一瞬の交差の後、ドルゴラモンは自身が切られたということに気がついた。
離れ離れになった上半身と下半身。普通ならばその状態でも意識を保っているということだけで驚くべき状態だ。
訪れる死。だが、ドルゴラモンにとって死というものは終わりにはなりえない。なぜなら――当人もうまく言えないことではあるが――ドルゴラモンは知っているから。
終わりの続きにあるその先のナニカを。
「……!アァ……まだ……だ!」
かつてのその体験を思い出しながら、ドルゴラモンはイメージする。沈み行く暗闇の中から這い出て再びの未来を掴むことを。死という絶対の終わりを覆すことを。
そしてそれを持って“条件”は揃った。デクスリューション。もっとも禁忌された死の進化を果たす為の条件が。
「おぉおおおおおお!負けるかぁあああああ!」
「ッ!……しつこいなっ!」
その条件の達成をもってドルゴラモンはデクスドルゴラモンへと進化する。
その条件とは死を経験すること。そして死の最中にあっても未来を望む不屈の意志だ。
その二つの条件の達成を持って、その進化は
「おおぉおおお!らぁっ!」
「っぐ……!」
先ほどよりも力の上がった拳を剣で受け止めたアルファモンは思わず苦い顔をする。分かっていたことであったが、予想以上の力の上昇率に苦い顔をしたのだ。
「……傍から見ればこのようなおぞましい姿であったとはな。かつてのこととはいえ、自身がそのような姿になったかと思うと寒気がする」
「……?」
「ふっ……こちらの話だ!『デジタライズ・オブ・ソウル』!」
アルファモンが両手から出した魔法陣から、いくつものエネルギー弾が放たれる。
ちなみに『デジタライズ・オブ・ソウル』という技の本来の力は異次元より
今回は異次元より無限に等しいエネルギーを断続的に呼び出しているというわけだ。
そして放たれたエネルギー弾は寸分違わずにデクスドルゴラモンへと殺到して、直撃する。
「……この程度!」
「……何?」
だが、アルファモンの技の直撃を受けたにも関わらずデクスドルゴラモンは無傷だった。
自身の技が微塵も効いた様子も見ることができないその事態にアルファモンは思わず顔を顰める。
「……ならば!」
「……!空に……!」
デクスドルゴラモンが行動を起こす前に、すぐさまアルファモンは空高く飛翔する。
デクスの力を、身をもって
追ってくるデクスドルゴラモンを空中で蹴落として、直後に先ほどよりも巨大な魔法陣がアルファモンの両手より展開される。
巨大な魔法陣から放たれる先ほどよりも強力なエネルギー弾の数々。魔法陣の巨大さも相まって、一秒間あたりに出てくるエネルギー弾の数も先ほどまでとは桁違いである。
「……」
だが、目の前に広がる圧倒的なエネルギー弾の数々を見てもデクスドルゴラモンの心は穏やかに凪いでいた。
焦る必要などまったくないとばかりに、デクスドルゴラモンは目の前の技に脅威を感じなかったのだ。
「おぉおおお!」
「……ッ!何ッ!?」
一つ一つが並みのデジモンを塵も残さず消滅させる威力である自身の攻撃をものともしないかのように、無傷でエネルギー弾の嵐の中を突っ切ってくるデクスドルゴラモンにアルファモンは怪訝を通り越して驚愕の声を上げた。
「……傷が再生しているのか!?」
そんな中で、アルファモンの尋常ならざる動体視力はさらに信じられない現象を目にする。
デクスドルゴラモンは無傷でエネルギー弾の嵐を突っ切っている訳ではなく、受けた傷が受けた傍から回復していっているという信じられない現象を。
その再生能力があるからこそ、デクスドルゴラモンは強力なエネルギー弾に対して突っ込んでいくという荒業ができたのだ。
「……これくらいで――!」
「しまっ……」
デクスは死を乗り越えて未来を望んだからこそ辿りついた姿でもある。ようするに死という概念がないのだ。だからこそ、死をもたらすような攻撃が一時的にでも効かなくなる。
もっとも、そのせいで他者から命を奪わねばならないほどエネルギー効率が極端に悪いという欠点があったりするのだが、元々進化を一時的なものとしているデクスドルゴラモンにはあまり関係なかったりする。
「オレたちの未来を!奪えると思うなぁ!」
そうして遂に、エネルギー弾の嵐を超えた先にいたアルファモンの下にデクスドルゴラモンは辿り着く。エネルギー弾の制御と驚愕の中で隙を晒しているアルファモンにその攻撃を防ぐ術はない。
咆哮とともに振り上げた拳をデクスドルゴラモンは叩きつけようとして――。
「なっ!」
その懇親の一撃は二本の刀に防がれた。二本の刀を持った黄金の武者龍。その武者龍にデクスドルゴラモンの攻撃は防がれたのだ。
デクスドルゴラモンはその龍を知っている。ともに異世界を旅した仲だ。旅仲間とでも言うべき間柄のその龍は――。
「オウリュウモン!?どうして……!」
そう、オウリュウモンだ。
