時は少し前に戻って。
アルファモンはアルファモンと、ドルゴラモンはオウリュウモンと戦っていた。
先ほど一瞬だけ出現した赤い竜。その場の全員が突然の出現と消滅に驚きながらも、戦いを止めることはしていなかった。
いなくなった赤い竜をいつまでも気にするより、目の前の敵を気にしなければならないからだ。
「っく……ぐっ……うごっ……」
「ふん!どうした!先ほどから動けていないぞ」
「はっふっ……ハァッ!」
「ふっはっ……!」
アルファモン同士の対決は拮抗しているのだが、いかんせんもう一方の戦いが問題だ。
先ほどまでの戦闘が響いているのか、ドルゴラモンはすっかりオウリュウモンに押されている。
むしろ、ドルゴラモンはよく耐えていると言いたくなるほどオウリュウモンに押され続けていた。
「これで終わりか?ハッ『永世竜王刃』!」
「まずっ……ぐ……!」
オウリュウモンの両腕の刃より放たれた斬撃が、ドルゴラモンを襲う。
ドルゴラモンは一瞬腕が持ってかれそうになるのを必死に耐え、なんとか両腕を斬り飛ばされることは防ぐことができた。もっとも、その代償としてドルゴラモンは遠くまで吹き飛ばされたのだが。
「ハッ!ふっ!何?」
「この!ふっ!……おい!ドルゴラモン!?」
そんな風に吹き飛ばされたドルゴラモンはそのまま、戦っていたアルファモンたちの間に落ちる。
あのドルゴラモンの巨体を吹き飛ばしたオウリュウモンの『永世竜王刃』の威力は凄まじいの一言だ。
一方で、ドルゴラモンが落ちてきたことでそれまでの攻防に区切りがついたのか、二人のアルファモンは互いに距離をとった。
「大丈夫か!?ドルゴラモン!」
「っぐ……なんとか……」
アルファモンは満身創痍のドルゴラモンを心配するが、ドルゴラモンの返答は誰がどう見ても強がりだ。
そんなやり取りが繰り広げられる一方で、もう一人のアルファモンはドルゴラモンを追ってやってきたオウリュウモンと合流していた。
「ドルゴラモンはもう終わりそうだ。そちらは……同じアルファモンということもあって大変そうだな」
「ふん……うるさい。久しぶりにアレをやるぞ。そうしなければ勝てん」
「ま、確実に勝つにはそれしかないな。儂としてはあまりいい気はせんが……」
言葉を濁したオウリュウモンを見てから、アルファモンは天秤を傾けるべく行動を開始する。
ドルゴラモンと別世界のアルファモンがそれに気づき動く前に、アルファモンは魔法陣を腕より放った。そして放たれた魔法陣がオウリュウモンを通過した瞬間、オウリュウモンの姿が変わるという驚くべき変化が起こったのだ。
どこかで見たことのあるような形の黒と金の両刃の大剣へと変化したオウリュウモン。
それは究極戦刃王竜剣。それはかつて世界を救った剣。
一方で地面に突き刺さったその剣を――正確にはその現象を――見て、驚くのはドルゴラモンともう一人のアルファモンだ。
「なっ……『武装進化』!?」
「それは少し違うな。『武装進化』とは元々この現象をカードの力で再現したものだ」
「な……」
敵からもたらされた驚きの情報。
だが、そんな情報をもたらされたとはいえ、別世界のアルファモンはそのようなことはできない。つまり、満身創痍のほぼ戦力にならないドルゴラモンと共に戦力アップした敵のアルファモンと戦わないといけなくなったのだ。
王竜剣を持った瞬間、アルファモンに黄金の羽が生える。そしてそれが、再びの攻撃開始の合図だ。
「究極戦刃王竜剣!……行くぞ?」
「ッ!」
王竜剣を構えて突撃してくるアルファモンを、アルファモンが迎撃する。だが、アルファモンの持つ剣は数合も打ち合わない内に砕けてしまう。
それほど、王竜剣という武器が凄まじい威力を秘めているのだ。
「ッ!まず……」
「これで……!『究極戦刃王――!」
剣が砕けたことを好機とみたアルファモンが王竜剣を振り上げる。
だが、その王竜剣がもう一人のアルファモンを切り裂くことはなく、空を切った。
なぜなら――。
「set『転送』!」
「……すまん。旅人、助かった」
「それはいいけど……アレってオウリュウモンか?」
この場に戻って来た旅人が、『転送』のカードを使ってアルファモンを逃がしたからだ。
