである以上、どうしても内容は同じものになってしまうのだが。
「……そんなこと今言っていいのかよ?」
「別にいいさ。知ったからってこの試練はどうにかなるものじゃないしな」
「……ちなみに今までの試練って……?」
受けるからには、その内容を知りたいと思うウイングドラモンは声の主へと質問する。
先ほど、“なんでもかんでも答えると思うなよ”と言っていた割には、声の主は簡単に答えるのだった。
「チンロンモンの真理はその者の本心を見つめさせる試練。このメギドラモンの強さは恐怖を越えて己の強さを示す試練だ」
「恐怖を越える……?」
「恐怖。まあ、人それぞれなわけだが……お前の場合は自分の強さが通じない……戦いによる恐怖だな」
「それなら……俺自身より、圧倒的な力を持つ奴の方がいいんじゃないか?」
あいつらのように。最後の部分は言葉にしなかったが、ウイングドラモンは確かにそう思った。
「相手がお前自身の姿であるっていう点も大事なんだがな」
「……?」
恐怖というものは人によって違う。
ウイングドラモンにとっての恐怖は自分の強さが通じないこと。
であるならば、圧倒的な力を持つ他者との戦闘でのそれも、まったく同じ力を持つ自分自身との戦闘でのそれも変わらない。
ウイングドラモンは知らない。
強さを求め、
そして、恐怖に耐えて前へと進もうとしたからこそ、ウイングドラモンはこの試練を合格とみなされたということに。
とある世界。
漆黒の騎士は街を歩いていた。別に意味があるわけではない。ただ、忙しい中でも息抜きくらいは必要だろうと思ってのことだ。
そんな中で漆黒の騎士は目の前に一人の人影を見る。その人影は少女だ。
どこかで見たような、どこかで会ったような。だが、決して
「君は――」
「少し頼みがある。受けて欲しい」
簡潔にものを言う白く長いストレートな髪の人形のようなその少女は、唖然として目を見開いて固まる漆黒の騎士を強引に連れて行く。
かくして役者は集つつあった――。
というわけで第二の試練までの話でした。
今更ながらに四大竜の試練はもっと簡単にすれば良かったと後悔しています。
分かりにくくて質問疑問等あれば、感想で気軽に聞いてくださっても構いません。
我ながら本文中に説明を入れても、分かりにくいと思っているので。
次回は四大竜の試練後半。
それが終われば、四章ラストバトルに突入します。