「さて……」
声の主から聞きたいことを一通り聞いたウイングドラモンは、先へと進んでいた。
ちなみにアドバイスもせずに、試練に苦しむ人を見るだけのあの声の主にウイングドラモンは若干イラついたりしているが、それはほんの余談だ。
――竜、その名は幻想――
そんな時。声が響く。光のような天に透き通る声が。
そしてそれは第三の試練開始の合図だ。
――汝、竜の名を持つものとして相応しい者か?――
その直後。
光が世界を照らす。
その光が消えた時。その光に導かれたかのように、ウイングドラモンはその場から消えていた――。
「……ここは?って……なっ!?」
起き上がったドラコモンはふと、奇妙な違和感を覚えて、そして驚愕する。
自分はウイングドラモンで、先ほどまでは四大竜の試練を受けていたはずである。だというのに今いる場所はあの故郷で、自分はドラコモンになっている。
今までのことをすべて思い出したドラコモンは、そんな今の状況に訳が分からずに呆然とする。当然だ。誰だって突然昔に戻っているような事態に陥れば、呆然とするだろう。
だが、なによりドラコモンが奇妙に感じているのは、そのことに違和感を覚えていないことだ。自分にはウイングドラモンとしての今までの記憶が確かにある、だというのに自分がドラコモンであることに違和感を覚えないその違和感に。
「一体何が……?」
辺りを見回す。
ドラコモンはこの場所に覚えがある。故郷の森の中だ。
なぜこんなところに。これが第三の試練なのか。だとしたら何故。
次々とそのような疑問が浮かぶドラコモンだが、もちろん答えは出ない。
埒があかないとばかりに、とりあえず行動を始めようとするドラコモン。だが、そんなドラコモンに近づく者がいた。
「おーい……どうしたんだよ~?」
「ッ!」
聞こえてくる懐かしい声。
“もしかしたら……”という希望と“ありえない……”という否定の気持ちが、ドラコモンを振り向かせることができなかった。
もしくは予感があったのだろう。振り返ってしまえば、後戻りできないという予感が。
「おい、無視するなよ~!」
「ッ!ドラコモン……」
そうして現れたのは、ドラコモンとって忘れることもできない者。ここに居ることが有り得るはずのない者。あの機竜となってしまった――自分の友であるあのドラコモンだった。
「うん~?本当にどうしたんだよ?まるで死んで半透明になった奴に出会ったみたいになってるぞ?」
「それただの幽霊だろ」
「バケモンかもよ?」
どこかズレた回答をする目の前のドラコモン。
そんな目の前にいる友の姿に、“こいつ……こんなやつだったか?”と疑問に思ったドラコモンだが、すぐに“ああ……そういえばそうだったな……”と思い直した。
多分に美化された自分の思い出が壊される音が聞こえたドラコモンだった。
「って!旅人たちも待ってるぞ~?」
「……ん?今なんて……?」
「……本当にどうしたんだよ?だから旅人とドルモンも待ってるんだってば!」
目の前のドラコモンの口から聞こえた単語に思わずドラコモンは聞き返した。旅人とドルモンがここにいるはずないのだ。だってここは己の故郷なのだから。
ドラコモンが旅人たちに出会ったのは、己が故郷を出た後のことで――。
「ん?」
そこでドラコモンは首を傾げた。
自分はいつこの故郷を離れた、と。ドラコモンはこの故郷を離れたことなどないはず。それなのに、なぜ。
「ほら!早く早く!」
「っておい!引っ張るな!」
浮かんだ疑問の答えを探そうとするが、ドラコモンはその直後に己の友に引っ張られて、渋々歩き出す。そんな二人の行く先は森を抜けた先にある町。
二人のドラコモンがその町に辿りついた時に見たものは、街の入口の辺りで談笑している旅人とドルモンの姿だった。
「旅人……ドルモン……」
「どうしたリュウ?なんか変な顔してるぞ?」
「驚いたって顔してるよね~」
「なんで二人がここにいるんだよ!」
「……え?いちゃ悪いのか?」
“なにか問題でも?”とそんな顔でドラコモンを見る旅人とドルモンだが、ドラコモンとしては“そっちこそ何を言ってんだ!”という気分である。
「だってお前らとは……まだ……!」
「……まだ……何?」
“こいつはどうしたんだ?”と旅人は視線で、友である方のドラコモンに訪ねるが、残念ながらそちらのドラコモンは、“さあ?”と肩を竦めただけだった。
「まだ……まだ……あれ?何言おうとしたっけ?」
「本当に大丈夫か?」
