あと長くなったので分割しました。
一方でその頃。旅人は未だ引きずられていた。
それまでの戦闘で体力が限界だったということもあって、仮面の男に引きずられている旅人は本気で鎖から抜け出すことができずにもがく羽目となっているのだ。
「いつまで旅人を引きずってんだ!」
そんな時、スレイヤードラモンの怒鳴り声とともに振り下ろされた剣で鎖が切られたことによって、ようやく旅人は開放されることとなる。
「のわっ!」
だが、それまで勢いよく引きずられていた旅人だ。急にその引きずっている力がなくなればどうなるか。答えは簡単で、勢いのままに反動で宙に投げ出されることになる。
だが、地面に叩きつけられる前にスレイヤードラモンが剣を持っていない片手で旅人を器用にキャッチした。
仮面の男の攻撃をその背のマントを翻しながら防いだスレイヤードラモンはまるで物語の騎士のようで、とても格好良く見えたことだろう。
「……助かった……けど……なんだかな……」
「礼くらい言えよ!」
「……わるい、ありがとう……リュウ。助かった」
剣を構えて仮面の男を牽制しながら、スレイヤードラモンは旅人の今の状況を大体把握する。もっとも、先ほどまでの一連の行為で大まかなことは把握していたりするのだが、それでも変わりゆく事を逐一把握するに越したことはないだろう。
とはいえ、旅人の様子的に先ほどと変わったことはない。すなわち――。
「ぜっ……ぜっ……」
今の旅人はあまり戦力にはならないということだ。
疲労が行き過ぎで、旅人はすでに虫の息。いかに進化したとはいえ、この状態の旅人を庇いながら戦うのはスレイヤードラモンとて御免被りたい状況には違いない。
「……面倒だな……旅人!お前のカードでさっさと回復しろ!」
「……分かってるよ!」
「させると思うか!」
「させるよ!」
旅人のカード使用を妨害しようとした仮面の男を、スレイヤードラモンがさらに妨害する。その間にできた僅かな隙。その僅かな隙に急いで旅人は白紙のカードを使用する。
「set『再生』!」
一気に疲労その他諸々の症状が回復した旅人は、そのままカードを何枚か取り出して仮面の男の足止めをしているスレイヤードラモンの元へと急ぐ。
スレイヤードラモンの参戦によって余裕が出来たとはいえ、旅人はスレイヤードラモンにすべてを任せる気はなかった。あの仮面の男とは自分がやらなければならないという奇妙な義務感を感じたのだ。
「さすが竜の勇者と同じ姿だ。なかなかやる」
「っく!そっちこそなかなかや……旅人!大丈夫なのか!?」
「大丈夫だから来たんだろうが!行くぞ!」
「ふん。足で纏いにしかならないような奴が!」
合流した旅人とスレイヤードラモンの息の合った攻撃。
だが、驚くべきことに仮面の男は二対一という状況――しかも片方は究極体――だというのに互角以上に戦っている。
以前、旅人は背丈や声などの外的なものから目の前の仮面の男は人間ではないかと察した。だが、“実は究極体デジモンなのではないのだろうか”とそう思うくらい、仮面の男は強い。
「ッ!まずっ!」
「旅人!あぶねえ!」
ちなみに二対一の状況で仮面の男が戦えている理由の一つに、旅人が足を引っ張っていることがある。
アームズデジクロスの解けた旅人は地力で劣るがゆえに足を引っ張っているのだ。
こればかりはどうしようもない。『リリスモン』のカードはまだ戻って来ないし、『投影』のカードもかなり序盤で使っていて、まだ戻って来ていない。
つまり、アームズデジクロスの素材できるカードがないのだ。白紙のカードはあるにはあるが、相手もまた白紙のカードが何枚か残しているため、白紙のカードで作り出しても上手くいかないだろう。
「っく……」
「……旅人……アレ行けるか?」
「アレ?……あぁ、あれか。いや行けるけどさ……」
戦力的な意味での旅人の限界は大きい。
それだけ仮面の男は強いのだ。スレイヤードラモンとしても本気を出さずしてどうにかできる相手ではない。
だからこそ、スレイヤードラモンはそれを提案したのだ。