ついでに合流したドルゴラモンを見て、敵の王竜剣をその手に持ったアルファモンを見る。
王竜剣を持ったアルファモンは先ほどまでとは纏っている雰囲気が違う。おそらく本気になったということなのだろう。
「っ……本気ってことか」
「お前がここにいるということは……あいつは負けたのか」
「ああ。それで?お前のパートナーは負けたわけだけど……まだやるか?」
“できればこれで終わって欲しい”とそういう願いを込めて言った言葉だったのだが、そうは問屋がおろさない。
旅人の願いも虚しく、敵のアルファモンはまだやる気だった。
「一応言っておく。あいつはオレのパートナーじゃない」
「何だって?」
「ふん……オレのパートナーはもうこの世界にはいない。それでも――」
王竜剣を構えたアルファモンが何を言おうとしたのか分からない。だが、その声はどこか寂しそうな、在りし日を思い出しているかのような声色だった。
「……どのみち戦わないといけないわけか」
「だけどどうする?あいつは……きっと強い。同じアルファモンのオレよりも……」
「なら、こっちも同じ武器を持てばいいだけの話だ。ドル!……行けるな?」
「うん。正直、今のオレはボロボロだしね。例え回復してもどうか分からないし」
敵のアルファモンがやる気になる前に、旅人はカードを取り出して構える。
もっとも、敵のアルファモンは“来るなら来てみろ”というような挑戦的な顔をしていたので、態と見逃したのかもしれないのだが。
「なんか懐かしいな……あの時を思い出す」
「……そうだね。似たような状況だったしね~」
「それじゃ、行くか!set『武装進化』!」
久方ぶりに白紙のカードを『武装進化』のカードへと変化させて発動。直後にドルゴラモンが、王竜剣と似た白と銀の片刃大剣へと姿を変える。
その剣の名は究極戦刃破竜剣。かつてとある世界を救った剣。
そしてそれぞれが異なる世界を救ったという、似たような二つの剣が並んだ瞬間だった。
破竜剣を握った瞬間、アルファモンに白銀の翼が生える。
そうして破竜剣を持ち、全ての準備が終わったアルファモンだが、そのまま王竜剣を構えるアルファモンを睨んで動かない。いや、動けない。おそらく敵のアルファモンも同じだろう。
どちらのアルファモンも理解しているのだ。次の一撃で勝負が決すると。
その場の全員が時を忘れた。だが、無情にも時は進み、その時は訪れる。
「はぁあああああああああああ!『究極戦刃王竜剣』!」
「でぁあああああああああああ!『究極戦刃破竜剣』!」
かつて二つの、それぞれの世界を救った剣同士が激突する。
二つの剣の激突は凄まじい衝撃波と共に世界を削り取って行く。世界が消えてなくなるのではないかと思える程の力だ。
だが、世界はボロボロでも、その二つの剣と担い手の決着はつかない。
「ぁああああああああ!」
「ぉおおおおおおおお!」
拮抗した実力同士の戦いは一瞬で決まるか、永遠に決まらないかのどちらかだ。そして現在この二つの力の激突は後者の状態になりつつある。
だが、この場にはその拮抗した実力を崩すことのできる力を持っている第三者がいる。
その第三者の存在こそが、この戦いを終わらせるラストピースだ。
「set『最大強化』いけぇえええええ!」
「あぁ!おぉおおおおおお!ま……け――」
旅人が使った白紙のカードによって力が強化されたことを感じ取ったアルファモンは、破竜剣を持つその手に力を込める。
旅人の存在を感じるそのことが、かつての世界での旅人との日々が思い出されるようで、ことさら力が入るのだ。
「負けるかぁああああああ!」
「ッ!」
一方で、王竜剣を持つアルファモンも旅人のカードの発動は感じ取っていた。
人間と力を合わせる目の前のアルファモン。そんなアルファモンの姿に、かつてのパートナーと共に世界で生きるための戦いに挑んだ日々の自分の姿を思い出した。
そしてそんな目の前のアルファモンの姿とそれをサポートする
一瞬後、その手に持った王竜剣ごと切り裂かれる感覚をアルファモンは感じ取った――。
「……負けたか。あれだけ自信満々に言っておいて。待ったく……貴様は昔から変わらんな」
「うるさい……。はは……だが……そうみたいだな……」