少し心配そうな顔になる旅人たちだが、残念ながらドラコモンはそれどころではない。
旅人やドルモン、そしてあの友がいるのは自然なことなのだ。だというのに自分はそのことのどこに違和感を覚えたのだろうかと。
先ほどまで覚えていた違和感をドラコモンはもう忘れていた。
「うぅ……」
「お前はお前で何で泣いてんだ!」
「べ……別に……泣いてなんかないやい!」
「しばらく放っておかれたからじゃない?」
何故か涙目になっている己の友であるドラコモンにドラコモンが突っ込んで。
そんな
「っていうか、ドルやそっちのドラコモンはリュウと修行に行くんだろ?」
「え?ああ……そうだったな」
「んじゃ、いってらっしゃい」
「お~!」
町の中へと入っていく旅人を見送って。ドルモンとドラコモン二人は修行のために森の中へと歩いて行く。
何のために町まで戻ってきたのか、分からなくなったドラコモンだった。だが、それも
「さ!久しぶりだしね!ドルモン!リュウ!張り切っていこう!」
「いこ~!」
「……」
「どうしたの?」
「……なんでもない」
三人での修行は毎日飽きるほどしている。なのに、三人での修行に新鮮なものを感じたドラコモンは再びの違和感を覚える。だが、すぐに修行は始まってその違和感を気にしている暇はなかった。
「ふ!はっ!『ベビーブレス』!」
「こっちも!『ベビーブレス』!」
「負けるか!『メタルキャノン』!」
修行開始から数時間後。
放たれた三つの攻撃がぶつかり、相殺される。その攻防をもって、修行は終了するという
「……っく!やっぱり二人は強いな~!」
「何言ってんだよ!なんでお前は中途半端に一歩引く!そのせいで自分の技は届かないくせに、相手の技は食らうっていうバカみたいな状況になってんだろうが!」
「ドラコモンは好戦的なくせにどこか抜けてるよね~」
「だって……怖いじゃん!」
いつもの修行。いつもの会話。だというのにドラコモンはやはりどこかに違和感を覚える。というか違和感しかない。
しかし、違和感を覚えているハズなのにいつの間にか覚えた違和感は忘れてしまう。
だが、例え忘れたとしても違和感を覚えていたことは覚えているという、無間地獄のような気味の悪さをドラコモンは感じていた。
「……疲れたな~!」
「そろそろ帰らないと~。……リュウ、さっきからどうかしたの~?」
「……ん?ああ、いや……なんでもない」
町へと話しながら歩いて帰る三人。
今日の修行はどうだったとか、明日はどこで修行をしようかとか。
話す内容が修行に偏っているというのはアレなのだが。
「明日はあの採石場の方で修行しない~!」
「あ!いいな!ついでに宝石欲しいし!」
「採石場……?」
採石場。その言葉にドラコモンは何かを思い出しそうになる。だが、結局思い出す前に三人は町へと着いた。
「遅かったな。もう飯は準備されてるぞ?」
「旅人!……キノコはないよね?」
「はは……どうだろうな?」
「うわ~ん!キノコ嫌~!」
飯に向かって駆けていく己の友とドルモンを見ながら、ドラコモンはもう何度目になるかも分からない違和感に襲われる。
忘れたくない何かを、忘れてはならない何かを忘れている気がすると。ドラコモンは必死になって悩む。
「……リュウ。どうかしたのか?変な顔してるぞ」
「旅人。いや……なんかおかしい気がしてな」
「なんか……ってなんだ?」
「それが分からないから……唸ってる。……なあ、俺ってドラコモンだよな?」
旅人に尋ねられるドラコモンだが、そもそもドラコモンとてはっきりとそれが分かっている訳ではない。
だが、ドラコモンは旅人の言葉にどこか妙な違和感を覚えた。それこそが、この違和感を解消するための何かではないかと、ドラコモンは必死になってその何かを手繰り寄せようとする。
「何を当たり前のこと言ってんだ?」
「……そうだよな。じゃあ……」
「……?」
「俺って何でリュウって呼ばれてるんだ?」
そう、それこそがドラコモン最大の違和感。
自分の友は“ドラコモン”という種族の名で呼ばれているのに、自分は“リュウ”という個体名前で呼ばれている。
ドラコモンはそのことがずっと気にかかっていたのだ。
「……何を当たり前のこと言ってんだ?ずっとそうだったろ?」
「ずっと?……そうか、ずっとか……」
違和感。
そう、今までで一番大きな違和感。これほどまでに大きな違和感は
そしてドラコモンが気になったのはあと一つ。
「……お前今日本当に大丈夫か?」