もっとも、スレイヤードラモン自身が以前話に聞いていたソレに興味があったということもその提案に多分に影響しているのだが。
「それじゃ……行くぜ!旅人!」
「……一応オレが主になるって……気づいてないんだろうなぁ。スレイヤードラモン!アームズデジクロス!オレアームドスレイヤードラモンってな!」
アームズデジクロスの発動と共に、旅人にスレイヤードラモンと同じ鎧と剣が装備される。
一応、旅人はカードで作り出したデジモン以外でのアームズデジクロスは初めてだったのだが、前例と比べて違和感が特にないことを考えると成功のようだった。
「……またアームズデジクロスをしたのか。使える奴を副にして足で纏いを主にするとはな……」
――うるせえ!言ってろ!旅人!さっさと終わらせんぞ!――
「……え?スレイヤードラモン喋れんの!?」
違和感がないどころではない。違和感大アリだった。
今までカードで作り出した意志無きデジモンとのアームズデジクロスしかしていなかった為に、旅人はアームズデジクロスをしたデジモンが話せることが分からなかったのだ。
――ほら!前!来たぞ!――
「ッ!っく……」
仮面の男が振り下ろした剣を旅人もその手に持った剣で受け止める。
だが、スレイヤードラモンの剣は独特な機能を持つようで、旅人は上手く扱うことができない。
一応、技の使い方はアームズデジクロスした時点で頭に入っているのだが、スレイヤードラモンの技は体を動かしながら行う技が多い。
それはつまり、技の使い方と発動ができるからといって、旅人自身が体を技通りに動かせるかどうかという問題が生まれてくるということだ。
ちなみにリリスモンの技の時は発動するだけで良かったので、そう苦労しなかった。
――旅人、何してんだ!――
「ぐ……黙ってろ!まさかアームズデジクロスにこんな問題があるなんて……!」
「ふん!己の技をよく知らんとは……愚かの一言だ!」
それは使えるようになったからといってアームズデジクロスを全然使わなかった旅人の失敗だ。
いつぞやのオウリュウモンの言葉を思い出して懐かしい気分になった旅人だが、それを思い出したところで現状はどうすることもできない。
「ぬぐぐ……!」
――旅人!竜斬剣を使えって……――
「お前の竜斬剣とかいう剣技は難しいんだよ!なんだこの意味不明な剣技!」
――おまっ!人の技にケチつけんな!――
会話ができるという現状を最大限活かした
つくづく緊張感がない二人である。逆に言えば、余裕があるとも言えるのだが。
「……。終わらせるか」
「ッ!まずっ」
――旅人!いいから避けろ!――
「分かってるって!」
“終わらせる”宣言をした仮面の男の振り下ろした剣を空中で転がるようにして旅人は避ける。アームズデジクロスによって全体的に能力が底上げされているはずなのに、あまりにみっともない避け方である。
――アホ!そんなみっともない避け方する奴があるか!――
「うるせぇ!こっちは必死なんだよ!」
――っち!竜斬剣は俺の進化前のそれぞれの技を元に作られている!それを思い出してやればできる!――
「お前の技なんざ数えるくらいしか見たことないわ!」
――なんだと!――
案の定、スレイヤードラモンからそこの部分を突っ込まれた。アドバイス付きで。
だが、そのアドバイスはあまり役に立たない。スレイヤードラモンは驚くほどの速さで進化を続けたため、それぞれの姿の時の技を旅人は数えるくらいしか見たことがないのだ。
言外に自分のことなど覚えるに値しない――もちろんそれは勘違いなのだが――と言われていたようでスレイヤードラモンはカチンときた。
先ほどから戦闘中に喧嘩を続ける目の前のアホ二人に仮面の男は呆れ果てるしかない。
「はぁ……所詮お前はその程度だ。オレみたいな
「……?なんのことだ?」
「知らないなら知らなくていいことだ。知る機会も一生ない」
仮面の男が持つオメガブレードが一際大きく輝いた。それは――綺麗という言葉では語り足りないほどの、まるで世界を救うような鮮烈な輝きだった。
おそらく、仮面の男は先ほどのアームズデジクロスを解除した正体不明の一撃をもう一度行うつもりなのだろう。