王竜剣から元に戻ったオウリュウモンと、地面に倒れ伏して動けなくなったアルファモンは互いに言葉を交わしている。
二人は消滅が始まっている。そんな中でも、死にかけているということを感じ取らせない二人の雰囲気は流石というべきか。
「……オウリュウモン」
「ふん。若造、お主らが気に病むことはない。元々老い先短い命だ」
「……」
消え行くオウリュウモンになんと言っていいか分からずに旅人は、沈黙する。そしてそれは別世界のアルファモンや破竜剣から戻ったドルゴラモンも同じだ。
だが、そんな時、消えそうなアルファモンが声を上げる。
もっともそれは独り言に近いもの。どちらかといえば、自身に聞かせるための言葉のようだった。
「……オレたちはもう古い世代で、役不足であることも理解してる。かつてのあの日々よりずっと強くなったのに、役不足って笑えない……」
「……」
「分かってる。きっと世界を救う者たちってのは、力云々じゃない。かつてのオレたちがそうだったように」
「……」
「本当は分かってた。でも……オレたちが守った世界が無くなるのが嫌だった。守りたかった……だから――」
“頼む”とそれだけを言って、かつて世界を救った漆黒の騎士は消えていった。
アルファモンが言ったことのほとんどがどういうことだったのか分からない。だが、旅人たち以上の力と強さを持つ者が様々な思いを織り交ぜて言った“頼む”というその一言は、旅人たちの中に深く刻まれた。
「……逝ったか。……若造少し近くに来い。儂は今うまく動けん」
「……何だよ」
「白紙のカードを一枚取り出して儂にかざせ」
「なぜっ……!?」
「いいから!」
死にかけている割に随分と元気なオウリュウモンに気圧されて、旅人はすごすごと白紙のカードを一枚取り出して言われた通りにする。
すると、白紙のカードが一瞬光って白紙のカードに先ほどまでアルファモンが持っていた剣、究極戦刃王竜剣の姿が浮かび上がった。
「なっ!これ……!」
「……ま、選別だ。若造……せいぜい――」
いつかと同じように変化したまま戻らなくなった白紙のカードを見て驚く旅人を見て笑いながら、オウリュウモンにしては珍しく、“頑張れよ”と。
そんなたった一つの激励を残して、オウリュウモンもアルファモンの後を追うようにして消えていった。
アルファモンとオウリュウモンが消えていったその頃。
スレイヤードラモンは倒れたまま動かない仮面の男を見張っていた。
「……終わった?」
遠くから響いていた力の波動が消えたことによって、決着が着いたことをスレイヤードラモンは知った。
ちなみに今現在、スレイヤードラモンは仮面の男を眺めながら、半ばボーッとしていたりする。つまり、スレイヤードラモンは今暇なのだ。
「……」
そして暇を持て余していたスレイヤードラモンの心に魔が差すのも半ば当然の帰結であろう。
スレイヤードラモンは仮面の男の仮面の下がどのような顔をしているのか気になったのだ。
そうして、好奇心の赴くままにスレイヤードラモンが仮面の男の仮面を剥ごうとそっと手を出した瞬間、仮面の男が目を覚ました。
「……」
「……おはよう?」
「……はぁ」
「なんだ?まだやるか!?」
「いや、オレの負けだ。もう抗う気も起きないよ」
起きる気がないのか、はたまた起きられないのか。
仮面の男は倒れ伏したまま空を見上げて動かない。だが、仮面を取る気なのだろう。その手をゆっくりと仮面へと持っていく。
「……」
「そんなに身構えなくても、仮面の下は普通だって」
「ッ!」
そう言って仮面の男は仮面を外した。
仮面の男の仮面の下の素顔。その素顔を見た瞬間、スレイヤードラモンは息を呑む。
見覚えがあるどころの話ではない。スレイヤードラモンにとって見間違うはずもない者と瓜二つのその顔は――。
「……旅人?」
そう、旅人と同じ顔だった。
驚愕のあまり口を開けて固まったスレイヤードラモンに苦笑しながら、旅人らしき男は話し始める。
「……まぁ、そう見えるよなぁ。一応言っておくけど、オレは旅人であって旅人じゃない。言っただろ?オレは作り物だって」
「作り物……旅人の偽物ってことか?」
「まぁ、そうなんだけど……ちょっと違うな。オレはアイツの師匠として