突然の乱入者にデクスドルゴラモンは驚愕する。しかも、先ほどのオウリュウモンの行為はどう贔屓目に見ても、アルファモンを庇ったものだ。
この状況でそのような介入は、デクスドルゴラモンにとって歓迎できるものではない。
「ふん。見ない間に少しはマシな感じになっているな。それにしても……久しいな友よ」
「……何をしに来た?」
アルファモンと普通に話すオウリュウモンの姿に二人は旧知の仲であることをデクスドルゴラモンは知ることができた。
問題は、オウリュウモンが何をしに来たのかである。いや、オウリュウモンの行動を見れば、見るも明らかなことではあるが。
「……勝手に負けそうになっているから助けに来ただけだ」
「……すまん」
「しかし……これも奇縁かな。
「……そうだな」
「……。オレが悪者みたいな言われ方……」
明らかなことではあったが、これではっきりしたことが一つある。すなわち、オウリュウモンはアルファモンの味方であり、デクスドルゴラモンの敵であるということだ。
「では……久しぶりに共に戦うとしよう!」
「……あぁ!」
「……。納得いかない……!」
そも、デクスドルゴラモンはオウリュウモンとは見知った仲だ。そのオウリュウモンがいきなり敵に回ったことで、デクスドルゴラモンは若干動揺してしまっている。
釈然としない気分とどこか乗り気でない気持ちを味わいながら、デクスドルゴラモンはアルファモンとオウリュウモンと向かい合った――。
時は少し前に戻って。一方で旅人は仮面の男と戦っていた。
オメガブレードを振り回す仮面の男の攻撃を必死になって避けている旅人はそろそろ限界が近づいている。
体力に差がありすぎるのだ。アームズデジクロスは総合能力の底上げという便利な力だが、体力を多分に消費する。以前使った時は、旅人は疲労感で戦闘後に寝転がってしばらく動きたくなくなったほどである。
その疲労感ゆえに今まで旅人はアームズデジクロスを使わなかったのだ。あまり関係のない所で使って疲れるのはゴメンだと思ったがゆえに。
もっともそのせいで今、練度不足で苦労しているのだが。
「ったく!一体お前ら何なんだよ!」
「ふん!知りたければオレを倒してみろ!」
「そしたら聞けなくなるだろうが!」
「お前が生き残れば、どうせ
「相変わらず意味わからんことばっか言うな!」
怒鳴り合っているその様から見れば、充分元気であるようにも見える旅人だったが、もちろん空元気である。
そして、そのことは仮面の男も理解している。だからこそ、会話に付き合っている。それは体力を余分に消費させようとする、仮面の男の嫌がらせレベルの稚拙な作戦だ。
「カードが残り少ない……!set『捕縛』『最大強化』」
「set『捕縛破壊』!相変わらずカードに頼っているな。元々白紙のカードはそのような使い方をするものではないというのに!」
「なんだと!?お前が教えたんだろうが!っていうかお前だってこうやって使ってるだろ!」
「そりゃ、便利だからな!」
旅人が白紙のカードを変化させて強化した『捕縛』の鎖を仮面の男も白紙のカードを使って破壊する。
同時に仮面の男が話した内容に混じる意味深な言葉。だが、続く戦いのストレスでテンションが上がっている旅人はそのことに気づいてなかったり――というよりも流したのだが――する。
「っち!カードの無駄遣いが過ぎるか……『ファントムペイン』!」
旅人の口から吐き出された黒い吐息が仮面の男に真っ直ぐに向かって行く。
だが、それを見た仮面の男はすぐにカードを取り出して対応する。
「set『風』!そらっ!」
仮面の男の起こした風により散っていく己の技を見ながら、旅人は苦い顔をする。
先ほどからずっと全力で戦っているというのに、向こうはすべてに何でもないかのように対応する。
カードという力を旅人以上に仮面の男が使いこなしているというのもその理由の一つだろう。仮面の男は能力的にもそのまま旅人の上位互換版と言い換えてもいいほどだ。
「ぜっぜっ……後残っているカードが……はぁはぁ……白紙のカードと三枚と属性カード数枚に……『転移』と『反発』と……泣きてー」
旅人の経験から言って使ったカードが戻ってくるまでまだかかるだろう。
残っている自分のカードを逃げ回りながら旅人は思い浮かべていく。仮面の男の持っているカードの種類が自分と同じならば、仮面の男は自分の約二倍以上のカードを温存している計算になる。
あんまりな状況に思わず泣きたくなった旅人だ。
「だったら、ここで終われ!」
「はっ!それは嫌だね!」
振り下ろされた剣を転がるようにして避ける旅人。その姿にみっともないと哀れむべきか、それとも避けることができたことに流石と称賛するべきか。
とりあえず体力的にもキツくなっている現状。旅人は着実に追い込まれて言っている。
「はっはっ……はぁ……くそ!馬鹿力め!」
「……まだやるのか?」
「お生憎様だけど……諦めたくはないんでね!」
「……いつも似たようなことを!」
「これまだ一回目だ!……たぶん」