「……なあ、俺たちって……」
“どんな関係だったっけ?”と。そんなドラコモンの言葉を旅人は薄ら笑いで、さも当たり前のように――パートナーだろう、と。
その言葉ですべてが繋がった。その言葉ですべて気づいた。
“あの友の姿ではなく旅人の言葉で気づくとは我ながら間抜けだ”と、ドラコモンはそう思う。だが、これではっきりとした。
「……そうか」
「……納得したか?」
「ああ。……本当に……」
くだらないと。
ちなみにウイングドラモンは飛ぶために羽ばたく必要はない。今ここで羽ばたいたのは強いて言うのなら、気合を入れ直すためだ。
そして目の前のドラコモンが急にウイングドラモンとなったというのに、旅人は微動だにしなかった。
「へぇ?気づいたか?」
「ああ……ここがどんな世界かしらねぇが……俺はまだお前らに認められてないんだよ」
「……オレはお前のこと認めてるぞ?」
「はは……俺が言ってんのは現実のお前だ」
「……」
言われた旅人の言葉に一瞬、ウイングドラモンはまた忘却の彼方へと旅立ちそうになるが、それを気合で押しとどめる。
自分はあの友のことで一度逃げたことがあるのだ。だからこそ。今から逃げるわけには行かないし、逃げたくはない。
そんな自らの決意をその胸にウイングドラモンは飛ぶ体勢に入る。
「行くのか?あいつらに挨拶は?」
「……あいつらに会うと戻れなくなりそうだからな。もう今を見失うようなことはしたくない」
「そっか。じゃ、現実で会おうな」
「……。おう!今よりはずっと強くなってお前らのとこに戻るからな!」
後ろ髪引かれる思いを押し止めて、ウイングドラモンは飛翔する。
その先で、ドルモンと一緒にいるドラコモンを見たような気がした直後。ウイングドラモンは元の空間へと戻っていた――。
「へえ……第三の試練。ホーリードラモンの現実を乗り越えたのか」
「……すっげえ嫌なもん見た気がする」
「でも嬉しかったろ?」
「……ノーコメントだ」
あの夢のような世界から脱出したウイングドラモンを出迎えたのは、あの声の主だった。声の主の言うことによると、やはりアレは第三の試練だったらしい。
「あれが第三の試練……すっげえいやらしい試練だな」
「……どんな世界だったのか気になるな。この試練は夢の中で現実を見つけることができるかどうかの試練だ」
「なるほどな……」
つまりあの夢のような世界は真実、試練を受ける者それぞれに対応する夢だということだ。
夢の中でそれが夢だと気づけるかどうか。それが第三の試練の主な内容だということであろう。
「竜というのは幻想の産物でもあり、現実の産物でもある……お前の夢である幻想には、お前の求める過去と未来があった。だから、お前が求める
「なるほどな……」
「ま、お前のライバルの最終進化系は幻想が飛び出したビックリデジモンだったりするんだがな……」
「……どういう意味だ?」
「……ん?気にすんな。ま、あれはある意味反則技使った存在だから一概に言えないんだ」
「反則技?……何言ってるかホント分かんねえ……」
「さて……」
一度に分かるいろんな情報にうんざりとするが、その情報をもたらす声の主の雰囲気が急に変わったことで、ウイングドラモンは気を引き締めた。
直感的に、次の試練に関することだと、ウイングドラモンは理解したのだ。
「真実を知り、恐怖を乗り越え、現実を見つけ出せたお前は最後の試練を受ける権利がある。といっても最終試練はこのレプリカでも死ぬ可能性がある。リタイアするならここでだぜ?」
その言葉でウイングドラモンは理解した。
以前何故ドルモンがこの最終試練を受けなかったのは、この四大竜の試練自体ドルモンにとって態々死を覚悟してやるような試練じゃなかったからだ。
だが、ウイングドラモンとしてもここで引く気はない。
もちろんウイングドラモンに自殺願望があるわけではなく。その程度で怖気付くようなら、結局いつまで経っても自身が目標とする者たちに追いつけない気がしたからだ。
「ここまで来たんだ!受けずして帰れるか!」
「はっ!いい返事だ!」
――竜、その名は神話――
ウイングドラモンが返事をした瞬間、声の主の気配が消え、代わりにこの空間に声が響く。神様のような世界を奮わせるその声が。
――汝、竜の名を持つものとして相応しい者か?――
「……」
何が来るのか。
前のようにいきなり誰か来て話しかけるのか、襲われるのか、それとも先ほどのように違うところに移動させられるのか。