――どうするんだ?――
「……何が?」
――あれ、たぶんオメガブレードだ。ありとあらゆるものをあるべき姿に戻すこの世界最古の聖剣。食らったらたぶん俺ごと逝くぞ――
「なるほどね……そりゃ、大層な剣だ」
剣の形状と輝きであの剣の能力と正体を言い当てたスレイヤードラモンはさすがの伝説好きである。のだが、現状は何も変わっていない。
それでも、スレイヤードラモンは焦ることなく旅人に問いかける。
――お前さ……あれだけ言われて悔しくないのか?カチンと来ないのか?――
「……」
――ちなみに俺は結構カチンと来てるぞ?――
「なんでお前がカチンと来るんだよ」
――そりゃ、お前のことわ……おほん!なんでもねえ!それより……どうなんだよ!――
「そりゃ、俺だってあれだけ好き勝手言われたらカチンとくるさ」
スレイヤードラモンの言いかけたことは旅人には分からなかった。
だが、旅人とてあれだけ好き勝手に言われれば怒れてくる。勝手に訳わからないことを言って襲ってきておきながら、勝手に失望している。
あの英雄や異世界のイグドラシル並みに旅人の嫌いなタイプだ。
言葉で確認し合った旅人とスレイヤードラモンの二人は、オメガブレードを構えて物凄いスピードで迫り来る仮面の男を鋭く見据える。
――じゃあ……アイツを――
「そうだな……アイツを」
――ぶっ潰すぞ!――
「ぶちのめすか!」
その瞬間。旅人とスレイヤードラモンの心が一つになったその瞬間。
旅人の元へと到達した仮面の男が振り切ったその剣が宙を切った。
その一撃で終わらせるつもりだった仮面の男は自身の予想と違う事態に驚愕する。
「何?……なっ!」
そんな驚愕の最中にあった仮面の男が意識を失う前に見たのは、天を覆うほどの赤き竜の巨大な拳だった――。
謎の赤い竜の出現から数分後。
「ぜっ……はっ……ぜー……何があった?」
「……分かんねえ……つーかすげえだりい……」
旅人とスレイヤードラモンは地面に寝転がっていた。
先ほど、景気づけに勢いよく叫んだと思ったら、いつの間にか地面に寝転がっていたのだ。割と本気で二人は訳が分からなかった。
ただ、少し向こうに死んだように倒れている仮面の男の姿を前に、一応は勝ったらしいということを理解できた二人は安心して寝転がることができている。
「……とりあえず、動けるくらいには回復したな。ん?はぁ……やっとか。さて……カードの戻って来たし、行くか」
序盤に使ったカードがいくつか戻ってきたことに旅人は溜め息を吐く。
“あと少し早く戻ってきてくれれば、もっと何かしらの作戦を用意できたのに”という旅人の疲れた本心が漏れ出た溜め息だった。
だが、ドッと疲れが出ている旅人だが、ここで休み続けている訳にはいかない。まだドルゴラモンとアルファモンは戦っているのだ。
“せっかく別世界から助けに来てくれたのに自分が寝ているのは失礼だろう”とそう考えて旅人は立ち上がる。
「……旅人はドルゴラモンとアルファモンの方へと行ってくれ。俺はこいつを見てる」
「それはいいけど……いいのか?」
この“いいのか”は、トドメを刺さなくていいのかという意味と、置いていっていいのかという二つの意味が合わさっている。
だが、スレイヤードラモンは気にした風もなく、むしろさっさと行けとばかりに旅人の背を押すのだった。
「こいつに聞きたいことがあるんだろ?心配しなくても大丈夫だ」
「……すまん、ありがとう。んじゃ、行ってくるset『転移』!」
「おー、頑張れよー!……きっつ……」
『転移』のカードで消えた旅人を見送ってから、もう限界とばかりにスレイヤードラモンは倒れ込む。そうして疲れた体を癒しながら、スレイヤードラモンは仮面の男を監視し続けるが、仮面の男は依然として目が覚めなかった。
では、途中で出現したあの赤い竜とは一体……?
そして予想通りこの話で終わらなかった……。
書いていたら一万字超えたんです。ので分割しました。そのせいでちょっと短くなりましたけど……。
というわけで、次話で第四章は終了です。
では、次回もよろしくお願いします!