「記憶力に難アリ……か。大変だな、その歳で」
「うるせえ!」
思わず怒鳴り返した旅人だが、流石に限界が近い。というよりこれ以上はアームズデジクロスを維持できないだろう。強制解除からの蜂の巣になるヴィジョンが見えてきた旅人は必死になってこの場を切り抜ける案を練っているが、いい案が思いつかない。そろそろ本気でお手上げ状態になりそうだった。
とはいっても、お手上げイコール死だ。旅人でなくても、大抵の者は諸々の限界を無視してでも足掻くだろう。
「はぁ……もういい。終わらせるべきだな」
「ッ!まっ――」
「『オメガブレード』!」
仮面の男の持つ剣に刻まれた文字が一瞬にして光り輝く。
頬を引き攣らせ、嫌な予感を感じながらそれを見た旅人はすぐに回避行動に移る。だが、はっきり言って動きが拙い。それだけ疲労が溜まっているのだ。
旅人は転がるようにして横凪に振られた剣の直撃を避け、真っ二つになることは避けられた。だが、完全に躱すことはできずに、剣は僅かに旅人の服の裾を掠った。
瞬間――。
「なっ!」
アームズデジクロスが解除された。
元の服装へと戻った旅人はすぐに仮面の男に向き合う。だが、体力とカードが共にほとんどない今の状況で、ダメ押しとばかりに通常状態に戻ったのだ。状況は最悪と言える。
しかも、アームズデジクロスが解除されたのは、旅人の体力切れが理由ではないのだ。旅人が困惑するのももっともである。
「一体何で……?」
「ふん。言うと思うか?」
「……。ってことはお前が何かしたんだな」
「……」
薄々と感づいていたことではあったが、口を滑らせた仮面の男によって旅人は確証を得ることができた。
おそらく仮面の男が何かしたということに。そしておそらく直前の現象からあの剣の能力だろうということも。
もっとも、それが分かったからといって状況が改善される訳ではないのだが。
「……う、おほん!さっさと死ね!」
「……オレのせいじゃないだろ!」
墓穴を掘ったことが恥ずかしかったのか八つ当たりしてこようとする仮面の男に、旅人はカードを使おうとして、その瞬間――。
「……またか」
「……や、旅人。大丈夫?」
「……お前がな」
いつかと同じように
そのドルゴラモンを追うようにして降りてくるアルファモンとオウリュウモン。
そんなオウリュウモンの姿に旅人は思わず怪訝な顔をする。
「オウリュウモン……?ってことは、またナムからの命令か?アイツ……オレを助けたり……よく分からんなー」
「喜べ若造。今回は姫様は関係ない」
「……なるほど。で?お前はオレたちの味方……じゃないよな?」
「ほう。よく気づいたな。さすがの若造とはいえ見ない間に成長しているようだ」
「……久々に会っても変わんないな、お前」
とはいえ、見知った仲のオウリュウモンを相手するのは旅人といえども心苦しいものがある――ように見えて、旅人は“ボコボコにしてから後で理由を聞けばいいか”とオウリュウモンに対しての不満をここぞとばかりに発散する気満々だ。
「さて、再開と行こうか?」
「……マズイな」
「まずいね」
この消耗した状態での三体二での戦闘。
地力で劣っている上に数でも負けているのだ。まずいというレベルではない。
「行くぞ!」
剣を構えて突撃してくるアルファモンに向かってドルゴラモンは拳を構える。
だが、その瞬間にオウリュウモンが先んじて攻撃し、ドルゴラモンの邪魔をする。見事なチームワークだ。
オウリュウモンがドルゴラモンの態勢を崩した瞬間に、アルファモンが切り込む。
仮面の男を振り払った旅人がカードを使おうとするが遅い。
アルファモンの剣がドルゴラモンに向かって行き――。
「何?」
上空からいきなり目の前に刺さった、アルファモンの手にあるものと
いきなりの事態に仮面の男を含んだその場の全員が唖然としている。
「……誰だ?」
「ッ!なっ!」
呟くかのようにアルファモンが虚空に問った瞬間。上空から二つの影が降りてきた。
片方の影の主は漆黒の騎士だ。剣を構える漆黒の騎士は油断なく目の前にいる敵を見据えている。眼前にいる敵と同じその姿の漆黒の騎士に旅人とドルゴラモンは絶句する。
そしてもう片方の影の主は白き竜騎士。不思議な形状の大剣を構えたその竜騎士は旅人とドルゴラモンを守るように飛んでいる。
「俺たちは――」
「――旅人のパートナーだ!」
そして。異世界とこの世界にて旅人をパートナーと呼んだ二人が参戦し、いよいよ事態は終局へと向かって行く――。
はい。というわけで中盤戦模様でした。そして遂に謎のパートナーたちの参戦です。
いったい誰なんでしょうか?(棒)
あと、活動報告の方にもチラッと書きましたが、最近忙しくて更新が不定期になりそうです。
この話も急いで書き上げたので、もしかしたらどこかおかしい所があるかもしれません。そのようなところを見つけたら、お手数ですがご報告ください。
では次回もよろしくお願いします。