「未来の……だから旅人と同じカードを使えるのか?」
「そうだな。未来の旅人の記憶と技能その他諸々を持ってる。……けど、本人じゃない」
見知った顔と話しているからだろうか。スレイヤードラモンは先ほどまで命懸けで戦っていた男と親しく話すことができていた。
本人は旅人とは違うとは言っているとはいえ、男は旅人と並べば見分けがつかなくなるだろう。そう思えるほど、旅人と男は雰囲気や仕草は似通っていた。
「……まぁ、詳しいことは
「自分のことだろ」
「いやいや、オレはもうちょっとマシだったよ。元々教育係として、あいつの師匠として接触したはいいが……」
「師匠って言ってたけど……本当に自分で自分を育てたのかよ」
「あんな旅馬鹿になって……。オレはこんな名前だが、旅にはあんまり興味なかったのに」
男の言葉は途中からもはや愚痴である。
相手をするのが面倒になるスレイヤードラモンだが、それでも旅人に関係するとあって、相手を投げ出すことができなかった。
何気に面倒見がいい部分があるスレイヤードラモンである。
「おまけに幼い頃を思い出してイライラするし……」
「あー……まあ、確かに未熟な頃の自分を見るとイライラするよな」
「だろ?だから、ちょっと意地悪して会話も通じないような外国に連れて行ったり、身も凍えるかのような極寒地帯に連れて行ったりしたのに……!なんでアイツ気がつかないんだよ!純粋っていうか、馬鹿すぎんだろ!オレが小さい時はあんなに馬鹿じゃなかった!」
「……」
何を言っているのかよく分かっていないスレイヤードラモンだが、男が旅人の性格形成に関わっていることと、そして男が旅人だった頃は今の旅人とは性格がだいぶ違ったということは理解できた。
「旅人の師匠か……大変そうだな……」
「まあ……な……。ほとんどストレス発散的活動しかしなかったけど……」
「……旅人の性格についてはそれが原因じゃねえ?」
「……しまった!」
「しまった!?」
もはやどこまで本当なのか分からない。
そもそもスレイヤードラモンは旅人の師匠について詳しく知っている訳ではない。
だが、それでも信じる価値はあるとスレイヤードラモンは思えた。
「……まあ、いいや。それで……ッ!お前……」
「ん?あぁ、そろそろ限界か……」
「どうして……」
徐々に消え始めている男を見て、スレイヤードラモンは驚く。
そして、消えかけているのというのに男の雰囲気はなぜか明るかった。
「……まぁ、オレは元々旅人の教育係兼保険だからな」
「保険?」
「アイツが世界を救う前に死んだ場合、もしくはアイツが世界を救う存在まで成長できなかった場合。オレが代わりをするって寸法だ。だが、旅人自身が成長して、オレの存在理由がなくなったから……消える。それだけの話だ」
それは消滅という運命を受け入れているようで、ひたすらに静かな雰囲気だった。
「……いいのかよ?旅人に会わなくて……?」
「……いいんだよ。元々昔の自分なんて見たってムカつくだけだしな。まぁ、ワンチャンあっただけで良い余生だった――」
男が光となって消えていった直後。スレイヤードラモンは遠くからこちらへと向かってくる旅人たちの姿を見た。
消えていったハズなのに、同じ顔がついそこにある。未来のような過去の存在。そんな不思議な男の存在を知っているのが自分だけのようで、スレイヤードラモンは不思議な気分になったのであった。
そうして旅人の師匠であった男は弟子にその真実を知られることなく、旅人にとっての師匠のままで消えていったのである。
はい。決着といろいろと中途半端なネタバレ回でした。
まあ、気がついていた人も多いと思いますが。
これ以降のネタバレはまた後日にて。
そして前書きにも書きましたが、第四章はこれにて終了。
この後数話閑話をはさんで、遂に最終章・七大罪邂逅編へと入ります。
ええ。最終章です。おそらく第四章ほど長くはないです。
学期末試験までに書き終えれると……いいなあ。無理だと思いますが。
では、また次回もよろしくお願いします。
あ、感想や評価は随時お待ちしておりますので、御気軽にどうぞ。
別に最新話でなくてもOKです。
では今度こそ本当にまた次回もよろしくお願いします。