だが、第四の試練にして最終試練はウイングドラモンの想像の斜め上を行っていた。
それは――。
「ッ!」
それは一言で言えば神話の再現だった。
いつの間にかウイングドラモンはあの空間ではなく、嵐の真っ只中にいた。
嵐が止んだと思えば、津波が襲い来る。津波が収まったかと思えば、氷河期さながらの極寒の世界に変化する。かと思えば次の瞬間、氷の隙間から高さ数キロのマグマが噴出し、世界を獄炎の地獄に変える。
天地創造の再現のようなその世界。ウイングドラモンは巻き込まれないように必死に逃げようとするが、天災とも言い換えることができるソレは、ウイングドラモンの自由を許さない。
「あぁあああああああ!っく……ぬがあああああ!」
風に飛ばされ、雷に射たれ、炎に焼かれ、水に流され、氷に凍てつかされる。開始から数分と経たってないというのに、ウイングドラモンはもう満身創痍だ。
当然だ。目の前で起こっているのは天地創造の再現。生命のいない――否、存在すら許されなかった時代の再現。そんな時代に、たかだか生物が生き残れるはずもない。
「っく!負けるか……!」
負けじとその天災の中で必死にその命を繋ぎ止めようとするウイングドラモン。
だが、不意にその急激な世界の変貌が収まる。まるで先ほどまでの天災が嘘であるかのように。
「……え?」
その急激な変化にウイングドラモンが何かあるのかと思わず疑ってしまうのも無理はないだろう。
だが、何かが起こる気配がない。否、正確には現在進行形で先ほどとは真逆の現象が起こっている。先ほどのマグマが固まった大地に木々などの植物が生え始めているのだ。よく見れば何らかの小さな生物たちもチラホラと見ることができる。
「……一体これは――?」
ウイングドラモンは余裕が出来たことで、傷と疲労を癒しながらこの試練について考えることができた。だが、この試練の意図はどうしても分からない。
「……なんだって……ッ!」
その数十分後。再び世界が変貌する。
嵐が吹き荒び、雷が鳴り響く。津波が踊り、氷河が世界を覆う。炎が燃え盛り、大地が溶ける。
再びの天災にウイングドラモンは耐えることで精一杯になり、ろくに考え事ができない。
「……っく……!ぬがぁあああああ!」
神話の再現とも言えるほどの天災。言うなれば相手はこの世界そのものといっても過言ではない。
明確な敵としての姿のない、抽象的な世界そのものを相手取って勝つことなどウイングドラモンですらも不可能だ。せいぜい多少抗うことができるかどうかだろう。
それでもウイングドラモンには諦めるつもりはない。
活路を見つけるために。ウイングドラモンはその天災に耐えるのだった――。
その時、ウイングドラモンは
「ハッハッ……ハッ……ッグ……ァア!く……そ……っ!」
試練開始からどれほど経ったのか。数時間か。或いは数日か。
どれほど経過したのかウイングドラモンには分からなかったが、この間でウイングドラモンはこの試練について分かったことがあった。
これはあの神話の再現のような破壊が起こる時間と生物や植物が繁栄する世界の再生のような時間の二つの時間が繰り返しで行われる。
そして天災の時間は地獄だが、再生の時間は多少休むことができる。
もっともあくまで多少であり、気休めにしかならないレベルなのだが。
分かったことは以上であり、それしか分かっていない。
といっても今のウイングドラモンは自由に過ごせる時間をすべて休息に当てているため、まともな考えをすることができないのだが。
「ハッ……ハッ……ハァ……。くそ……どうすりゃいいんだ……」
幾度もの繰り返しを経験したウイングドラモンは直感的に理解している。
そろそろまた変わるぞと。
精神的にはともかく、体はボロボロで体力的にも厳しい。早急に解決策を見出せなければ、ウイングドラモンの命はここで終わることとなるだろう。
だが、いくら考えても答えは出ない。焦りは募るばかりだ。
そしてその数分後。また破壊が始まった。
「がっ!」
暴風で飛んできた岩をその顔面に食らい、よろけた所にさらに岩が飛んでくる。飛んで避けようとするも、吹きすさぶ暴風がウイングドラモンを自由に飛ばせない。
「……ッ!」
耐えに耐えたウイングドラモンだが、ふとウイングドラモンが顔を上げた瞬間。ウイングドラモンの眼前を閃光が覆った――。
「ガッ……!」
一瞬遅れて雷に射たれたのだと気づいた時。ウイングドラモンの体はもうほとんど動かなかった。
極限までの疲労と重傷とも言える傷でとうとうウイングドラモンの体に限界が訪れようとしているのだ。
おそらく次の再生の時間まで持たないだろう。
「っく……この……!弱気に……なるなっ!」
諦めるわけにはいかないと。ここで終わりたくはないと。
絶対的ともとれるこの天災を前に生まれる弱気を気合で押さえつけて。
「……こうなったら……!」
一か八かだと。
ウイングドラモンはついに決断する。このまま終わるくらいならば、やるだけやってやろうと。
つまり、ウイングドラモンは世界を相手取る覚悟を決めたのだ。
耐えることを辞め、攻勢に出る。もう体はボロボロだ。おそらく一撃しか攻撃することはできないだろう。
だからこそ。ウイングドラモンはその時を狙う。
「……ガハッ……っく……だ……まだだ!」
募る焦りを抑えて、ウイングドラモンが狙う時。それは間だ。嵐や津波、氷河期に溶岩。それらは一度に出ることはなく、またそれらが切り替わる瞬間は一瞬だが僅かな間がある。
ウイングドラモンはその一瞬の間を狙っているのだ。
放つ技は決まっている。ほとんど動くことはできないこの状況で広範囲に渡って放つことができる技。
もはやウイングドラモンは避けることにも、耐えることにも力を使うことはしない。最後の一撃のためだけに残った力を回しているのだ。
そして――ついにその時が来る。
「……!来た!ァアアアアアア!」
遠くに過ぎ行く嵐と入れ替わるように目の前に広がる世界を飲み込む大津波。
到達まで一秒もないだろうソレに向かって、ウイングドラモンは最後の技を放った。
「『ブレイズソニックブレス』ゥ!」
音速を超えて放たれた
後に残ったのは、まるで巨大な剣に断たれたかのような世界に刻まれた巨大な傷跡だけだった――。
そしてウイングドラモンはあの空間で目を覚ます。
しばらく呆然としていたウイングドラモンだが、しばらくして最後の試練を乗り越えることができたのだと思い至った。
「はは……やった……やってやったぞ!」
「そりゃ、おめでとさん。最終試練のゴッドドラモンの神話……見事に乗り越えたな」
「お前か……」
「最後の試練は神話の再現だ。竜というのは神話であり伝説。あの神話の世界で、神話になるようなことをすること。それが最後の試練だ」
竜というものは神話の中に存在するものも少なくない。
あの破壊と再生という神話が再現された世界で、己という神話を残すこと。それが最後の試練。
ウイングドラモンの場合は、世界の両断。まるで剣で斬ったかのような世界の姿は、正しく神話の中の出来事だ。そんなことを成し遂げたからこそ、ウイングドラモンはこの試練を合格とみなされた。
他には再生の時間に国を作るとか、再生の時間に破壊の時間に負けないような大破壊を行うとか、年単位であの破壊の時間を耐えるとかだ。
「己の真実を見つけ、己の恐怖を強さで乗り越え、己の幻想から現実を見つけ出し、己の全てで己を神話に昇華させた。レプリカとはいえ、お前は間違いなくこの四大竜の試練を修了した者だ」
「よっしゃ!」
「ま、これはレプリカなんだが……四大竜の試練を修了したことには変わりない……」
言葉を濁した声の主に、ウイングドラモンは不思議そうな顔をする。
なぜ言葉を濁したのか分からなかったのだ。
「……これからは四大竜の試練とは関係ない。個人的にお前に渡すプレゼントだ」
「……?どういう意味だ?お前はただの進行役じゃ……?」
「はは……ま、そうなんだが……受け取るか?受け取らないか?」
「……ま、もらえるものは貰っとくよ」
「よし。ならもう少し進んでくれ……そこで待ってる」
声の主に導かれて、ウイングドラモンはさらに奥へと進んで行く。
次回から旅人たちの方へと戻ります。
ちなみにこの四大竜の試練は全部で四つ。それぞれの竜に対応しています。
チンロンモン→02でブラックウォーグレイモンを諭していたから、内面に対する試練に。
メギドラモン→個人的なイメージと図鑑の最後の方の設定から、強さと恐怖を乗り越える試練に。
ホーリードラモン→設定の普段どこにいるのか分からないっていう一文から何かを見つける試練に。
ゴッドドラモン→設定文とここまでひねくれたものばっかりだったので、王道的な試練を。
ちなみにゴッドドラモンの試練が一番悩みました。他のやつは四月上旬には決まっていたのに……。そのせいかゴッドドラモンの試練は文字数が少ないかもしれません。
そして最後。あの声の主が……?
では次回もよろしくお願いします。